あらすじ
まほろ市は東京都南西部最大の町。
駅前で便利屋「多田便利軒」を営む多田啓介と、
居候になって丸二年がたつ行天春彦。
二人のもとに、かつてない依頼が……
それは、夏の間、四歳の女の子「はる」を預かること。
慣れないことに悪戦苦闘する二人に、忍び寄る「魔の手」!
まほろ市内で無農薬野菜を生産販売する「家庭と健康食品協会」の幹部・沢村。
まほろの裏社会を仕切る、若きボス・星。
地元のバス会社・横浜中央交通(横中)に目を光らす岡老人。
彼らのおかげで、二人は前代未聞の大騒動に巻き込まれる!
文庫特典 短篇「サンタとトナカイはいい相棒」収録。
解説・岸本佐知子(翻訳家)。
太っ腹の全528ページ。見た目は「最厚」、中身は最高!
『まほろ駅前多田便利軒』『まほろ駅前番外地』に続く、
三浦しをんが心血をそそいだ「まほろシリーズ」
堂々の完・結・篇!
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
『まほろ駅前』シリーズ第3弾。
どうやら今回が最後のお話のようです。
第2弾にも出てきたキャラクターたちが勢揃いして(と言っても残念ながら岡夫人は登場しませんでした)、「狂騒曲」の文字通り「狂おしく騒がしい」感じでしたが、最終話にふさわしい内容だったと思います。
しかし、終盤で南口ロータリーに岡さんたちが出向いたシーンは、何度読んでも面白くて笑ってしまいました。本人たちは真面目にやっているので失礼だとは思うのですが(^^;
「時刻表遵守!」と書かれた旗をなびかせながら行進し、野菜を販売する団体、看板持ちの三つ巴の場所取り合戦は、ぜひ映画でも見てみたいです。
ちなみに「野菜を間引いてもバスは間引くな!」は名言です(。'-')(。,_,)ウンウン
「まほろ市」という架空の街で、一癖も二癖もあるキャラクター達によって繰り広げられる群像劇。
先が気になりすぎて、500ページ超えとは思えないほどサクサク読み進められる疾走感。
あなたもぜひ、多田さんたちと一緒にまほろの街を駆け抜けてみてください!
…と言っても、ネタバレ防止フィルターを使いながらおすすめしてもあまり意味はないですが( ̄▽ ̄;)
岡さんたちの話をどうしても入れたくて、ネタバレにせざるを得ませんでした(*_ _)人スミマセン
Posted by ブクログ
もうこのシリーズの続きが読めないなんて…
悲しい
行天も多田さんもはるちゃんも由良公も登場人物みんな好きでこのあとのみんなのこれからをずっと読んでいたくなるシリーズでした。
まほろ駅のおそらくモデルの地は自分も思い入れのある地なので情景が浮かんでくるのも好きだ。
Posted by ブクログ
めっっっっっっっっっっっちゃ好き。
三浦しをんの描くバディってなぜこんなにもグッと来るんだろう。
風が強く吹いているのハイジとカケルも大好きだった…
まほろ市で便利屋をやっている多田の元に、高校の同級生である行天が転がり込む。二人で様々な依頼をこなしながら、互いが抱える暗い過去に向き合っていくお話。
大きな事件が起こって超展開!ハラハラドキドキ系のストーリーでは全くない。
多田と行天が淡々と、でも確実に絆を育みながらまほろ市の住人たちと生きていく。
まず行天春彦というキャラクターが魅力的。
飄々としてて破天荒、空気は読まない遠慮はしないの超変人だけど実はかなり理性的。そして誰もが認める美形。
奇天烈な言動で多田を振り回すけど、本当はちゃんと多田の顔色を見てるところがまたいじらしい。多田は鈍感だから何も気づいてないけど、だいぶ愛されてるよアンタ…
便利屋への依頼で託児所のサンタ役を多田が、トナカイ役を行天がすることになった際、
子供「トナカイさんはサンタさんにプレゼントお願いしたの?」
行天「このじいさんは、お願いしなくても俺の欲しいもんを全部くれるから」
子供「じゃあ、トナカイさんは幸せ?」
行天「ま、それなりにね」
って言っててさ…
誰の記憶にも留まることなく静かに暗闇に沈んで消えたいと思ってた行天が、多田との生活を通して「幸せ」と言えたことに胸が熱くなった。
あと、
多田「おいそれ縁起悪いんだぞ」
行天「大丈夫。あんたの悪い運は、俺が全部追い払ってあげるから」
これ。これからもずっと一緒にいることを想定してないと出てこない言葉だよね…?
行天、多田のこと大好きじゃん................
多田も、お人好しを差し引いても行天に本気で出ていけとは言わないし。
行天「よし!帰ろう」
多田「どこに?なんで?」
行天「じゃあ俺のことは捨てちゃうの?」
多田「…….....」
行天「アハハッ!」
高校で一度も喋ったことないのに仲良すぎでしょ。
行天がフラッと居なくなった時、周りから慰められるほど、目に見えて落ち込んでた多田が可愛かった。口では文句いいつつも、居なくなるとそんなに寂しいんだ〜〜〜!
この二人の軽口も楽しくて「あははっ」と笑いながら読んだ。なんて心地よく読みやすい文章なんだ…
多田と行天の、友達でも家族でも恋人でもない妙な関係性がとてもよかった。ブロマンスとはまさにこれ。
三浦しをん作品ハマっちゃったよーーー。
ちなみに映画もおもしろかった。瑛太と松田龍平ハマり役だったな。
Posted by ブクログ
まほろ駅前シリーズの最終版。
これまででできた人たちが、少し成長したり相変わらずだったりしながらたくさん出てきます。
最大の見せ場であろう駅前大集合は、さすがに予定調和すぎて好みは分かれるかも知れません。
でもああいう息をつかせないはちゃめちゃなシーンがふっと終わることで物語がリセットされたような感覚があったので、意図的なんだろうなと思いました。
多田と行天も、その後完全なリセットまではいかないまでも過去を咀嚼し消化できた感じがあり、再生しながら生きていくという作品のメッセージを味わえます。
3作のまさに大円団として楽しく読み終えることができました。
Posted by ブクログ
まほろ駅前シリーズ。
素っ頓狂な行天と常識人(行天といるとそうならざるを得ないw)の多田を中心に巻き起こるドタバタ劇。
かと思いきや、本当は闇を抱えたどうしようもない大人たちが、様々な人と関わることでゆっくりと人生を歩んでいくお話。
行天の奇行にだんだんと絆されていくお節介な多田さんが好き。
ただ自分勝手に生きているように見えて、本当は他人を大切に思いやっている行天がすき。
多田さんと行天の、2人の深い信頼関係とそれを決して表に出せない不器用さがとてもすき。
軽く読みやすい文章で軽口が多く、つい笑ってしまう。
でも心に刺さる名言も多くて、登場人物が人間臭いのがまたいい。
読み終わったらなんだか心がすっきりする、そんな本です\( ¨̮ )/
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「正しいと感じることをしろ。
だけど、正しいと感じる自分が正しいのか
いつも疑え。」
Posted by ブクログ
まほろ市で便利屋を営む多田と居候の仰天。三部作の完結編だったんですね。読む順番を完全に間違えました、、、
凪子からの依頼で始まる。仰天の遺伝子上の娘ハルを預かって欲しいという超難題。過去の経験から子供が大嫌いの彼の心を溶かすべく多田は苦心する。
毎日舞い込む便利屋業務のてんやわんやが楽しい。
横中への反旗を掲げてバスジャックを仕掛ける岡じいさん。なますを大量に作る駅裏で夜の仕事をしているコロンビア人ふたり。
「風が強く吹いている」の時に感じたこのチームに混ぜて〜羨ましい〜気持ち、アゲイン!
まほろ市民となって便利屋さん達と友達になりたい!
登場人物がそれぞれに暖かくて面白くてみんな好き。息子を亡くして離婚歴のある多田も過去の傷を抱えているが、新しい恋に出会って変化が起きる。
過去を乗り越えるために慎重に前を向き進んでいく。ほろり涙したり、うっかり声出して笑いそうになったり、明るく前向きになれる読後感最高の一冊です。
Posted by ブクログ
読み始めてから、多分これの前作(多田便利軒)読んだ事ないな、これ二作目だなって気付いたけどまあ良いや。
多田が全部説明してくれるから読んでなくても大丈夫。
行天が好き過ぎる。可愛い。
屋根から布団に乗って飛び降りて失神して
「これ、魔法の絨毯にはなんないよ。かなり痛い」
って言う行天。
凪子さんも多田も、割と嫌いだ。
約束を破った癖に、お前の為になる、なんて。
勝手過ぎる。
自分だったらうざいけど、結果的に行天の為にはなったね。
物語だからこれくらい優しくてもまあ別にいいよね。
Posted by ブクログ
完結した…のですよね? 読み終えた端から多田や行天に会いたい。星やルルたち、由良公も、みんなに会いたい。まだ書けそうな終わり方だけど…と思いつつも、反発し合っていたみんながまとまったから、みんながそれぞれの傷に向き合い、その壁を乗り越えてしまったから、心地よい余韻を残したままで閉じた方がいいのかな。彼らはこれからも変わらないのだろうし。だから、「俺(私)はあんた(たち)のこと、なるべく覚えているようにする」。うん、それでいいんだよね。完結しても、私の中では、彼らの日常は続いている。
Posted by ブクログ
「舟を編む」の静謐な雰囲気が好きな自分としては、本作のドタバタ感とかエンタメみたいな要素に若干違和感があるけど、楽しく読めたしそれなりに感じるものがあった。
自分にとってのざっくりの印象は、一作目が多田の苦悩、二作目が脇役オムニバス、三作目が行天の苦悩 にメインの焦点が当たっていたと感じた。
幼少期の苦痛な経験はそう簡単に克服されないだろうとか、そもそも行天少年の生い立ちは今の行天のキャラには繋がらないのではないかな?など思うところもあるけど、そのようにいろいろ考えること自体が有意義だと思うし、純粋に前進する行天を応援しながら読むことが楽しかった。
多田も行天も脇役たちも、どれだけ悲しい経験をして孤独を感じても、人は多かれ少なかれ他者との関わりの中で生きている。関わることで知らず知らずのうちに前を向くことになる。孤独の中でも忘れたくても忘れない存在はあるし、反対に誰かに影響を与えていたり気にされていたりする。ということを思った。
あと地味におもしろかったのは星と手下が要所要所でいい奴で最後の祝いの輪にも加わってくれていたこと。
Posted by ブクログ
あなたは、『便利屋』を利用したことがあるでしょうか?
私たちの日常は忙しさの中にあります。それは、『子育て中の若い夫婦も、老人も、学生も』、そして『都心まで通勤して会社で働く』方も、それぞれの忙しさの中に毎日を送っています。そんな中にあっては、『ちょっとした雑事をこなすとき、だれかの手を借りられればなと思ったり』もします。それは、こんな時でしょうか?
・『重い簞笥のうしろに年金手帳を落としてしまったとき』
・『庭掃除をしなければならないのに気乗りしないとき』
・『スーパーへ買い物に行きたいのにぎっくり腰になってしまったとき』
本来であれば自分たちでこなせるはずの事ごとであっても時と場合によって、その遂行が極めて億劫に、極めて難しくなることがあります。そんな時あなたならどうするでしょうか?
さてここに、『いろいろな立場や事情の人々』を助ける『便利屋』を稼業とする主人公が登場する物語があります。『まほろ』という架空の町を舞台に描かれるこの作品。一度知ったら頭から離れなくなるくらいに強烈な個性を持った登場人物たちに魅せられるこの作品。そしてそれは、『大儲けはできないけれど、地道かつ堅実な商いで信頼を得てきた』という『まほろ駅前』に店を構える『多田便利軒』に関わる人々のドタバタを描く物語です。
『あけましておめでとーう!』と乱入してきたのは『まほろの駅裏で娼婦をしている、ルルとハイシー』。『便利屋さんたちったら、やっぱり侘びしく二人でお正月を過ごしてるのねぇ』と言われ『べつに侘しくないよ』と答えるのは行天春彦(ぎょうてん はるひこ)。『雑煮的なものだって食べた』と続ける行天に、『頼むから黙ってくれ』と主人公の多田啓介(ただ けいすけ)は思います。そんな中、『そうだ、なますを作ってきたの』とハイシーが『タッパーの蓋を開け、ローテーブルに置』きました。『大晦日の夜』に、荷台に幌を張った』、『無農薬野菜』と幟が立った『野菜の販売車が道端に停まってた』ことから買った野菜で作ったという『なます』。ハイシーは『冷えこみも厳しい』中、『おいしい野菜はいかがですか』と『五歳ぐらいの女の子』から訴えられる『「マッチ売りの少女」戦法に負け』て『多めに野菜を買っ』たと説明します。『幼児虐待で通報したらよかったのに』と行天が答える中に電話が鳴ります。『山城町の岡だ!』とかかってきた電話に『やっぱり来たよ、正月恒例、岡さんからの依頼』と思う多田は『おい、行天。仕事だ』と言うと酒を飲んでしまっていた二人はバスで向かいます。『南口ロータリー』に着いた二人のまえには『家庭と健康食品協会』、『通称「HHFA」』の幟が多数立っていました。『ルルとハイシーが行き合った野菜販売車を運営するのも、この団体だろう』と思う多田は、『何人かの子どもたちも』『駅前の宣言活動』に動員されているのを見ます。そして『遅かったじゃないか』と岡に迎えられた二人は、『横中バスめ、今年も絶賛間引き運転実施中だ』と言われ、『バスの運行監視』をさせられます。やがて『日が西に傾』き『来なかったバスは、一台もなかった』という中、『通りの反対側で、四人の男女が農作業をしている』ことを話題にする二人。そんな中『作業を切りあげ』、『こんばんは』と道路を渡ってきた面々に声をかけられる二人。そんな作業着に『HHFA』という縫い取りを目にする中、『南口ロータリーにいる団体のひとだよね』、『野菜を売ってるんでしょ。宗教?』と『いきなり切りこ』む行天。それに、『そういう誤解を、たまに受けるのですが』と話す沢村という男に『ビジネスとして、安全な無農薬野菜の栽培と販売を手がけてい』る旨説明され『そうだろうね』と友好的にうなずいた行天。そして、仕事を終え帰途に着いた二人。『まほろ市にある多田便利軒の毎日は、こんな調子で過ぎていく』という日々。そんなある日、『はい、多田便利軒です』と電話に出た多田は『三峯凪子です』と名乗る声を聞いて『偽装結婚だったという、行天の元妻だ』と思い、『咄嗟に行天の様子をうかが』います。『実は、多田さんにお願いがあるんです。春ちゃんに知られずに進めたい話』があるという凪子は『私たちの娘のはるを、しばらく預かっていただきたいんです』と要件を説明します。思わず『なんだすって!?』と『言葉を噛ん』だ多田は、『遺伝子上は凪子と行天の娘だが、凪子と凪子の同性のパートナーとともに暮らしている』という『娘のはる』のことを思います。『いやいや、困ります。引き受けられません』と返す多田に強引に話を進める凪子。海外へと赴く必要があり、『一カ月半のあいだ』、はるを預かることになった多田。そんな多田と行天のはちゃめちゃな『便利屋』稼業が描かれていきます。
“駅前で便利屋を営む多田と、居候になって丸二年がたつ行天。四歳の女の子「はる」を預かることになった二人は、無農薬野菜を生産販売する謎の団体の沢村、まほろの裏社会を仕切る星、おなじみの岡老人たちにより、前代未聞の大騒動に巻き込まれる!”と内容紹介にうたわれるこの作品。2006年に第135回直木賞を「まほろ駅前多田便利軒」で受賞された三浦しをんさん。同作品はシリーズ化され、現時点で三作まで刊行されています。その三作目がこの作品、「まほろ駅前狂騒曲
」です。三浦さんの数ある作品の中でも登場人物たちのキャラの濃さと、そんなキャラたちのドタバタぶりが際立つこのシリーズですが、この三作目は”狂騒”という言葉の形容が伊達ではない、はちゃメチャな物語が展開していきます。また、この作品はシリーズ初の長編として構成されていることも特徴の一つです。
そんな物語の舞台となるのが『東京都の南西部に位置するまほろ市』です。『JR八王子線と私鉄箱根急行線(通称ハコキュー)が交差するまほろ駅前は、デパートが林立し、商店街にも活気がある』と紹介される『まほろ』。東京にはもちろんそのような条件下で『まほろ』という街は存在せず、あくまで架空の存在ではありますが、東京を知る方にはそれが、”あの街”を指していることは想像に難くありません。”あの街”の名前をそのまま使っても良かったのだと思いますが、
『JRまほろ駅の裏手は…いまもややさびれた風俗街が広がっていた。線路と並行して流れる亀尾川沿いには、あやしげな長屋が建ち並び、ルルやハイシーら娼婦が客を待つ。亀尾川を渡ると、すぐに神奈川県だ。大きなラブホテルが林立し、何組もの男女が夜な夜な早足で吸いこまれていく』。
といった描写や
『まほろ駅前にある、ゲームセンター「スコーピオン」。その二階に、星は仲間と事務所を構えている。業務内容は、まほろの飲食店の用心棒… まほろ市をシマにしている岡山組とは、仕事上、密に情報をやりとりし、持ちつ持たれつの関係にあるが、盃を交わしたわけではない…まほろの裏社会を優雅に泳ぐ』
このような裏社会の人物を登場させることからも敢えて架空の街にした方が良いという判断なのだと思います。…と書くとこの作品が『娼婦』や『裏社会を優雅に泳ぐ』人物を描写する物語のように思われるかもしれませんが、それはちょっと違います。この作品はそのような人物さえ、しをんさんの筆の下に軽やかに踊らされていきます。そして、しをんさんの描く世界観との相性が極めて良いことにも驚きます。やはり『まほろ駅前』シリーズはしをんさんの一丁目一番地である、改めてそう思いました。
また、この作品の表紙がこの作品をある意味で良く表していることに読後驚きました。青空に飛ぶ二本の煙草というキョーレツな表紙は他に例がないと思います。煙草人口は減少の一途を辿り、最新の統計では喫煙率は16.7%と言いますから煙草も随分とマイナーなものになったものだと改めて思います。私は未成年時代含めて(笑)、煙草を一度も吸ったことも、手に持ったこともない人間ですので、元々煙草に良い印象は持っていません。その意味からはあまり気持ちの良い表紙ではないわけですが、この作品の表紙がこうでなければならない理由も分かります。それこそが、もう全編にわたって登場する喫煙のシーンです。もう山のように登場しますが印象的なものを抜き出してみましょう。まずは、主人公の多田と煙草を描いた場面です。
・『多田は煙草をくわえ、ありがたくもらい火をした。白く細い煙がふた筋、空へ昇って雲に溶けゆく』。
・『多田は作業着の胸ポケットを探り、この店が禁煙だったことを思い出す。間がもたない』。
次に相棒でもある行天と煙草を描いた場面です。
・『とうとう燃えつきた煙草を、行天は再び箱とフィルムの隙間にねじこんだ。ため息をつき、言葉をつづける』。
・『行天は震える指を誤魔化すように、また新しい煙草を箱から取りだした。今度は火を点けず、唇の端にくわえて揺らす』。
どうでしょうか?この作品は『便利屋』を営む主人公の多田と相方の行天が物語を動かしていきますが、そんな二人ともが超ヘビースモーカーという位置付けであり、このように二人が登場する場面には必ずといって良いほどに煙草の描写が登場します。そこに気づくのはこの抜き出しだけでも、多田、行天ともに、それぞれの胸中が滲み出てくるような表現でもあるというところです。煙草をいじる行為に胸中の想いが滲み出てくるような表現の数々。現実世界での煙草の好き嫌いとは別に、煙草を演出道具として用いたこの表現の数々は、『まほろ駅前』シリーズにはなくてはならないもの、そう感じました。
では、そんなこの作品の登場人物を改めて整理したいと思います。
・多田啓介: 主人公。まほろ駅前で便利屋『多田便利軒』を営む。バツイチ。地元の洋食屋『キッチンまほろ』の柏木亜沙子に思いを抱いている。
・行天春彦: 都立まほろ高校時代に多田とは同級生(当時は会話すらしたことない)。二年前に多田と偶然出会って以降、多田の元に居候。
この二人の印象がとにかく強烈です。特に行天は、名前のキョーレツさの延長線上にある存在であり、多田を困らせてもいきます。
『多田は丸二年のあいだ、素っ頓狂な行天の言動に振りまわされっぱなしだ』。
まさしくその通りのキャラクターとして存在感を発揮するのが行天です。そして、この作品のポイントはこの作品がシリーズ第三作目であり、おそらくしをんさんはこの作品をシリーズ最終作、集大成を意識して執筆されたのだろうというところです。一作目、二作目でお馴染みとなった脇役陣が読者が願う通りの行動を見せてくれます。それこそが次の四人でありその存在感、行動は第一作目、第二作目の延長線上にあります。
・山城町の岡: 多田便利軒の常連客。
→ 『自宅のまえを通る横浜中央交通の路線バスが、時刻表どおりに運行されているかどうか、確認せずにはいられない』、『間引き運転を』疑っている
・曽根田菊子: まほろ市民病院に入院中
→ 『少しぼけて』おり、『息子から依頼を受け』『息子を装って見舞の代行』をする多田のことをとても喜ぶ
・星良一: まほろの飲食店の用心棒
→ 『まほろの裏社会を優雅に泳ぐ』中に、この作品では無農薬野菜を販売する『HHFA』の活動に目を光らせていく
・柏木亜沙子: 『キッチンまほろ』社長
→ 亜沙子のことが気になる多田。この作品では、そんな二人の関係やいかに…。
・ルルとハイシー: まほろの駅裏で娼婦をしている
→ 多田と行天に親しげに接する。この作品では如何にも脇役的位置付けで健気に二人を支える
はい、このシリーズを読まれたことのない方には意味不明だと思いますが、前二作を読まれた方には思わずニンマリ、それぞれのキャラクターが定番、お決まりの役割を果たしていく様がお分かりいただけると思います。そういう意味でも極めて安心、安定の中に物語を楽しんでいけるのがこの作品です。そして、そんなこの作品に事件が起こります。それこそが、『偽装結婚だったという、行天の元妻』である三峯凪子からの依頼です。
『私たちの娘のはるを、しばらく預かっていただきたいんです』
『遺伝子上は凪子と行天の娘』という四歳児のはる。その一方で『行天は子ども嫌いだ』ということとのせめぎ合いを見せる物語。なんとも複雑な設定ですが、ここに一体何が起こるのか?行天は父親としての姿を見せるのか?それとも?という物語は想像以上に面白いものを見せてくれます。そして、この作品が凄いのは、上記もした通りシリーズの集大成を見せる しをんさんの熟練の筆が、上記したそれぞれのキャラクターの物語を全て同時並行的に動かす中に、はるの物語を描いていくという離れ業を見せてくださることです。つまり、この作品には以下の物語が同時並行的に描かれていくのです。
・横浜中央交通の間引き運転問題
・曽根田に見舞に行く多田の物語
・星が気にするHHFAを描く物語
・亜沙子へ想いを抱く多田の物語
そこに、
・行天と血の繋がるはるを預かる多田の物語
が重なります。これは凄い!です。物語の概要は全く異なりますが恩田陸さん「ドミノ」、「ドミノ in 上海」の活劇っぽい雰囲気感も感じさせる熱量の高い物語がそこに展開していきます。この作品は文庫本で実に521ページという圧倒的な物量で構成されていますが、スラスラ、スルスルとあっという間に読み切ってしまう、あっという間に読み切りたくなる物語が描かれています。そんなこの作品の〈解説〉で作家の岸本佐知子さんはこんなことを書かれています。
“本作の大きなテーマの一つは〈過去の傷と向き合うこと〉だ”
そう、単なるドタバタ劇ではなく、この作品の背景にどっしりと横たわる、主人公の多田と行天それぞれに見え隠れする”過去の傷”。その存在が物語に深みを与えていくからこそ醸し出される深い味わい、この作品にはさまざまな魅力が詰まった物語が描かれていたのだと思います。
『多くのひとが、忙しい日常のなかでちょっとした雑事をこなすとき、だれかの手を借りられればなと思ったりする…そこで登場するのが、多田便利軒だ』。
『神奈川県との境に位置する』『東京都南西部最大の町』『まほろ』。そんな町の駅前で『便利屋を営む』多田と居候の行天のはちゃめちゃな日々が描かれるこの作品。そこには、絶妙な味を醸し出してくれる脇役たちの好プレーの中にシリーズとしての強みが最大限に引き出された物語が描かれていました。架空の町『まほろ』の魅力に引き込まれていくこの作品。そんな町に繰り広げられる複数の物語を同時並行的に鮮やかに描く、しをんさんの上手さに酔うこの作品。
“三浦しをんが心血をそそいだ「まほろシリーズ」 ここに、大団円を迎えます!”という宣伝文句を伊達ではないと感じる素晴らしい作品でした。
Posted by ブクログ
大好きなまほろシリーズの3冊目。相変わらずドキドキがいっぱい詰まった1冊。小学生から年寄りまでオールスターぶりの個性あるキャラクター達が織りなす展開はまさに『狂騒曲』。シリーズを通し多田と行天が進歩し、2人の間にいつの間にか絆が出来てきた事が暖かく感じた。行天の過去や彼の放つ言葉の重さに感動!いつもだらけてて人間終わった感があって、破天荒な行天はとても自由で憧れます。子供嫌いなのに後には子供に慕われるのも彼のブレない自由さなのかも。本当に行天は神の子かもしれない(笑)探偵の行天に続編を希望したい!
Posted by ブクログ
前作から半年以上、開いてしまったが、すぐにこの独特な世界に戻り浸ることができた。
これで終わりだなんて、とても残念。「また新しい年を迎えた」のだから、是非とも続編を望む。
Posted by ブクログ
シリーズ完結編? 前作同様、いい味だしてるなー。登場人物がみんな憎めない。最後はみんなで鍋を囲むというラストも良かった。はるの可愛らしい仕草も良く書けてる。
Posted by ブクログ
まほろ駅前シリーズ3作目。シリーズ完結編です。
シリーズの中で一番面白かった!
最後のお話は主人公コンビの多田と行天が4歳の「はる」を預かるところから始まります。
その3人のドタバタ生活を様々な形でこれまでに登場してきたバラエティー豊かな人々が関わり、最後は気持ちの良いハッピーエンド。
人間ってみんな人には言えない悩みや過去を抱えて生きてるんだなぁということと、独りに見えてもなんらかの繋がりがあって暮らしているんだよなぁということも実感。オススメです♪
Posted by ブクログ
まほろシリーズ3作目
面白かった
多田便利軒から1年ぐらい経って番外地とこの狂想曲読みました
どんどん面白くなった気がします
ドタバタ感ありつつ登場人物達が魅力的で隣人のドタバタを眺めるように楽しく引き込まれました
読み終わるのが寂しいくらい
多田と行天は今日もまほろでドタバタ生きていそう
三浦しをんさんの描く人々は人間くさくて不器用だけど愛に溢れてる
まほろ駅前狂騒曲
まほろ駅前多田便利軒シリーズ三作目にして完結編。
多田と行天が過去と向き合い未来に進みます。
シリーズを通してまほろに住む人への解像度が上がり、これからも彼らの物語を読ませてほしいと思います。
Posted by ブクログ
『まほろ駅前狂騒曲』(三浦しおん)
P280はいい。
「私は生きたい」と亜沙子は言った。「夫との記憶も、憎しみも、全部抱えてもう一度」愛したい。その思いだけは、何度傷ついても埋没することもかすれることもなく魂に刻まれて・・」
NETFLIX で今は松田龍平と永山瑛太のキャストで観られるらしいけど、私はやはり本を読む方が好きだと思う。3部作をようやく読んだ。この作家さんの文体が好きかもです
Posted by ブクログ
多田便利軒はいつも大騒ぎ
多田を筆頭に同級生で相方の行天
娼婦のハイシーにルル
そこに行天の元妻凪子がハルを預かって欲しいと
同時に起きる依頼やトラブル
そして多田の恋
行天の生い立ち
星とその部下
でも何か癒してくれる不思議な話し
第三弾なので、初見の方は第一弾からオススメ
Posted by ブクログ
3部作の完結編。今までしっかりとは明かされていなかった行天の過去が明らかになり、それと関係した新たな問題が生まれる。1作目の頃と比べると多田と行天の関係は、お互いがお互いにとってなくてはならないものになり、2人が交わったことで2人ともが前に進めるようになった感じがして、読んでいてほっこりした。
Posted by ブクログ
便利屋シリーズ第三弾。
多田と行天は、行天の実の娘のはるちゃんを1ヶ月半預かることになる。過去にトラウマのある2人がはるちゃんと距離を縮める様子にホッコリ。
またHHFAの活動で困っている裕弥のために便利屋に助けを求める由良公や、前々作から続いている岡のバス間引き問題などが重なり、南口ロータリーで騒動になる場面にハラハラ…
小指にケガを負い、病院からいなくなった行天がまた多田の隣に引っ越してきた時、1つの希望が見えた気がした。多田と行天はお互いに実は必要としている存在なんだろうな♪
Posted by ブクログ
1作目、2作目の流れを汲みつつ、綺麗にまとまって終わった。今回は行天の救済がメインかなと感じた。
多田や行天のような壮絶な経験はないけれども、家族や愛といった普遍的なテーマを取り扱っていて、なおかつそれぞれのキャラが立っているから、どのセリフにも説得力があって、自分の人生観も豊かになる作品だと思った。
Posted by ブクログ
よかった!まほろ駅前シリーズの初の長編という触れ込みだったけど、なんやかんなで1番楽しかった。自分が愛してもらったことがないから子供に対して何をするかわからない、だから子供が嫌いという言い分な時点で行天は優しいし、それを見抜いている多田との関係性よかった。お互いにお互いへの後ろめたさと、誰かに軽々しく口にできない過去があって、似たもの同士ではあるけど、全然似てなくて。それでもお互いがいない日常ってどうしてたかな、と思うのがもう上質なブロマンスだよね。行天が出ていっちゃったときに、もしかしたらこのまま分かれてしまうかと思ったけど、ちゃんと戻ってきてくれてよかった。いい話だったな。でもやっぱりわたしは、どう足掻いてもヤクザなのに、ヤクザらしからぬ健康志向で裏でまほろ市を守っている星さんが1番好きだな笑
Posted by ブクログ
あまりの分厚さに、、読み切れるか不安になりつつ、、
でも、読んでるうちに多田便利軒が蘇ってきて、行天、、いたいた。って2人の軽妙なやりとり、周囲の人達にどんどん惹き込まれていった。
老人たちの不穏な決起集会、、ふわっとしたバスジャック面白すぎる、、
Posted by ブクログ
前2作を踏まえてのお楽しみ要素満点。
ページを開いてみて長編になっていることにまずわくわくした。今までの登場人物たちが思い思いに動いていて、それぞれ自分勝手に生きている感じがした。
Posted by ブクログ
1作目から読んでいたのでバス停の時刻表にうるさい爺さんとか生意気な小学生とかヤクザとかメインの登場人物たちがキチンと出ていて感慨深い。
行天のキャラが一貫してブレていないのが良い。
Posted by ブクログ
多田も行天もなんというか色々変わったよなあ。笑ったし泣いた。傷を負った人々の再生の物語だって人は言うと思うけど、俺は多田と行天の信頼と友情の物語として捉えようと思う。ラストにまた指が飛ぶのはちょっと微妙だと思うけども、めちゃくちゃ面白かった。終わっちゃうのが惜しいし、永遠に続きが読みたい。ただベトナムへ行く直前に読み終わって1週間経ってこれ書いてるから細かいところ覚えてないw
Posted by ブクログ
まほろの三作目。1.2作目を読んでないけど、面白い。便利屋は実際は大変なんだろうなー。行天は破天荒だが、芯があるやつで、好かれるやつ。こういう人になれないから、憧れるな。真似できない。