あらすじ
19世紀後半にメンデルが発見した遺伝の法則とダーウィンの進化論が出会ったとき、遺伝学は歩み始めた。ナチス・ドイツが優生思想のもと行なった民族浄化という負の遺産を背負いながら、ワトソンとクリックによるDNA二重らせん構造の発見を経て、遺伝学は生命科学そのものを変貌させてゆく。 『がん―4000年の歴史―』でピュリッツァー賞に輝いた著者が、自らの家系に潜む精神疾患の悲劇を織り交ぜて語る遺伝子全史。
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Posted by ブクログ
生物学に対する根源的な知的好奇心がこれでもかというほど満たされて震えるほど面白かった。
遺伝は、生命現象の神秘さと自らを形作る最小単位という身近さを併せ持っている。本書は、遺伝の解明の歴史書であるが、単なる科学史ではなく人類が自分の起源を語ろうとする壮大な物語である。遺伝の解明は科学の発展とともに、人間とは何かという自己の追求であり高揚感が抑えられなかった。
メンデルやダーウィンから始まり、ゴールトンやモーガンやワトソンやクリック、フランクリン、サンガーなどの科学的な偉業だけでなく、背景や野心、失敗、迷いなど人間的な面も余さず書かれていて良かった。
遺伝学の発展は、病気の解明や治療など多大な恩恵をもたらす一方で、優生思想の暴走や遺伝子操作など越えてはならない危うさを孕んでおり、遺伝子を探るのではなく使う段階に来たとき、恐怖も覚えた。
重要な転換点で思わず鳥肌が立つほど面白くて、下巻を楽しみにすると共に、「がん 4000年の歴史」も読みたいと思う。
Posted by ブクログ
「遺伝子」なかなか難しい題材だが、科学的な部分と人類史との関わり合いの部分ととても分かりやすくてスムーズに読むことが出来た。科学的な部分では遺伝子・DNA・RNA・ゲノムなど、聞いたことはあるけど・・・な言葉もなんとなくイメージできどうそれが進歩してきたのかも興味深かった。また人類史との関わりについては遺伝子の研究が断種という考えからヒトラーにつながっていくところが衝撃的だったし科学者を理性的にさせるほど研究が恐ろしい結果につながりかねないということを知った。
遺伝情報の発現は必要性のためではなく、スイッチを何かが推すことによって起こる。多様性はバグではなく必要な進化の過程だと思えた。
下巻が楽しみ。
Posted by ブクログ
遺伝子はもともと得体のしれない科学であった。進化の研究が進むにつれて、遺伝子の存在が明らかになり、そこから遺伝子を利用した研究へと切り替わっていった。遺伝は父と母から半分ずつ受け取り、それが発現するかはわからない。時たまおきる突然変異が進化へと繋がっていく。遺伝子によってタンパク質が作られる。プラスミドに入れて、他の生物に注入できるようになって、遺伝子を改変することが可能になり、くすりなどかつくられるよになった。
遺伝を明らかにしたのはメンデルなどの細かい実験の賜物であった。遺伝子を完全に操ることは他のどの科学よりも生物の根源に関わってくるのだと感じた。
Posted by ブクログ
私たちは何者か――その問いに遺伝子の歴史が応える。シッダールタ・ムカジー『遺伝子 親密なる人類史』は生命の設計図をめぐる壮大な物語だ。メンデルの豆から始まり、DNAの二重らせん、遺伝病の闘い、ゲノム編集へと科学は進化してきた。だがそこには希望だけでなく差別や優生思想の影もあった。遺伝子は未来を拓く鍵であると同時に私たちに謙虚さを求める鏡でもある。人類の歩みと向き合い命の深さを見つめたい。
Posted by ブクログ
まだ遺伝子という概念が存在していなかったダーウィンの時代から、1900年代後半に至るまでの遺伝学の通史。メンデルのエンドウの研究やワトソン・クリックのDNA二重らせんモデルなど、これまでポツンポツンと理解していたエピソードが、線として繋がり語られていく。上質な講義を聴いているかのようだった。
Posted by ブクログ
プロローグから、著者に関わるかなりショッキングな事情が語られる。著者の伯父2人と従兄が精神疾患の病にかかっていて、祖母はその一生を通して彼らを守り続け、父は身近に彼らの姿を見て苦しんできた。そのため、遺伝、病気、正常、家族、アイデンティティといったテーマが、著者の家族の会話の中に繰り返されていたという。そのような個人的事情をも抱えた著者が、「遺伝子」の誕生と、成長、そして未来について、物語ったのが本書である。
上巻の第一部から第二部では、メンデルのエンドウ実験による遺伝法則の発見とダーウィン進化論との交差、ゴールトンによる優生学の提唱、アメリカにおける断種手術、そしてナチスによる民族浄化へ。これらの歴史的流れについては他の本でも読んだことがあり、比較的知っていることが多かった。
ナチスのユダヤ人等の大量殺戮について現在その措置が肯定されることはないだろうが、劣等な人間に子孫を残させないようにすることは良いことだという優生学の考え方自体については、結構な数の当時の著名人が賛同していた訳で、下巻になるが、新優生学のことを考えると、今は違うと必ずしも言えないことが恐ろしい。
また第二部では、これまた有名な話である、ワトソンとクリックによるDNA二重らせん構造の解明、遺伝子の調節、複製、組み換えの機能等の解明について語られる。
第三部では、遺伝子クローニングによって、”人間”に大きな影響を与える可能性が出てきたことが説明される。
ある発見がきっかけとなって、次から次へと新しい発見がなされ、未知の領域が解明されていくところはとてもスリリングだし、また病気の治療にも役立つようになってくると、莫大な金銭の問題が絡むことになるなど、綺麗事では済まない生々しいことも率直に語られている。