あらすじ
人はなぜ人を殺すのか――。河内音頭のスタンダードナンバーにうたいつがれる、実際に起きた大量殺人事件「河内十人斬り」をモチーフに、永遠のテーマに迫る著者渾身の長編小説。第四十一回谷崎潤一郎賞受賞作。
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Posted by ブクログ
最初の一歩で躓いた人間なんだと自暴自棄になり、しかしその躓きは自分の思い込みで、自分は思い込みに怯えて人生を棒に振ってしまったのではないか
こここそが引き返し不能地点だ、と思っていたところは実は楽勝で引き返せる地点だった
行き止まりだと思ってぶち当たった壁は紙でできていて、その先には変わらぬ世界があった
もしや自分は取り返しがつかないことをしてしまった、もう元の自分には戻れないぞと気づいた瞬間の沈んでいくような恐怖と、それでも世界は終わってくれないということに対する驚愕に近い絶望感
最後の山で過ごした熊太郎の心境を想像すると切なくなった
思弁的な熊太郎、何を考えているのか読者は知っているし、こいつおかしいぞと思うところもあれば普通で常識的なところもある、むしろそっちの方が多いということもわかる。共感もできるし村民の中では一番こちら側に近い人間だとも感じさせる
ただ、その熊太郎の思弁を知らない村民からしたら、熊太郎はどんな人物に見えていただろう
大量殺傷事件を犯した人の中にもしかしたら熊太郎のような人間がいるのかもしれないと思うと怖い
境界線というのがやっぱりわからない…
Posted by ブクログ
圧巻だった。熊太郎という人間の描きっぷりが見事で、町田康の筆の走りがこっちにまでひしひしと伝わってくる。
事件それ自体は実際にあった史実を元にしているけれども、それをここまで膨らませることができるとは。
幼少期からの熊太郎の頭のなかで繰り出される言葉、言葉、言葉はすべて傍から見たらなんてことはない、本当に栓のないことなのだけれど、どこか共感してしまうのはなぜなのだろう。
最後の最後で自分の思っていることを口に出したとき、自分が考えていることと口に出した言葉が一致したのにもかかわらず、その口に出した言葉のか弱さ、細さよ。
熊太郎が最後の最後に、自分にだけは嘘をつきたくないと、自分に語ろうとして、何も言葉が出なかったのには何とも言えない気持ちになった。たしかに、人を助けるだの、大儀だの口では言うものの、結局、それは自分の目の前にある状況に対して、自分の生きてきた正義をかざして、なにかした気になっているけど、結局その行動すべて、自分の目の前にある不快な状況を取り除こうとしているだけであって、別に深い理由の為に生きているわけじゃない。
それが良いことなのか、悪いことなのか、単純に善悪で判断する必要はないと思うのだけれど、自分がそれを知っていながら、嘘をつき続けるのはこれいかに、と思うのであった。
告白というタイトルの意味が最後の最後に理解できた。
間違いなくこの作品は熊太郎の心の叫びであり、告白だ。
今月から読書バリバリしていくつもりですが、とりあえず、完璧なレビュー書くことを目標にすると、億劫になるんで、思ったこと熊太郎ばりにつづっていく感じにしていきます・・・
Posted by ブクログ
これは傑作。
河内弁のとっつきにくさが序盤にはあったが、読み進めていくうちにそのリズムに適応して行き心地よくなってくる。熊太郎の人となりとそのまさに思弁的な独白と空想が癖になる。
良い悪い取り揃えた魅力的な登場人物が多いが、個人的ナンバーワンは縫ちゃんだな。熊太郎の告白シーンが、いつものくよくよ言い訳がましい熊太郎の真摯に真っ直ぐな気持ちを伝えることろ。それに小悪魔的に応じる清廉な美少女縫ちゃんのやり取りが心鷲掴みにされたわ。
神の使い姫たる縫ちゃん、結局何がしたかったんだろうと訝しんでしまう。でもそんな気持たせなところが魅力的です。
どんどん道を踏み外していく熊太郎。それでも善良な人間と認められたい純粋な心を捨て切ることはできず、ちぐはぐに破綻するという軌跡。世間でいう極悪人ではあるのは間違いない。けれども真っ当に生きられない運命を負っているその衝動はこの結末に行き着くしか許さなかったのではないだろうか。
Posted by ブクログ
結局、熊太郎の怠惰が招いた結果では…?となってしまい、あまり感情移入はできんかった。松永一家の行いが酷いのはもちろんなんだけど(やったれ!と思ってしまった。子や奥さんまでは納得いかないけど)、結婚後も碌に家におらず家族らしい行いもせずなら…他の人に心が移るのも仕方ない。勝手に神様だと理想を押し付けて、理想から外れたら殺すのは身勝手すぎる。
後半の怒涛の描写は好きだった。覚悟を決めて穏やかになってる2人の描写や、「平たい土地に松の木が生えている〜」の文章特に好き。分かります。1番好きかもしれんこの文章。
独特な理屈の中に、ちょっと分かるなあみたいな部分もあって、同情はできないんだけど、遠くもない話だなと思った。