あらすじ
高校三年、受験生の圭人は塾の夏季合宿に参加し、学校で同じクラスの香乃と同室になる。苦手なグループにいる相手を窮屈に感じていたが、眠れない夜を過ごすうち、圭人は香乃にある秘密を知られてしまう――「空と窒息」など書き下ろし5編。
夏休みという長い非日常、いつもと違う場所で出会い、交流する二人。暑さに眩む視界と思考の中で、変わっていく関係を描く。記憶に濃い影を落とすような青春小説。
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Posted by ブクログ
なんか、なんか今、超絶ポプラ文庫読みたいッ…!という衝動のもと、ポプラ棚に駆け寄り、あああこれずっと読みたいと思ってるやつー!と毎夏思っては購入タイミングを逃していた、いつも平積みされている深沢仁さんの本書を今夏こそ購入。
なんといっても、タイトルがすばらしく素敵。
五編からなる短編集ですが、どの短編を読んだあとでも最後にこのタイトルをそっと呟くと、さらに最高にエモさが増すじゃん…! と大興奮読書でした。
しかし、どの話もタイトル回収に一辺倒なのではなく、どの話に描かれていたどの夏もそれぞれ全く系統の違う夏であり、だがそのどれもパッと光って咲いて散る、ひと夏の眩い青春がこんなにもバラエティに富んでいて、こんなに胸を熱くさせてくれるのか……深沢先生ッ!って感じでした。
何が言いたいかって、ほんとに、どの話も最&高。
なかでも、特に大好きだった短編が、『生き残り』です。
主人公・市井の若さゆえのフッ軽・執着のなさかと思いきや、彼女が篠くんにハマるごとに、普段は自身の母親から最も遠のいたキャラクターであろうとする市井の、家庭環境やそこで培った、深淵とも呼べる昏い思想が、篠くんの”生き残り”の謎が解かれていくごとに立ち上る「篠くん」という人間そのものに共鳴し、まるでぼろぼろとメッキが剥がれていくかのような、めちゃくちゃなのめり込み方が鳥肌もの。
若く未熟で、何も持たず力もない子どもの二人が”今”を生きるのに互いの温もりをとても必要としあっているのに、自分たちの未来は決して重ならず、”今”から本当の意味で逃れるには、交わらず、別の道へ進むしかないということが、ちらつくタイトルで示唆されるという……!
そしてそのタイトルが、強がりで言っているものなのか、諦念がそう言わせるのか、あるいは願望なのか、篠が市井を安心させるために言っているのか、などなど妄想はどこまでも膨らみ、激エモイ夏がわいの中に訪れるのです……!
た、たまらねえな……!
逃げるには心許ない、互いの六万円だけ握りしめて、きっとごっこ遊びににしかならない逃避行でも、大人になって再会したときに、どうせ忘れると思っていた夏のことを笑いながら語り合える未来があってほしいと、つい願ってしまう。
最初から面食らうようなガツンとした書き出しの『空と窒息』も好きでした。
インパクトだけが一人歩きするような嫌な感じは全くなくて、読み進めるごとに、ただ相手を知りたいと近づいていく香乃のピュアさの対比がいい。
香乃と可宮の二人のする何気ない対話の中に核心があるのもいいし、不可侵領域の外にいるんだけど、なんだかこう絶妙な距離感でいてくれる香乃の存在感がすごく印象的でした。
良いBLを読んだ後のような充足感……!
そういう、脇の人間が主人公の置かれた立場やシーン一つ一つをすごく印象深いものにする効果を生んでいる、というのはどのお話にも共通していて、本当に大好物でした。
どの話も、そのとき、その人にしかできない愛情の放出がとても刹那的で、読み終えた後、まるで肘の柔いところを打ってしまって、しばらくジーンとした痺れに支配されるのに似た囚われ感があります。
どうせすぐに忘れてしまうのだけど、そのときはとても痛くてすっかり囚われてしまう、そんな感じの。
あー、しばらく深沢作品に浸かりたい。
それほどまでにすっかりファンです。
Posted by ブクログ
「青春小説」とされているけど、少し違う気がする。かといって恋愛小説でも、ミステリー小説でも、ホラー小説でもない。不思議な短編集。
登場人物は、みんな何か抱えていて、夏がそれを解放してくれるような、悪い方向に助長するような・・・。かといって読後感が悪いわけでもない。
一番のお気に入りは、「生き残り」。
以下ネタバレを含むが、野球部の虐待的しごきといじめにも耐えた「篠くん」を高校生活最後の期間限定の彼氏に選んだ「梨奈」。ところが、篠くんは継父に虐待されていた。それへの同情もあって篠くんを本気で好きになる梨奈。だが、実は本人が気づいていないだけで、梨奈もシングルマザーの母親にネグレクトされてる。そんな二人が結ばれて、夏の最後に逃避行をしようと試みる。二人には幸せになってほしいが、梨奈は「この夏が終わっても、私はまだ生きられるのかしら」と思う。このラストで、切ないというか、うすら寒さを覚えるというか、何とも言えない気持ちになった。
Posted by ブクログ
読み心地はかなり軽いのでスルスル読める
もう少し読み応えが欲しいと思った
全体の話を通してタイトルに集約されるのでなるほどと、思った
どの話も未成年特有の絶妙な危うさが感じ取れてハラハラしてしまった
何か危険だと思う気持ちが勝り私はとっくに大人になったのだと思った
高校生のこういうところあるあるだよね、と思う場面がたくさんあった
私が1番好きな話は、「宵闇の山」
率直に思ったのは、あ、これはギャング集団の話だと思った
(内緒で夜の山に入り秘密基地にしようというところ)
最後の大人になるまで、ずっとの台詞が切ない
タイトルのこの夏のこともどうせ忘れるに続いてしまうような気がした
Posted by ブクログ
高校生の夏を描いたオムニバス。
内容にすごく関係ないけど、ポプラ社のこの本、いい紙つかってる?
ページ一枚一枚しっかりしてるな~って思いながら読んだ。
「空と窒息」
毎年夏にないると意味があるのかないのか母が1度だけ首を絞めてくる。
そんな高校生が勉強合宿にいく。ここでもボッチ。
夜眠れなくて、つい同じ部屋の香乃に「首を絞めてくれないか?」と頼んでしまった。その夜はよく眠れた。
「昆虫標本」
美しいハーフの兄妹の家にお邪魔する話
妹が切手収集しているらしく、祖母の切手コレクションをもって家に訪ねる。
切手の話、そうでない話、ふたりはべったりした時間をすごす。
美しい兄のほうが昆虫を集めているという。弟が今年の夏の課題に昆虫標本を出すというと、「ぜひ連れてきて」と言われ、
姉弟でこの家に訪ねていく
「宵闇の山」
小学校の頃から花火大会は男子集まって親が行ってはいけないという、神社の裏山の奥にいく。そこからの花火は絶景。秘密基地だ。
毎年鳥居の前にあつまっていたが、中学、高校とあがるにつれ、
花火大会は彼女と・・や、他県に引っ越していったり・・とへっていき、
とうとう、この場所をおしえたサツキと、ミナミの二人になってしまった。
「生き残り」
大学生の彼氏と1か月前に分かれ、高校最後の「ちょうどいい彼氏」を探す。
大学は東京に行きたいから、あの数か月だけの相手。
夏休みの補習授業で一緒になった「生き残り」と呼ばれる男子にアタックすることに。
彼は無口でよくわからない。でも分からない方が付き合っていって知ることも話をすることも多いはず。
1年の頃に鬼のしごきのスパルタ野球部で部員が全員熱中症で倒れたのに、彼は平気で救急車を呼んだつわもの。だから「生き残り」と呼ばれていた。
彼がバイトをしているハンバーガー屋さんにも行ってみる。
「夏の直進」
失踪した小説家の父は、夏の間別荘にこもって執筆していることが多かった。
高校2年の夏、その別荘に1週間一人暮らしをしてみる。「受験勉強のため」といえばなんとかなった。そうでなくとも、母も姉もそんな関心がない。
あちこちに父の痕跡を探す。ひきだしに隠してあるようにはいっていたお酒。普段飲んでいない銘柄のたばこ。
初めて煙草を吸ってみる。父がやったであろう、ベランダで景色を眺めながら。
夜、海までいって、海水浴場ではないその砂浜ですごしてみる。
「おじさん!」少年に声をかけられた。どうやらこの地で父と交流があったようだ。
だが少年は「絶対顔を見ないで」という。
「どうせ忘れる」という題名だけど、絶対忘れないんだよな~。
BBAになると去年の夏なんて忘れるけど、高校なんていう、きらきらしたい時代の思い出なんて何回も反芻しまくるに決まってるやん!!
でも、当時の自分は「わすれちゃうんだろうな」って思うんだよね。
それを含めて、青々しいよな~~~