【感想・ネタバレ】枕草子 上のレビュー

あらすじ

大人のための、新訳。北村季吟の『枕草子春曙抄』本文に、文学として味わえる流麗な現代語訳を付す。上巻は、第一段「春は、曙」から第一二八段「恥づかしき物」までを収録。全二巻。

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Posted by ブクログ

島内裕子先生による、北村季吟の『春曙抄』を底本にした能因本系統の本文、現代語訳、解説。

先生は、枕草子 の「連続読み」を提唱されている。章段の前後の関連を意識しながら、文章の流れに沿って読解を進めていく枕草子読書法である。
前書きにあるように、清少納言の自由闊達で機知に富んだ精神の律動を、この「連続読み」によって感じながら、「春は曙」の冒頭から、最後の「物暗う成りて」の跋文までを、現代の幅広い人々に通読してもらいたい、という先生の願いがこの本には込められている。
先生の評には、この段は何年何月何日の出来事であるといった史実に関する解説があえて無い。それは、枕草子をそこに書かれた順序で最後まで通読することが大切であり、枕草子の内部に流れている時間は、時系列ではなく、清少納言の心に浮かび上がってきた順に書かれており、それがと大きな魅力であるからだ、と先生ご自身が述べられている。


先生は、「枕草子文化圏」を提唱されている。枕草子の影響は、鎌倉時代末期の『徒然草』に見られる。しかし、枕草子の本格的な註釈研究が始まったのは、江戸時代初期の北村季吟による『春曙抄』であった。源氏物語などに比べるとずいぶんと遅れをとっている。それでも、明治時代には、枕草子への関心と共感が高まり、その水脈は現代文学にまで流れている。先生の解説では、そうした「枕草子文化圏」についても随所で言及されていて、興味深い。
本文が、『春曙抄』を底本としていることも、それゆえの先生のこだわりとして、面白い。

さらには、現在広く流布している三巻本系統との本文比較も紹介されており、いま、あらためて能因本系統で原文を読むことの意義が、解説によって言外に感じられる。

ところで、定子は父道隆の薨去、さらには兄弟の伊周、隆家の左遷により、悲しみのどん底にあった。枕草子をいつの時点で読んだかは知らないけれど、これを読んだ定子は笑ったと思う。

第二八段は、女のもとから恋人が帰る時の憎たらしい態度、理想的な態度が奔放に書かれている。これを読んだ定子は、可笑しくて吹き出しただろう。そして、一条天皇との逢瀬を思い出し、涙しただろう。この段が笑いで終わらないところが素晴らしい。清少納言は、定子のことを思いながらこの段を書いたに違いない。

四九段「貴てなるもの」で先生は、パステルカラーの色彩が浮かんでくると言われた後に、ローランサンの絵に言及されている。先生によるとローランサンは枕草子のフランス語訳を読んだことがあるとのこと。先生の筆の赴くままの評が本文共々、読む者の想像をさらにさらに拡げてくれる。

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2024年06月14日

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