あらすじ
「新しい哲学の旗手」「天才哲学者」と称され、世界中から注目を集めているマルクス・ガブリエル。200年以上の歴史を誇るドイツ・ボン大学の哲学科・正教授に史上最年少で抜擢された、気鋭の哲学者だ。彼が提唱する「新しい実在論」は、「ポスト真実」の言葉が広がり、ポピュリズムの嵐が吹き荒れる現代において、「真実だけが存在する」ことを示す、画期的な論考とされる。本書は、今世界に起こりつつある「5つの危機」を取り上げる。価値の危機、民主主義の危機、資本主義の危機、テクノロジーの危機、そして表象の危機……激変する世界に起きつつある5つの危機とは? そして、時計の針が巻き戻り始めた世界、「古き良き19世紀に戻ってきている」世界を、「新しい実在論」はどう読み解き、どのような解決策を導き出すのか。さらに、2章と補講では「新しい実在論」についての、ガブリエル本人による詳細な解説を収録。特に補講では、ガブリエルが「私の研究の最も深部にある」と述べる論理哲学の核心を図解し、なぜ「世界は存在しない」のか、そしてなぜ「真実だけが存在する」のかに関する鮮やかな論理が展開される。若き知性が日本の読者のために語り下ろした、スリリングな対話と提言を堪能できる1冊。 【目次より】●第1章 世界史の針が巻き戻るとき ●第2章 なぜ今、新しい実在論なのか ●第3章 価値の危機――非人間化、普遍の価値、ニヒリズム ●第4章 民主主義の危機――コモンセンス、文化的多元性、多様性のパラドックス ●第5章 資本主義の危機――コ・イミュニズム、自己グローバル化、モラル企業 ●第6章 テクノロジーの危機――「人工的な」知能、GAFAへの対抗策、優しい独裁国家日本 ●第7章 表象の危機――ファクト、フェイクニュース、アメリカの病 ●補講 新しい実在論が我々にもたらすもの
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Posted by ブクログ
「意味の場」は、最小単位ユニットの数だけ存在する。単一の「人」の数だけでなく、「人ー人」の数だけであると思う。
・共通点のないものは敵対しない。
・争いの第一戦術は相手の非人間化
・ニーチェのいう末人=いかなる代償を払っても苦痛を避けようとする人。
*これは現代の無痛主義、過剰なまでの対立拒否、ひいては政治への無関心にまで繋がる概念だろう。
死の運命の否定、そのための煙幕=黙過かも。
・自動化によって仕事を失う人々…仕事できない人間が溢れる。*日本産の有人潜水艦を作る技術は既にロストテクノロジー。
Posted by ブクログ
5つの危機
1.価値の危機
2.民主主義の危機
3.資本主義の危機
4.テクノロジーの危機
5.表象の危機
1.価値の危機
現代社会ではほとんどの人が文化相対主義を信じる。結果、差別主義が蔓延。
同じ種である人間の道徳的価値観は同一であるはず。道徳観を教える倫理学を子どもに教えるべき。
2.民主主義の危機
民主主義の基本的な価値観はコモンセンス。
文化的な多元性を受け入れるべき。人間の尊厳の尊重がベースとなる。
民主主義はまだ最終ステージには達していない。
3.資本主義の危機
法律上の制限のないグローバル経済が資本主義最大の危機。
資本主義そのものは不透明の要素があり、悪の潜在性がある。
倫理資本主義により、解決は可能。
4.テクノロジーの危機
自然主義という最悪の知の病。
ネットテクノロジーで作り出された我々の時間は、さらにネット消費に振り分けられているだけ。
ライプニッツの法則から、人工知能が人間のそれと同等もしくは以上になり得ないことは明白
労働力か機械化されればされるほど、経済は停滞していく。
5.表象の危機
人々はイメージに騙される世界に生きている。
人生そのものではなく、人生のイメージを謳歌するようになる危機。
Posted by ブクログ
注目の「Neo existentialism」またはNew Realism をひっさげる哲学者マルクス・ガブリエルとの独占インタビューを元に構成した一冊。インパクトが大きい一冊。
中身を咀嚼するために、ガブリエルの他の主要著作をみる必要があると思っているのですが、なかなか、進んでないです。
そういうことをしなくとも、この一冊をしっかり読むことが大切かもしれません。
Posted by ブクログ
非常にエキサイティングな内容の一冊だった。しかし自分には難解なところも多々あり、すべてを理解できたわけではなかった。日本がテクノロジーに関するイデオロギーを生み出すのが抜群にうまいというのは国際社会で今後生き残っていくために重要な示唆のように思う。
優しい独裁国家とは言い得て妙だなと思った。特に海外の人から見たらおかしいなって思うようなことに暗黙の了解の上に服従しているように思う。
Posted by ブクログ
とても良かった。特に、多くの人が民主主義を間違って理解している、言いたいことを言うのはフェイスブックであって民主主義ではない、とか。普遍的な道徳的価値観とか。
新しい実在論の最後のところ読んで驚いた。明白なことなのに論理立てられてないことを普通の手段で説明している。すごい。
社会を新しい視点で捉えられる。
Posted by ブクログ
全貌がわかるわけではなかったけれど(そもそも人文的なものに「わかった」が存在するか怪しい)たしかにいい感触というのがあった新書だった。これをきっかけにして色々と読んでいきたい。一番新しめの哲学。
Posted by ブクログ
世界史の針が巻き戻る――哲学者マルクス・ガブリエルはいまの時代をそう表現した。自由と理性を誇った近代が再び分断と独裁の影を帯びているというのだ。起点は情報の氾濫にある。真実よりも感情が優先され人々は自分の見たい現実に閉じこもる。だが彼は絶望しない。世界を救うのは「意味」を問い直す力だと説く。何が正しいかを問う勇気を取り戻すとき針は再び未来へと動き出す。
Posted by ブクログ
読んだと思ったのに本棚になかった。二重登録かもしれないけれど書いておく。
新実在論は未だによく分からないが,思弁的実在論やOOOとは違うらしいというのは分かった。新書ばかりでなくちゃんと著作を読まなければなりませんね。
死刑反対の議論があって,これを覚えていたので読んだと思っていたのだが,他の著作でも言ってるのかもしれない。
①「尊厳とは,「人間はときには人間存在の概念に基づいてその人生を送っている動物である」という事実」
②「他の人の尊厳を減らす人は,自分自身の尊厳も減らしている」
③「尊厳がゼロになることはありません。ゼロになれば人間でなくなります。」
④「もしその人を殺せば,その人の尊厳はゼロであるとみなしていることになる」
この論証が腹落ちしないのは多分②だと思う。
これと,新実在論で言う倫理的事実という概念がどう関係するかも課題。
そもそも倫理的事実がよく分からない。
Posted by ブクログ
擬態されていないありのままを見ることができる「あたらしい実在論」で5つの危機を見てみようが結論と思いました。
■「あたらしい実在論」の解説
移民問題や財政問題などを契機にヨーロッパでは「国民国家の復活」がおきている。
アメリカは独立までヨーロッパ的であったのに、独立したら、決してヨーロッパではなかった。それを擬態という。今また、中国で擬態が起きている。
報道機関は、紙メディアであれ、ソーシャルメディアであれ、リアリティをいちじるしくゆがめて伝えている。
真実を伝えるのは、「新しい実在論」であり、新しいメディア政治が必要である。既存の形とまったく異なるメディアを創造することが今求められている。
インターネットは、反民主主義であり、インターネットこそが、民主主義の土台を揺るがしている。
新しい実在論、①現実は一つでなく数多く存在する。②私たちは現実をそのまま知ることができる。
新しい実在論は、デジタル革命の結果として出てきた知見である。
境界があいまいな現代のイデオロギーが、新しい実在論で境界線が再び明確となる。
構成は以下の通りです。
第Ⅰ章 世界史の針が巻き戻るとき
第Ⅱ章 なぜ今、新しい実在論なのか
第Ⅲ章 価値の危機
第Ⅳ章 民主主義の危機
第Ⅴ章 資本主義の危機
第Ⅵ章 テクノロジーの危機
第Ⅶ章 表象の危機
補講 新しい実在論が我々にもたらすもの
■気になった言葉は、次です。
・一番人殺しをしているのは、キリスト教だ。
・民主的な制度の機能は、意見の相違に直面したときに暴力沙汰が起きる確率を減らすこと
・民主主義の基本的な価値観はコモンセンス(良識)。
「人間はこうあるべきだ」というモデルを、社会システムにいるすべての人間に押し付けるべきではない。
・グローバル経済が、グローバル国民国家である世界国家なしで機能しつづけることはない
・アメリカは全体的にとんでもない保守的なコミュニティである。
・科学への信奉は原始的な宗教への回帰のようだ。
・あるイメージがよいものかどうかは、イメージでなく現実によってきまる。
■日本に関するコメント
・日本の伝統的思想のような日本文化の長所をもっと世界に広めてもいいのではないか。
・日本は非常に可視化されたメンタリティをもっている。
・日本がテクノロジーに関するイデオロギーを生み出すのが抜群にうまい
・日本は、優しい独裁国家のようだ。
Posted by ブクログ
新しい実在論で世界を視るという本。
若さのせいか良く言うと「ハッキリものを言う人」、悪く言うと「口が悪い」という印象。
ただ言っている内容は納得のいくものも多く、良い学びになった。
【補講 新しい実在論が我々にもたらすもの】は自分には難しかった。
p.103 【民主的思考と非民主的思考の違いとは】
民主的な制度の機能は、意見の相違に直面したときに暴力沙汰が起きる確率を減らすことです。二人の当事者が異なる意見を持っているとき、民主的な機関の機能は双方の利益の間の妥協点を見つけ出すことです。
p.114【民主主義と多様性のパラドックスを哲学する】
(哲学者バートランド・ラッセルの解決法)
多様性で言うと、第一段階の排除は、女性や黒人などのマイノリティを排除することに当たります。第二段階の排除は、女性や黒人を排除する者たちを排除することです。第一段階の排除には排除者は含まれないが、第二段階の排除には排除者が含まれる。
p.165【知識とイデオロギーを分けて思考する】
「人間の定義は『一生懸命動物にならないようにしている動物』であり、だからそこに技術がある」
p.203【イメージ自体を欲望し始めた人々】
Posted by ブクログ
新実在論の話を聞いてから、たしかにそうだなぁと思うことが多くなった。
今回下の5つのテーマについてガブリエルさんの考察が書かれていた。
価値の危機
民主主義の危機
資本主義の危機
テクノロジーの危機
表象の危機
それぞれ面白い視点があったのだけれど、個人的には、多様性を否定する人を受け入れることが多様性なのかというパラドックスについての解説がとても納得した。
ラッセルのパラドックスから考えても、受け入れる必要はないという結論だった。
と言うよりも、受け入れてしまうと矛盾が生じるので、受け入れてはないないということだった。
個人としては多様性を否定する人も受け入れることが多様性なのだとは思うが、集団として多様性を受け入れることは、そうでない人を受け入れると成り立たなくなると考えるとわかりやすかった。
それ以外にも人は皆正しいと言うが、真と偽は存在しない、正しいと信じていることも実は偽であることは世の中にはたくさんあるのだと知った。
Posted by ブクログ
価値、民主主義、資本主義、テクノロジー、そして表象。
それぞれの危機によって、世界史の針が巻き戻っていると警鐘を慣らしている。
GAFAやAIに対してかなり強い批判的な意見を投げかけているが、そこには彼の未来に対する大きな懸念があるからだ。
世界は何処に向かっていくのだろうかと、深く考えさせられる。
Posted by ブクログ
なんとか読み終わったが、正直私の頭ではもう何度か読まないと本当には理解できない。
「表象の危機」の章は大変面白かった。近頃疑問に感じていたことのもやが少し晴れたような気持ちになった。このようにレビューを書くこともタダ働き(笑)とても納得がいった。
追記:別の美術の本を読んだことでこの本の内容「新しい実在論」という意味が自分の中で腑に落ちた。
Posted by ブクログ
この本を読んでテクノロジーに肯定的すぎていたが、否定的なことも考えないといけないなと思った。
著者は、倫理観を凄く重視しているように感じた。
過去にも現在にも時代が進化していく中で人間性が疎かになることは多くあった。
利益も大事だが、本当の人間の幸福とは何か?をまず重視していくことが大切なんだと分かった。
Posted by ブクログ
最近気になる「若き天才」マルクス・ガブリエル。ドイツの哲学者で彼の主張する「新実在論」が今世界中で脚光を浴びている。本書では、大きく変貌する現代社会が直面する5つの危機(価値、民主主義、資本主義、テクノロジー、表象)の提示とその本質の解説と、特に日本に対して「優しい独裁国」と評し、解決方法を提案している。「インターネットは非民主的」「人工知能など存在しない」「GAFAにただ働きさせられている」など、一旦立ち止まって思考することで見えくる本質の大切さに気付かされる。本書の主たるテーマとは異なるが、なるほどと思ったのは、よりよく生きるための思考法ともいうべき「哲学」を、なぜ小学校から教えないのかという点。算数や理科など基礎科目ができなければ、高度な技術や科学は駆使できない。それと同じで、生きるため、社会生活を営むにあたって必要な頭の使い方や先人の知恵を学ぶ機会が極端に少ないのはおかしいという主張。今後も彼の動向に注目したい。
Posted by ブクログ
【繰り返しているようで変化している】
言いたいことは何となくわかるのですが、禅問答的な(それが哲学)ところが多数あります。
しかし、著者はできるだけ平易な例えを交えてわかりやすく説明しています。また、今後の考え方のヒントになる部分が多数ありました。
Posted by ブクログ
哲学者である著者が提唱する「新しい実在論」について、インタビューをもとに書き起こした本である。
本書では、「新しい実在論」を解説した後に、現代を5つの側面(価値、民主主義、資本主義、テクノロジー、表象)からの危機を論じている。
内容的には新書であるため、どうしても表面的なものとなってしまい、著者の哲学自体を理解するには内容が乏しく(自分の理解力の問題か?)、本質をもっと理解するためには他の著書を読み込む必要があるが、内容としては興味深いものであった。
本書で著者が主張していることは、自分ももだ未消化で文章としてうまく表現できないのが残念であるが、確かに現在の様々な問題に対する新たなアプローチを示している。そのなかでも、倫理学の重要性を主張している点は興味深い。何が正しいのかは、各人が倫理学を学び、それに基づいて判断すべきであり、他者に依存してはいけないのである。
そのためには、差別をなくすためには倫理学を学科として扱い、小学生から教える必要性を訴えています。
同様に会社にも倫理委員会を設ける必要性もあります。
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・普遍的な倫理観には、生粒学的な基礎があります。我々はもともと皆同じ種だからです(これは、人類という種であり、民族などによる異なるものではないということ)。
・言語と文化は同一のハードウェア(人類)上のソフトウェアのようなものである。
・現代社会では、ほとんどの人が文化相対主義を信じています。人間は使うソフトウェアによってきっぱり分かれているという思想です。つまり、ムスリム(イスラム教徒)は二十一世紀のマンガ狂やロシアの売春婦とは全く異なった価値体系を持っていることになるのですが、実際そんなことはありません。
・任芸性というのは極めて普遍的なものですが、我々はそれを無視しています。というのも、現在地球規模でサイバー戦争が起きているからです。今この時代に蔓延している文化相対主義の機能は、非民主的なインターネットを正当化するためのものだと私は思います。
・道徳には三つのカテゴリーがあります。程度の差はありますが、基本的に「善い(Good)」「中立(Neutral)」「悪い(Bad)」の三つに分けられます。「善い」にはマザーテレサは全ての人を救うというようなこと、「悪い」にはヒトラーが全ての人を殺害するというようなことが当てはまります。「中立」には、今日は半そでのシャツを着ようか、長そでのシャツを着ようかということが当てはまります。例えば現代ヨーロッパでいえば、ヒジャブ(イスラム教徒の女性が着用する頭を覆う布)を学校で着用していいのかどうか、といった問題もあるでしょう。個人的な見解を述べると、「神がヒジャブを着用することを望んでいる」と信じている人は、道徳の面で間違いを犯していると思っています。でも、だからといって、その女性がヒジャブを着用すべきではないという意味ではありません。彼女は間違いを犯していますが、人が時に間違いを犯すことは道徳的には許容されます。彼女の新年は間違っているけど、それは私の問題ではなく、彼女の問題です。
・しかしこれが耳目を集める問題になるのは、人々がムスリムから人間性を奪って殺めたいと思っているからに他なりません。ヒジャブを使うことでムスリムを非人間化できるからです。
・現実には、特定のグループの人たちから人間性を奪う可能性についてばかり取り沙汰されています。
・道徳観を教える倫理学は、数学と同じように一つの学科です。子供に教えていないから、学科ではないと考えてしまうのです。ドイツでは倫理学の代わりに宗教を小学校から教えています。これを宗教ではなく、倫理学に変えなければいけません。
・現在、人々は「民主主義は、自分が信じているものを何でも自由に言える権利」と思っています。民主主義を特定の表現の自由と混同しています。
・民主主義とは、民主的な制度の機能は、意見の相違に直面したときに暴力沙汰が起きる確率を減らすことです。二人の当事者が異なる意見を持っているとき、民主的な機関の機能は双方の利益の間の妥協点を見つけ出すことです。
・文化には多元性があり、ある文化には明白に見えないことも別の文化には明白に見えるということです。でも、地域の視点を超える、明白な事実もあると思います。しかし、時に文化は、明白さを否定します。我々は、一つのレベルしかない明白な事実という存在を、皆で見つけ出さないといけません。明白な事実が何であるか、我々は完全には分かっていないからです。
・「人間はこうあるべきだ」というモデルを、社会システムにいる全ての人間に押し付けるべきではありません。そのモデルは、人間の現実に即していないからです。それが多様性への論拠になります。「人間はそれぞれ少しずつ違っている」という事実(Fact)が、多様性の根拠です。
・我々は未だかつて(完全に)グローバルな自由貿易が行われたことはありません。どの国もある程度は自国の製品を保護しています。過去の不況でも保護主義で乗り越えてきたことがあります。現在のトランプ大統領の保護主義やEUの瓦解を密につけても、「世界史の針は巻き戻っている」と感じます。
・グローバル経済が、グローバル国民国家の存在なしで機能し続けることは絶対にありません。
・会社の中に倫理委員会が設けられ、彼らは完全な雇用保障、職務保障を得られ、大学の就寝在職権のように、解雇されないモデルが設けられるべきです。
・資本主義は「内なる他者」を生み出し続けている。資本主義の構造がそうなっているからです。現代の資本主義は、必然的に搾取されるグループを作り出すようになっており、そのグループは膨大な数に上ります。自分が消費したいと思う製品を作っている人、それが「内なる他者」です。彼らは、消費する人よりもひどい労働環境にいるに違いありません。絶対的に見ると、下層にいる人の数がこれほど多くなったことは人類史上ありません。グローバル資本主義は、人類が今まで見たこともないほどの貧困を生み出しています。
・自然科学の問題は、倫理観を否定していることにあります。自然科学の観点からでは、倫理学を研究することはできません。物理学の世界では、人間について研究するとき「ある動物の行動」という見方をします。しかし「動物の行動」なんて見方では、人間の価値を認識することはできません。価値とは行動規範のことで、行動規範とは、たとえば「人殺しはいけない」ということです。自然科学者にはこの行動規範という概念がありません。
・(本書の趣旨から外れるが)趣味が悪い人ほどネットに口コミを書きたがるものです。そういう人々の取るに足りない行動を、インターネットはいちいち律儀に登録しているのです。現実世界では、低評価をした人物の意見があなたの決断に及ぼす影響は何一つありません。それがオンラインになったとたんに、その人物の薦めに従ってしまうのです。インターネット上では愚者が愚者にモノを薦めあっている。それを群知などともっともらしい名前で呼んでいます。実際は群れの知識でなく、群れの凡庸化です。
・自動化が最適だというのは、昨今信じられている壮大な神話です。大抵は逆で、自動化は物事を凡庸化してしまいます。
・GAFAはデータで利益を得ています。そのためのインプットは、例えばバーベキューパーティを主催し、その写真をアップする。GAFAはそのアップされた写真から利益を得ます。バーベキューパーティを主催して写真を撮りアップするのは、労働と言ってよい。その人が手を動かしているからです。これはつまり、人々がGAFAに雇われている、文字通りGAFAのために働いているということです。しかし、GAFAは彼らに労働の対価を払っていません。
・各国政府は、我々国民がGAFAに雇われているという事実を認識した方がいい。近いうちに、GAFAは全てを変えるか、我々にお金を支払うかのどちらかを行うと思います。それで経済的な問題の多くは解決されるでしょう。
・減税を公約に掲げた候補者に票を入れたとしましょう。そしてその候補者が当選し、減税を行わなかったら、多くの人はきっと彼を嘘つき呼ばわりするはずです。でも彼は嘘つきではない。彼は有権者を表象しているのです。当選前の公約は「そうなるように努力します」という約束であり、必ず公約が果たされるということはできません。
・人の行う思考は、必ずそれ自体を真だと考えます。「これは正しい思考だ」という思考なしに思考することは不可能です。あなたは自分を信じているのです。というより、自分を信じないことは不可能です。思考それ自体が「これは偽だ」という思考をすることはありません。
・検索アルゴリズムは、最高のレストランではなく、最高の評価されたレストランを表示ます。人間の行為を合計したものを表示ます。間違いを犯す人間はいますが、それでも彼らはレストランを評価します。ですから、シリコンバレー的、統計的な世界観というのは、社会が間違いを犯す可能性を上げているのです。この統計的な世界観がなぜしっぱいするかというと、真実の真実、または偽りを考慮していないからです。
Posted by ブクログ
Memo:
インターネットはジャンクというガブリエルさんのお話なのだが、手軽に超すぐ読めて面白く、インターネットのコンテンツのようだった。
(P69) 深い文化的異質があるとするストーリーは、戦争をあおり、他者を攻撃する口実になる。こうやって「他者」の存在を作り上げる。
(P72) 人間性というのはきわめて普遍的。文化相対主義の機能は非民主的なインターネットを正当化するためのもの。
(P82) 人から人間性を奪うには。1:相手を悪だと思うこと 2:相手を善だと思うこと 本来、善悪などないただの人間。
(P104) 民主主義の本質:戦うことは合理的じゃない。もっと前向きなことに集中しよう。
裁判で完全勝利は無いし、複雑で緩慢なプロセスがあって、とにかく面倒。完全勝利があるのは独裁。
どんな戯言でも口にできることは、民主主義でなくFacebook。
(P120) 「人間はこうあるべきだ」というモデルを、社会システムにいるすべての人間に押し付けるべきではない。
(P123) 他人の尊厳を減らす人は、自分自身の尊厳も減らしている
(P129) 法律上の制限がないグローバル経済は明らかに問題
(P152) 資本主義そのものは必ずしも悪ではないが、資本主義には「悪」の潜在性がある
(P135) 倫理資本主義
社会のゴールは、企業のゴールを含めて「人間性の向上」になるべき 利益の増加ではなく、モラルの進歩を目指す
---ある意味中国的では。P120での主張に沿う押しつけにならないか。数値による統計処理でスコアリングとかしない、モラル進歩なあ…。点数付けのほうが公平で善良、とならないか。
(P153) グランドセオリーの構築が必要だ。すべての学問分野は同じ一つの目標を持つべき。人間、幸福(well being)の条件を理解すること。
---中国やカルトとの違いも書いといて。
(P164) ビッグデータ解析でアルゴリズムやAIで生活向上は夢物語。カリフォルニア西海岸文化、起業家たちの精神はLSD三昧、正気じゃない。散漫な思考(バカ)はクリエイティビティには大切だが、実知識においては、厳しい集中力と散漫な思考の組み合わせが重要。インターネットが我々にもたらすのは、散漫な思考、ドラッグ中毒の子供たちの精神だけ。それが人工知能。
(P375) インターネットではバカがバカに物を薦めあっている。それを群知能SIなどともっともらしい名前で呼んでいる。実際は群れの知能でなく、群れの凡庸性。
(P175)自動化でできた時間はさらなるネット消費に振り分けられるだけ。
creative people が余暇で何をするかというとNetflix鑑賞。
あまった時間はシステムにデータをfeedbackするためにつかわれ、そうしてさらなるrecommendationの悪循環。毎日仕事を終えて人が何をするか、今日もネットに助けてもらった、さてネットするか、が現実。
→ネットが人類をよりcreativeにするとは思えない。
ー--ネットが現れるまえ、TVに対して言われてたことだね。
(P182) 行きつくところは…
残るのは今まで労働を機械任せにしていたせいで、働き方を忘れてしまった愚かな人間たち(末人)
彼らはやがて争いをはじめ、世界は崩壊。
(P186)各国政府は国民がGAFAに雇われているという事実を認識したほうがいい。GAFAはすべて変えるか、我々にお金を払うかどっちか。ネット検索するだけでお金持ちに。(これが末人のためのベーシックインカム。ただただ世界崩壊させないためだけの。)
(P188)我々は一年のうち四か月もネットをして過ごしている。びた一文くれない人のために働いて過ごしている。無料とされるサービスで得られるより多くの代償を支払っている。でなければ、企業は存続できないから。
(P190) テクノロジーとは壊滅の力。
(P191) 完璧になめらかな機能性には、ダークサイドがある。
(P219) 我々が自らを正す唯一の方法は、自分とは別の視点を持つこと。それが人間社会。構成員同士のやりとりが増え、社会が複雑になるほど、より多くのロジックが生まれる。複数の信念が広がる網全体が社会になる。
---ビッグデータのフィードバックやリコメンドと似てるじゃないか。
Posted by ブクログ
なかなか手ごわい。それに、いっぺんでどうにかする相手じゃなさそう。
意味を測定のルールとする、という定義。対話している相手を特定のアイデンティティの代表者としない。社会のゴールは、企業のルールも含めて人間性の向上とすべき。下層にいる人の数がこれほど多くなったことはかってなかった。平均的人生がどのようなものになるかが研究されて人生のどの移行期も利用することがエコにつながる贅沢な消費という満足を与える定期サービスのオファーを受ける。資本主義。環境問題への抜本的な解決になる>ほんとかな。自然科学は価値判断しない。ので原始的な宗教みたいに。労働を機会に任せて末人になる。情報検索をすることが検索とネット起業を太らせる。テクノロジーは壊滅のチカラ。政治はリアリティ、政党は実現不可能なものを約束するが。政治家は現実と向き合っていることに敬意を払うべきだ。人生を謳歌することではなく人生のイメージを謳歌するネット社会。複数の現実は偽にもなりうる。明白な事実の政治>それが成立する社会ってどんな社会だろう。
Posted by ブクログ
●最近本屋でよく顔を見るこのひとの本、初めて読んだ。
難しいとこも多いけど面白かった。内田樹の本読んでる感覚に似てた。
第4章:民主主義
民主主義では何でも自由に言えると誤解されている。文化的多様性は事実で、minorityを排除しようとする人を民主主義は排除すべき。でも他人の尊厳を減らす人は自分自身の尊厳も減らしていると考えよ。つまり尊厳がゼロになれば人間でなくなるのだから死刑はダメ
第5章:資本主義
グローバル経済が、グローバル国民国家の存在なしで機能することはない。インターネット上の危機と似ている。法律上の制限がないグローバル経済は明らかに問題。ここにトランプは気づいた。世界国家のないグローバル経済に入れば世界の民主主義が崩壊すると知って、トランプは実はパラドックス的に世界の民主主義を守っている。
Posted by ブクログ
インタビュー形式で読みやすく訳された文章なので、煩わしくなくマルクス・ガブリエルの言葉を咀嚼できる。私が見る現実、あなたが見る現実、見えない現実、その事実、仏教にも通じる観点が提唱される。見る角度を変えると見えなかったものが見えてくる、思い込みを捨てると違う景色へと変貌する。万華鏡のように世界は変わる。それでは世界は存在しないものなのか、そこに真実がある。数多の現実が交錯する中に潜んでいる。「新しい実在論」の第一歩として良書。
Posted by ブクログ
・インターネットはすべてが反・社会主義的。民主主義の土台を揺るがしている。デジタル化によって、リアルとバーチャルの境目があやふやになった。
・新しい実在論における氏の主張は二つ。「すべてを包摂する現実は存在しない」、「現実はそのまま知ることができる」。現実は数多く存在する。「意味の場」は複数ある。
・「新しい実在論」はリアル(真実)とバーチャル(嘘)の境目を明確にするもの。真実に目を向けるための思考法。新しくグローバルに協力し合おうという提案。
・相手を悪だと思うことも、善だと思うことも、人から人間性を奪う。
・特定の偏見を克服するためには、「意味の場」を学ぶこと。「我々は何人たりとも排除してはならない」という主張は、誰かを排除している人たちを排除した、というパラドックスに陥る。
・倫理資本主義。経営に倫理学者が介在するような構造が必要。
・モラリティの資本主義。環境危機を解決する企業が二十二世紀の政治構造を決定する。
Posted by ブクログ
グローバル経済において、労働環境が異なる中国のような主要プレーヤーと製品のやり取りをするのは、ルールなしで巨漢と殴り合いをするようなものだ。
そこにはルールが必要であり、トランプはこのルールを確立しようとしている。
Posted by ブクログ
インタビュー文字起こしがベースで日本人読者向けという意識があるので読みやすいし、それほどのボリュームでもないのでこの時期にサクっと読んでしまうにはうってつけの教養本でした。
哲学界のロックスターと呼ばれるドイツの哲学者が「新しい実在論」を軸に世界の危機を読み解くという本。
彼が「表象の危機」と表現し米国、欧州、中国の振る舞いというのは「そういうフリ」でしかなくて、目に見えていることとは全く異なる衝突が起きているんだよ、という解説が私には1番スリリングな内容でした。
政治や地政学、デジタルに経済も網羅的に語ってくれるので、何やら複雑怪奇な現代というシステムを俯瞰するのに良い知恵を授けてくれると思います。
デジタルと地政学について落合陽一と似たような切り口で語りますが、デジタルに対する信頼度というか期待については真反対というのは興味深かったです。
マルクス・ガブリエルはインターネットは全く民主主義ではないし、シリコンバレーの文化・・・自然主義や統計主義と表現していますが、これについては真っ向から否定しています。
さらに日本のことを「優しい独裁国家」と遠回しに揶揄しながらも、住んでる我々が苦しむ「精神の可視化された社会」については期待の目を向けていました。
Posted by ブクログ
おすすめフレーズ
・新しい実在論は二つのテーゼが組み合わさってできています。ひとつ目なあらゆる物事を包摂するような単一の現実は存在しないという主張です。現実は一つではなく、数多く存在する。
ふたつ目は、私たちは現実をそのまま知ることができるという考え方です。
学び
ある出来事に対して人それぞれの正しさの判断があるということを改めて理解できた
なぜ
新しい実在論の考え方や、世界は存在しないのフレーズで説明している。
例えば、、、
ドナルドトランプのSNSのニュースを正と見るか偽とみるか、ニュースが書いてあることは現実でそれをどう捉えるかは人次第。
Posted by ブクログ
序盤はかなり見る物を引き込むが、後半からかなりテイストが異なる。
現実に対する認識はおよそできているが対策が完璧ではない。倫理学者が全てを監視するのは理想としては良いかもしれないが現実には成立しない。それを認めてしまった段階で理想論者に成り下がってしまうのではないか。
Posted by ブクログ
「新しい実在論」についての解説書。正直に言うと内容についての理解度は4割もいっていない気がする。
世界は「価値の危機」「資本主義の危機」「民主主義の危機」「テクノロジーの危機」に直面しており、その4つは「表象の危機」に結びついている、というのが筆者の主張。薄い理解ではあるが、「現物」を手に取らずとも様々なものを見聞きしたり、実際に会わずともコミュニケーションが取れたりする現代において、人々は「幻想」を「現実」だと捉えてしまい、その裏側にある「真実」を見ることができていないということかと思う。
「テクノロジーの危機」の章では、「人工知能など存在しない」「AIは知能をモデル化したものである時点で、知能そのものにはなり得ない」という主張はなるほど納得がいくし、シンギュラリティ云々というのは起き得ないという思いは強まった。しかし同時に、AIによって人間の単純労働を代替することへの警鐘は、自分の会社で目指している方向性への真正面からの批判であり、且つ有効な反論も思い浮かばない。
結局、企業にしろ政府にしろ、倫理感を持たないものたちが勝ち続けている限り、世界は着実に破滅へと向かっていくのではなかろうか。
この辺りの考え方は『ファクトフルネス』とは真反対な気がしたので、もう一度読み直したくなった。
しかし、曲がりなりにも大学で「資本主義が〜」などと詭弁を振りかざしていた割に、そこで得た周辺知識との紐付けが全然できなかったのは悔しいし、己の無力さと無知さになんとも言えない惨めな気持ちになった。
一度学んだことを忘れない頭脳が欲しいなあ。
Posted by ブクログ
<目次>
はじめに 新しい哲学が描き出す針が巻き戻る世界とは
第1章世界史の針が巻き戻るとき
第2章なぜ今、新い実在論なのか
第3章価値の危機
第4章民主主義の危機
第5章資本主義の危機
第6章テクノロジーの危機
第7章表象の危機
補講新しい実在論が我々にもたらすもの
P95仏教(禅宗)に代表される日本の価値観は、欲望を
極力切り捨て、大きな変化を求めるよりも。今目の前
にあるものを、大事にする思考だ。これは新しい
実在論の形である
P97デジタル時代への次なる貢献は、新しい思想の波
である
P98よりすぐれた思想、あまりか企業よりもすぐれた
哲学を持つ企業が必要
まあまあ。