あらすじ
「俺いま、すごくやましい気持」。ふとした瞬間にフラッシュバックしたのは、あの頃の恋。できたての喉仏が美しい桐原との時間は、わたしにとって生きる実感そのものだった。逃げだせない家庭、理不尽な学校、非力な子どもの自分。誰にも言えない絶望を乗り越えられたのは、あの日々があったから。桐原、今、あなたはどうしてる? ――忘れられない恋が閃光のように突き抜ける、究極の恋愛小説。(解説・窪美澄)
...続きを読む感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
この小説のなかにある恋は、リアルな恋だと思う。
少しでも恋を経験した人が読んだら、追体験させららるほどのリアルさだと思う。
大人になってから出会って好きになった人に対して( もし学生の頃に同じクラスだったら好きになってたかな? )って考えてみたり、
こんなに好きな人でいっぱいの毎日を過ごしていて、この人に出会う前は自分は何を考えてどうやって過ごしてたんだろう?って考えてみたり、
喫煙者の彼と電話をしてるときの、タバコを咥えながら話すくぐもった声にキュンとしたり、
みんな同じことを感じて、考えて、生きてるんだなって思った。
✎______________
由井の今の旦那さんもとてもいい人で、由衣がこの人と出会えて幸せな家庭まで持てて本当に良かったと思う。
でも、桐原との終わりが曖昧なものになってしまってるから桐原も由衣も、どうにもなれなくて辛い。
由井は桐原のあの頃の思いを手紙で受け取ってしまって、自分の中で落とし所をみつけなくちゃいけない。
桐原も新しい生活があるかもしれないけど、もしかしたら心のどこかで由井のことをずっと待ち続けてるかもしれない。
とにかく最後があの手紙でおわったのが本当にいい。
読者としてどこまでも考えることができるから、余韻が全然抜けない。
ずーっと考えてる。
娘さんからしたらあの手紙を読んでお父さんに電話したくなる気持ちも分かるし、「捨てちゃおうかな」って思ってしまう気持ちも分かる。
私は、由井のことだからきっと手紙は押入れの奥深くにしまいこんで今を大切に生きていくだろうなとは思うけど、
あの頃のあやふやな終わりをはっきりさせてきっちり終わらせたいとも思うんじゃないかなとも思う。
✎______________
桐原からの手紙の余韻にやられてしまって泉と高山のことが薄くなってしまうけど、泉は本当によくあの決断ができたと思う。
きっと高山と一緒になってたら、心のどこかにずっと子どもが居続ける。
高山と本当の意味で一緒になれることはなかったと思う。
もうすでに大切なものがある人間は、それを捨てては生きてはいけない。
✎______________
由井の父のアルコール依存症の書き方もリアル。
本人も苦しむけどその苦しみのためにさらにアルコールに逃げて、家族はずっと苦しみ続ける。
でもそんな由井に桐原という存在がいてくれてよかったし、逃げた先に幸太郎と幸太郎のお母さんがいてくれてよかった。
あわよくば、そういう大切な縁を切って逃げてきた由井のこれからは、そのご縁を少しずつ取り戻すものであってほしいな。
✎______________
由井の生い立ちを考えると、有島武郎『小さき者へ』に心を打たれる理由は分かりすぎる。
私も読んでみたい。
Posted by ブクログ
ハァー...。読んだことを後悔するくらい心に刺さる本だった。だいぶ好き。
無限の選択を繰り返す中で、過去の後悔や痛みごと包んでくれる人に出会ったり、抱えたまま堕落していったり。正しい選択をしたから幸せになれるわけでもないし、生きる道も出会う人もまた枝のように無限に広がっている。
私も久しぶりに初恋の人のことを思い出したわー。あの頃の感覚もまんま蘇ってきて不思議な気持ちになった。笑って生活できてるといいなぁ。
「潮時とは、漕ぎ出すのに潮が安定している、好いタイミングということ」
Posted by ブクログ
「うしなった人間に対して1ミリの後悔もないということが、ありうるだろうか。」序盤に出てくるこの問いに対して、章ごとに登場する様々な登場人物のうしなった人間と、後悔についての話が紡がれます。
序盤は由井の視点で始まり、最後の章で由井の娘の視点。最後の最後で由井に対して抱く感情が、1ミリの後悔もない、はずがない。になるのがとても綺麗な終わりであり、かつ読み手にも、もう少し何かが違えば行き着く未来は別のものになったんじゃないか……と後悔に似た感情を抱かせます。
特に心に残ってしまっているのは、大人を信じることをやめた由井が「初めて信じていい大人もいるんだ」と思えた同級生の母です。程よい距離で接する人だなと最初の印象では思っていた女性は、近付きすぎると壊れてしまいそうな繊細な少女と、世間体を気にする家族に悟られないよう、温かく辛抱強く守っていたんだなと分かって、胸が苦しくなりました。
途中で登場する男女の不倫の話も、先に高山のその先の人生を盗み見してしまっているため、もしかしたらこれが彼の人生の分岐点だったのかもなと思ってしまって読むのが少し苦しかったです。自業自得ではあるのですが。歪な始まり方をした関係がその形のまま終わってしまうのは仕方がないけれど、きっとあのとき完全燃焼出来なかった関係がその先の人生に響いているんだろうな、と読みながら思いました。「わたしたちの関係が完全燃焼って、どういうのだろう。」と泉も言ってますがね。
そして由井が父に言って欲しかった言葉が書いてある本『小さき者へ』。
中途半端に愛された記憶があるからこそだな、と思いました。難しい言葉で話す賢い父。そして、自分のことを愛してくれていた父から、言われたかった言葉。きっとどこか自分が幸せになることに罪悪感があったのでしょう。自分だけ幸せになっていいのか、と。だからこそ言われたかったんでしょう。自分を振り払って人生に乗り出して行け、と。自由に生きてもいいのだと背中を押して欲しかったんだろうな、と思いました。
とても良い本です。またいつか読み返すと思います。