あらすじ
二〇二二年仏大統領選。極右・国民戦線マリーヌ・ル・ペンと、穏健イスラーム政党党首が決選に挑む。しかし各地の投票所でテロが発生。国全体に報道管制が敷かれ、パリ第三大学教員のぼくは、若く美しい恋人と別れてパリを後にする。テロと移民にあえぐ国家を舞台に個人と自由の果てを描き、世界の激動を予言する傑作長篇。
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Posted by ブクログ
ウェルベック・ミーツ・イスラム教。
フランス大統領選の話だけど、政治ネタは3割くらい。セックスと食事の話が楽しい。
宗教やユイスマンスの話は、よく分からないなりに楽しい。
最近「一夫多妻制って制度化されてないだけで日本も実質そんなもんじゃ?結局、所得が高いやつが愛人とか囲ってるわけで」
って事を知っちゃって、せちがらい。
Posted by ブクログ
服従
都市生活の複雑さと無気力と孤独と現代の行き過ぎた個人主義を、イスラム教の台頭を混じえて主人公が改宗する物語に回収する
作中でも様々な哲学者や文豪が出てきたが、特にニーチェと結び合わせて作品が動いているように感じた
現代文明は人間が欺瞞で固めた虚偽の姿であること、厳格な階層性社会が芸術の進歩を齎すこと、現在は苦しみでしかなく過去と未来への回想だけが救済であること
ユイスマンスの博士論文で評価された主人公は、フランスの大学で教授を務めていた
性欲の減退と中年男性の孤独感を感じながら、孤独な者同士でまぐわりあう虚しさをも感じていた
ユダヤ人の床上手な愛人が心の支えだったが、徐々にイスラム教の党首が支持率を増加していく政治状況を前に、彼女はイスラエルへ逃亡してしまった
心の支えを失った主人公は、大きな悲しみを感じるわけでもなく、夜の虚しさと生活の味気なさだけを淡々と、政治への不安、インテリ達の表層的なパーティー、尊敬に値する政治に詳しい友人と過ごしていく
内戦を恐れ田舎のホテルに身を固めて避難するも、数ヶ月ぶりに帰宅すると大学はサウジアラビアの出資を受けてイスラム教育に手がけるよう買収されていて、返事をしなかった主人公は毎月50万の年金を保証して解雇された
そして母親は孤独の中で死に、数ヵ月後に再婚した父親も幸福の中で死んだ
ユイスマンスのように1度教会で修道僧の体験をしてみるも、タバコしか吸えない状態と、ユイスマンスのようにロマン主義的でいられない自分とを堪能しただけだった
その後大変名誉な仕事を貰い受け、大学の新しいパーティーに出席し、そこで権力者にユイスマンスの論文を通じて評価され、何度かの会合で大学に戻ること、つまりイスラム教に改宗することを勧められた
晴れて最後に、自由に抗し続けた主人公はイスラム教に改宗し、システムに服従して幸福になった
ユダヤ人の女の子は主人公とは対照的な自覚的な被害者で、主人公は無自覚な加害者
母親は主人公が改宗しなかった場合の孤独、父親は改宗(大きな心がわり)をした場合の主人公として置かれている
会話の中で主人公は、最初から家族制度の希薄さが齎す宙ぶらりんの個人主義には批判的で、現代の西洋的でいきすぎた多様性文化にも反対的、ユダヤ人の女の子の前で家父長制を賞賛する
全ての主張に論理的整合性はあっても、情熱は無い、あるのは燻る嫌悪感
危険を危険と認識せず、声を挙げず、慣性だけが保証する安全に安心する
やっと危険に気づいて行動したかと思えば、周囲は変わっているし、その変化にも無感動に無抵抗に適応する政府の都合の良いように飼いなされた日和見主義
そんな現代インテリの苦しみと醜さを凝縮したような主人公と周囲のフランス人が、最終的には正義不正義に葛藤することなく、実存を求め最後にイスラム教の家父長制や一夫多妻、そして大学教授という名誉に身を沈めて行った
主人公は一度田舎に逃避したり、協会で暇を取ったり、自ら政治的会話により情報を集めたり、苦しみながら自由意志を獲得するために抵抗を試みていたが、それでも決して明確で継続的な抵抗ではなかったことに作品を通して主張されている無気力と自由による逆説的な抑圧を感じた
現代の違和感を感じる過度な"倫理"に釘を打つ、戸塚ヨットスクール大歓喜物の作品だ
共産主義と同じく、イスラム教も世界征服した時に初めて幸福を達成すると言うが本当かな?
この本のおかげでディストリビューティズムにも興味が出たし、イスラム教にも興味が出た
「後期のユイスマンスは退屈になったが、退屈を台座に書くことで読めなくは無い代物にしていた」とでもいうように、この作品も無気力を題材に書くことによって、情緒にかけた部分も魅力の1部に感じた
好奇心が沢山刺激されたいい読書体験
Posted by ブクログ
「人間の絶対的な幸福は服従にある」。
2022年のフランス大統領選で、ファシスト党とイスラーム党が決選投票に残り、イスラーム政権が誕生するお話でした。
楽しいの意味はなく、面白かった。
知識や教養は、超越神の前では脆い。インテリほど迎合も早いというのは驚きです、フランスはレジスタンスの国だと思ってたけどインテリはこうなのかな?
この主人公は、再び大学で教鞭を執って生活していくためにイスラームに改宗するというより、何人も妻が欲しい…の方が強そうなのにもやもやするところがありました。もともとノンポリなのも珍しいかも。
外堀から埋められるみたいなところに寒気がしました。その方向からか、と。
実際にこれが起こるかと言われれば8割方無かろうとは思います。でももしも…となれば、このお話の流れは自然に感じられました。
一神教の国でこうなんだから、多神教だともっと容易そう。だけど、男性観で拒否しそう。。
2024年に読んでいるので、解説にあるイスラエル人のご友人の「ハマスの主敵はイスラエル」がつくづくわかります。イスラーム国とハマスがガザ地区で内ゲバやってたのは存じなかったけれど…どちらもスンニ派なんだな。
世界的に世論はパレスチナ支持に傾いてる。イスラーム支持でなく、イスラエルがやり過ぎという方向で。
でももしもイスラエル側が「敗戦国」とされても、それがそのままイスラーム支持という意味にはならない気はします。見方が甘いかなぁ。
Posted by ブクログ
2022年、フランスがイスラム政権下に置かれ、潤沢なオイルマネーに懐柔されてソルボンヌ大学が買収され、女性はブルカを被り、労働を禁止され、イスラム教国になっていく。主人公の文学部の教授は改宗しなければ、教授を続けられずついに改宗し妻を娶るのだった。
世界をリードし、どこまでも個人主義を推し進めた西洋文明が自殺をとげ、人口減少、経済衰退の中、イスラム教を取り込むことでかつてのローマ帝国を復活させようと試みる。
Posted by ブクログ
どうしても惹かれて、本当は本を買っている余裕がなかったのに、一冊なら!と購入。
呼ばれたなー。
というのも、直前に萩耿介『グレイス』を読み。
その前にフリードマン『新100年予測』を読んでいたんですねー。
フリードマンの方は読み終えていたので、ドイツとフランス間のアレコレが気になって手に取ったのは間違いない。
ただ、『グレイス』に出て来たデュルタル神父が、まさかユイスマンス経由でこの作品に繋がってくるとは。呼び本、恐ろしや!
そんな訳で運命的に手にした一冊なのだけど、なかなかすごすぎる。
国民戦線とイスラム党の決選投票。
そこから目まぐるしく変化するフランス内部。
主人公が車で移動するときの、情報から断絶された静かな狂気のシーン。かなり怖い。
選挙ってこんな暴力的に破壊出来るのか!そりゃそうだわ!という発見。
ユダヤ人の彼女はイスラエルへ引っ越してしまうし、女性達は服装もキャリアも穏やかに退去させられることになる。
主人公の最後の決断がまたエグい。
私はユイスマンス読んでないから分からないけど、『グレイス』で感じたデュルタル像から安易に対比させるのに抵抗がある。
なんだかんだ右往左往して、彼が守ったのは女性達が「信仰上」心から捨てなくてはならないものだった訳で。
つまりは孤独を貫くではなく、孤独を癒やしてくれる救いが欲しかったわけですか……。
他の方のレビューにもあったけど、描写が村上春樹に似ているからか、飄々とエグかったわ。
なのに、ディストピア小説って言えるほど、かけ離れた嫌悪感がないこともまた怖し。
これをディストピアと感じる人は、マジョリティかマイノリティか。
選択することで、放棄しなくてはならないものの存在がある。
それは一人一人が自発的に行えることが理想なのだろうけど、国や宗教といった集団に属する限り、個人は時に無視されてしまう。
そうした世界に溶け込み、無視されたものを敢えて見ないようにする力に服従することは、幸福なのか。
何かと考える。ユイスマンスも読みたくなる。
フランス選挙の結果も気になる。
Posted by ブクログ
「女性が投票できること、男性と同じ学問をし、同じ職業に就くことが本当に良いことなのか」という考えを女性の前で平然と語る大学の准教授であるフランソワ25歳。彼はなぜ家父長制が批判されるようになったのか、女性の権利がどうして拡大してきたのか、歴史的にどのような問題があったのかを考えず、昔の男女の役割のほうが自然だったのではないかという、自分に都合のいい部分だけを切り取って見ている。彼の女性観も女性を一人の人間として見るのではなく、男性との関係や役割から都合よく捉えているように思う。例えば、家父長制が復活すれば出生率が上がるという考え方は、女性が自由な意思で選択することを前提としていない。女性の選択肢を狭めることで社会的役割を固定する発想であり、その結果として生じる女性の権利侵害については考えていない。彼は政治や宗教そのものよりも自分が安心できる男性中心の社会を求めているように見える。イスラームへの接近も男性としての地位が保証される社会への憧れに近い。自分に都合のいい秩序なら受け入れてよしとし、その負担を女性に負わせても構わないと思っている。このような若い男性のみ優位に立てる社会は、いずれ弱い立場の人を切り捨てる社会へ進むだろう。女性、子ども、障害者、高齢者へと広がった権利侵害は、最終的には男性自身の自由や選択肢も狭めることになっていく。他者の権利を軽視して築いた社会は、最終的には自分自身の首を絞めることになる。