【感想・ネタバレ】木戸幸一 内大臣の太平洋戦争のレビュー

あらすじ

東条内閣を生み、「聖断」を演出した昭和史のキーパーソン、初の本格的評伝!

なぜ日本政治は軍部に引きずられたのか?
昭和史最大の謎を解く鍵を握る人物が木戸幸一だ。
昭和日本の運命を決する重大な岐路には、必ず彼の姿があった。
開戦時から終戦時まで内大臣をつとめ、東条内閣の生みの親。
木戸孝允の子孫、昭和天皇最側近のひとりにして、
昭和史の基本文献として知られる『木戸日記』を書いた木戸だが、
彼がいかなる政治認識を持ち、重要な局面で何を行ったか、
正面から論じた著作は少ない。
満州事変、二・二六事件から終戦まで、昭和の岐路に立ち続けた木戸を通して、
昭和前期、日本が直面した難局が浮かび上がる。
ロングセラー『昭和陸軍全史』をはじめ、永田鉄山、石原莞爾、浜口雄幸などの評伝で
定評がある著者が描く昭和史のキーパーソン初の本格的評伝。

【内容】
満州事変 内大臣秘書官としていち早く陸軍情報を入手
陸軍最高の戦略家・永田鉄山との交流
二・二六事件 反乱軍鎮圧を上申
日中戦争 トラウトマン工作に反対
「軍部と右翼に厳しすぎる」昭和天皇に抱いた不満
三国同盟と日米諒解案は両立できると考えていた
独ソ開戦という大誤算
日米戦回避のためにあえて東条英機を首相に
「聖断」の演出者として ほか

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Posted by ブクログ

ネタバレ

 内大臣・木戸幸一を通して昭和史を考察する本書。

 読み終わって改めて思ったのが、当時の日本が思い上がり、のぼせ上っていたのだという点。特に指導者層やエリート、軍部、上流階級といった上層部の思い上がりは甚だしい。
 こういう時に出る、国民もという論法ではとても希釈できない体たらくである。

 明治の第一世代、本当に国(藩、幕府)が滅びる事はどういう事かと肌身で感じていた世代が交代すると、ここまで視野が狭くなる(劣化する)かと忸怩たる思いを抱く。

 本書の木戸幸一もその点では同罪であり、トップクラスの人物である。

 勿論、終戦時の根回しなど功績に値する部分はある。それでもマッチポンプが酷すぎて、功が霞んで霞んで仕方ない。盛大なしっぺ返しを食らっているようにも見える。

 例えば、反英(米)、反政党のあまり軍部に同調するのみならず、軍部を「善導」しようという思いあがった姿勢。「善導」するならば何か独自の国家戦略なり構想なりを考えていたかというと、それに関しては軍部の構想に全乗っかりというお粗末さ。

 総理大臣任命の際、昭和天皇から訓示される憲法尊重、対米英協調、財界を動揺させずの3カ条の内、近衛からの要請で前2カ条を削った事を本書で初めて知ったが、本当にこの近衛一党(同じ穴の狢)は碌な事をしないとつくづく思った。

 別に思想が反英米でも構わない。当時の欧米列強の植民地支配は酷いものだし、健全な感性ならそれに反感を覚えるのもある種当然の部分がある。

 しかし、国家の要職にあるものの優先順位一番は、所属する国家の生き残りであろう。それが木戸をはじめとする近衛たちには欠けていると言わざるを得ない(勿論、軍部やアジア主義者などは言わずもがなであり、左翼は元々欠けている)。

 言う事はいかにも立派なのだが、中身がなく、しかも粘り強く泥臭く実現しようとする姿勢もない。官僚的で貴族的な悪い部分がもろに出ている(その点、岩倉具視や三条実美はバランサーとしての役目も含めて偉大だった)。

 木戸については、終戦前後の侍従長・藤田尚徳が「あまりにも人間的に弱く、君側にあって百難を排しても正しきを貫く気力に欠けた一貴族の姿がある」と述べたらしいが、近衛も含めてとても腑に落ちる見解である。

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2021年09月15日

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