あらすじ
「新しい哲学の旗手」「天才哲学者」と称され、世界中から注目を集めているマルクス・ガブリエル。200年以上の歴史を誇るドイツ・ボン大学の哲学科・正教授に史上最年少で抜擢された、気鋭の哲学者だ。彼が提唱する「新しい実在論」は、「ポスト真実」の言葉が広がり、ポピュリズムの嵐が吹き荒れる現代において、「真実だけが存在する」ことを示す、画期的な論考とされる。本書は、今世界に起こりつつある「5つの危機」を取り上げる。価値の危機、民主主義の危機、資本主義の危機、テクノロジーの危機、そして表象の危機……激変する世界に起きつつある5つの危機とは? そして、時計の針が巻き戻り始めた世界、「古き良き19世紀に戻ってきている」世界を、「新しい実在論」はどう読み解き、どのような解決策を導き出すのか。さらに、2章と補講では「新しい実在論」についての、ガブリエル本人による詳細な解説を収録。特に補講では、ガブリエルが「私の研究の最も深部にある」と述べる論理哲学の核心を図解し、なぜ「世界は存在しない」のか、そしてなぜ「真実だけが存在する」のかに関する鮮やかな論理が展開される。若き知性が日本の読者のために語り下ろした、スリリングな対話と提言を堪能できる1冊。 【目次より】●第1章 世界史の針が巻き戻るとき ●第2章 なぜ今、新しい実在論なのか ●第3章 価値の危機――非人間化、普遍の価値、ニヒリズム ●第4章 民主主義の危機――コモンセンス、文化的多元性、多様性のパラドックス ●第5章 資本主義の危機――コ・イミュニズム、自己グローバル化、モラル企業 ●第6章 テクノロジーの危機――「人工的な」知能、GAFAへの対抗策、優しい独裁国家日本 ●第7章 表象の危機――ファクト、フェイクニュース、アメリカの病 ●補講 新しい実在論が我々にもたらすもの
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Posted by ブクログ
哲学者である著者が提唱する「新しい実在論」について、インタビューをもとに書き起こした本である。
本書では、「新しい実在論」を解説した後に、現代を5つの側面(価値、民主主義、資本主義、テクノロジー、表象)からの危機を論じている。
内容的には新書であるため、どうしても表面的なものとなってしまい、著者の哲学自体を理解するには内容が乏しく(自分の理解力の問題か?)、本質をもっと理解するためには他の著書を読み込む必要があるが、内容としては興味深いものであった。
本書で著者が主張していることは、自分ももだ未消化で文章としてうまく表現できないのが残念であるが、確かに現在の様々な問題に対する新たなアプローチを示している。そのなかでも、倫理学の重要性を主張している点は興味深い。何が正しいのかは、各人が倫理学を学び、それに基づいて判断すべきであり、他者に依存してはいけないのである。
そのためには、差別をなくすためには倫理学を学科として扱い、小学生から教える必要性を訴えています。
同様に会社にも倫理委員会を設ける必要性もあります。
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・普遍的な倫理観には、生粒学的な基礎があります。我々はもともと皆同じ種だからです(これは、人類という種であり、民族などによる異なるものではないということ)。
・言語と文化は同一のハードウェア(人類)上のソフトウェアのようなものである。
・現代社会では、ほとんどの人が文化相対主義を信じています。人間は使うソフトウェアによってきっぱり分かれているという思想です。つまり、ムスリム(イスラム教徒)は二十一世紀のマンガ狂やロシアの売春婦とは全く異なった価値体系を持っていることになるのですが、実際そんなことはありません。
・任芸性というのは極めて普遍的なものですが、我々はそれを無視しています。というのも、現在地球規模でサイバー戦争が起きているからです。今この時代に蔓延している文化相対主義の機能は、非民主的なインターネットを正当化するためのものだと私は思います。
・道徳には三つのカテゴリーがあります。程度の差はありますが、基本的に「善い(Good)」「中立(Neutral)」「悪い(Bad)」の三つに分けられます。「善い」にはマザーテレサは全ての人を救うというようなこと、「悪い」にはヒトラーが全ての人を殺害するというようなことが当てはまります。「中立」には、今日は半そでのシャツを着ようか、長そでのシャツを着ようかということが当てはまります。例えば現代ヨーロッパでいえば、ヒジャブ(イスラム教徒の女性が着用する頭を覆う布)を学校で着用していいのかどうか、といった問題もあるでしょう。個人的な見解を述べると、「神がヒジャブを着用することを望んでいる」と信じている人は、道徳の面で間違いを犯していると思っています。でも、だからといって、その女性がヒジャブを着用すべきではないという意味ではありません。彼女は間違いを犯していますが、人が時に間違いを犯すことは道徳的には許容されます。彼女の新年は間違っているけど、それは私の問題ではなく、彼女の問題です。
・しかしこれが耳目を集める問題になるのは、人々がムスリムから人間性を奪って殺めたいと思っているからに他なりません。ヒジャブを使うことでムスリムを非人間化できるからです。
・現実には、特定のグループの人たちから人間性を奪う可能性についてばかり取り沙汰されています。
・道徳観を教える倫理学は、数学と同じように一つの学科です。子供に教えていないから、学科ではないと考えてしまうのです。ドイツでは倫理学の代わりに宗教を小学校から教えています。これを宗教ではなく、倫理学に変えなければいけません。
・現在、人々は「民主主義は、自分が信じているものを何でも自由に言える権利」と思っています。民主主義を特定の表現の自由と混同しています。
・民主主義とは、民主的な制度の機能は、意見の相違に直面したときに暴力沙汰が起きる確率を減らすことです。二人の当事者が異なる意見を持っているとき、民主的な機関の機能は双方の利益の間の妥協点を見つけ出すことです。
・文化には多元性があり、ある文化には明白に見えないことも別の文化には明白に見えるということです。でも、地域の視点を超える、明白な事実もあると思います。しかし、時に文化は、明白さを否定します。我々は、一つのレベルしかない明白な事実という存在を、皆で見つけ出さないといけません。明白な事実が何であるか、我々は完全には分かっていないからです。
・「人間はこうあるべきだ」というモデルを、社会システムにいる全ての人間に押し付けるべきではありません。そのモデルは、人間の現実に即していないからです。それが多様性への論拠になります。「人間はそれぞれ少しずつ違っている」という事実(Fact)が、多様性の根拠です。
・我々は未だかつて(完全に)グローバルな自由貿易が行われたことはありません。どの国もある程度は自国の製品を保護しています。過去の不況でも保護主義で乗り越えてきたことがあります。現在のトランプ大統領の保護主義やEUの瓦解を密につけても、「世界史の針は巻き戻っている」と感じます。
・グローバル経済が、グローバル国民国家の存在なしで機能し続けることは絶対にありません。
・会社の中に倫理委員会が設けられ、彼らは完全な雇用保障、職務保障を得られ、大学の就寝在職権のように、解雇されないモデルが設けられるべきです。
・資本主義は「内なる他者」を生み出し続けている。資本主義の構造がそうなっているからです。現代の資本主義は、必然的に搾取されるグループを作り出すようになっており、そのグループは膨大な数に上ります。自分が消費したいと思う製品を作っている人、それが「内なる他者」です。彼らは、消費する人よりもひどい労働環境にいるに違いありません。絶対的に見ると、下層にいる人の数がこれほど多くなったことは人類史上ありません。グローバル資本主義は、人類が今まで見たこともないほどの貧困を生み出しています。
・自然科学の問題は、倫理観を否定していることにあります。自然科学の観点からでは、倫理学を研究することはできません。物理学の世界では、人間について研究するとき「ある動物の行動」という見方をします。しかし「動物の行動」なんて見方では、人間の価値を認識することはできません。価値とは行動規範のことで、行動規範とは、たとえば「人殺しはいけない」ということです。自然科学者にはこの行動規範という概念がありません。
・(本書の趣旨から外れるが)趣味が悪い人ほどネットに口コミを書きたがるものです。そういう人々の取るに足りない行動を、インターネットはいちいち律儀に登録しているのです。現実世界では、低評価をした人物の意見があなたの決断に及ぼす影響は何一つありません。それがオンラインになったとたんに、その人物の薦めに従ってしまうのです。インターネット上では愚者が愚者にモノを薦めあっている。それを群知などともっともらしい名前で呼んでいます。実際は群れの知識でなく、群れの凡庸化です。
・自動化が最適だというのは、昨今信じられている壮大な神話です。大抵は逆で、自動化は物事を凡庸化してしまいます。
・GAFAはデータで利益を得ています。そのためのインプットは、例えばバーベキューパーティを主催し、その写真をアップする。GAFAはそのアップされた写真から利益を得ます。バーベキューパーティを主催して写真を撮りアップするのは、労働と言ってよい。その人が手を動かしているからです。これはつまり、人々がGAFAに雇われている、文字通りGAFAのために働いているということです。しかし、GAFAは彼らに労働の対価を払っていません。
・各国政府は、我々国民がGAFAに雇われているという事実を認識した方がいい。近いうちに、GAFAは全てを変えるか、我々にお金を支払うかのどちらかを行うと思います。それで経済的な問題の多くは解決されるでしょう。
・減税を公約に掲げた候補者に票を入れたとしましょう。そしてその候補者が当選し、減税を行わなかったら、多くの人はきっと彼を嘘つき呼ばわりするはずです。でも彼は嘘つきではない。彼は有権者を表象しているのです。当選前の公約は「そうなるように努力します」という約束であり、必ず公約が果たされるということはできません。
・人の行う思考は、必ずそれ自体を真だと考えます。「これは正しい思考だ」という思考なしに思考することは不可能です。あなたは自分を信じているのです。というより、自分を信じないことは不可能です。思考それ自体が「これは偽だ」という思考をすることはありません。
・検索アルゴリズムは、最高のレストランではなく、最高の評価されたレストランを表示ます。人間の行為を合計したものを表示ます。間違いを犯す人間はいますが、それでも彼らはレストランを評価します。ですから、シリコンバレー的、統計的な世界観というのは、社会が間違いを犯す可能性を上げているのです。この統計的な世界観がなぜしっぱいするかというと、真実の真実、または偽りを考慮していないからです。
Posted by ブクログ
なかなか手ごわい。それに、いっぺんでどうにかする相手じゃなさそう。
意味を測定のルールとする、という定義。対話している相手を特定のアイデンティティの代表者としない。社会のゴールは、企業のルールも含めて人間性の向上とすべき。下層にいる人の数がこれほど多くなったことはかってなかった。平均的人生がどのようなものになるかが研究されて人生のどの移行期も利用することがエコにつながる贅沢な消費という満足を与える定期サービスのオファーを受ける。資本主義。環境問題への抜本的な解決になる>ほんとかな。自然科学は価値判断しない。ので原始的な宗教みたいに。労働を機会に任せて末人になる。情報検索をすることが検索とネット起業を太らせる。テクノロジーは壊滅のチカラ。政治はリアリティ、政党は実現不可能なものを約束するが。政治家は現実と向き合っていることに敬意を払うべきだ。人生を謳歌することではなく人生のイメージを謳歌するネット社会。複数の現実は偽にもなりうる。明白な事実の政治>それが成立する社会ってどんな社会だろう。
Posted by ブクログ
・インターネットはすべてが反・社会主義的。民主主義の土台を揺るがしている。デジタル化によって、リアルとバーチャルの境目があやふやになった。
・新しい実在論における氏の主張は二つ。「すべてを包摂する現実は存在しない」、「現実はそのまま知ることができる」。現実は数多く存在する。「意味の場」は複数ある。
・「新しい実在論」はリアル(真実)とバーチャル(嘘)の境目を明確にするもの。真実に目を向けるための思考法。新しくグローバルに協力し合おうという提案。
・相手を悪だと思うことも、善だと思うことも、人から人間性を奪う。
・特定の偏見を克服するためには、「意味の場」を学ぶこと。「我々は何人たりとも排除してはならない」という主張は、誰かを排除している人たちを排除した、というパラドックスに陥る。
・倫理資本主義。経営に倫理学者が介在するような構造が必要。
・モラリティの資本主義。環境危機を解決する企業が二十二世紀の政治構造を決定する。