【感想・ネタバレ】木戸幸一 内大臣の太平洋戦争のレビュー

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Posted by ブクログ 2020年05月12日

副題に「内大臣の太平洋戦争」とあるように、本書は木戸幸一を通して見た満州事変から太平洋戦争開戦に至る過程を詳細に分析したものである。同著者の『昭和陸軍全史』(全三巻、講談社現代新書)も併せて読むことをお勧めしたい。

読者の問題関心は日本はどうしてあのような無謀な戦争に突入してしまったのかという点に...続きを読む集中するように思われる。満州事変や五・一五事件、二・二六事件、近衛内閣の成立と日中戦争の泥沼化、三国同盟締結、北進・南進政策をめぐっての意見対立、独ソ開戦、日米首脳会談挫折、東條英機内閣の成立、そして開戦してからはどのタイミングで戦争を止め得たのか……すべて昭和戦前・戦中期のターニングポイントであり、そのいずれも木戸幸一は天皇側近として重要な役割を担っていた。

最後の元老・西園寺の側近としてスタートし、西園寺亡き後は内大臣として首相選定の事実上最大有力者となった木戸の考え方は、近衛に非常に近く、議会主義、英米協調路線の否定という点で一致していた。陸軍の先手を打ち(近衛)、善導する(木戸)という方策は、結果として2人を陸軍の考え方に近いものとしていった。

結局のところ、近衛や木戸は独自の政治基盤を持たず、政党政治が崩壊する中で唯一国家戦略足りうるヴィジョンを持ち得た陸軍の同調者とならざるを得なかった。それは日本にとって非常に危うい選択肢しか残されていなかったということであった。それを念頭に置くと、やはり昭和恐慌という経済的危機の中での政党政治の行き詰まり感が重要なポイントであるように思う。実際には高橋財政の成功により経済は回復に向かうのだが、一般には(そして近衛や木戸にも)政党政治、英米協調主義ではもうダメだという意識を強めていったのであろう。

ところで木戸は経済官僚(農商務省から商工省)として自らのキャリアをスタートさせている。その際に欧米の産業合理化運動を9ヶ月半にわたって視察しているのだが、経済的自由主義から合理化運動(統制主義)への移行をどのように見ていたのだろうか。本書の大筋とは関係ないが気になった。

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