あらすじ
怪談社の糸柳寿昭と上間月貴が全国各地の怪しい事象を現地取材し、ホラー作家・福澤徹三が書き起こす。取材プロセスや現地の状況をビビッドに報告し二〇一九年度最大の話題となった怪談実話集、衝撃の第二弾。(書下ろし)
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Posted by ブクログ
『忌み地』それは、望むと望まざるとに関わらず、怪異が起こるとされている場所。住んでいる周辺が、あなたの家が、もしかしたらそうかもしれない。本書では再び、糸柳と上間が収集した、誰にでも起こりうる恐怖を紹介していこう。
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忌み地第二弾。前作が面白かったので、こちらも一気読み。こちらの話も怖いものが多く満足。ただ、今作は今世界中を混乱のさなかに陥れているコロナ禍の影響を受けており、二人の独特の取材方法である現地入りでの怪談収集を妨げた様子。どうやら過去に現地で収集した話が主なようだ。そのため、前作の様に一つの大きな根っこを持った怪談話たちというコンセプトは薄くなっており、仕方がないことだが、それはやや残念だった。とはいえ、一つの土地に赴いた際、なるべく様々な話を収集するという二人の信念が満ち満ちており、数話ではあるが関連した話があった。怖かった話は「影」「同窓会の電話」「石を投げる老人」「かぶさっている」。 「影」その後に続く「おんぼ坂」を読むと背筋の寒さが倍増する。この家に住む語り手は念願の一軒家を手に入れた。しかし、その土地は寺のものだという事。住職ならともかくとして、その他の人間が寺の土地に家を立てられること自体が、驚きだがそういえば、私が住んでいる市内に神社の土地に家を建てた人がいたので、法律上の手続きを行えば問題はないのだろう。(さて、気分的にどうなのだろうかという問題はあるが)最初は一軒家を買えた嬉しさから、あまり気にしていなかったのだが、案の定変なことが起こる。町中なのに蛇が家の中にいたり、いもしない猫の鳴き声が聞こえたり、家全体が揺れたり。そして、視線を感じたり。ちゃんと家を建てる際の習わしをしたのに、やはり土地が寺だからだろうか。気味の悪いことが起こり続ける。しかし、気味が悪いからといって一軒家のため、おいそれと引っ越すことはできない。仕方なく住み続けているが、やはり気持ちが悪い。直接住人を害なす怪異は起きていないが、さりげなく日常に入り込む怪異が怖い。しかも、語り手が言うにはこの土地だけではなく、近所も不吉なことが多発するらしく、まさに忌み地といった有様だった。何故この地がこのようになってしまったのかという理由は後に続く「おんぼ坂」でそれとなく示されている。風習自体はありそうなものだった。(それでも現代からすると少しぎょっとする)風習自体は問題がないのかもしれないが、使われていた川が暗渠となり役目を果たさなくなったことが原因なのだろう。この本に書かれている話は、過去にあった因習や原因が元になっている話が多く、語り手ではどうもできないことが多いのが、なんとも嫌な気分にさせる。難しいが、新しい所に住むときは、家自体や土地自体の環境を考えるのが普通だが、歴史や過去の出来事まで掘り下げた方がよいのかもしれない。「同窓会の電話」は人間の情念が絡む怖い話。怪異の中核となる当事者たち(AとMとKという女性たち)が不在のため真相は分からないが、MとAの因縁はともかくとして、Mはどうして「Kちゃんによろしく」という謎の伝言を残したのか。そして奇しくもその話題になったタイミングでかかってきたKからのノイズ交じりの着信は何だったのか……。この三人に何があったのは明白だが、一体全体何があったのだろう。読んでいてただひたすらにうすら寒くなり、落ち着かない。この話の雰囲気が全体的にとても怖い。「石を投げる老人」は庭いじりをしていた際、庭に埋まっていた石を川に投げ入れ処分した老人に起こった悲劇。昔、石にはいろいろなものが宿るのであまり粗末にしてはいけないといわれていたが、よりによってそんな物を川に投げて処分したらひどい目にあうだろう。掘り起こした時それだって分からなかったのだろう。運が悪かったといえばそれまでだが、何者かが分かってきちんと処理していれば、あんなことにはならなかったのだろうか? しかし、なぜ、一般人の庭に大量に埋まっていたのか。考えても分からないが、儀式なのか何なのか。自分の庭に山になるぐらい埋まっていたと想像するとゾッとする。 「かぶさっている」は、不気味の一言。ある無口な大学教授が時折口にする、「あの人にかぶさっている」という言葉。怪談や怖い話が好きな人間ならこの一言で想像するのはその人についている幽霊が力なくだらりとおんぶされる様に憑りついている姿だろうか。私はそれを想像しながら読んだが、最後のオチを読んで、そっちか……。と怖くなった。大学教授がいう『かぶさっている物』は死神かあるいは別の悪しき者なのか。どちらかは分からないが、かぶさられた人間は近い内に死んでしまう。そして、迫りくる死期事態も怖いが、普段はあまりしゃべらないのに、その現象を見た時だけぼそぼそっと「かぶさってるね」という教授も何となく怖い。怖いが、他者の死期が自分だけに見えるというのは気持ちが悪いものなので、他の人と共有したいというのは何となくわかるかもしれない。
前作の一つのテーマに絞って怪談を紹介するというスタイルが非常にお気に入りだったので、早くコロナ禍がおさまり、怪談社の2人が通常通りの怪談収集できる日が来ることを願うばかりです。