【感想・ネタバレ】価値づくり経営の論理―日本製造業の生きる道のレビュー

あらすじ

世界で高く評価される技術力・生産力があるにもかわらず利益が出ない体質になってしまっている日本の製造業。日本企業再生のヒントは価値づくりにある! 技術経営の第一人者が、日本製造業の生きる道を明快に解説。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

感想的には暗黙知に向けた提案をということと思うが具体性がない。キーエンスを成功例と記されているが、しつこい営業で付き合いたくないという企業も多いと思うし、営業力とニッチ機器をファブレスで行っているビジネスモデルが優れた点と当方は考えるがいかが。シャープも本書発刊の2011年と現在では状況が変わっていると考える(液晶技術のコアで勝てない)。以下、本書のTOPICSを転記しておきます。
第一章:優れた技術を使って高品質・低コストの商品を開発・製造する「ものづくり」を頑張っても、利益・付加価値といった経済的な価値の創出、つまり「価値づくり」に結びつかなくなった。逆に、外部資源を上手く活用して、企業内部でものづくりをしなくても価値づくりができる企業も増えた。ものづくりと価値づくりの間に乖離が生じたのだ。その中でも、日本企業はものづくりにこだわった価値づくりを目指すべきだ。そのためには、ものづくりによって独自性・差別化を実現し、さらには真に高い顧客価値を創出しなくてはならない。日本企業はそれらをうまく実現できていないために、価値づくりができていないのである。
第二章:価値づくりとは付加価値の創出である。企業が作り出した付加価値によって社会は潤う。付加価値は企業の利益だけでなく、雇用賃金や基礎研究にも分配される。利益からは法人税が、雇用賃金からは所得税が支払われ、社会の福祉、教育、インフラを支える。さらには基礎研究によって、将来に向けた技術基盤が構築される。日本の製造企業は1990年代中盤から価値づくりができなくなった。特に優秀な技術者を集めた電機産業の価値づくりが、過去20年以上にわたり低迷している。これが財政悪化や基礎研究の弱体化の一因にもなっている。一方で自動車は比較的大きな価値づくりをしてこられた。電機企業と自動車企業の価値づくり能力の差が、価値づくりを実現するつ飴の示唆を与えてくれる。
第三章:いくら優れた商品を開発しても、独自性・差別化が実現できなければ価値づくりはできない。しかし近年、世界中の技術レベルが高まり、中国企業でも十分に商品力の高い薄型テレビや太陽電池を開発・製造することができるので、差別化はとても難しい。しかも、何とか新技術を駆使して差別化できたとしても、顧客にとっては普通の商品で十分なので、独自性に大きな対価を払ってくれなくなった。このように差別化とそれに見合った顧客価値の両方を実現することは難しくなったが、それを実現しなくては価値づくりはできない。このような状況で実際に成功しているのは、単純な技術や機能を超えた顧客価値を創出できている企業だ。
第四章:客観的な評価基準による機能やスペックを超えて、顧客が主観的に意味づける価値が意味的価値である。消費財では、顧客の好みや感性によって意味づけられる。生産財では主に、顧客が置かれた状況・文脈に適合し固有の問題が解決されることによって意味的価値が創出される。つまり、意味的価値は顧客との間に共創される価値だ。顧客も気付いていない潜在的な価値であり、暗黙知の特徴を持つ場合が多い。意味的価値を作り出すためには、すり合わせ型の技術が適している。また日本企業の得意な知合わせ技術を残すためには、意味的価値の創出が必要になる。
第五章:消費財の意味的価値は、自己表現価値とこだわり価値の二つに分けて考えることができる。たとえば自動車はそれらの両方が高いので比較的大きな価値づくりができてきた。このような単なる機能を超えた意味的価値を創出するためには、顧客の要望や顕在ニーズを超えた商品開発をしなくてはならない。しかし通常日本企業では、技術スペックを主体にした商品開発プロセスになっているので、意味的価値の創出には適していない。優れた商品コンセプトリーダーを育成・選抜し、そのリーダーへ権限を委譲することが求められる。また長期的な意味的価値の発展には、アップルが実施してきたように機能的価値と意味的価値の間に相乗効果をもたせながら相互発展させる戦略が適している。
第六章:生産財の意味的価値は、顧客企業の現場に入り込み顧客企業の価値づくり(利益・付加価値)を助けるための問題解決(ソリューション)を提供することによって創られる。そのような意味的価値を提供するためには、顧客企業以上に顧客企業の業務のやり方を熟知し、顧客の立場になり切らなくてはならない。そのうえで、顧客企業に対してコンサルティングができるだけの能力が求められる。これを実現するためにはまず、顧客企業に対してこのような提案・コンサルティングができる人材を育てなければならない。そのためにも、顧客と不快すり合わせを実施する場が必要である。キーエンスを含めて、生産財の意味的価値に置いて成功している企業は、そのような仕組みを持っている。
第七章:価値づくりをするためには、技術的な強みによって独自性を持続させることが必要である。そのために最も重要なのは、長期間にわたり鍛えられた技術者の開発・設計能力を含む問題解決能力である。特定の技術分野において、そのような問題解決能力を組織として蓄積したものが積み重ね技術である。長年にわたり鍛えぬいた積み重ね技術は、競合企業から簡単に模倣されることはない。革新技術や特許以上に積み重ね技術が高い競争力と業績を長期間にわたり持続させることに貢献する。また近年必要とされている意味的価値を創出さするためにも、積み重ね技術が必要とされる。日本企業は、積み重ね技術によって高度なすり合わせ型商品を開発し、意味的価値を創出することによって、国際競争力を高めるべきである。
第八章:積み重ね技術を戦略的に活用するのがコア技術戦略である。シャープの液晶技術や、キヤノンの光学技術などがコア技術である。それらの技術は、長年にわたり多くの商品に活用されることによって鍛えられ、模倣されない積み重ね技術になってきた。コア技術戦略を成功させるためには、戦略的に選択したコア技術をブレることなく長期的に鍛え続ける場の設定が必要である。そのためには「勝ちながら育てる」戦略が適している。商品開発の際には、その商品を市場で成功させることと長期的にそこで使う技術をコア技術として鍛えていくことの二つを同時に達成しなくてはならない。
終章:価値づくりに向けて 1.モノづくり重視から価値づくり重視への転換 ①必然的に過当競争を招くモノづくり重視の限界:価値づくり重視の経営は、モノづくり重視の経営、特に革新技術(特許)yた機能的価値の重要性を否定するものではない。多くの製造企業にとっては、それらを極限まで追求することが業績を高めるための必要条件である点に変わりはない。しかし、それらだけでは価値作りができる十分条件にはならないということだ。顧客価値としては、機能的価値に限定せず、意味的価値への広がりが必要である。また、意味的価値を創出するためには、積み重ね技術の活用×製品アーキテクチャとしてはすり合わせ型商品のメリットを生かすことが重要。逆に、モジュラー型の商品×革新技術を開発・活用するだけでは、機能的価値しか創出できない。 ②戦略的かつ愚直に鍛え続ける:価値づくりには長期間にわたり持続できる独自性・差別化が必須。安定的に商品開発において差別化を実現し、かつ簡単に模倣されないようにする為には、個別の商品や特定の新技術開発における差別化に焦点を当てていてはだめで、特定分野における企業・組織としての強みを長時間にわたりブレることなく鍛え続けることが必要である。競合企業が決して模倣できないのは、時間をかけて積み重ねた組織能力だけである。組織能力=コアコンピタンス、コア技術。 ③顧客は意味的価値の提案を待っている 2.価値づくり重視への移行パターン タイプ1:日本企業の積み重ね技術の強みを活用し機能的価値で優位性を持ち、それを意味的価値に昇華させるパターン。タイプ2:最初に新技術によって生み出した機能的価値から意味的価値を作り出し、大きな顧客価値に結びつける。その後その成功を背景にして、徐々に積み重ね技術・組織能力を蓄積していくパターン。アップルはこのパターン。 3.真相の価値創造を目指す 価値づくりでは深層の価値創造がカギを握る。世界のモノづくりにおける競争が激しくなった現在、表層の価値創造では持続的で安定的な価値づくりはできない。深層の価値創造では表面に現れない、企業の根底にある底力(組織能力・積み重ね技術)によって顕在化していない顧客が心から喜ぶ価値(潜在ニーズ・意味的価値)を創り出す。日本企業にしかないモノづくりの組織能力によって、日本企業にしか作れない意味的価値を世界へ提案し続けること事こそが、これから日本企業に求められる世界貢献なのである。世界へ向けて価値の低い商品を大量に生産販売することを目指しつつ環境経営を掲げている企業には矛盾を感じる。限られたものづくりによって大きな価値づくりができれば世界の環境にも良いのでは。

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2020年10月25日

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