【感想・ネタバレ】日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実のレビュー

あらすじ

310万人に及ぶ日本人犠牲者を出した先の大戦。実はその9割が1944年以降と推算される。本書は「兵士の目線・立ち位置」から、特に敗色濃厚になった時期以降のアジア・太平洋戦争の実態を追う。異常に高い餓死率、30万人を超えた海没死、戦場での自殺と「処置」、特攻、体力が劣悪化した補充兵、靴に鮫皮まで使用した物資欠乏……。勇猛と語られる日本兵たちが、特異な軍事思想の下、凄惨な体験を強いられた現実を描く。アジア・太平洋賞特別賞、新書大賞受賞

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Posted by ブクログ

ネタバレ

終戦記念日の今日、先の大戦に関する書籍として本書を手にしました。

日本軍兵士(皇軍)の真実が語られている貴重な作品だと思います。

戦時中や戦後の時代には決してオープンにされなかった事実。

本書が世に出たのが2017年、戦後約75年の時を経て日本軍兵士の苦悩を知ることが出来ました。

戦いの中で命を落とした戦死者の陰にこんなにも多くの餓死者や自殺者がいたという衝撃の事実。

処置という名の下、自ら動く(歩く)ことが出来ない怪我や病気の傷病兵に自殺を勧奨し、強要し、命を奪った事実。

満足な補給すらなく、生きていく為に現地の人々から、自軍からも糧食を奪い、人肉をも喰らう。

支給される装備の粗悪さ、兵力のみならず、兵器や通信機器でも遅れをとる中でも戦争を止めることが出来なかった悲しき歴史。

多くの事実を学ぶ事が出来た素晴らしい良書。



説明
内容紹介
310万人に及ぶ犠牲者を出した先の大戦。実はその9割が1944年以降と推算される。本書は「兵士の目線・立ち位置」から、特に敗色濃厚になった時期以降のアジア・太平洋戦争の実態を追う。異常に高率の餓死、30万人を超えた海没死、戦場での自殺・「処置」、特攻、劣悪化していく補充兵、靴に鮫皮まで使用した物資欠乏……。勇猛と語られる日本兵たちが、特異な軍事思想の下、凄惨な体験をせざるを得なかった現実を描く。

「アジア・太平洋賞特別賞受賞」
「新書大賞受賞」
メディア掲載レビューほか
日本軍兵士の過酷すぎる実態 語り継がれていないアジア・太平洋戦争

アジア・太平洋戦争による日本人死者は、民間人が80万人、軍人・軍属が230万人の計310万人。日露戦争の戦没者が9万人であることを踏まえると、とてつもない数字だ。さらに驚くべきことに、その9割が戦争末期、1944年以降のわずか1年ほどのあいだに亡くなったと推算されるという。短期間に甚大な死を引き起こす要因となった、日本軍兵士たちのおかれた苛酷な肉体的・精神的状況の実態を、豊富な資料に基づき緻密に描き出した新書が売れている。

「被爆や空襲、沖縄戦のような体験は、いまなおよく語り継がれています。しかし戦場の話は、多くの人が従軍したにもかかわらず、あまり語り継がれていない。関連した本も最近の作品は漠然とした内容が多い。そこを具体的に、詳細に書いたことが、驚きをもって多くの読者に受け止められたのではないでしょうか」(担当編集者)

昨今、日本軍の勇猛さをとかく賞賛するような本も多いが、本書は異を唱える。立論に説得力があるのは、情緒に流れていないからだ。

「著者は兵士の目線、地を這うような目線での具体的な体験談を紡ぎ出すと同時に、鳥瞰的に戦争を捉えることも忘れません。他国と比べて異常に高い餓死率など客観的な数字を記することで、極端な例だけを取り上げた恣意的な内容ではないとわかり、兵士たちの『声』がより真に迫るものに感じられるんです」(担当編集者)

評者:前田 久

(週刊文春 2018年05月24日号掲載)

内容(「BOOK」データベースより)
310万人に及ぶ日本人犠牲者を出した先の大戦。実はその9割が1944年以降と推算される。本書は「兵士の目線・立ち位置」から、特に敗色濃厚になった時期以降のアジア・太平洋戦争の実態を追う。異常に高い餓死率、30万人を超えた海没死、戦場での自殺と「処置」、特攻、体力が劣悪化した補充兵、靴に鮫皮まで使用した物質欠乏…。勇猛と語られる日本兵たちが、特異な軍事思想の下、凄惨な体験を強いられた現実を描く。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
吉田/裕
1954(昭和29)年生まれ。77年東京教育大学文学部卒。83年一橋大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。83年一橋大学社会学部助手、助教授を経て、96年より一橋大学社会学部教授。2000年より一橋大学院社会学研究科教授。専攻・日本近現代軍事史。日本近現代政治史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

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2021年08月15日

Posted by ブクログ

ネタバレ

本作は一橋大学名誉教授の吉田氏による、太平洋期間中の末端兵士の状況を記録した作品になります。

太平洋戦争を4つの期にに分類し、その中でも絶望的抗戦期に焦点をあてます。各種資料から戦地での兵士の状況をあぶりだします。具体的な切り口は、衛生状況、医療、食事配給、ロジスティック、通信、人員管理、軍需品製造、組織管理、グループシンク、などでしょうか。

なお、ご参考までに4期を挙げますと以下の通りです。もう勝ち目がないことが薄々認識されているなかで、だらだらと戦いが続いている期間、でしょうか。

戦略的攻勢期(1941.12 – 1942.5)
戦略的対峙期(1942.6 – 1943.2)
戦略的守勢期(1943.3 – 1944.7)
絶望的抗戦期(1944.8 – 1945 .8)

・・・
私が持った印象を端的に述べれば、最悪、悲惨、地獄、といったところ。

人の命よりも国家の存亡が優先された時代。もう読んでいて唯々悲しい気持ちしか抱けません。信じられない。

恵まれた時代の豊かな国にいるともう別世界の話ですが、ほんの一世紀前の現実であることを考えると空恐ろしい気がします。

中でも印象的なのは、非戦死の多さ、不透明な組織構造、立ち遅れ、でしょうか。

・・・
戦争の本ですので、死の記述は前編にわたって記載されています。それにしても非戦死に関する記載は頻度が高いです。そして実は戦闘以外で相当度の方が亡くなっているという事実に愕然とします。

具体的に言うとその死因は、病死、餓死、自殺、いじめです。

筆者のひく書籍によると、病死の率は、1941年の日中戦争時点でおおよそ50%超、そして徹底的抗戦期ではこれが75%にも上るという(P29, 30)。しかも当時は戦(闘による)死に重きが置かれたため、傷病兵をその場で殺し戦死扱いとする、あるいは兵站上の問題からそのまま放置することも多かったとか。つまり戦死の率は更に低い、と。

餓死については、制海権・制空権を相手に握られ、兵站が途絶された状況では、容易に想像がつく死因であります。作中では、意識がもうろうとなった餓死寸前の兵士のスケッチなどもありリアルです。

自殺というのは、想像には難くないものの、今まで私があまり見聞きしない戦中の死因でした。作品では宜昌作成という日中戦争時の戦闘で既に、一連隊(およそ1,500名)でその戦闘作戦中38名の自殺者を出したとか。戦地でのプレッシャーに対するメンタルケアなぞおおよそ当時の上官の意識にはなかったでしょうが、何とかできなかったのか。いわんや終戦間際はいかばかりだったことか。

いじめについても幾らか記載があります。古参兵とが新参兵を撲死させるのは良くあることだそう。また終戦末期では精神障碍者なども戦地に送られたそうで、こうした古参兵の格好の餌食にされたことかと思います。

国を守るための戦地に赴いたのに、この大切な生命は戦闘以外のところで、無駄にされてしまったのです。

・・・
もうこれ、なんでだろう、という話になるじゃないですか。

本書には個別の原因追及は余りありません。むしろ大局的に明治憲法の制度的・構造的要因を指摘していました。曰く、実は一元的責任集中していないとのこと。逆だと思っていましたが。

個人的には、より現場に近い組織で、改善がなされなかった原因・理由の方が気になります。例えば古参兵によるいじめを年若い上官が見て見ぬふりをしたこと。今でいえば、海外拠点での古参のやり手ベテランの些細な不正を、年若い駐在(彼も収益プレッシャーが厳しい)が見て見ぬふりをする、みたいに読み替えできるかもしれません。

そのほかにも、なんで? 意味あるの? 何のために? みたいな、読んでいて?が消えない悲しい状況描写がたくさん。意味不明の戦争だ、という印象が読み進むにつれて強くなります。

・・・
また、軍備の立ち遅れについての記録もあります。よくもまあ戦争を開始・継続したなあというため息でいっぱいになります。

二つほど申し上げます。

先ずは馬の使用。日本軍は東南アジアへ進攻していたものの、馬は暑さに弱いらしいです。当然の事ながらヘタって馬が死んでしまう。爾後はとうぜん、人力で運ばなくてはならない。体重対比の最大荷重量(35-40%)があるそうですが、日本軍は体重と同じ量を運ばないといけない兵卒も居たそう。ちなみに当時のトヨタは粗悪であったそう。米軍はフォードの運搬車と戦車で戦っているときに馬のち竹やりですよ。戦いになりません。戦争以前の力量差。

もう一つは通信技術の軽視です。米軍が無線通信に力を入れ、ハンディートーキーを開発しているさなか、日本軍の現場では無線はおろかあっても有線。そして有線は爆弾一つで一瞬で途絶。さらに戦争末期には伝書鳩を使っていたそうです。鳩ですよ鳩。

現代の感覚だと、なぜ早急に戦争をやめなかったのか、という話です。

・・・
ということで吉田先生の書籍でありました。

戦争の本としては、末期に焦点を当てた、そして現場の声を集めたという点が良かった気がします。
私も現実に不満不平はありますが、読後はまったく自分の状況はマシだと思いました。作中の状況は、一言でいえば、不条理の極北、であると思います。

戦争の記録の集成としても貴重ですが、なぜ状況が放置されたのかと疑念が止まらない読後感でした。『失敗の本質』を再読したくなりました。

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2024年01月06日

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