【感想・ネタバレ】異世界迷宮の最深部を目指そう 1のレビュー

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武壱 2020年07月16日

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Posted by ブクログ 2020年02月28日

意図が渦巻く迷宮に、絡め取られる私がいた。

これは、超説明的タイトルが目的を明示しつつ、裏側では何者かの恣意が見え隠れする、そんな物語。
小説投稿サイト「小説家になろう」発、プラットホームに乗せられたコンテンツが一体化して「なろう」というジャンルとして扱われているそんな中、零れ落ちた珠玉の作品のひ...続きを読むとつ。

良くも悪くも語られる同ジャンルの中では、通好みではあるけれど、圧倒的な世界観と群像図、構成美学、物語の進行につれてすべてが多層的な真実を演出する。

それが『異世界迷宮の最深部を目指そう(略称ないし愛称:いぶそう)』という小説。
ついで、この一冊はその漫画化(コミカライズ)、その端緒を飾る第一巻ということになります。

これは原作からしてそうなのですが、ミスリードをばら撒きつつも、必要な情報はしっかり読者に届くようにまとめていらっしゃいます。コミカライズとは元来そのようなものだとお叱りを受けるかもしれませんが、初見の方向けによいかもしれません。

(そもそも最大のミスリード要素に触れずにいるのはアンフェアな気もしますが、ここは沈黙を保ちます。)

ところで本作は(読者にとっても)何の前触れもなくいきなり主人公が異世界迷宮の表層部に投げ出され、追い詰められるところからはじまります。そんな原作最初の五十ページを第一話として駆け抜ける開幕を皮切りに、今だけは「普通の少年」として見ることができる主人公「相川渦波」の視点を追いかけることが出来ます。

で、主人公はまずはこのゲームっぽい世界はいったいなんなのか? という当然の謎はさておいて、とりあえず当座の生活に必要な「金」と現状の確認、それに迷宮探索に必要な「情報」の確保に動きます。
そして最初の仲間「ディア」との出会いから、迷宮探索の順調な滑り出しを予感させるところでこの巻を終えます。原作一巻からして逆算すれば、約四割を消化といったところですね。きっと好ペースです。

なお、ここからも所感をつらつら述べていきますが、やはり漫画というメディアの強さなのか、図解を用いることが出来る説明はこちらの方が強いようです。少し先取りして紹介された迷宮を取り巻く五大国についてイメージが湧いたのは嬉しいところです。文字情報だけだと羅列という形で逃してしまう危険性もありそうですから。

小説で装画/キャラクターデザインを務めている「鵜飼沙樹」先生がデザインした異世界文字も街並みにしっかり溶け込んでいます。そちらは原作十巻で出番があるまで設定を眠らせていた鵜飼先生の凝り性に息を呑むべきなのかもしれませんが、漫画化にあたって原作者サイドと連携が取れている事実は素敵だと思います。

あと、この一巻の漫画運びで感じたこととしましては市井のその他大勢とメイン格の間で情報格差(描き込みの濃淡)を設けつつ、黒と白を基調にしたモノクロームな空間運びがどこか突き放したような孤独感を強調するように思えました。私個人としては小説を読んだ時と読後感は違うのですが、これも解釈としてはアリですね。

たった一人で始まった異世界での暮らしはそれは心細いでしょうから。
今後の展開によって「普通」じゃないところを多く見せる主人公の「普通」の情けなさを読者視点から観測できたのはわりと貴重な気がします。

原作者「割内タリサ」先生の文体は一人称小説の中でも相当没入感が高い方だと見受けられますが、漫画として同じ手法を用いられるかといえば、無理が生じるのも確かです。主人公の内面に分け入る読書感覚を外して、良くも悪くも感じた「余裕」を切り離したことで見えてくる感覚が漫画版なのかもしれません。

あと「鵜飼沙樹」先生は一枚のタペストリーを思わせる挿画の中に「示唆」という名の情報という形で織り込み、繊細な絵情報で圧巻を運んでくださっているので、同じ地平で勝負しなくて正解です。
かの濃密なイラストは他メディアに進出する際の最大の障壁なのかもしれません。綺麗のみならず、想像力を刺激するから強いんですよ。

また、心情と情景が結び付けられる美麗な描写がやってくる文面に代わって客観的な俯瞰視点を導入しつつ、要所で主人公の感じたものをピックアップしていくのがこの漫画の美点なのだと思います。
等身を押さえての等身大な芝居ならびにコマのつなぎが上手く、コマとコマの間でキャラクターが動いているような感覚を覚えさせてもらえたので、とても上手いなと感じました。

印象としては主人公をはじめ全般的に幼げに見えるのも確かなんですが、序盤ということを考慮に入れればきっと正解です。今後の進捗につれての作画アプローチの変化も気になるんですが、現時点では満点です。

そして、個人的には相当ハラハラさせてもらえました。
私自身、作品世界の全体像を掴めていない事情もあります。またメディアごとに必要な情報を取捨選択出来るという後出しの強さも盛り込んでいるとは思うのですが、下手したら全体を見渡しても初出の情報も含まれてるのではないか? という危惧も走りました。

決めゴマと、強調が働いていることで改めて注目した方がいいポイントも見えてきたりしたので原作だけではない多角的な視点を提供してもらえた気がします。これもコミカライズとは元来そのようなものだとお叱りを受けるかもしれませんが、副読本としてもとてもよいかもしれません。

それと、その流れを汲んでの感想ですが、どう動くかわからないという意味で迷宮で出会った第一ヒロイン「ラスティアラ」が本気で怖かったです。原作小説を先読みして種が割れていたとしても、彼女の動きがミスリードの塊であることを再認識させられるとともに、本当に惑わされました。

漫画の独自演出ですが、自分から「落ちものヒロイン」演出してくるヒロインとか初めて見ました。
こういう茶目っ気が読者からも主人公からも目に見える「狂気」に打ち消されるのも納得というか、まぁその辺をあまり突っ込むと今後のネタバレになってしまうので適当に濁しますが。

ほか、群衆に伴って数値が動いている街並みのシーンや「空間情報」を最大限に生かして勝ち上がっていく主人公の視界など、漫画ならではの絵面づくりも見せていただけた気がします。

それと巻末には二千字弱の書き下ろし短編『ディアの感情の色』が掲載されています。
内容としてはあくまでその時の心情を補完する挿話に留まるのですが……、さりげなく今後への布石ないし示唆を打ちこんでいるように思えました。この「時点」での開示情報だけで「その先」が見えてくることに、既読者として震撼してしまうのはなぜなんでしょう?

偉そうに断言するのはコトかもしれませんが、以上に挙げた要素によって原作者の思惑を察することはできている気がするのに知ってか知らずか巻き込まれていく読書感覚を味わうことが出来ました。
なんというか、手のひらの上で転がされているなあって感覚を味わいたい方、今一度切り口を変えて「異世界迷宮」に挑んでみたい方はぜひこの漫画版を手に取ってみてください。

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