あらすじ
全国で生き返る「復生者」たち。その集会に参加した徹生は、自らの死についての衝撃的な真相を知る。すべての謎が解き明かされ、ようやく家族に訪れた幸福。しかし、彼にはやり残したことがあった……。生と死の狭間で「自分とは何か?」という根源的な問いを追究し、「分人」という思想が結実する感動長編。
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Posted by ブクログ
ゴッホのついての学びを深めたかった時に、ゴッホの表紙が気になり購読。
「分人」という新しい哲学に触れ、自分の中でも腑に落ちる点があったので、新たな視点として咀嚼していきたい。
分人は、相手毎に生じる自分の分身がいるという思想で、自分という根本は変わらないが、相手が恋人なのか友達か、嫌いな人かによって異なる分人がいるということである。
自殺についての解釈は、自身にいる嫌な分人を「消したい」という感情から生まれ、分人を理解していない人にとっては、嫌な自分を「殺す」しか手段がなく自殺するということに納得がいった。
嫌な分人と向き合うには、「見守る」と本書ではアドバイスしていたが、私の意見では「受け入れる」と感じている。そういう分人も含めて自分を愛したいからだ。
ゴッホとの関連性は薄かったが、分人と自殺の解釈を説明するうえでの、新しい視点としては興味深い話だった。
Posted by ブクログ
主人公やその奥さんの状況に自分がなったらと考えただけでこれはしんどいなー辛いなーと思い続けながら読んだけど、最後!終わり方!涙も出たけどいろんな感情が押し寄せて来る。子ども居てるからよけいそう思うのかな?平野さんの子どもの描写は好き。父親目線やなーと思うけど、愛情表現がリアルで好きなのよねー
佐伯の気味悪さと、でもどんどん彼の考えに取り込まれてそうになってゆくのは圧巻ってか読んでる自分もそうなってくのが面白い体験だったな。
Posted by ブクログ
「死」について深く考えさせられた作品。特に自殺について。自殺をしてしまう人の考えは、もちろん死者に聞くことができないのであくまで推測の話になると思うが、自分自身を消してしまいたくなるほどに追い込まれていると死のうとしていなくてもそういう行動となってしまうという作者の考えに深く考えさせられ印象に残った。最後の終わり方も読者にその後を託すような感じのため想像力を掻き立てられた。読後の口コミや評価などをみて読者それぞれの解釈、ストーリーがあって見ていて楽しい。
Posted by ブクログ
死んだ人が生き返って、その死の真相を探るミステリー……だと思ってた。その謎の部分を指して「空白を満たしなさい」っていうタイトルだと思ってた。違う違うそうじゃない。私が思うに、これは残された人たちの空白を満たすための物語だったのだ。
普通は人が一度死んだらもう二度と蘇ることはない。残された人たちの中にはその人の死を引き摺り続ける人もいるだろう。心にポッカリと空いた穴を塞がないまま生き続けることの辛さは推し量るべくもない。彼らがそういう人たちのために生き返ったのだとしたら……。さあ、空白を満たしなさい。
Posted by ブクログ
一気に読んでしまった下巻。
平野作品のカバーはよく考えられているのだろうと思ったから、絶対にゴッホの「自殺」についての描写(もしくは自
殺ではなかったのではないか)というテーマが出てくるのかと思ったら、下巻の絵が実はゴッホではなく、弟のテオだったのでは?という説が出てきて、それは私も初耳だった。
平野さんが興味を示している「分人」についてこの作品ではよりわかりやすく語られている気がする。やはりこの作品を読んでから、「本心」を読むともっとわかりやすかったのかなとも思う。
でも入門というか、手にとるようなテーマとして、「本心」に出てくる母親のVFっていうのは興味深かった。
子供2人、家族を持つものとして読んでいくとしかし、やっぱり徹生は幸せ像に殺されてしまったのではないかと思ってしまう。必死になりすぎて、疲れていることも認めずに、自ら命を絶ってしまうなんて。でもそれが日本社会が築き上げた、働きづくめの日常、そしてそれすら相談し合えない時間の無さとすれ違い、こんなことはあり得るんじゃないかという気がしてくる。あまり育児のプレッシャーや子供への愛情を感じなかったけれど、それは璃久との描写が「子供の日の兜の写真を撮った時」ばかり強調されたからかもしれない。でも、叱ってしまう部分の描写や、離乳食を食べさせるときにイライラしてしまうのは共感した。
側から見ていると、もっと良いアプローチがある(正解)がある、と思ってしまうのかもしれないけれど、両親たちは必死にやっているんだよな。親たちのメンタルを健康に保ちつつ、子供をしつけていくのって本当に大変だと思う。
映像化作品も途中まで見てみたのだが、やはり徹生の心理描写が全然足りていない気がしたのと、妻、千佳は小説にはもっと可愛らしさとうちに秘めた弱さや脆さみたいな絶妙なバランス感があった気がする。
Posted by ブクログ
分人という視点、苦悩の扱い方、そして「死」がもたらす余波に深く揺さぶられた。
分人について、誰かと一緒にいるときの自分と、一人のときの自分って確かに違う。その中には好きな自分もいれば、あまり好きじゃない自分もいる。
本書の中にはすごく哲学的な内容もあり難しい部分があって、そこは斜め読みしてしまった。
いつか再読したときには少しでも分かるといいな。
ラストのシーン、光の描写が美しくて切なくて…。
残された家族のことを思うと胸が痛いし、「死ぬことって、自分だけの問題じゃないんだな」と改めて考えさせられた。読後も余韻が残る、深い一冊だった。