あらすじ
天府城に拠り国を支配する強大な幕府、女人にだけ帝位継承が許された天帝家。二つの巨大な勢力の狭間で揺れる都市・天府の片隅には、人知を超えた技術(オーバーテクノロジー)の結晶、美しき女の姿をした〈伊武(イヴ)〉が存在していた! 天帝家を揺るがす秘密と、伊武誕生の謎。二つの歯車が回り始め、物語は未曾有の結末へと走りだす――。驚異的な想像力で築き上げられたSF伝奇小説の新たな歴史的傑作、ここに開幕!
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Posted by ブクログ
スピンオフをアンソロジーで読んで、面白かったので本編を購入。奥深い、味わい深い面白さ。
生身の人間と変わらない外見や動きを備えた機械人形が存在するようなSF性と、武士や忍びが活躍する江戸風の舞台。歯車やバネがみっしり詰まっているのに、関取に想いを寄せたり願掛けをする人形。由来も仕組みも説明のつかない、この時代の中で浮いた存在である伊武に、久蔵も甚内も惹かれているが、伊武自身が何か行動して物語が動くわけではない、というところも良かった。信じたり欺いたり、助けたり殺したり・・・動いてかき回すのは人間だ。だから行動に破綻や不可解さはなく、時代小説のように読んでいける。SFに寄りすぎていないバランスが好みだった。
「どうやってその証を見せる」
「あるからこそ、今、それを失うのだ」
機械人形に心は宿るのか、という命題も組み込まれている。
「人の体をどんなに細かく腑分けしても、機巧と同様、その人の心を現すものや感情や記憶を思い起こさせるものなど、一切出てこないのだ。――振る舞いの中に命がある」
それと装画がカッコよくて忘れられないインパクト。くじらの模様の帯を持つ"太夫"。
Posted by ブクログ
普段あまり手にすることのないSF、時代物、そんな一見して交わることのなさそうな2つのジャンルが掛け合わさるととんでもない作品が生み出されました。
その名は「機巧のイヴ」。
主人公を変えながら進む5作の連作短編が生み出す衝撃の面白さ。
江戸時代を匂わせる時代設定の中で、現在の科学技術でも創り出すことが出来ない人知を超えた技術の結晶、美しき女の姿をした〈伊武〉が存在!
いわゆる人型ロボット(アンドロイド)なのですが、無論、ICチップもコンデンサも、モーターさえも入っていません。
所謂、からくり人形です。
しかし、この伊武がなんともいえないぐらいに魅力的なんですよねー。
続編買わなくちゃ。
説明
内容紹介
SF×伝奇=未体験ハイブリッド小説!!
「歴史的傑作! この女に命が無いのなら、命とは一体なんなのか」(?大森望)
天府城に拠り国を支配する強大な幕府、女人にだけ帝位継承が許された天帝家。二つの巨大な勢力の狭間で揺れる都市・天府の片隅には、人知を超えた技術=オーバーテクノロジーの結晶、美しき女の姿をした〈伊武(イヴ)〉が存在していた! 天帝家を揺るがす秘密と、伊武誕生の謎。二つの歯車が回り始め、物語は未曾有の結末へと走りだす──。驚異的な想像力で築き上げられたSF伝奇小説の新たな歴史的傑作、ここに開幕!
目次
機巧のイヴ
箱の中のへラクレス
神代のテセウス
制外のジェぺット
終天のプシュケー
解説 大森望
出版社からのコメント
大森望、絶賛!!
ロボットと時代小説。一見、ほとんど正反対の両者をみごとに溶け合わせて、ほとんど前例が見当たらないほど独創的な物語を組み立てたのが、本書『機巧のイヴ』。古今のSF時代小説の中でも指折りの、まさにインスタント・クラシックーーこの先、SFの歴史に古典として長くその名が刻まれるだろう名作だ。
内容(「BOOK」データベースより)
天府城に拠り国を支配する強大な幕府、女人にだけ帝位継承が許された天帝家。二つの巨大な勢力の狭間で揺れる都市・天府の片隅には、人知を超えた技術の結晶、美しき女の姿をした“伊武”が存在していた!天帝家を揺るがす秘密と、伊武誕生の謎。二つの歯車が回り始め、物語は未曾有の結末へと走りだす―。驚異的な想像力で築き上げられたSF伝奇小説の新たな歴史的傑作、ここに開幕!
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
乾/緑郎
1971(昭和46)年、東京生れ。2010(平成22)年、『完全なる首長竜の日』で『このミステリーがすごい!』大賞を、『忍び外伝』で朝日時代小説大賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
Posted by ブクログ
機巧人形と人…
江戸時代の日本に似た世界が舞台でしたが、将来来るかもしれないアンドロイドと共存する世界…の、先駆けのようなものを感じました。
人の魂は何処に宿るのか?
アンドロイドに魂は宿るのか?
人と何が違うのか?
考えさせられました(哲学的な意味で)。
と、さらにですが、物語としても凄く面白いです。続編にも期待できます。
Posted by ブクログ
江戸時代を舞台にしたSF。機械仕掛けで、全く人間と区別がつかないイヴをめぐっての4つの連作短編集。思いが寄せられる程度によって、機械仕掛け(機巧)の人形の心の具合が決まって来るのだ。機械仕掛けの蟋蟀、相撲取り、幕府隠密、天帝、天帝を守る隠密、絡繰り師などが入り乱れて、話は次々と展開する。思いを寄せるから魂が生まれる!?では、その思いを寄せる人間の魂はどこから来たのだろうか。攻殻機動隊のゴーストというのを思い出してしまった。機械のタチコマたちには、ゴーストはあったように思うのだが。イヴはお千度参りなどをして、人間になる事を願っているが、既に人間の魂を持っているのだ。
AIの原型
SFのテーマとして有名な「アンドロイド AIが高度に発達すると、人間そして自意識との区別があいまいになる」を扱っている。
しかも舞台を未来ではなく日本の江戸時代に類似した世界にしているのが実にいい。
文体もその妖しい雰囲気をよく伝えている。
Posted by ブクログ
いつだったか表紙買いしてそのまま本立てに置いてあったもの。
なんとなく引っ張り出してみたらこれが面白いのなんの! 攻殻機動隊江戸時代みたいなのかなぁ、とぼんやり読み進んでみたらまあまあまあ!! なんということでしょう
寛永・元禄の華やかさ、賑やかさを如実に感じさせながら、一方でSF、一方でミステリー。この3つの組み合わせが実に心地よいのです。解説では幕末モデルとありましたが、空気感はむしろ寛永元禄。その中で上代の雰囲気も江戸後期の要素もちょっと混じっており、異なった次元の倭国がそこにあるのです。こちらの日本で伝えられている伝説や史実がちょこちょこ工夫されているのも成る程。
これは多くの方にオススメしたい、本当に面白くて読みやすい。時代小説もSFも、ミステリーすらよくわかんない、という人でもすらすら読めると思う。それほど人を選ばず楽しめるお話だと思うの。
あと女の子かわいい。
あの子とかあの子とか、ほんとかわいい。
Posted by ブクログ
短編集の様にストーリーが区切られて展開していくが、全てが繋がっている。
凄く面白かった。オートメイルの話も出てくるとは!!
区切られたストーリーがまた、読みやすくて、一話毎に染み入る感じ。
一気読みしたいが、読み終わってしまうのが勿体ない。そんな感じ。
タイトルと表紙で、ずっと気になっていたのに、ハズレだったらどうしようか…と手に取れなかった本。もっと早く手にしておけば良かった。
2作目も同時に買っておけば良かったと後悔。
すでにもう一回読みたい作品。
Posted by ブクログ
江戸を舞台に、からくり技師を中心とした連作短編集。花魁や幕府といった時代小説的な設定を扱いつつ、からくりとは人とはといったSF的なテーマを描いた作品です。しかしながら固くなりすぎず読みやすいエンタメ小説でした。
人情と合理さのすれ違いなどがふとした瞬間に描かれはっとしてしまいます。また各短編の余韻も幻想的で美しく、いい作品でした。
Posted by ブクログ
これはすごい作品!あえていうなら「時代劇版ブレードランナー」とにかくめちゃめちゃ面白かった!
五つの連作短編集。それぞれが単独でも楽しめる上に、読み通すとさらなる感慨に浸れる構成。
最初の作品は小噺のような伝奇のような、つかみとしては見事としか言いようがないお話し。
その後に続く二作目以降はより連作の様相が強くなっていき、読み応えも俄然増す。
徐々に明らかになっていく「伊武」の正体。その謎解きの過程がまた見事。
そしてその「伊武」がとても魅力的で可愛らしい。甚内、春日、そして天帝といった登場人物たちもまた実に魅力的。
そして大森望さんのあとがきでの絶賛ぶりが熱い!
初めて読んだ作家さんだったけど、他の作品も読んでみたくなってきた。映画化された『完全なる首長竜の日』の作者さんだったのか。
最後に印象的だった文章を引用。それぞれ352頁より。
「人の体を細かく腑分けしても、機巧と同様、その人の心を現すものや感情や記憶を思い起こさせるものなど、一切出てこないのだ。」
「魂とはどこからやってくるのか。そしてどこに隠れているのか。それがずっと疑問だった。」
「誰かに気に掛けられたり、愛されているからこそ、それに応えるために、(中略)、人のように振る舞うことができる。その振る舞いの中に命がある。」
Posted by ブクログ
パラレル江戸時代を舞台にしたミステリーファンタジー。アンドロイド誕生にまつわる秘密やスチームパンク風味がたまらなく好みでした。
表題作の短編から5つの物語を通じて、スーパーテクノロジーの結晶である伊武の誕生の謎と、天帝家に係る隠蔽された秘密が徐々に明らかになっていく展開に引き込まれ、圧倒され、そして最後は胸アツに。
筋立てが鮮明で、謎解きも納得できて、魅力あふれる物語でした。
伊武がお百度参りしたり、「箱」に座るヤツがいると激怒したり、人間味とはこういうところにあらわれるのだなと思わせるキャラでほんとに好き。
対称的に、神器は幕府への復讐を背負わされた冷徹さのみかと思ったけど、暗闇を共にした蟋蟀への感情があるところなど、その単純ではない精神構造に心が動かされてしまい…
魂がどこから来るのかとか、魂はどこに宿るのかとか、もう一度そんな疑問にぶち当たって、深く考えさせてくれるような話でした。
続編、楽しみにしています!
Posted by ブクログ
将軍が治める「天府」の城下、幕府精錬方手伝を務める釘宮久蔵の元に、一人の侍が訪れる。馴染みの遊女にそっくりの「機巧人形(オートマタ)」を作って欲しいと依頼する侍の前に現れたのは、生身の女性と区別が付かない美しい機巧人形の伊武(いゔ)。久蔵はこの伊武をベースに遊女の機巧人形を作ってみせると言い放ち、その後侍の元に遊女そのものの女が訪れる・・・
いやーーー、これはやられました。めちゃくちゃ面白いです!何と艶やかな世界観!
文化文政時代の江戸に酷似した「天府」を舞台に、機巧技術を巡る権謀術数が繰り広げられる短編5本による連作です。連作集のタイトルにもなっている冒頭の作品「機巧のイヴ」が、その後の大きな流れとはあまり関わらない単独の「掴み」の作品であるにも関わらず、完成度が恐ろしく高い!ミステリとしても十分なクオリティを有する傑作です。
その後、実質的にこの社会を支配する「天府」と、女系継承により伝統的な権威を保持する「天帝家」との確執を背景にする陰謀がストーリーの通底音として立ち現れ、釘宮久蔵と伊武、その他のキャラクターも否応なく時代の流れに巻き込まれていきます。この過程の絶妙な「伝奇時代もの」感と「SF」感のバランスの取り方が、素晴らしいですね。
正直なところ、SFとしてのツメは甘いと思います。オートマタもの・人工知能ものSFとして見ると突っ込みどころは満載ですし、そういう観点から評価できない、という意見も散見されます。
それでも鴨がこの作品を評価したいのは、このユニークさ極まる世界観の構築ぶり。現実に存在した江戸時代後期の社会をベースに、「いやそれあり得ないでしょ」と言われる一歩手前ギリギリのレベルで独創的なアイディアを加味し、日本の伝統文化に慣れ親しんだ人にもそれなりに楽しめる良質なフィクションを立ち上げたこの技は、たぶんSF一辺倒の人材には出来ないんでしょうねー。SF大好きで、同時に歌舞伎や文楽や古典落語も大好きな鴨にとって、羨望すら覚えるセンスの良さです。
これ、ぜひ新作歌舞伎にしてください!
伊武は中村七之助丈、天帝は尾上菊之助丈、甚内は中村勘九郎丈がいいなー。釘宮久蔵が悩みどころだな、大物役者が良いよね・・・松吉は尾上松緑丈かな・・・春日は若手の真女形が良いかな・・・
なんて楽しみ方も出来る、知られざる傑作ですよ!
Posted by ブクログ
パラレルワールド江戸時代を舞台にした連作短編集。人間そっくりの機巧を巡ってさまざまな思惑が交錯する。魂とは何なのかを考えさせられつつ、スチームパンクな独特の雰囲気に浸るのが心地よい。
イブは謎が多いままだが圧倒的な存在感で、絵画のように印象に残った。
Posted by ブクログ
先の時代を垣間見る様なストーリーで
からくり人形を通してそれぞれの心情を垣間みせ
心を宿すのかという問いかけている。
日本はAIロボットに愛着がある民族なのですんなりと読めると思います!
Posted by ブクログ
友人に薦められて読みました。最初は世界観についていけず、正直いまいちかなと思いながら読んでいました。しかし、エピソードを追うごとに世界観への理解が深まり、読めば読むほど面白く感じる。そんな不思議な小説でした。決して読みやすくはないですが、非常に味わい深い物語です。途中でやめなくて良かったです。
Posted by ブクログ
苫米地英人の本で読んだけど脳科学で言えば感情も記憶も本来存在せずそれは刺激に対する脳の反射でしかないそうだ。人の心はそもそも器官として存在しないから反論できないよね。幕府と天帝家が対立する時代に、バネや発条、歯車で作られた機巧の美女伊武。無いはずの彼女の心に翻弄されるSF時代小説。伊武はリラダンの「未来のイヴ」から取ったのだろう。ロボットに心はあるのかというテーマを描いている。ピノキオ、鉄腕アトムもそうだった。人形やロボットが悩んできたテーマ「人間になりたい」と伊武も言う。その思考過程はブラックボックスだが、自分以外の人間に心や記憶があるか無いかはわからないし、心があったからってお互い分かり合えるとも限らない。脳科学では、そもそも脳内の記憶は断片的な反応でしかなく生死のリスクなどを判断する時に蘇る断片的記憶にイメージを補填してストーリーを作るのが人間の脳なので、そもそもの記憶と呼ぶものが虚構なのである。ロボットにも人にも猫にも心なんてものは無い。安心して!全部まやかしということで。
Posted by ブクログ
大江戸スチームパンクというか、大江戸攻殻機動隊といった趣向で、とても楽しかった!この手の時代劇は、かなり珍しいのではないか。短編の連作だが、各編を読み進めていくともに徐々に世界観が広がり、かえってアンドロイド「伊武」の謎が深まっていく構成もおもしろい。大風呂敷の広げ方やサービス精神に、ちょっと山田風太郎味も入っているんだけど、もっとSFっぽく理知的なんだよな。続編も読んでみよう。
Posted by ブクログ
江戸風サイバーパンクミステリー。「機巧」というからくりが高度に発達した世界で、自立して動く機巧人形の伊武と周囲の人の顛末が書かれている。単話形式の話ごとに結末があるミステリーで、別の話で振りまいたネタが別の話でもちゃんと使われて出てくるのが個人的には良かった。
人間と変わらない動きをする人形と相対した場合、人は人形をどう扱うのか、というテーマがあったように感じた。この本に登場した人物は無下にはしなかったようだ。
Posted by ブクログ
自分で自分を決められる、たった一つの部品だ。無くすなよ。
ってあれは泣いた。
きっと、どういう仕組みで動いているか、それをひとつひとつ解明していっても、じゃあそれが何故動いているのか、って問いには誰も応えられないのだろう。
ひとも機巧も。
SF…でありファンタジーであり、時代小説であってミステリである。
……胃もたれするわね!
SFとしては非常にオーソドックスなテーマを、各章で角度視点を変えて丁寧に描いている一方、衒学的時代小説感がそこになんとも云えない艶を出していて。なんというか、やけにヱロい。本来の意味でのエキゾチック、というか。
最終章で、神器(と呼ばれているもの)の行動に、機巧は機巧でしかないのか、という絶望を感じてしまったのだけれど…これは本当かなぁ。
なんだかこの部分にだけ、大きな違和感が残っている。
いのちのありか、こころのありか。
Posted by ブクログ
帯に書かれていたコメントが盛り過ぎ。
世界観は面白いと思うけど、言葉のチョイスがちょっと好みじゃないから読みづらい。これ、子どもも読んでいいのかなぁ。悩む。
Posted by ブクログ
開始数ページでオートマタという言葉が出てくる江戸時代のような街が舞台の話。
思いっきり横文字なのに、まったく違和感がない。ぐいぐいと話に引き込まれていく。
物語の根底にあるのは、人造機械に魂はあるのか。魂があるとして人間と何が違うのか。これは色々なSFに通じる命題ではないか。
Posted by ブクログ
とても面白かったです。
時代物とSFがぴったりと合わさっている連作短編集で、最初のお話からこの世界に惹き付けられました。
自動人形として機巧が存在している、江戸時代を思わせる世界。
独特の要素はたくさん盛り込まれているのですが決してごちゃごちゃしてなくて、魂は、心はどこにあるのか、どこからやってくるのか…このことを色濃く考えさせられます。
オートマタの伊武を始め、登場するキャラクターたちが皆さんとても魅力的でした。
オートマタと言ったら「からくりサーカス」の人形たちを思ってしまいますが、こちらの自動人形も素敵。
物語の世界は思いもかけない場所へ進んでいって、終盤は切なかった…初めましての作家さんでしたが、続編も読みたいです。
Posted by ブクログ
いやいやこれは面白い。時代もの(特に伝奇もの)はほとんど読まないので、アンテナにひっかからなかったのだが、こちらでフォローしている方のレビューにひかれて読むことに。こういう出会いは嬉しいなあ。
SFとして特段の驚きがあるわけではない(むしろ結構首をかしげたくなるところもある)のだけど、そんなことは気にならないくらい、読ませる読ませる。これは「完全なる首長竜の日」と同様の感想で、でも、こっちがより巧みで華麗な作品世界が構築されていると思った。映像的というより、何と言うか「絵画的」な感じ。残酷であでやか。クールで艶っぽい。一歩間違うと、並のライトノベル的薄っぺらさに陥りそうな題材が、鮮やかな手つきで見事に料理されている。
冒頭の「機巧のイヴ」の世評が高いようだが、私はこの連作全体の構成が実に巧みであることに感嘆した。後になるにつれてお話しに広がりが出てくるところがいいし、蟋蟀に始まり、また蟋蟀で閉じるところなんか本当にうまい。ジャンルSFではあまりこういうのないんだよね。
読み出してすぐ、イヴはなぜか壇蜜の姿で脳内劇場が展開。「神代の神器」にしてはちょっと色っぽすぎるけど。
Posted by ブクログ
SF的なサイバネに時代小説のような世界観と、両方とも面白いけど掛け合わせるには合わなそうな物を見事に融合させてしまった傑作連作集。機巧と人間の隔たりとはなにか。人間を人間たらしめてるものとはと考えさせる大きな物語も見事。
Posted by ブクログ
面白かったです。
ロボットと時代小説という異色の組み合わせが売りです。その背景だから面白さが増したのかはわかりませんが、江戸時代風の風景の中に本物と変わらない機械人形がいるって想像するのが楽しかったです。オーバーテクノロジーが嘘っぽくないし、話の流れも面白かったし、何より伊武がかわいい。続編が出てるらいいです。早く文庫本にならないかな。
Posted by ブクログ
江戸時代を思わせる時代風俗を背景に、最上位の花魁の姿をうつした機巧人形〈伊武〉と、その美しさ、その不思議に魅入られた人々、機巧の秘密を守る天帝家などをめぐる連作短編集。
乾緑郎さん、初読。
名前は知っていたけれど、ご縁がなかった。
人の手によって作られた人形に心はやどるのか。
完璧な複製が存在するとしたら、オリジナルとの違いは何か。
生身の身体を少しずつ機巧人形のパーツに置き換えていったら、人間と人形の境界はどこにあるのか。
「ブレードランナー」「からくりサーカス」「バイセンテニアル・マン」「ファンタジスタドール イヴ」などなど、よく似たテーマを扱った作品は数あれど、本作もまた面白かった。
表紙のイラストがまた妖しい美しさで、作品の雰囲気によく合っている。続編も読もう。
Posted by ブクログ
オーバーテクノロジーが存在する架空江戸(天府)を舞台にしたSF時代劇。スチームパンクに例えることできるが、赤影の世界だよなあ。読み切り短編の色が濃い、初期の作ほど時代劇寄りの感じ。木枯し紋次郎あたりを思わせるが、後半になると連作の感じがはっきりしてきて、SF色がぐっと強まる。読み切りの形でもう少し勝負しても良かったような気もする。
Posted by ブクログ
歴史×伝奇×SF。天帝と幕府が二大勢力として君臨する、江戸によく似た世界が舞台。伊武(イヴ)という精巧なガイノイドを巡り、命とは何なのかを問いかける。押井守の『イノセンス』のような世界観を彷彿とさせる。一本筋の通った連作短編集で、どれも読み応えがあり面白かった。
Posted by ブクログ
人間と、機巧人形と。そのどこに違いがあるのだろうか、とぼんやり思った。
いろいろなかたちの関係が、連作短編のかたちで描き出されている。だが、技術について、情の交らないように表現したうえで、ふとした瞬間にたましいの要素が交ざるというのがとても興深く感じられた。
ちがいというのは、「本来異なるものが一緒に居るにはどうしたらいいか」を考えるときとくに意識されるものなのかもしれない。春日が好き。
Posted by ブクログ
何を読もうかとランキングを物色し、ちょっと惹かれたこの本にしてみた。
国を支配する幕府があり、上方には帝がおわす、江戸時代の日本を多少ゴシック調にした世界が舞台。
5つのお話からなるが、最初のお話が元々独立した短編ということらしく、これがなかなか洒落てる。
後はここから世界を広げたという感じの話だが、2つ目の話は、暴走する右腕が“機巧に魂が宿るか”というテーマを象徴して、これも印象深い。
後の3つの話は一つに括って、これまでの話を枕に天帝家を揺るがす秘密にじわじわと迫り、それなりに楽しめたのだが、計算尽くで何だか普通にまとまり過ぎている気も。
続く話もあるようなので、そこは楽しみに待つようにしよう。