あらすじ
魅波は伯父のブレイドが拡張現実(AR)上で使用していたACOM(人工意識コンパニオン)のマイカを自分のパートナーにする。世論は人類救済策として、良輔が提唱した地球を移動させるアース・シフト案とジェノアPが提唱した人工意識(AC)に人類の精神を受け継がせるセカンド・アース案に、二分されていた。魅波は父の代理として公開討論会に出席する決心をするが……地球に迫る巨大な厄災を前に、この星は大きな選択の時を迎える。
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地球を移動させてシーヴェルの影響を減らそうとする作戦。経済と人命とどちらをとるのか(どこかのコロナと同じだ)等々の後色々あって、動き始めた作戦。途中もきっと色々あっただろう。いよいよシーヴェルがそこまで来て本格的な移動が始まっても敵対勢力の妨害は続く。
思わず「やめてよ!」と憤ってしまう。
命と意思が続きますように
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後半戦。実際の地球移動作戦のオペレーション。迫り来る見えない星、交差する国々の思惑、テロリズムに訴えるカルト教団。いろいろな障害を乗り越えながらも、一人の天才少女(だった大人の女性)がオペレーションを遂行する。傍らにはマスターを亡くした失意から立ち直り、少女(だった大人の女性)の無二の親友になったACOM(ボディ付き)。愛する女性を守るために、危険な戦闘任務に赴く女性(同性愛)。
ワクワク、ハラハラの展開が面白かった。オペレーションの遂行の為に命をかけてあらゆる妨害を排除するべく宙を飛ぶ戦士たちの活躍に涙。
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おもしろかった!
ハードSFの装いを持ちながらも、現代のオタク文化の進化の先にあるものを、世界観の中心にどっかりと据えていたりするので、SF慣れしていない人でも十分に読めると思う。特にARの使い方には驚きつつ感心してしまいました。なるほどARがこう使われると、SFアニメで描かれているあんなことやこんなことがリアルに実現できる。そんな感じに。
SF的ギミックは少し堅苦しいところもありますが、しっかりとエンターテインメントに仕上がってる作品なので、結構おすすめです。
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とにかく詰め込まれたアイディアが知的好奇心くすぐられるネタばかりで、ピアノドライブ、タキオンを利用した過去への通信、AR、人工意識、仮想現実、抗老化技術、クレイトロニクス(ナノマシン)、ミラー物質などなど聞いただけでワクワクする。またSF的未来予測も非常にありそうだなと納得できるものが多く、個人動画P、カルト宗教、小惑星の資源利用、地殻変動などがリアリティをもって膨大な知識と共に詰め込まれている。人間ドラマとしてもAIと人間、家族など多種多様なものが描かれて、深み厚み共に申し分がなかった!
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未知の天体が地球に直撃(正確には甚大な影響を及ぼすまでに接近)することがわかり、もしそのまま放置したら24年後の大接近で地球は確実に滅んでしまう。それに対して人類が行う策が地球を移動するという壮大なプロジェクトである。
何故その天体の直撃を他の方法、例えばアルマゲドン風に、で回避することが出来ないのかといった設定から、地球を移動するのに伴う弊害、そもそもそれ以前に計画を実行する前に存在する様々な障害などが巧みに描かれている。
そして、忘れてはならないのが山本弘得意のいつものAI(作中ではACOMと呼ばれる)と人間の関係性。何冊読んでも改めて心を動かされる。毎度のことながら人物・感情の描写がとても素晴らしい。
ネタバレになるので詳細は省きますが、山本弘の作品にはあまりない珍しい要素があって驚きました。
これ以上ネタバレせずに上手くは書けませんw
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天体衝突を避けるために知恵を絞る大仕掛けなSF
遊星のニアミスによる大災害を必死で避けて、最後に残るのが地震と津波なので、この時期に出したのは英断かもしれない。
文庫版の後書きは震災に言及があった。私は、被害者に配慮して話題そのものも避けるという意見にはあまり賛同しない。災害に立ち向かう力強い物語は、読む人を元気づけることもあると思う。
SF的なガジェットの大きなものは、おおよそ3点。
夢のタキオン駆動装置、ミラー物質で構成される、見えないけど重力のある遊星。仮想現実に住む人工知能。
見えない遊星が危機を作り、現代科学ではとても不可能な対策に、タキオン駆動装置を使うことでぎりぎりの答えを導く。人工知能は添え物のようではあるが、山本弘SFではある意味主題だ。ここではAIは多くが肉体を持たないが、人との関わりはアシモフ以来のパートナーとして重みを増し、共に歩む隣人として、大きな存在になっている。
ミラー物質天体や、タキオン機関を使った大仕掛は、そのようなものがあったとした世界での、知恵パズルが淀みなく展開されて、面白かった。こういうお話で、決定的な敗北はまず有り得ないにしろ、人間の及ぶ限界のプロジェクトという感触は良く描けていてのでないかと思う。
そして、半分ぐらい使って描かれる、神と人とAIの関わり。
この世界のAIは、無理に近い努力を諦める言い訳に使われかけて、人類を守るためにさらに衝撃的な事件を起こす。多くの人に友として認められたAIの人とはまた違う機微が面白い。こういうのだと、友人にも良いよなあ、と思う。
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長く書いたが、文章消えたんで、一言。久しぶりに感動した。
2009年に、太平洋側の津波や群発地震の話が再現されているとは⁉ 正直驚いた。映画にしてもいいくらいです。
できたら、山本さんの本は、表紙をラノベ的なものから脱却してもいいような。どうも、違うジャンルな気がする。
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山本弘の小説で鼻白むのは人物造形。何だかアニメみたいで、読んでいる方が気恥ずかしくなってしまう。と思いながら、「アニメみたい」ということの内実をきちんと論ずるのが難しいことに気づく。なぜアニメみたいと思うのかうまく言語化できないのだ。登場人物たちの会話がアニメに出てきそうな感じだからというのもあるだろうが、人物造形そのものにアニメ臭さがあるようにも思う。だからといって人物に葛藤がない、というわけでもない。だが、何だか人物が複雑じゃない。
そこまで考えて、こんなことを思いついた。アニメの登場人物はまずは絵として演出されたものが作られ、その後に、声優が声で演ずる。アフレコである。極言すれば作画監督と声優とが表現を持ち寄って1つの演技を作り上げるのである。まさに絵と声とが複雑に葛藤する状況。のはずだが、その葛藤が露呈してはいけないのだ。作画監督は声優が演じやすいように絵を描き、声優はその絵と葛藤を生じないように演ずる。2つのものを組み合わせるがために、アニメの質が上がれば上がるほど、必要以上に統一的な表現、もっといえば平板な表現が生まれるという状況があるのではないだろうか。例えば、名優は言語的な表出と非言語的な表出を微妙にずらしながら演技するといった複雑なことをしているはずである。アニメでもそれは原理的には可能だろうが、表情の声との分業体制によって、言語と非言語の不一致ならば、にこやかな表情で脅迫するといった紋切り型の表現に陥ってしまうのではないか。
山本弘は論理的であることに美徳を見出している作家である。そして『地球移動作戦』は、負の側面が強調されてすっかりダサくなってしまった「科学」の力と、人間の意志の力で未曾有の天災に立ち向かう物語である。いくつかの科学的フィクションを導入した上で、それ以外については科学的に考証してストーリーを組み立てており、その点では大した力業だと思う。もちろん情感に訴えるエピソードにも事欠かない。『日本沈没』に比肩してもいいだろう。
しかしながら、もはやわれわれは広島後、3.11後を生きているのだとは言わずも、善人と悪人しか出てこない物語が厚みを欠くように、科学と非科学しか出てこない物語には謎めいた空虚がないのだ。人間というものは謎めいた空虚を持った存在で、論理的にでもなく、非論理的にでもなく、無論理的に思考し行動する瞬間があるのだ。その無論理に人間的な何かが宿り、謎めいた空虚が物語に魔術的な駆動を与えるはずなのに。
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クライマックスの地球移動作戦の描写は手に汗握った。
仮に文明が消滅するレベルの災厄が現実に起こった時、本書のように人類は団結できるのかと考えてしまう。きっと、本書で描かれたようなテロリズムが発生するのだろう。そういう、愚かな行動に走る人間の描写が現実感があると感じる。
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再接近時の地上でのカタストロフについては、文庫版の発売時期が時期だけに3月12日が色濃く思えますが、原書単行本は2009年刊なんですよね。ちなみに新規追加のあとがきの日付は2011年4月12日。
主たるエネルギー機関にタキオン噛ませているので、情報の時間遡行ももちろん絡んでいます。それが本題じゃないのでかなり地味ですが(無ければ無いで問題ない構成ではある)。
過去への警報で多元宇宙を分岐させている自覚は登場人物にもあるらしいので、当然作戦に失敗した時間軸もどこかに存在しているでしょうし、もっとうまい具合にTASって最良解を導き出した時間軸もあるのでしょう。
本編以外で一つ気になったのは、上巻表紙のマイカかなぁ。あの容姿でツインテはミスマッチだと思うの。もうちょっと童顔なら…。