あらすじ
児童文学のノーベル賞にあたる、国際アンデルセン賞作家賞受賞! 世界的注目作家の新たなる代表作。カザルム学舎で獣ノ医術を学び始めたエリンは、傷ついた王獣の子リランに出会う。決して人に馴れない、また馴らしてはいけない聖なる獣・王獣と心を通わせあう術を見いだしてしまったエリンは、やがて王国の命運を左右する戦いに巻き込まれていく――。新たなる時代を刻む、日本ファンタジー界の金字塔。
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Posted by ブクログ
ここまで洗練され完璧な世界観に浸れたことが嬉しすぎて改めて作者さんの文才の凄さとこの物語を作品として世に出してくれた事に感謝
今回はエリンが人間の汚い部分に触れ大人へと成長していく
リアンとの絆を履き違えてはいけない
エサルの助言の意味をある事件をきっかけに痛感するエリン
自分の理想と現実は違うのだと理解し、絶望するもそれでも自分のしたことの重大さを受け入れ覚悟する姿はかっこいい
段々と過去に何があったのか、王獣規範の本当の意味が明かされる
過去の人々の願いは時代が移ろう中で少しずつ忘れ去られていき、過ちが繰り返されるのもまた人間の性なんだろうなぁと思うと虚しくなると同時にだからといってどうしようもないなと感じてしまう
エリンの成長の他に国政が変化しつつあり、それに巻き込まれるエリンとリラン
闘蛇や王獣の戦闘シーンで人はいつの時も欲にまみれた生き物であることを思い知らされる
イアルとエリンのお互いを想う気持ちは純粋で守ってあげたい気になる
Posted by ブクログ
エリンがカザルム王獣保護場の教師となり、王獣の飼育に成功。王獣が政治利用されはじめるところまで。少しずつ運命の歯車が重なってラストに繋がっていくのを感じる。!
Posted by ブクログ
物語の終盤、戦場の真ん中で矢に射られようとするエリンを王獣のリランが助ける場面。
リランは、器用に、舌でエリンの身体を転がしていく。最後に口の中で落ち着いた身体の位置は、矢傷がリランの牙にもどこにさわらぬ、横向きの姿勢だった。
人間の身体を咥えて、舌で転がすという表現を見て、初めて空を飛ぶ王獣という生き物の巨大さを感じた。物語ではこれまでも、エリンがその背に跨って空を飛び、その硬い皮膚が矢を弾き、軽々と生き物の骨を噛み砕く王獣が描かれてきた。それだけでも、十分に王獣という架空の鳥の恐ろしさが伝わっていたつもりでいたが、「牙のない口の奥、歯肉のあいだ」に人を一人咥えられるという描写で、初めてその実感を得たような気がした。
そんな巨大な獣を前に、「ロン、ロロン……」と竪琴を鳴らしながら近づいていくエリンの姿は、やはり印象的だった。リランに咥えられ、助けられたとき、エリンは思う。
(どんな気持ちで……)
リランは、こんなことをしているのだろう。
リランは、どんな気持ちで、自分を助けたのだろう……。
我が子でもなく、親でもなく、伴侶でもないのに、なぜ。
あれほど憎んでいる音無し笛を吹き、鞭で叩くようにして従わせたのに、なぜ。
結局、獣の気持ちはわからない。物語の中盤、王獣たちが最も嫌う音無し笛を吹こうとした獣使いを襲ったリランは、自分に愛情を持って育ててくれたエリンの左手を骨ごと噛みちぎってしまう。どれだけ情をもって接しても、獣は獣なのだと諦めたエリンは、最後にその情をもって獣に救われる。
だからこそ、物語を締めくくることになるエリンの決意は、とても固いものに見える。
おまえにもらった命が続くかぎり、わたしは深い淵の岸辺に立って、竪琴を奏でつづけよう。天と地に満ちる獣に向かって、一本一本弦をはじき、語りかけていこう。
未知の調べを、耳にするために。
結局、分からないからこそ、語りかけ続けるしかないのである。
解説にある通り、この物語には、少女だったエリンの成長以外にも、王国の成り立ち、王獣規範の謎、政治、さまざまな要素が輻輳している。ただ、その中でもやはり心に残るのは、少女だったエリンと、幼い王獣だったリランとの絆だったように思う。
限られた言葉だけでしか意思を疎通できない人と獣の物語を楽しんでほしい。