【感想・ネタバレ】夏姫春秋(上)のレビュー

あらすじ

直木賞受賞作。「力」が現世の全てを制していた当時、大国の横車に押し切られる小国鄭に、美しい公女が居た。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

第105回直木賞受賞作品。

春秋戦国時代の鄭国の公女、夏姫を巡る物語。
1ページ目から、十歳を過ぎたばかりで実の兄が寝所に忍んできて…という衝撃的な描写で始まり、幼い頃から「あれは童女ではない」と言われるほど妖艶な魅力を持っていた絶世の美女だが、それゆえ男たちに翻弄され続け、しかも関わる者はみな不幸になっていく。

といっても、稀代の悪女が男たちを手玉にとっていく話ではなく、歴史に翻弄された一人の美女の生き様を描く、という筋書きでもない。

実際に活躍するのは、夏姫の生国で小国に過ぎない鄭、嫁ぎ先の陳、大国である晋と楚などの王侯や武将たちであり、夏姫は時折登場して男たちの耳目をひく、という程度である。

中国史に予備知識がないため、国の名前だけでも覚えるのに一苦労で、各王室の系図を載せるのであれば、代わりに簡単な登場人物紹介(国、肩書き、別名、血縁関係など)を載せてもらえるとありがたかった。

とはいえ国ごとの気質や背景、登場人物の性格や行動原理などは見事に書き分けされている。場面が変わるたびに「どこの誰だっけ?」と困惑することはあるけれど、各場面ではのめり込むことが出来る魅力的な描写が多い。

中でも十歳の妹に手を出すような、しょうもない兄と思っていた子夷が、立派な君子に成長していく様は予想外であった。楚王と並んで成長を見守るのが気持ちの良い青年君子と言える。

惜しいのは夏姫が「美女」という他には、なんの性格も信念も、ものの考え方もうかがえないところで、曲がりなりにも主人公なので、もう少し掘り下げて欲しかった。

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2015年10月25日

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