あらすじ
学術文庫版「中国の歴史・全12巻」の第10巻は、アヘン戦争後の19世紀半ばから、日中戦争がはじまる直前の1936年「西安事変」にいたるまでの中国近代史。二度のアヘン戦争で叩きのめされ、日清戦争の敗北によって亡国の危機にさらされた清朝末期。本書では、この時代を「中国史上初めて南の辺境から吹いた新しい時代の風」という視点でとらえ、「中華再生」の苦難のドラマを描く。
太平天国の蜂起に始まり、辛亥革命、国民革命、そして中国共産党の長征に至る革命運動は、いずれも南の大地から北に向かって展開した。この北伐に情熱を傾けた洪秀全、孫文、蒋介石、そして新時代の種をまいた毛沢東らの政治運動はどのように展開したのか。運動を支えた日本人の存在にも光をあてる。
また、辛亥革命によって退位した大清帝国の皇帝、宣統帝溥儀は、退位後、関東軍によって満洲国皇帝に祭り上げられ、日本の敗北とともに亡命・抑留生活を余儀なくされる。ラストエンペラー溥儀の数奇な運命と、激動する世界情勢に翻弄されつつみずからの手で運命を切り開き、近代中国を築いてきた人々の歴史。現在の日中問題のすべては、ここから始まる。〔原本:2005年9月、講談社刊〕
目次
序章 南からの風――辺境からの中華再生の試み
第一章 「南からの風」吹く――太平天国運動と列強
第二章 ゆらぐ中華の世界――洋務運動と日清戦争
第三章 ナショナリズムの誕生――戊戌変法と義和団
第四章 清帝国のたそがれ――ラストエンペラーと辛亥革命
第五章 「民の国」の試練――袁世凱政権と日本
第六章 若者たちの季節――五・四運動とマスクス主義
第七章 革命いまだ成らず――第一次国共合作と北伐
第八章 内憂と外患のなかで――南京国民政府と満州事変
第九章 抗日の長城を築かん――満洲国と長征・西安事変
第一〇章 辺境の街と人々――香港・台湾そして上海
学術文庫版のあとがき
主要人物略伝
歴史キーワード解説
参考文献
年表
索引
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Posted by ブクログ
このシリーズを12巻から読み進めているのですが、こに「ラストエンペラーと近代中国」は現代中国を理解するために必読の本だと思います。
中国は辛亥革命以降僅か100年余りしか経っていないのですが、常に変化してきました。中央集権的な2000年が続いた国ですが、春秋戦国時代や列国に分断された時代など、地方分権的な時代もあって、今の中国の姿から全部の中国を決めつけるのは危険です。この本を読んでやっと日本の近現代史が少し理解できました。
日本で終戦の玉音放送が流れているときに、蒋介石もラジオ番組に出演していて、その時に「われわれは報復してはならず、まして敵国の無辜の人民に汚辱を加えてはならない。もし暴行をもって敵国の暴行にこたえるなら、憎しみは憎しみを生み、永遠に終わることはない」と国民に向かって話したそうです。
蒋介石といえば、私の頭の中には高圧的な軍人というイメージしかなかったのですが、彼が何回も権力の座に復帰するのも、その背景には多くの国民の支持があったのだろうなぁと思いました。
11巻の「巨龍の胎動」は毛沢東と鄧小平に焦点を当てていて本当に面白かった。10巻の「ラストエンペラーと近代中国」は11巻よりも日本史と絡んでいるので、この時代の日本を理解するためにはこの時代の中国も理解しないといけませんね。
とても良い本です♪
Posted by ブクログ
太平天国の乱から日中戦争開戦直前まで。国民党と共産党に至る近代中国の苦難の歩みを中心に描かれており、副題には挙がるものの溥儀の存在感は薄い。時代の中心が移ったことがよく分かる。
Posted by ブクログ
読み進んできた中国史が一気に現代史になった印象。その中で、日本が果たしてきた存在の大きさを改めて噛み締める。有名な蒋介石の言葉「報復してはならない。憎しみは憎しみを生み、永遠に終わらない」との言葉は昭和天皇の終戦ラジオ演説と同時に行われたラジオ演説だった。全く誉められないとしか思えない蒋介石のそれまでの歩みを振り返る時に、中国の懐の深さには感服する。その蒋介石がこの書物の後半では最重要人物のように登場する。ここ数年の習近平政権の強引な政策は毛沢東路線の回帰という前に、蒋介石、また袁世凱の圧政と同じ!との断言で、現代の中国の原点とでもいうべきことを端的に説明していると感じた。そして台湾と清国の関係、そして後藤新平による台湾統治の功罪などの説明も分かり易い。長い中国史を振り返る中で、台湾が中国との一体との共産政権の説明は不自然に感じた。1989年の天安門事件が1919年の5・4事件70周年記念をきっかけとしていたが故の政権の戸惑いという背景は知らなかったが、成程!この巻の約150年の歴史の中で、太平天国の乱に始まり、孫文、魯迅、蒋介石などキリスト教との関係が如何に深かったのか、日本史との大きな違い。そして太平天国の提起した施策が毛沢東時代の人民公社、鄧小平時代の改革・開放路線へ連なるとの説明は全くの驚きだった。