【感想・ネタバレ】名画の謎 陰謀の歴史篇のレビュー

あらすじ

『怖い絵』シリーズ著者の絵画エッセイ

2017年に兵庫と東京で開かれ、記録的な来場者数となった
「怖い絵展」。その特別監修者を務めた中野京子さんの
『怖い絵』シリーズに並ぶ人気作が『名画の謎』シリーズです。

シリーズ3作目となる「陰謀の歴史篇」では、
フェルメール、ラファエロ、ゴヤ、ブリューゲルといった
時代を代表する画家たちが残した名画の数々を読み解きます。

そこには、権力へと強欲な手を伸ばし、運命に翻弄され、
恋に身を焦がす人々の営みがときに鮮やかに、
ときに冷酷に描かれています。

中野節は、今作でも健在。
画家を魅力し、世間を騒がせた人間たちのドラマに迫ります。

文庫版の解説は、宮部みゆきさん。
中野さんの著作の大ファンだという宮部さんが、
熱い思いを綴ってくださいました。

絵の中で語られている物語を知れば、
絵画鑑賞は何倍も楽しくなる。
そして、
絵を見れば、歴史はもっともっと面白くなる!

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897円

252P

解説
宮部みゆき

ヨーロッパは打ち続く戦争、飢餓、ペストでいとも簡単に死んでたから、メメント・モリなんだよ

ターナー、

ゲーテのイタリア紀行は紀行文学で一番面白いよね

ドイツは耳の人、オランダは目の人

私は自分の感覚よりも見る人の想像力の方が上だと思うから、見る人それぞれの想像の余地のあるある意味欠損したものを作りたいと思ってる。

中野 京子
(なかの きょうこ、生年不詳)は、日本の作家[1]、ドイツ文学者[2]、西洋文化史家、翻訳家[3]。北海道生まれ[4]。1979年、早稲田大学大学院修士課程修了[5][6]。オペラ、美術などについて多くのエッセイを執筆する。2007年に発表された『怖い絵』を端緒とする『怖い絵』シリーズが大ヒットとなる。新聞や雑誌に連載をもつほか、テレビの美術番組にも出演する[7][8]。早稲田大学講師[9][10]。『怖い絵』シリーズの刊行10周年を記念して2017年に開催された「怖い絵」展では、特別監修を務めた[11][12][13]。2021年9月に開催された「怖いクラシックコンサート」(東京文化会館)での解説[14]、2022年3月公演の舞台「怖い絵」の監修[15][16]、同年7月上映の「星と怖い神話 怖い絵×プラネタリウム」の監修・解説を担当した[17][18]。

「はじめは馬鹿にされていた印象派絵画だが、新興国アメリカに市場を見出してからは徐々に理解者を増やし、影響力も各国へと拡がってゆく。ドガ、モネ、ルノワールなどは生前からもう高値で売買された。しかし彼らより二十年以上遅れて登場したスーラは、ゴッホと同じく仲間の印象派にさえほとんど評価されなかったし、これまたゴッホと同じく、生きている間はろくに売れなかった。ふたりとも若死にである。スーラ三十一歳、ゴッホ三十七歳。  スーラはオタクだった。新しい光学理論をもとに点描技法──絵具を混ぜて塗るのではなく、絵筆の先で色の点を丹念にぽつんぽつんと置いてゆき、鑑賞者の網膜上で混合を起こす──を、徹底して画面全体に敷衍した。さらに彼はプリズム光線にもっとも近い色を使い、隣り合わせに並置する色点の効果に厳密な科学的根拠を求め、誰よりも明るく、誰よりも光輝性を、と夢中になった。「線」ならぬ「点」で全てを描くのはどんなにか時間のかかることか。『グランド・ジャット島の日曜日の午後』は完成までに二年近く費やし(額縁まで点描法で描いている!)、「難行の好きな人間にして初めてできる離れ業」と揶揄されたのも無理はない。  この点描法(分割法と呼ぶ美術史家もいる)を押し通すとどうなるかといえば、タッチ(筆触)が封印されるため画面から動きは消える。印象派画家の多くはタッチこそ個性と考えていたし、偶然性や直感を利用した躍動感と色彩、そこから生まれる心象描写を重視していたので、スーラの手法は科学偏重、構図も計算しすぎ、非人間的で没個性、と感じられたのだろう。マティスまで本作を「支離滅裂な画面だ」と切って捨てている(アナログ人間がデジタル派を攻撃するように)。マティスほどの画家でもこうなのだ。同時代人を評価することがいかに難しいかわかる。」

—『名画の謎 陰謀の歴史篇 (文春文庫)』中野 京子著

「 猿に対する欧米人のイメージは、日本人のそれと大いに異なる。「万物は神の創造」で、人間は全ての生きものに君臨する、とのキリスト教的思考が根強かったためもあるが、それより何より猿は異国の珍種、もっと言うなら非文明世界の下等動物にすぎず、一般の人々の目に触れる機会はほとんどなかった。先進国で、猿が身近に棲息しているのは日本だけなのだ。古来、猿に親しみを覚え、人間との類似性をよく知り、御伽噺にひんぱんに登場させてきた日本人とは土台が違う。」

—『名画の謎 陰謀の歴史篇 (文春文庫)』中野 京子著

「ミロのヴィーナスやサモトラケのニケが出土したのは十九世紀だったから、できるだけあるがままにしておくべきとの考え、もっと言えば、欠損しているがゆえに想像力を刺戟し、いっそう美しい、との考え(人間の変態性には限りがないというべきか、人間のイマジネーションの豊かさは感動的というべきか)が主流になっていたので、ラオコーンに施されたような継ぎ足しは幸いにして為されなかった。」

—『名画の謎 陰謀の歴史篇 (文春文庫)』中野 京子著

「フェルナンデスはこうも書いている、「女性美の魅力ばかり受け入れ、われわれ男性の美に感動しないような人々にあっては、(中略)ギリシア美術の美は、常に不可解でしかないだろう」(田部武光訳/創元推理文庫)。  確かに現代人は、その点に関して目も耳もふさがれた状態だ。同性の裸体に興奮することがタブーではなかった時代、彫刻がどんなふうに鑑賞されていたかを、真に知るのは難しい。」

—『名画の謎 陰謀の歴史篇 (文春文庫)』中野 京子著

「フランクフルトの富裕な商家に生まれたゲーテは、天分と容姿と明るい性格に恵まれ、法律専攻の大学時代からすでに詩人としてある程度名を知られていた。それが一挙にヨーロッパ中でブレイクしたのは、二十五歳で発表した小説『若きヴェルテルの悩み』からだ。  これはゲーテ自身の体験をもとに、瑞々しい感性で等身大の若者の恋と悩みを描いた青春文学の傑作。主人公と同じファッションが流行し、主人公を真似てのピストル自殺者まであらわれる始末だったし、後年はナポレオンがわざわざゲーテを訪れ、エジプト遠征にも持っていって七回も読み返したと褒めちぎっている。何よりこのベストセラーによって、ドイツ文学はようやくにして世界文学の仲間入りができた。それまでのドイツは文化後進国と見なされ、ドイツ語も「馬丁の話し言葉」と侮られていた(何しろ公用語はフランス語だった)。『若きヴェルテルの悩み』に対する国外からの賞讃は、ドイツ人の自尊心にも大いに寄与したのだった。  そしてまたこの小説は、ゲーテの人生をも大きく変える。今や著名人となった彼を、ヴァイマル公国の君主カール・アウグスト公が招聘したのだ。ほんの一時的滞在と思っていたゲーテだが、十八歳の公から兄のように慕われ、国の運営に手を貸すことになって、三十歳の時には枢密顧問官の職につき、三十三歳で貴族にも列せられた。ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテの「フォン( von)」は貴族の称号である。」

—『名画の謎 陰謀の歴史篇 (文春文庫)』中野 京子著

「ゲーテは無期限の休暇願いを出し、あらかじめ許可をもらっておいた。それからやおら行動に移す。一七八六年九月、アウグスト公やフォン・シュタイン夫人やお歴々と共に、例年どおりカールスバートで湯治している最中、誰にも行き先を告げず(召使にだけは言い置いていったらしい)、密かに宿を抜け出して、一人イタリアへ旅立った。三十七歳の旅立ち。恋人は大ショックだったであろう。宮廷も大騒ぎ。ゲーテは時おりヴァイマルへ手紙を出したが、そこには決して住所を記さなかったのだからなおさらだ。  北方の人々の、南国への憧憬はいじらしい。太陽への、明晰さへの、豊穣な地の恵みへの、それは何世代にもわたる渇望であった。ゲーテの父も若いころローマを旅し、市全景版画を部屋に飾っており、それを見て育ったゲーテがイタリアに、とりわけローマに焦がれ続けたのも無理はない。今や彼はミュンヘンを経由してブレンナー峠を越え、ヴェローナへ向かう。次いでヴェネチア、フィレンツェ、そしてローマで長く滞在、その後ナポリ、シチリア島、またローマへもどってしばらく滞在し、再びフィレンツェを通り、今度はミラノを経由してヴァイマルへもどった。二十ヶ月にわたるこの南国グランドツアーは詩心を甦らせ、ドイツ古典主義文学者としてのゲーテをまこと形成したといえる。  旅行中、彼は画家フィリポ・ミラーという偽名を使った。偽名の理由は作家として知名度が高かったからで、ヴィンケルマンの場合とは違う( 05「トロイア戦争の悲劇」参照)。興味深いことにゲーテは『イタリアの旅』でそのヴィンケルマンについて、こう書いている──」

—『名画の謎 陰謀の歴史篇 (文春文庫)』中野 京子著

「それはさておき、ゲーテの関心はもっぱらローマにあった。彼は「わが精神のあらん限りをつくして」古典美術を研究し、ローマそのものを身体全体で受けとめた。ほとんど毎日──現代の観光客とほぼ同じルートを──夢中で見てまわったが、ちゃんと現地のツアコンもついていた。数年前からローマで絵の修業をしているドイツ人画家、ティッシュバインがその人だ。ゲーテより二歳年下のティッシュバインは親切心を発揮し、自分の一部屋を彼に貸したばかりか、くまなくローマを案内し、ナポリまでも同行している。ミケランジェロ派のゲーテとラファエロ派のティッシュバインは、互いにひいきの芸術家論をぶつなど、ローマでは実に楽しくいっしょの時を長く過ごした(最終的には、なぜかふたりは疎遠となる)。ゲーテは夜は執筆にあて、ついに戯曲『タウリス島のイフィゲーニエ』を完成させている。」

—『名画の謎 陰謀の歴史篇 (文春文庫)』中野 京子著

「フェルメールの生きた時代にオランダを訪れたイギリス人コレクターが、農民さえ市場で絵を買っていること、肉屋もパン屋も表通りに見えるように絵を飾っていること、鍛冶屋の家にも絵があることに驚いている。他の国々では考えられないことだからだ。「スペイン人は母の胎内から踊りながら生まれ出る」ように、またイタリア人がスパゲッティと歌が好きなように、オランダ人は「生まれながらの画家」だと言われる。十七世紀オランダ黄金時代には、セミプロを含めて夥しい数の画家が存在したばかりか、それ以上の数の「ふつうの」購買者、つまり他国のような王侯貴族や教会や大商人などの注文主とは全く異なる中産階級の人々が、狭い自宅に飾るために、あるいは──チューリップ同様──投機目的として、絵を買った。だからオランダ絵画の多くが小ぶりのサイズなのだ。」

—『名画の謎 陰謀の歴史篇 (文春文庫)』中野 京子著

「かくして死後長く忘れられたフェルメールだったが、十九世紀半ばにフランス人批評家が彼を「再発見」して「スフィンクス」と絶讃したころから、世界的人気に火が点いて現在に至る。値段の高騰ぶりについては、アガサ・クリスティーが一九五三年に発表した『葬儀を終えて』にも触れられている。田舎の屋敷に眠っていた古ぼけた絵をレンブラントと確信して買うと、実はそれはフェルメールだった、新聞で別のフェルメールが二千ポンドで売れたことを知った犯人が……というミステリである。  ヨハネス・フェルメール(一六三二 ~七五)は、デルフト出身。贋作が多く、著名な美術館に飾られている「フェルメール作品」の中にも、そうとう偽物が混じっているらしい。有名なメーヘレン事件(フェルメール作品とナチスがからんだ、美術史上もっとも有名な贋作事件)については、拙著『怖い絵  泣く女篇』に書いたのでお読みください。」

—『名画の謎 陰謀の歴史篇 (文春文庫)』中野 京子著


「 十七世紀オランダは国力も黄金時代だったが、フェルメールばかりでなく画家とその作品群も黄金時代と言えた。もともとオランダ人が「耳の人」ではなく「眼の人」だということは、近代に至るまで作曲家の数が少なく、逆に高名な画家の数の多さからも明らかだ。  フェルメール時代の画家を列挙すると── 筆頭はレンブラント・ファン・レイン。当時は個々の画家が専門分野を持っていたのに対し、レンブラントは宗教画、肖像画、歴史画、風俗画などありとあらゆるジャンルで傑作を残した天才で、後世のゴヤに「自分の師はレンブラントとベラスケス、そして自然」と言わしめた。」

—『名画の謎 陰謀の歴史篇 (文春文庫)』中野 京子著

「 十七世紀オランダは国力も黄金時代だったが、フェルメールばかりでなく画家とその作品群も黄金時代と言えた。もともとオランダ人が「耳の人」ではなく「眼の人」だということは、近代に至るまで作曲家の数が少なく、逆に高名な画家の数の多さからも明らかだ。  フェルメール時代の画家を列挙すると── 筆頭はレンブラント・ファン・レイン。当時は個々の画家が専門分野を持っていたのに対し、レンブラントは宗教画、肖像画、歴史画、風俗画などありとあらゆるジャンルで傑作を残した天才で、後世のゴヤに「自分の師はレンブラントとベラスケス、そして自然」と言わしめた。」

—『名画の謎 陰謀の歴史篇 (文春文庫)』中野 京子著

「なぜデューラーは自作解説をしてくれなかったのか、と恨めしく思うのは、だが間違いだ。画家は描いた絵が全てであり、そこで完結している。文章でうだうだ解説するのは、画家ではなく物書きの仕事ないし道楽だ(だからしょっちゅう的外れを言うのです。自戒をこめて)。  アルブレヒト・デューラー(一四七一 ~一五二八)は、ドイツ・ルネサンスの完成者。ハプスブルク家の宮廷画家としても知られる。「耳の人」たるドイツ人は、夥しい天才作曲家を生み出したが有力画家は少ない。古今通じて最大のドイツ人画家の地位は、いまだ彼のものである。」

—『名画の謎 陰謀の歴史篇 (文春文庫)』中野 京子著

「中世ヨーロッパの人々が、いかに日々、死を意識して暮らしていたかを、現代人が理解するのは難しい。打ち続く戦争・飢餓・天災ばかりでなく、何といってもペストの影響が決定的であった。  ネズミや蚤に媒介されるペストは空気感染し、リンパ節に炎症をおこし、肺に侵入すれば──抗生物質がないのだから──致死率ほぼ百パーセント。高熱、喀血で三日ともたない。末期は皮膚が黒ずむため、別名「黒死病」と呼ばれた。一定の周期で波のようにくり返し、中でも十四世紀のパンデミックでは、全ヨーロッパの人口の三分の一が死んだと推定されている。まさに「死」が、この絵のごとく全土を覆ったのだ。「ペストが中世を終わらせた」と言われるが、中世が明けてルネサンスが始まっても、ペスト自体が終わったわけではなく、なお十七世紀まで間歇的に流行し、町を丸ごと消滅させることもよくあったから、かつての大惨事の記憶も消える間がなかった。ブリューゲルの時代はまだ爪痕も生々しかったことが、本作を見ればわかる。」

—『名画の謎 陰謀の歴史篇 (文春文庫)』中野 京子著

「「ダダ」の語源は正確なところは不明だが、幼児語の「木馬」からきたらしい。出発点のほうは、これはもう明確で、一九一六年、スイスへ亡命した芸術家たちが中心となって、近代社会や既成の伝統芸術に対する真っ向からの否定を表明し、自分たちチューリヒ・グループをダダと名付けたのだ。  緊迫する政治情勢に野火のごとく焚きつけられ、ダダは燃えさかった。ほとんど同時多発的な発生と拡がりだった。ニューヨークでは、デュシャンが便器に『泉』とタイトルをつけて展示したり、髭の『モナリザ』を発表した。パリ・ダダ(後にシュルレアリスムへと受け継がれる)もあれば、ローマ・ダダ、ブダペスト・ダダ、そして東京ダダ(村山知義、辻潤、中原中也など)まで生まれた。  ベルリン・ダダの中心人物のひとりがグロスだ。ドイツの場合、敗戦へ向かって現在進行形だったから、他国に比べてずっと政治的に先鋭、且つ心情は虚無的にならざるを得ない。グロスは仲間と反戦雑誌『新青年』を立ち上げるが、一年足らずで発禁処分を受けた。彼の絵はいよいよ諷刺の度を強めてゆき、抜群のデッサン力はドーミエ(約百年前にフランスで活躍)に譬えられ、画集はベストセラー、人気画家となってゆく。」

—『名画の謎 陰謀の歴史篇 (文春文庫)』中野 京子著

「したがって二大政党とはいっても、どちらも支配層代表なのに変わりはなく、違いといえば、トーリー党は王政擁護で貴族や聖職者が支持基盤、ホイッグ党は王政に批判的で、宗教に寛容、且つ新興中産階級寄りといえる。現在では前者は保守党、後者は自由党と名を変え、保守対革新の構図を鮮明にしている。ちなみに保守党党首だったサッチャー元首相が、よくブルーのスーツを着ていたのは、党のカラーだからなのだ。」

—『名画の謎 陰謀の歴史篇 (文春文庫)』中野 京子著

「私が最初に出会った中野さんのご本は、『怖い絵』の単行本第一巻です。書店の新刊平台で見かけて、次の瞬間には一冊手にしてレジに向かっていました。もともと西洋絵画の画集を見るのは好きだったのですが、画集ってだいたいが大きくて重たいところが辛い。なのに『怖い絵』は軽いソフトカバーに美麗なカラー印刷で、中身はたっぷりと読み応えがあって、一発で魅了されてしまいました。  私がそれまで出会ってきた画集や美術史の本では、数多の画家や名画は全て教科書的なくくりで分類・解説されていました。地域と時代ごとに区分され、「印象派」「フランドル派」などの作風で分類され、時系列で並べられていたわけです。でも『怖い絵』は違った。「怖い」というコンセプトのみで名画のアンソロジーが作られていました。」

—『名画の謎 陰謀の歴史篇 (文春文庫)』中野 京子著



「本書のシリーズも同じです。「謎」というコンセプトで、全四巻の特設展を構成している。これってコロンブスの卵ですよね。中野さんが登場するまで、名画を解説するプロの美術家や学者さんたちも、それを受け止める私たち読者も、教科書的な分類が当たり前で、西洋絵画を「ちゃんと鑑賞する」にはそれしかないと思っていた。お勉強的に向き合うのが正しいと思っていた。中野さんはマジシャンのように軽やかな手つきで、その思い込みを翻してしまいました。「謎」も「怖い」も、とても日常的なエモーションです。それがコンセプトになることで、美しく素晴らしく貴重で、だからこそ「敷居が高い」感を漂わせていた西洋絵画が、一気に身近なものになりました。誰でも心を引き寄せられて、切実な興味を抱いてしまう。これがまず中野さんの凄いところです。」

—『名画の謎 陰謀の歴史篇 (文春文庫)』中野 京子著


「作品の成立した背景を正しく知り、本物の教養に触れる楽しみを覚えると、今度は私たち読者の側の鑑賞するまなざしも変わってきます。「謎」や「怖い」のような普遍的なコンセプトに沿って得た知識はスムーズに血肉となるので、中野さんのご本を置いて美術館に出かけても、他の画集を開いても、それまでとは鑑賞する姿勢が違ってくる。これこそが「中野効果」。芸術についての知識を得て教養を深めてゆくのは、実はとても幸せなことなのだと私たちに教えてくれる素敵な効果です。  本書は全十七章、どこから開いても楽しむことができますが、個人的にピックアップするならば、たとえば、第二章「産業革命とパラソル」に展示されているスーラの『グランド・ジャット島の日曜日の午後』。中学の美術の教科書で初めて見て以来、私はこの絵が好きで、スーラという画家のファンになりました(色鉛筆で点描画の真似っこをしたものです)。でも中野さんの解説に出会うまで、ここに描かれている色とりどりのパラソルが「産業革命の申し子の一つ」だということ──この名画が産業革命の時代だからこそ描かれ得た作品なのだということは知りませんでした。絵のなかの男女が社会階層的にどんな立場の人たちなのか考える機会もなかったし、ペットのお猿さんの意味もわからなかった。」

—『名画の謎 陰謀の歴史篇 (文春文庫)』中野 京子著

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2026年07月30日

Posted by ブクログ

ネタバレ

怖い絵とコラボしたプラネタリウムに行ったことで、ひさしぶりに中野先生の御本が読みたくなり再読しました。

西洋画を見るのがとても好きですが知識は殆ど0、難しい本が読めない私でも楽しめます。まるで推理小説やゴシップを見ているような気分で絵画を鑑賞することができます。

グロスの項で「時代が求める才能というものがあり、その時どこにいるかで運命は大きく変わる」という文章が特に印象に残りました。

他の作品の感想でも書いたのですが、怖い絵コラボの企画展をまたやってほしい!

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2022年10月15日

Posted by ブクログ

絵画は知識を持った眼で鑑賞すると
こんなにも面白く
そして心に響くものだと
中野京子さんが教えてくれるので
私の絵画好きは加速していきます。

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2021年06月03日

Posted by ブクログ

17点の西洋絵画を中野京子さんが解説してくれます。
絵画の細かいところまで、また、その歴史的背景を詳しく解説してくれるので、深く理解することができます。
キンドルで読んだのですが、美しいカラーの絵画が鑑賞できるのもお得。
どういった時代だったのか年表付きです。

ドラローシュ『ロンドン塔の王子立ち』
スーラ『グランド・ジェット島の日曜日の午後』
ティツィアーノ『カール五世騎馬像』
ラファエロ『レオ十世と二人の枢機卿』
グレコ『ラオコーン』
ティッシュバイン『カンパーニャのゲーテ』
フェルメール『恋文』
ターナー『吹雪、アルプスを越えるハンニバルとその軍勢』
デューラー『メランコリアI』
ゴヤ『異端審問の法廷』
ガウアー『エリザベス一世』
ブリューゲル『死の勝利』
レーピン『トルコのスルタンへの手紙を書くザポロージャ・コサック』
グロス『恋わずらい』/同『自殺』
ジェローム『仮面舞踏会後の決闘』
ベッリーニ『荒野の聖フランチェスコ』
ホガース『選挙の饗宴』

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2026年05月18日

Posted by ブクログ

ネタバレ

再読。こうやって絵を読み解くことが出来るのは幸せだと思う。

今回、何度目かの再読だが、01 消えた少年たち、については子どもといろいろ話をした。ちょうど薔薇戦争を習っていたからだ。教科書では薔薇戦争終結、チューダー朝が始まる、という二言で終わってしまうことだけれど、その中でもいろいろなドラマがあり、悲劇がある。私は「戦争の終わりに両家の男女が結婚し、ピンクの薔薇になりました、めでたしめでたし」のように覚えていたので、今回しっかり読んでみて、自分がなんと浅はかな読み方をしていたかを痛感した。

05 トロイア戦争の悲劇 はこの絵自体にはさほど興味がわかなかったが、先日行った、メトロポリタン美術館のエル・グレコの「羊飼いの礼拝」とそっくりな絵が、プラド美術館にあり、それを見比べて非常に興味深かった。グレコの光の当たり方は劇場のように見える。また人の顔の伸び方(子供の頃からソラマメ型と思っていた)がやはり独特。しかし嫌いにはなれない。フェリペ二世が「祈る気になれない」が評価していた、という気持ちが分かるような気がする。

12 あふれかえる死 はブリューゲル「死の勝利」。プラド美術館所蔵。大きい図で解説を読みながら、骸骨の動きや人の動きを見ていた。とても楽しい。ブリューゲル展、日本でやらないかなあ。
同様に 10 異端審問所の妖怪たち のゴヤも大きな図で見ていた。ゴヤ展、日本でやらないかなあ。13 笑うコサック レーピン「トルコのスルタンへ手紙を書くザポロージャ・コサック」も大きい図で見る。亡くなった義父が残してくれた「講談社 世界の美術館」シリーズが非常にありがたい。

先日行った、メトロポリタン美術館に来ていたジェローム(来ていた作品は「ピグマリオン」)。こちらで解説されていたのは「仮面舞踏会後の決闘」。決闘後の虚無感がとても現れているように思う。

ああ、見たい絵が尽きないなあ。

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2022年04月02日

Posted by ブクログ

はじめての中野京子さんの本
かなり読みやすい!
原田マハさんの小説より、エッセイという感じなので初心者の方におすすめかも
世界史に興味がある方にもおすすめ!

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2021年11月03日

Posted by ブクログ

名画に秘められた、歴史と運命に翻弄されたドラマを探る。
01 消えた少年たち    02 産業革命とパラソル
03 甲冑のダンディズム  04 メディチ家出身のローマ教皇
05 トロイア戦争の悲劇  06 イタリア逃避行のゲーテ
07 私的通信       08 大自然の脅威
09 価値の転換      10 異端審問所の妖怪たち
11 無敵艦隊       12 あふれかえる死
13 笑うコサック     14 ナチス時代の恋わずらい
15 死にゆくピエロ    16 奇蹟の瞬間
17 凶暴な選挙戦
カラー画像、家系図、その年代の主な出来事の年表が適宜有り。
コラム有り。
絵画を描く画家、絵画に描かれた人物。その時代は?
絵画の中に秘められた歴史と欲望、運命に翻弄された人々を探る。
実際の陰謀自体は少なめです。が、描かれた何かに込められた
意図を図れば、意味深長でミステリー。陰謀の香りが漂います。
人物の表情のみならず、衣服や装身具、手に持つもの、しぐさ、
人物の配置等にも、絵に秘められた何かが秘められています。
これらを読み解くことで得られる情報は、当時の情勢を知るにも
有益で、絵画の見方が変容します。
加えて、画家や描かれた人物の運命・・・欲望に絶望、恋愛等の
エピソードが、分かり易く簡潔で語られるのが、良かったです。
ゲーテがイタリアに逃避行した理由。
異端審問の事実を描かずにいられなかったゴヤの心情。
美麗な甲冑にはとんでもない事実が・・・汚物まみれでも脱げない!

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2020年11月02日

Posted by ブクログ

11月ラストの一冊はこちら。
おなじみ、中野京子さんのアートミステリーブック。

「名画の謎シリーズ」より、第3弾。

中野京子さんの本は、アートガイドのようで、何だか西洋美術史ミステリーのような、ワクワクさせる味わいもあるのが良いよね。

取り上げるアート作品の解説だけでなく、それが描かれた国やヨーロッパの当時の背景など、名画を通して神話や世界史も勉強できるという魅力の詰まった一冊。

スーラの「グランドジャット島の日曜日の午後」、フェルメール「恋文」、エルグレコ「ラオコーン」、ブリューゲルの「死の勝利」など、国、時代を行き来して、17作品を紹介している。

フェルメールの章での、オランダ画家のことに関しての記述が興味深かった。

17世紀のオランダ黄金時代。オランダでは中産階級の人々が狭い部屋に飾るために絵を買い求めた。
そのためにオランダの絵は、フェルメールのように小さい作品が多かったらしい。
まだ、その当時のオランダ画家は兼業が多かったらしく、フェルメールは画商も務めた。
そのためにフェルメールの作品数が非常に少なかったとも言われる。

また、オランダは「耳の人」でなく「眼の人」という表現もなるほど、と思った。
確かにオランダは思いつく作曲家がいない。でも、画家は、ゴッホ、モンドリアン、レンブラント、など沢山思いつく。

逆に、ドイツ人は「耳の人」らしい。
確かにドイツには3大Bのバッハ、ベートーヴェン、ブラームスがいる。
でも、有名画家は少なく、未だデューラーがその座を欲しいままにしているらしい。

巻末の宮部みゆきさんによる解説も面白かった!
確かに教科書では冷遇されている画家も、中野さんの手にかかれば興味が湧いてくるマジックにかかってしまう。
名画の謎シリーズ、読破してみよう。

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2021年11月30日

Posted by ブクログ

「怖い絵」の中野京子が解説するシリーズ。今作は歴史上の有名人だけでなく大衆にもスポットを当てている。それぞれの作品が描かれた背景が分かりやすく書かれていて、中世の人々の残酷さや力強さ、したたかさなどがリアルに伝わってくる。

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2021年10月05日

Posted by ブクログ

はじめに
01 消えた少年たち
02 産業革命とパラソル
03 甲冑のダンディズム
04 メディチ家出身のローマ教皇
05 トロイア戦争の悲劇
06 イタリア逃避行のゲーテ
07 私的通信
08 大自然の脅威
09 価値の転換
10 異端審問所の妖怪たち
11 無敵艦隊
12 あふりかえる死
13 笑うコサック
14 ナチス時代の恋わずらい
15 死にゆくピエロ
16 奇跡の瞬間
17 凶暴な選挙戦

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2019年06月29日

Posted by ブクログ

昨年開催された「怖い絵展」を観に行きたかったが、大混雑してると聞いて泣く泣く断念。その後、とある雑誌にて本シリーズのことを知り、機会があれば読んでみたいと思っていた。 

第3弾のテーマは「人間」。さまざまな愛憎や権力争い、それに伴う恐怖が臨場感を持って描かれる。”陰謀“という切り口は間口が広く、ピンとこない作品もあるが、解説がわかりやすいのであまり気にならない。作中の人物像、時代背景から、画家の経歴、作品が評価されるようになった経緯まで、多様な角度から展開する各作品のストーリーは奥深くて読み応え十分。

小説や戯曲にちなんだ目線も多く、『時の娘』の薔薇戦争、『Q』の宗教改革は、本書であらましを知った上で読書すればもう少し理解できたのかなーと思ってみたり。点で何となくわかった気になっていた時代の流れを、線としてざっくり解説してあるのが有難かった。国によって絵画や画家のポジションも違っていたりと、絵画にまつわる雑学も豊富で飽きない一冊だったのでリピートするかも。

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2018年04月08日

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