あらすじ
歴史と人間の拮抗、気品高い中国古代ロマン。 覇権を奪いあう諸王たちの中から、楚の荘王が傑出してきた。夏姫を手中にして逡巡した楚王は、賢臣巫臣(ふしん)に彼女を委ね、運命の2人が出会った。興亡激しい乱世に、静かに時機を待った巫臣は、傾国の美女を、驚くべき秘密からついに解き放ち、新しい天地に伴うのであった。気品にみちた、長編歴史小説。直木賞受賞作。
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Posted by ブクログ
すべてを諦め、流れるままに男たちに身を任せてきた夏姫が、最後にみせた意思力のすごさ。圧巻でした。身を切るような覚悟をしなければ、幸せになどなれないということを、教わりました。悪女という評価がないのに歴史に名をのこした珍しい女性です。
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『花の歳月』の解説で、宮城谷氏は「風」を作品の中に取り入れているとあった。
確かに、そう意識しながら読むとその表現は多いが、とりわけこの作品では「風」がよく登場したように感じる。
一方、タイトルからメインであろうと思われる夏姫の登場は極僅かで、むしろ彼女の隣で翻弄された男達の出番が多い。
だが、夏姫が「風」なら、作者は、夏姫を夏姫としてではなく、「風」として描きたかったのかもしれない。
そうだとすれば、納得だ。
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誰かの思惑で受動的な流れでも、自分が決意した能動的な流れでも、なるようになれと身をまかせても、近づいた男たちはみんな不幸な死を遂げる。愛した相手でもそうでなくても。自分の息子も。自分の運命を呪う。シザーハンズ的な悲しさ。いやウツボカズラ的か?勝手に寄ってきて、入って、溶かされていく感じ?近づいて入ろうと思えば入れた人が、警戒して距離をおいた場合はそれを免れているよう。
それにしても中国の歴史は美女が悪戯をしていてドラマティック。夏姫は驪姫ほど強欲ではないけれど、それでも「そのとき歴史が動いた」または「動かずに済んだ」的な関わりが多い。日本の歴史ではあまりないと思う。この本の中にも書かれていたような気がするが、豊富秀吉と茶々、足利義政と日野富子くらいではないだろうか?
巫臣が超イケメンとして描かれており、最後は「三人で幸せに暮らしたとさ」的な終わり方だが、彼らのその後が気になる。また夏姫に救われた審のその後も気になる。
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上巻の最後の方までは存在の希薄だった、主人公・夏姫の物語が動き始める。
下巻の序盤、恩人である家宰の一族を救うために有力者たちに身を投げ出す場面は悲壮で胸が痛い。
幼い頃から抵抗するでもなく、男たちに身を任せて来た夏姫という人物が、よくわからないままで話は進んできた。しかし決して自ら頽廃を好むわけではなく、喜ぶわけでもないことがわかった。むしろこの時の無私の決意と行動によって彼女の清廉さが際立ち、ようやく彼女の内側の魅力が垣間見えた。隠されてきただけに強烈な印象を伴って。
しかし夏姫の持つ最大にして唯一の武器は、結局はその美貌と肉体であり、男たちは勝手に溺れていく。ここへきて、夏姫の物語は展開すればするほど何もかもが悲劇的である。特に一人息子の子南の苦しみは想像を絶するし、理解されず憎まれるしかない母の気持ちも、また壮絶な悲劇である。
だが物語も後半にさしかかって、ようやく救いの光のようなものが一筋差し込んでくる。それは夏姫に対して欲望ではなく純粋な愛情と優しさを寄せてくれる、それも思慮深く時機を待てる人物の登場である。
運命の恋とか真実の愛とかいうには、なんだか唐突に始まった感じでやはり読んでいて困惑するのだが、そこが主題と思うからそうなのであって、夏姫を取り巻く国々と諸侯、戦争と政治の描写は相変わらず魅力的で、生き生きとしている。
また、夏姫と同じようにここへきて、にわかにスポットを当てられた夏姫の侍女もまた魅力的な女性である。彼女がずっと夏姫を思って寄り添ってきたこと、その事実がこれまでの滅茶苦茶な悲劇をいくぶんでも和らげてくれるようだ。
巫臣と結ばれた後の夏姫の可愛らしさは「童女」のようである。十歳にして「あれは童女ではない」と言われた彼女がようやく本来の姿に立ち返ることが出来たようで、気持ちの良いラストだった。
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難しい。これまで傾国の美女の話といえば、その時代の男女の失笑噺が多い。傾国の美女を客観的、男性的目線から捉え、その苦悩を浮き彫りしたところが共感を呼んでると思う。神道と当時の対女性観がよくわかる秀作。
Posted by ブクログ
上巻では登場の少なかった夏姫がいよいよたっぷりと登場。しかし、兄は殺され、かけがえのない息子も死に、まさしく作者が意図する時代に翻弄される女性を描いている。しかも、彼女の生き方も首尾一貫しておらず、現実の人間らしくていい感じ。でも、よくまあ調べましたねと言う宮城谷ワールドです。他の作品につながる、いやつなげているのも面白い。
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肝心の夏姫の心が見えにくく、最後に心から愛する夫を得た時の変貌ぶりも「?」といった印象が。むしろ楚王とか子南とか武将たちのほうが輝いてました。これは「燃えよ剣」を読んだときの読後感に似てる。
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夏姫は幾人もの男たちを通じても物語の中で終始ぼんやりとした存在。読み手はその存在を汲み取ろうとせずに先に進めていくのがいいのかもしれない。そしてようやく人形に命が吹き込まれるような、夏姫に出会う。
史実どおりですがなんといっても成長した夏姫の長男・徴舒が哀れです。
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古代中国・春秋時代に生きた夏姫と呼ばれた姫の物語。
絶世の美女であり、夏姫を手に入れたものは次々と滅んでいった。
それ故に希代の悪女とも言われているようですが、
妖艶な美しさが男たちを狂わせていったのでしょう。
かなり色っぽい場面も描かれていますが、
夏姫自身の物語と言うよりも、
夏姫を取り巻く男たちの物語と言った感じです。
国と国の覇を争う心理戦。
読んでいて非常にわくわくしてきます。
Posted by ブクログ
楚に移った夏姫は、巫臣と出会い、
自身の宿命?から解き放たれる。
いつも思うけど、宮城谷さんの小説は
本当に読みやすい。
こういう、古代中国の話って、好きだけど
漢字が多くて似た名前が多くて、地理も不明で
すぐにわからなくなっちゃうんだけど。
宮城谷さんにはそれがないんだよなぁ。すごいなぁ。
Posted by ブクログ
春秋戦国時代の話。
鄭の国の夏姫という姫が主人公で、その美しすぎる容貌のために波乱万丈の人生を送ることになる。
周陳晋楚斉などいくつもの国同士の戦いに巻き込まれ、夏姫は愛する心を失い幸せに笑えなくなってしまう。
男たちの権力争いや駆け引きの道具とされた女性の悲しみや怨みがメインで描かれているが、どうしようもなく姫に心奪われる男たちの様子もよく描かれている。
結末で救われる。