【感想・ネタバレ】蓮の数式のレビュー

あらすじ

35歳の千穂は不妊治療を始めて10年、夫と義母からの嫌味に耐え続けてきた。ある日、夫が酒に酔った男・透を轢いてしまう。謝罪のため透を探す千穂は彼が算数障害だと気付き手を差し伸べる。だが、二人の関係を怪しみ千穂を追い詰める夫。一方的に疑われ、これまで抑えてきた感情を爆発させた千穂は、家を飛び出し透の元へ逃げるのだった――。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

凄い作品だった。

人間の厭らしい所と素晴らしい所が随所に散らばっていて考えさせられる事がいっぱいあった。

ストーリー背景は何故か昭和をイメージしてしまう。携帯電話とかネットとか出てくるのにも関わらず登場する人物達が何故かその雰囲気を醸しだしている。

ミステリーというよりは官能的であり文学的だと感じた。

「コンプレックス」がテーマになるだろうか?
各々のコンプレックスが積み上げられ、過去が継続して現在に至り、苦しみの中で更に苦しみを重ねる。
勿論希望もある。しかし希望に希望を重ねる事はしない、それをしてはいけないという抑止力がそうさせる。
弱さが顕著には出せず、理解の薄い人間関係の中で飲み込むしかないようにその弱さを溜める。そして苦しむ弱い者達が更に弱い者を苦しめる。なめあおうとしない。
究極の人間らしさなのかもしれないと感じた。

最後は投げかけられるような、問いかけられるかのような終焉。

まるで自分に言われているみたいな感覚を覚えた。

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2023年04月28日

Posted by ブクログ

ネタバレ

これは完成度の高い大人の小説だと思いました。

主人公は結婚して13年間、高圧的な夫の安西真一から、義母を殺して逃げようとした千穂35歳と、一緒に逃げた高山透27歳。

千穂は、夫と義母から異常なまでに子供を望まれ、不妊治療を何年もしていましたが、4度の流産を繰り返しています。
真一は結婚してから、性格も性癖も歪んだ倒錯的な人物だったことがわかります。

高山透は数字認識に障害があり、そろばん塾の講師であった千穂と知り合います。
透には子供の頃の殺人事件の犯人として、追いかけてくる新藤賢治という男がいます。
そしてまた透は人との交流を持つ手段をセックス以外に待っていない女性との関係の絶えない人物でした。

そんな二人が逃げたのは透が子供の頃の楽しかった思い出のある能登のスナック「ダリア」。
そこで二人は束の間、夫婦として認められ夢のような短い日々を過ごしますが、透の祖母の邦子に「あんたは誰や。透ではない」と言われ、透は邦子を殺し、またもや逃避行の生活に。

追手は真一と賢治、そして警察も二人を追っています。
逃げ切れる訳のない罪を犯してきた透。

たくさんの人を殺めた透と千穂ですが、この二人にはその不幸な経歴からなぜか感情移入をして、逃げ切って欲しいと思わされます。

そして千穂は透の子供を自然妊娠します。
ラストはエンタメ的要素がさらに加わって、ハッピーエンドにはなりませんが、人間ドラマの描き方が濃密で余韻の残るラストでした。

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2020年10月29日

Posted by ブクログ

ネタバレ

期待を裏切らない遠田潤子、この作品でも暗くて重い魂のブルースが延々と刻まれていく。楽しい話ではない、やるせない思いが募るばかりなのに、ページを繰る手が止まらない。

登場人物ほぼ全員が不幸を背負っているが、特に透という算数障害を持つ男が際立っている。「不幸を捨てに行くゴミ箱」…なんという役どころを作ってしまうのか。

登場人物たちの不幸が、透に収斂されていく切なさ。際立った悪役が2名いるのだが、彼らが(直接的には)透に不幸を捨てなかった稀有なキャラだという皮肉な設定も、上手いというか際立っているというか…。

遠田潤子の小説を読むと、「こういう生き方をしたくない」と思うことが多いが、この作品では、これにつきる。

他人に不幸を捨てに行くような生き方をしないでおこう。これはもう本当に。

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2019年06月10日

Posted by ブクログ

ネタバレ

親による虐待や、ろくでなしの男に追われるという要素から「アンチェルの蝶」を連想させられました。ただ、登場人物のほとんどに共感できなかった点で、これまでに読んだ遠田作品に比べると心象が悪く感じます。

確かに、高山徹(=大西麗)や安西千穂の過去には哀れみを感じますが、殺人に対する罪悪感のない徹と彼に尽くす千穂、そして実の娘をないがしろにする賢治の身勝手さに対する苛立ちが、それを上回ってしまうのです。

さらに私が本作を受け入れづらいと感じた決定打があったとすれば、千穂の懐妊を徹が知った時の「あんたの自己満足のために子供を産むな」というセリフ。本作の登場人物のほとんどに嫌悪感を覚える要因はこれかな、と。

悲惨な過去や経歴があるとはいえ、自己満足を優先して他者(特に子供)をないがしろにする登場人物たちのそうした姿と、(これは勘違いかもですが)作品内にうっすらと漂う「彼らにも同情すべき点がある」という空気・雰囲気に、拒絶反応が生じていたのかもしれません。

文章に関しては、冒頭から終章までじっくりと、一文字も漏らさず読みたいと思わせるクオリティの高い作品だと思うのですが……読後感の良くなさが、嫌な感じで後を引いてしまいました。

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2018年03月03日

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