【感想・ネタバレ】花の下にて春死なむ 香菜里屋シリーズ1〈新装版〉のレビュー

あらすじ

人生に必要なのは、
とびっきりの料理とビール、
それから、ひとつまみの謎。

三軒茶屋の路地裏にたたずむ、ビアバー「香菜里屋」。
この店には今夜も、大切な思いを胸に秘めた人々が訪れる――。

優しく、ほろ苦い。
短編の名手が紡ぐ、連作ミステリー。
不朽の名シリーズ第1弾!
第52回日本推理作家協会賞 短編および連作短編集部門受賞作

解説 瀧井朝世


春先のまだ寒い夜。ひとり息を引き取った、俳人・片岡草魚。
俳句仲間でフリーライターの飯島七緒は、孤独な老人の秘密を解き明かすべく、
彼の故郷を訪れ――(表題作)。
バー「香菜里屋」のマスター工藤が、客が持ち込む謎を解く連作短編ミステリー。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

オススメのビアバーを見つけた。
三軒茶屋の外れにひっそりと佇む「香菜里屋」という小さな店である。
常時4種類のアルコール度数の違うビールがおいてあり、その日の気分でビールの味わいが楽しめるのでビール好きにはたまらない。
その上マスター手作りの、ビールにぴったりの旬の美味しい料理が、実にタイミングよく出されるのだから、料理目当てに訪れる客も多いはずだ。
このマスター、料理上手なだけでなく聞き上手でもあり、お客の抱える心の重石にさりげ無く気を配り、いつの間にかお客の懐にするりと入りこみ重石を軽くしてくれる不思議な魅力も秘めている。
夜の一時を楽しみ癒やされるため、そして店全体に醸し出される居心地の良さに、何度もリピートする客が後を断たない。

常連客たちが賑わう一夜、客により持ち込まれる謎。
客とマスター、そこに読み手も加わり繰り広げられる数々の謎解きには、必ずしも明確な答えが出る訳ではない。
時になんの根拠もない推測で終わるものもある。
けれどその曖昧さがとても心地よい余韻をもたらすのだから不思議だ。
大人たちによる切なく、ビールのような苦味がほんのり効いた連作短篇集。
無性にビールが呑みたくなった。

シリーズ続編で再び「香菜里屋」を訪れることが今からほんと楽しみ。

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2021年03月04日

Posted by ブクログ

ネタバレ

目次
・花の下にて春死なむ
・家族写真
・終の棲み家
・殺人者の赤い手
・七皿は多すぎる
・魚の交わり

‪以前、シリーズの最終巻を読んでしまったので、最初から通読することに。
連作短編のミステリなので、短編一作を読んでも話は分かるが、店の常連やマスターとの会話でゆるく話が繋がってもいるので、やはりこれは順に読むべき作品と思った。

舞台は、今でこそ珍しくはないビアバーの香菜里屋。
それぞれアルコール度数の違う4種のビールを置き、客の様子を見ながら絶品の料理を提供してくれる。
そして、客の持ち込むちょっとした謎をマスターの工藤が解き明かしてくれる、というもの。
アシモフの『黒後家蜘蛛の会』を彷彿させるつくり。

殺人事件がないわけでもないが、それは直接かかわるものではないので、毒はそれほど強くない。
ただ、工藤のような人が身近にいたら、ちょっとしんどいかなあ。
全てを見透かされそうで。
いや、工藤の方がしんどいんだろうなあ。
面に出さないだけで。

年のせいか『花の下にて春死なむ』と『終の棲み家』が、ことによかった。
ひとり、寒いアパートで震えながら死んでいくというのは嫌だけど、その枕元に季節外れに咲く桜があってよかったと思った。
若者の生真面目な正義感から起こした行動が、一生ふるさとに帰ることのできない放浪生活を彼に強いたのだとしても、思った未来とは違う人生になってしまったけれども、決して不幸ばかりの人生ではなかったのだと思いたい。

謎のすべてを明らかにするわけではないからこそ残る余韻。
それは工藤の、作者の優しさなのだと思う。

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2023年05月02日

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