【感想・ネタバレ】私たちはどんな世界を生きているかのレビュー

あらすじ

●第1章 今の世界に至る道 19世紀~1970年
・日本の戦後レジームからの脱却・グローバル経済へ・極端に分離する階層・身分制と不平等・新自由主義が社会を再組織していく・自由と管理の反転・アメリカにネオナチがいる・ヨーロッパと第一次大戦・国際連盟とILО・第二次大戦とフィラデルフィア・ド・ゴールと移民世代・EUとフランス・ル・ペンの国民戦線・フランス・ファースト・国民の解体と再接着・人権と身分制社会
●第2章 アメリカの大転換 90年代末~対テロ政策へ
・アメリカという特殊形態・モンロー主義とアメリカの「解放」・『すばらしい新世界』・「例外国家」のスタンダード化・アメリカの標準化とネット・アドレス・アメリカ・バイアス・テクノ支配と一代成金・白人の不満と被害感情・平等と「差別」、「本音」を煽るトランプ・偉大な中国・征服王朝と中国・オランダとイギリスのヘゲモニー・帝国と平和・武器を売るアメリカ・ポスト・トゥルース・人権を求めて・西洋だけでなく世界にも・自由と平等は独り舞台
●第3章 日本と朝鮮半島
・米朝会談が不満・こじらせる近隣関係・日本に三権分立はない・問われなかった戦争責任・冷戦後と歴史修正主義・拉致問題と歴史没却の勝利・朝鮮半島ではどう思っていたか・なぜ北朝鮮は核を持つのか?・ベルリンの壁崩壊とドイツ統一・北の自立、南に呑まれないために・対米核武装の成功?・軟着陸のためには・悪い国でいてもらわないと困る・日本敗戦後の朝鮮半島統治
●第4章 日本の明治一五〇年
・西洋の世界展開と日本の参入・戦争で認知される・敗戦の世界史的意味・無条件降伏と自発的隷従・正当性の論理・民主制と交渉の主体(外交)・翻訳語をつくる・翻訳する独特の日本・日露戦争から国際連盟へ
逆のドライブ・一世一元制・天皇の権威・「…名において」治める・なぜ元号に固執するのか・時代意識の造形・政治と宗教の区別・義勇兵起源ではない・独自権力になっていく軍部・装置としての天皇制・近代化の流れと逆行していく・戦後のフィラデルフィア宣言・農地改革でつくられた基盤・占領下の改革の受け止め方・西洋的価値は絶対か・冷戦の終わりと市場開放・なぜ「新」自由主義なのか・平成の三〇年で起きたこと・あらゆるものを市場化する・国策としての新自由主義・神道国家派の大攻勢・米軍と一体化する自衛隊・自由の底が抜けている・失われた三〇年で何を失ったか
●第5章 現在の日本と世界のこれから
・西洋的世界の変質・国、政治、経済・民主、平等、自由・連携における自立・人権のない存在、テロリストの発明・フランスとアメリカの歴史否認・日本では民主主義がいらなくなっている・ポイント・オブ・ノーリターン・「身分制のほうがいいんじゃないか」

...続きを読む
\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

Posted by ブクログ

哲学の視点を持ちながら時代の流れと世の中の仕組みを解説してくれて、面白かった!読みやすくもある。
私は科学の進歩で、生活が豊かになると単純に信じていたけれど、同時にそれは人間であることが不可能になる(まだこの言い回しに慣れない)ことを示唆しているとは考えもつかなかった。
信じていたものに疑問を持つ機会をくれた、良い読書体験だったと思う。

0
2024年05月03日

Posted by ブクログ

1.著者;西谷氏は哲学者。東大卒業後にパリ第8大学で学ぶ。フランス現代思想を学び、世界のグローバル化によって起こる諸問題を研究。テーマは、戦争論・世界史論・メディア論・身体・医療思想論・芸術論と幅広い。戦争論については、世界戦争と死の意義を考察。「産業の軍事進出には経済の健全化の為に警戒が必要」と主張。
2.本書;「はじめに」から抜粋。私達の今生きている世界の動態をどのように捉えるかという事を、ここ200年程を振返りながら考察。世界は、近代のもたらした自由を解消するような方向に進化している。政治社会的開放の成果が、テクノロジー経済の自立的発展によって、❝新世界❞という新たな身分制社会になだれ込んでいる。文明の未来を先取りするとみなされる人達が、私的に巨額の富を築く一方で、世界中に悲惨な貧困や荒廃が広がっている。5章建ての構成。
3.個別感想(印象に残った記述を3点に絞り込み、感想を付記);
(1)『「第1章;今の世界に至る道」の「3.人権や平等に疲れて」』から、『今ではどこでも、「1%の金持ちと99%の困窮者」。これはほとんど不可逆的で、その階層は世代を超えて再生産され、どこでも社会は再階層化されています。その一方で、「社会防衛」の意識は共有され、反対や不満の表明は「危険因子」としてすぐに隔離・除去されます。それを誰もが求めているのが実情です』
●感想⇒「1%の金持ちと99%の困窮者」について。某調査によれば、日本の階級構造は次の通りです。「①資本家階級(経営者・役員)=就業人口の4% ~ ⑤アンダークラス(非正規労働者)=15%」。1980年代以降の富裕層の所得税引下げ等の格差拡大政策により、国民の階層化は激しく進行。非正規雇用は正規労働者に比べ生活が不安定で[貧困率=39%]、結婚して家族形成出来ない様な状況は、倫理的にも問題です。非正規雇用はバブル経済末期頃から登場。企業経営の核となる人間を一コストと考え、人件費削減の拠り所にしたのは明白です。政治は、企業の主張に同調して、人材派遣制度を改定したのです。子育て支援政策強化と言いますが、その前に誰もが結婚出来る様な環境づくり(非正規労働の改善)が必要だと考えます。また、「反対や不満の表明は、危険因子としてすぐに隔離・除去」される社会は異常です。「平等社会」の実現に向けて、政治はアンダークラスに対する救済を使命と考えるべきです。
(2)『「第3章;日本は朝鮮半島をどう見ているか」の「2.拉致問題の経緯」』から、『日本はアジア諸国を侵略して蹂躙した。南京攻略を始めとして、各地で残虐行為も繰り広げた。日本の戦争が中国始めアジア諸国にとってはいかに酷いものであったか、・・・国内的に見ても多数の人が兵隊にとられて、本土空襲もやられ、原爆まで落とされて塗炭の苦しみを国民が味わった。・・・しかし、その記憶は、日本が高度成長し、経済大国と言われバブル経済も経験した社会で薄れてゆく』
●感想⇒「原爆まで落とされて塗炭の苦しみを国民が味わった」。私は、戦後に生まれたので戦争の悲惨さを体験していません。幼少の頃に祖父母から戦争話を幾度も聞かされました。「爆撃機が突然飛来してくる度に、着の身着のままで一目散に防空壕に逃げ込んだ。食事は、白米なんて食べられず、すいとん(水でこねた小麦粉をちぎって丸めた食べ物)だけ。調味料もない。しかし、生きているだけで運が良かった。・・・」と。子供ながらに辛い話でした。また、「南京攻略を始めとして、各地で残虐行為」を繰り返した日本軍の蛮行は決して許されません。これは歴史的事実であり、私達はその事を忘れずにアジアの人々と交流しなければなりません。時々、日本企業が世界の上位を占める報道を見聞きしますが、それよりも、非人道的な蛮行をした国々への償いの一つとして、経済支援に注力して欲しいものです。蛇足です。某日の新聞への読者投稿の抜粋です。『❝戦争の恐怖もう二度と❞ 私は常に死と向き合う、あんな怖い思いをもうしたくありません。紛争が世界で絶えませんが、話し合いを重ねれば戦いは停止させられる』と。
(3)『「第5章;令和の日本と世界のこれから」の「1.西洋的世界の変質」』から、『国の政治が自分達の社会生活を規定しており、だからこそ政治に関わらなければいけないし、それが主権者としての権利でもあり務めでもある事は、教育を通じて教えなければなりません。それを戦後しばらくを除いて、日本の公教育はひたすら排除してきました。その結果「政治離れ」です。そして、今や日本の政府(自民・公明政権)は、選挙の度に投票率が低くなる事を期待する始末です』
●感想⇒「日本の公教育はひたすら排除(政治に関わらなければいけない事を)してきました。その結果、政治離れ」。某調査によれば、令和4年の参院選挙の投票率は次の通りです。「全体;52%⇒(年代別内訳)最低;20歳代 の34%~最高;60歳代の66%」。選挙に行かない人が約半数、中でも若者の投票率が低く、将来が危ぶまれます。選挙に行かない人は、自分の生活に政治が関わっていると思っていないかもしれません。私も義務教育で政治や選挙の重要性を教えてもらい、学んだという記憶がありません。若い頃はたかが一票と思っていました。しかし、されど一票です。「国の政治が自分達の社会生活を規定しており、だからこそ政治に関わらなければいけない」という著者の主張は至極当然です。国内外の実状に関心を持ち、民主主義を守るためにも、私達が政治に物申すチャンスである選挙投票は私達の責務です。他人事と思ってはいけないのです。少なくとも投票棄権だけは止めましょう。
4.まとめ;主に小説やエッセイに勤しんでいるいる私にとって、この類の本を読んだのは久方ぶりです。日本では平和を満喫しているようですが、世界ではウクライナや中東・台湾問題など緊張状態にあり、1986年米ソの核廃絶宣言、どこ吹く風とばかりに、アメリカ×ロ・中の大国間競争の中で、核の脅威が再燃しています。第三次世界大戦が勃発してもおかしくない状況です。国内に目を転じると、与党の裏金問題
や東京都知事選でのパフォーマンス合戦を見るにつけ、政治はいずこへとの感です。こうした時こそ、世界の現状に関心を持ち、自分達の出来る事を考える時と思います。本書は歴史を振り返り、分かり易く書かれており説得力があります。しかし、本書の論理だけを鵜吞みにせず、他の書も読んで自分なりの考え方を持つのが大切でしょう。人の考えは千差万別なので、ものの善し悪しを判別する自分なりのモノサシ作りが必要です。人類は難問の解決に向けて、今こそ理性と英知が試されているのだと思います。(以上)

0
2024年06月30日

Posted by ブクログ

非常に日本に、そして民主主義に厳しい本だった。
からなずしも全てに賛成ではないが、概ねその通りだと言える内容。日本はこのままアメリカに隷属して進むのか?それとも自立した骨太の国になれるのか?
これからの国のリーダーには重い命題が課される。でも日本のリーダーは、そんなことに悩まず今までどおりを貫くのだろうな……

0
2022年12月18日

Posted by ブクログ

 表題の通り、「私たちがどんな世界を生きているか」をフランス革命から200年、明治150年という2つの時間軸で考えていく。その際のキーワードとしては、「国、政治、経済」「民主、自由、平等」が挙げられる。
 新自由主義とは、何でも経済(市場)に委ねてしまおうという政策だったのだということが分かる。そういった中で、「政治」から「経済」へと社会のメカニズムの中心が動いて行ったのである。
 小泉政権や安倍政権の問題点、そして様々な社会問題や国際問題をその起源から理解させてくれる一冊である。
 ただ、時に著者の用いる言葉には、理解しにくいものもあり、読みにくい箇所も散見されたので、★4つとする。
 また、索引や参考文献表があれば、より良いものになっていただろう。

0
2022年08月14日

Posted by ブクログ

過去200年余りを概観し、現代のグローバル化とIT化が、近代に勝ち取った価値観である自由、平等、解放をいかに解体しているかを描いた本。過去を参照した上で現在を語る姿勢はとても重要な態度だろう。
本の内容は悲観的で、安倍政権に対する批判などもふんだんに盛り込まれているが、本書のテーマである近代的価値の喪失という部分にはかなりの説得力がある。既に人は自由や平等、そしてそれを政治に求めることに惓んでいるのではないか、という語りはハッとさせられるものであった。

0
2021年02月03日

Posted by ブクログ

 グローバル経済と新自由主義、IT技術やAI。現代世界がものすごい勢いで変化しているのは分かるのだが、それが世界各国で起きているポピュリズムや排外主義的動き、格差の拡大による社会の分断といった現象と、そもそも関連しているのかどうか、関係があるならば一体どう関連しているのかが良く分からなかった。
 本書は、そうした問いに対して、見取図を与えてくれる。

〈なるほどと思った箇所〉 
・現在、先進国で起きている問題の基軸は、20世紀半ばに世界戦争後に立てられた秩序原理を失効させようとする動きと見られる。 
・グローバル市場の成立によって、国家の役割が経済システムの自動化に吸い取られていく、そして、「国民」は、国家の保護枠から放り出されて、グローバル経済に参画するグループや法人の、使い捨ての資材や売り物になっている。

・あらゆる人間がコンピュータを使わざるを得ない社会になり、社会生活のインフラになったものがアメリカの影響力で世界に押しつけられる一方で、私的所有権(知的所有権)の下に置かれ、そこから生まれる富が所有権の保持者に集中する。

 

0
2020年10月25日

Posted by ブクログ

現在の社会状況がどのような流れや考えで形づくられているかを西洋近代、明治以降の日本の流れから述べている。著者の他の著作も読んでみたい。
「自由とは限界との関係だが、アメリカは他者を抹消することの「自由」の基盤としてきたので、自由の底が抜けている」
「二十世紀は十九世紀と二十一世紀の間の例外的な世紀・資本的に」
とのフレーズが印象に残った。

0
2024年03月14日

「学術・語学」ランキング