あらすじ
「光秀はただの人じゃ、所詮、ただの人じゃ」とつぶやく信長と、「信長様は、過去の功績も人事の情もお感じにならないらしい。人を金銭道具と同様に、ただその日その時の役立ちだけで見られるお方なのだ」と嘆く光秀。摩訶不思議な人間の心情が交互に錯綜し、ストーリーはいよいよクライマックスへ……。主を倒せば、はたして天下がとれるのか。永遠の課題の答えは史実のなかにある。
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Posted by ブクログ
織田信長と明智光秀がそれぞれ独白するという面白いスタイル。上巻は織田信長の独白性がいかんなく発揮されており、下巻はいよいよ本能寺の変へと動いていく。明智光秀の口から本能寺の変を描いた発想は面白く、最後は自分で判断が出来なくなり、織田信長へどのようにしたら良いか問いかけるシーンはなんだかリアリティーがあって自分的には好きなところであった。
Posted by ブクログ
読み終わった印象としては、信長の思想を肯定的に、光秀の思想を否定的に捉えているという印象です。
しかし、信長の思想を肯定的に考えることは、果たして正しいのだろうか。信長には、光秀のような人が必要であり、光秀にとっても信長のような人が必要だったのではないか。結局は、信長も光秀も、自分の思想に固執して、身を滅ぼしたのではないかと思いました。
仮に信長が天下統一したとしても、泰平の世を築くことはできなかったと思います。第二、第三の明智光秀の反乱を招き、世の中は乱れたのではないかと想像しました。強烈な信長のリーダーシップにより、一時的には、世の中を安定させることはできでも、長期間世の中を安定させることはできなかったと思います。
泰平の世を築く前提として、信長、秀吉、光秀が果たしてきた歴史的意義は大きいと思いますが、徳川家康の果たした歴史的意義は、長期の泰平の世を築いたとして、より高く評価されるのではないかと思います。
などと、いろいろと考えさせられる面白い本でした。多種多様な思想信条の存在を認め、互いに尊重する土壌がないと、人の世は乱れに乱れる。大事を成すには、人と人との関係が、何よりも重要な要素なのだと思います。
Posted by ブクログ
天下を治めるのは、型破りな行動を引き起こす覇気と気迫か。それとも、感情を抑え、礼式を尊び、格式を重んじる品位か。歴史上の謀反事件として最も名高い本能寺の変を題材にとったこの小説は、個々の事件における信長と光秀両者の内面を浮き彫りにし、主従の心の葛藤を鮮やかに描き出した。初の独白形式で迫る歴史巨編小説。
この小説では、信長と光秀が、同じ事件、同じ光景を互いに独白するというユニークな形式となっている。物語は、天正10年3月14日信濃浪合にて、武田勝頼の首を確認するところから始まる。以後、過去を回想しながら、本能寺の変、山崎の戦いまで進む。
単行本は1989年の刊行ということもあり、部分的に古い部分(桶狭間の戦いや長篠の戦い、斎藤道三など)もあるが、武田信玄について、本書の信長の見方として大局を読めない田舎大名としており面白い。(逆に光秀の見方としては、従来どおり高評価をしている。)
残念なのは、小説とはいえ、参考文献が明示されていないところである。通説とは異なった部分も多々あるので、何を参考にしたのか興味深いところである。