あらすじ
「あ」が消えると、「愛」も「あなた」もなくなった。ひとつ、またひとつと言葉が失われてゆく世界で、執筆し、飲食し、交情する小説家。筒井康隆、究極の実験的長篇。
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Posted by ブクログ
ネットで見て読みましたがとても面白い体験ができるお話。
文字で作られる本から文字を奪ってゆく、本でしか表せないお話だと思います。
ただ原語が消える度言葉を理解することは難しくなり、私がこのお話を読んだのが中学生1年の時であったのも重なり理解出来ないところが多々あるのでもう一度読み直してみたいです。
段々と崩壊していく世界は荒々しく狂気的。ただこの言語が消える世界というのも勝夫の妄想であり何処からが妄想で何が実際に存在して居るのか、途中からこのように思い始めました。また夢の中のようだと思い始め、小説家が本の内容に思いを馳せているようだなと感じました。
こんな不思議な世界にいつか私も思いを馳せてみたいものです。
Posted by ブクログ
世界から1文字ずつ音が消えていく
あまりにもインパクトのある謳い文句の小説があると教えてもらってすぐに買った本。音が消えていってしまうから仕方がないのだけれど、とにかく出てくる言葉が難しい。まじで難しい。わからない言葉が多すぎて、ずっと読書のお供はグーグルレンズだった。(グーグルレンズがある便利な時代に生まれられた幸福を再認識した。感謝。)読み進めるのに頭も時間も使うから、まったくさくさく読めず、読む事自体疲れるのがわかっているからたまにしか読まずで、何年もかけて読む羽目になった。(勿論良い意味で)
ストーリーは正直突飛に感じてしまう部分もあったけれど、1989年に発売しているらしいので、時代とか文学の流れみたいなものが違うのかなあと思いつつ。音が失われていくにつれて世界も登場人物もどんどん崩壊していく感じがなんとも。
なにより驚いたのは執筆をワープロでしてたってこと。考えてみればそりゃそうなるのかって気もするけど、今のパソコンでワードなんかで話を書くのとはわけが違うはず。赤い並々線が引かれる添削機能なんてのもないだろうし。そんな中こんな実験的小説にチャレンジして、消した音は出てこないように調整しながらストーリーを成り立たせてって…凄いなあと、最後の解説を読んで改めて感じた。(小説の最後にある「解説」、だから好き)
Posted by ブクログ
言葉が一つずつ、ランダムに消えていくという他に類を見ない設定に、最初は戸惑いを覚えるかもしれません。しかし、物語を読み進めるにつれ、言葉が減っても意外と会話が成り立つことに驚かされるでしょう。
登場人物たちは、失われゆく言葉の穴を創意工夫で埋めながらユーモラスで、時に切ないコミュニケーションを続けます。
その様子は、言葉の真の価値と人間が持つ表現の力を改めて感じさせてくれます。
しかし、言葉が完全に消え去った先に待つのはもはや会話が成立しない世界。
この作品は、言葉が当たり前にある日常がいかに尊いかを痛感させてくれます。読む人それぞれに深い感動と、不思議な余韻を残す一冊。
Posted by ブクログ
このような形で喪失を描くことができるのか、というまさに唯一の体験だった。タイトルにある「残像に口紅を」のフレーズは早々に回収され、そのどうしようもない儚さが胸を打つ。その美しい余韻もそこそこに主人公は突き進む。家族らが消失した時点では、それでもまだ残っている言葉に恵まれていたのだと思い知らせるためだけのような、世界が崩れてゆくその先。つぎつぎに自分以外が消えていく世界は第三部にもなると次第に駆け足になり、最終的には行為や擬音だけが残り、それすらも「ん」に終着する。両脇から崖が迫りきて、ついには奈落にのみこまれたかのように。
裏表紙に「その後の著者自身の断筆状況を予感させる」との文句があったが、むべなるかな。諦念にくるまれた恐怖に圧倒されるような体験だった。