あらすじ
脱走した凶悪犯。悲劇は繰り返されるのか? 『熊と踊れ』著者の原点。北欧最高の「ガラスの鍵」賞を受賞した〈グレーンス警部〉シリーズ第一作。このミス1位を獲得した『熊と踊れ』の著者のデビュー作、刊行!
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Posted by ブクログ
複数の少女を暴行・殺害した犯人が投獄された後に脱獄し、逃走中にさらに少女を殺害。
ところが、その少女の父親が犯人を射殺してしまう。
父親は殺人罪で逮捕されて裁判にかけられるが、その結末は…というクライムノベル。
ストックホルム市警のグレーンス警部が主人公というシリーズの第1作目ということだが、「名推理で犯人を追い詰める」というミステリ小説的な人物ではなく、悪態をついてばかりの頑固者で感情移入はしがたい。
むしろ本書の主人公は犯人を射殺した父親と服役囚たち。
父親は有罪か無罪か、有罪なら量刑はどれくらいか…ということを考えさせられる内容であり、やるせない結末も含めて非常に印象深い読書体験だった。
Posted by ブクログ
スウェーデン作家「アンデシュ・ルースルンド」と「ベリエ・ヘルストレム」の共著の長篇ミステリ作品『制裁(原題:Odjuret)』を読みました。
「ステファン・トゥンベリ」との共著『熊と踊れ』に続き「アンデシュ・ルースルンド」作品です… 北欧ミステリが続いています。
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北欧ミステリ最高の警察小説〈グレーンス警部〉シリーズ第一作
凶悪な殺人犯が護送中に脱走した。
市警のベテラン「グレーンス警部」は懸命にその行方を追う。
一方テレビの報道を見た作家「フレドリック」は凄まじい衝撃を受けていた。
見覚えがある。
この犯人は今日、愛娘の通う保育園にいた。彼は祈るように我が子のもとへと急ぐが……。
悲劇は繰り返されてしまうのか?
北欧ミステリ最高の「ガラスの鍵」賞を受賞した人気シリーズ第1作。
著者本人による改稿を反映した決定版。
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本作品はストックホルム市警の「エーヴェルト・グレーンス警部」と「スヴェン・スンドクヴィスト警部補」が活躍するシリーズの第1作… 2004年(平成16年)に発表された作品で「アンデシュ・ルースルンド」と「ベリエ・ヘルストレム」のミステリ作家デビュー作です、、、
フィクション作品なんですが、ノンフィクション作品だと言われても納得感のあるくらいの現実感と緊迫感を兼ね備えた作品で、しかも、単なるミステリ作品に留まらず、司法制度や刑務所の問題点を鋭くえぐり出す社会派小説に仕上がっており、特に中盤以降は胸を締めつけられるような感覚を覚えながら、ページを捲る指を止めれない… そんな印象深い作品でした。
4年前に二人の女児を凄惨な手口で暴行・惨殺した罪で服役していた囚人「ベルント・ルンド」が護送中に逃走… 再び幼い少女が犠牲となる可能性があり、ストックホルム市警は総力を挙げて行方を追う、、、
ベテランの「エーヴェルト・グレーンス警部」も相棒の「スヴェン・スンドクヴィスト警部補」とともに捜査に加わる… そんな中、五歳の娘「マリー」を保育園に送り届けた作家の「フレドリック・ステファンソン」は、保育園の門の前のベンチにどこかで見覚えがある男がじっと座っているのを目撃していた。
その後、テレビで「ルンド」が逃走した報道を見た「フレドリック」は凄まじい衝撃を受ける… 愛娘の通う保育園の前にいたのは「ルンド」だったのだ、、、
「フレドリック」は我が子のもとへ急ぐが、悲劇は繰り返されてしまう… 失意のどん底に放り込まれた「フレドリック」だったが、「ルンド」が更なる犯行に及ぶ可能性が高いことを知り、新たな犠牲者が出ることを防ぐため義父の遺品である狩猟用ライフルを手にして、「ルンド」が出没すると思われる保育園へ向かう。
そして、「フレドリック」はターゲットの幼児を狙う「ルンド」を発見… 保育園を警備していた警察官には一言も声をかけないまま、「フレドリック」はライフルの引鉄を引く、、、
「フレドリック」の行動は、マスコミによって大々的に喧伝され一部の人々からは英雄視され、世間から注目される、
娘を失った悲しみをともにする人々、
理由は何であれ、人殺しは人殺しでしかない、と考える人々、
社会が始末できなかった人間を始末して、社会を守った、その勇気をたたえる人々、
復讐を目的とした殺人であったことは明らかだ、だから見せしめのためにも長期刑にすべきだと考える人々、
あらゆる人々の目が「フレドリック」に向けられる。
さらに、地方裁判所で正当防衛による無罪判決が下されたことに刺激を受けた大衆は、画一的且つ曖昧な正義への使命感に昂揚・熱狂する。
性犯罪者への強い憎しみが渦巻く地域で、それぞれが駆り立てられるようにして起こした行動が、思わぬ結果を招く… 国家体制・機能への不信と憤りをもった人々は、警察を無視した性犯罪者狩りを始め、私刑はエスカレート、制御不能となる、、、
或る瞬間を堺に、異常へと変わる日常… 極めて粗暴な制裁が下層社会までまかり通り、悪夢のような憎しみの連鎖が展開される。
そんな中、地方裁判所で一旦、無罪の判決を受けた「フレドリック」だったが、検察側の控訴により控訴裁判所で再審が行われ懲役十年の判決を受ける… そして、「フレドリック」は、入所したアスプソース刑務所で幼児性愛者と誤解され、そこにも悲劇が、、、
犯人逮捕後の、殺人者をどう裁くかという罪と罰の命題に焦点があてられた作品でしたね… 犯人逮捕で一件落着ではなく、社会的な影響も含めて、罪に値する罰に何が相応しいかということを考えさせられた作品でした。
原題の『Odjuret』って、直訳すると『怪物』 『野獣』という意味なんだそうです‥ 一見、怪物は凶悪犯で更生の見込みのない殺人者「ベルント・ルンド」であることは明らかなのですが、、、
物語が進むにつれて、怪物は他の人々にもとりついているように見えるんですよね… 他人の命を奪うことで、子どもの命を守れるとしたら、そうすべきなのか? 人の生命の価値を、同じ人間が決めてしまうことは、果たして許されるのか? それが許されるとき、怪物が生まれるのではないか? 考えても、考えても、答えの出ない難しい命題だと感じました。
読んでいて苦しくなる… 胸を締めつけられるような感覚が離れない作品でしたが、、、
それでも、「アンデシュ・ルースルンド」と「ベリエ・ヘルストレム」の作品を次も読みたいと思います。
以下、主な登場人物です。
「フレドリック・ステファンソン」
作家
「マリー」
フレドリックの娘
「アグネス」
フレドリックの元妻。マリーの母親
「ミカエラ・スヴァルツ」
フレドリックの恋人。保育園職員
「ダヴィッド・ルンドグレーン」
マリーの友人
「レベッカ」
フレドリックの知人。牧師
「ベルント・ルンド」
アスプソース刑務所に服役中の連続殺人犯
「レナート・オスカーション」
アスプソース刑務所の性犯罪者専用区画長
「スティーグ・リンドグレーン(リルマーセン)」
アスプソース刑務所の一般区画の囚人
「ヒルディング・オルデウス」
アスプソース刑務所の一般区画の囚人
「ヨッフム・ラング」
アスプソース刑務所の一般区画の囚人
「ドラガン」
アスプソース刑務所の一般区画の囚人
「スコーネ」
アスプソース刑務所の一般区画の囚人
「ホーカン・アクセルソン」
性犯罪者
「ラーシュ・オーゲスタム」
検察官
「クリスティーナ・ビヨルンソン」
弁護士
「シャーロット・ヴァン・バルヴァス」
判事
「ルードヴィッグ・エルフォシュ」
法医学者
「ベングト・セーデルルンド」
タルバッカ村の建設業者
「ヨーラン」
ベングトの隣人
「エーヴェルト・グレーンス」
ストックホルム市警警部
「スヴェン・スンドクヴィスト」
ストックホルム市警警部補
Posted by ブクログ
アンデシュ・ルースルンドのグレーンス警部シリーズ第1作。初読。
冒頭の残酷描写から始まり、ただただ胸糞悪い展開が続く。読んでいて辛かった。。。鬱々としたストーリーではここ最近では一番かも。これぞ北欧小説だなぁと。
冒頭に脱獄する犯罪者がとんでもない化け物(原題も「怪物」のようなニュアンスらしい)。あまりにも理解できない、意思の疎通もできない、どうしようもない怪物。その犯罪者に狙われた娘と、その父親の顛末が描かれる。。。と思いきや。中盤以降、全く予想もしていなかった展開に。憎しみの連鎖というか、悪い方向に転がり落ちていくってこういうことだよなと。読み終えて、邦題の「制裁」に納得。
あまりの報われなさと意外な展開は非常に良かった。が、グレーンス警部が全く活躍しない笑。デビュー作らしいので、シリーズ化する考えがなかったのかも。ミステリ要素もほぼないため、その点だけ気になった。
Posted by ブクログ
「3秒間の死角」が面白かったので、グレーンス警部シリーズを追いかけてみようと手に取った1作目。
オモロい、サスペンス描写も良く展開も読めずハラハラドキドキできて、何よりテーマも良いぞ。
(以下ネタバレ)
死刑制度のないスウェーデンでは、児童虐待レイプの連続犯であっても、刑期を勤め上げれば(あるいは精神鑑定を受ければ)刑務所を出所できるらしい。そんな極悪犯を私的に処刑する事の是非。その処刑を世論が支持し私的リンチが流行する怖さ…
でも、俺も娘を作中のような残酷な目に会わせた犯人がいたら、法律関係なくブチ殺そうとするだろうな。人間は社会があって初めて人間たるんであろうけど、作中のお父さんのような目にあえば、社会とかマナーを守れず、自分から社会の一員であることを諦めることになると思う。
そんな被害者の立場と守るべき社会の秩序を、警察や司法はどのように取り扱うのか。今更ながら思えば、警察官や検事や裁判官もとても難しい判断を強いられる仕事なんだなぁと思ったりした。
Posted by ブクログ
娘を幼稚園まで送り届けた後、テレビを付けると見覚えのある男が映っていた。性犯罪者が脱走したというニュースだ。嫌な予感を抱きつつ、幼稚園まで引き返すが…。
憎しみと悲しみ。喪失。虐待の暗い記憶。
娘を殺した犯罪者を殺す父親。一度は無罪となるが、上告されて有罪となってしまう。投獄後、過去の虐待の記憶に悩まされる受刑者によって性犯罪者と勘違いされ、殺されてしまう。しかし、父親が殺した犯罪者の次のターゲットは、その受刑者の娘だった。彼は娘の命の恩人を殺してしまったのだ。
Posted by ブクログ
アンデシュ・ルースルンドの本は、『熊と踊れ』から入り、『ボックス21』を読み、この『制裁』で3冊目。
色んな立場の人の視点から物語が進められるが、それぞれの立場に、感情移入することができるのが不思議。
今回も、犯罪を通して社会問題や倫理の問題を投げかけられた。
自分の中で考えを纏めるのに時間がかかりそうだが、人が人を裁くって難しい。
訳者あとがきより抜粋
『他人の命を奪うことで、子どもの命を守れるとしたら、大人はそうすべきなのか。そうやって、人の生命の価値を、同じ人間が決めてしまうことは、果たして許されるのか。それが許されるとき、怪物が生まれるのではないか……。』
しばらく考えてみる。
次は『死刑囚』!
Posted by ブクログ
面白かった。
「制裁」という日本語を噛みしめる。
戦争にしても殺人にしてもいじめにしても、それぞれの立場に立った時に見える景色は違う。
考え続けること、思考停止しないことしかない。
ただ1人、犯人だけは本当に最低!と思ってしまうのだが、
またそこにも落とし穴を感じて、薄気味悪い。
Posted by ブクログ
人は誰かのために何かを為すことは多分できない。だから社会は不完全だ。でもその社会の中でしか生きられないのも人なのだという矛盾を強く感じる。
テーマは重いし、救いはないし、読むのが辛いけど読まなきゃいけない気がしてとても疲れる一冊でした…
あと訳がやはり素晴らしい。北欧ミステリなのに誰が誰だかわからん!てならなかったのは翻訳の手柄もあると思います。
Posted by ブクログ
アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム『制裁』ハヤカワ文庫。
2007年にランダムハウス講談社より刊行されたグレーンス警部シリーズ第1作を、著者による改稿を反映した上で再文庫化とのこと。既にランダムハウス講談社版を読んでおり、再読となる。
日本人作家であれば、薬丸岳が取り上げそうなテーマであり、非常に考えさせられる警察小説である。愛する娘を殺害された父親の犯人への復讐の是否を問う問題作。
幼い二人の少女を毒牙にかけ、殺害した卑劣な性犯罪者ベルント・ルンドが移送中に脱走する。脱走したベルント・ルンドは再び一人の少女を殺害する。殺害された少女の父親フレデリック・ステファンソンは犯人に復讐するが…
帯に、『熊と踊れ』著者による警察小説、刊行開始!とあるので、今後、ハヤカワ文庫から『ボックス21』『死刑囚』が再刊され、未翻訳作品も刊行されるのかも知れない。
Posted by ブクログ
なんともやりきれないストーリーだけど、一気読み。検察官のそれでも殺人は罰さなければならないも分かるし、周りの気持ちも理解できる。フレデリックの行動やその後のどうでもいい気持ちも分かる気がする。救いのない終わりだけど、面白かった。
Posted by ブクログ
プロローグからおぞましい。あまりのおぞましさに不意打ちで引き込まれてしまった。途中でもしかして別人を制裁した?と思ったけど、そんなことはなく。
正義という名の下に市民によるリンチがどんどん増していく。
死刑制度と社会と人間について考えさせられた。
Posted by ブクログ
つらい描写の続く話でした。
なのに読まずにはいられませんでした。
この描写は、読みたくないと思う人がいるかも…
イアン・バンクスの蜂工場が大丈夫だった私でさえ、昼ごはんがつっかえました…
ただのフィクションではなく、自分自身はどう対峙するか、世間はどう動くのか。
自分の正義は本当にうまく何かを導けるのか…
いろいろ考えさせられました。
そして松本清張的なものを感じました。
5にするには読み手を選ぶ…でも、スゴい作品でした。4では少ない、4.5くらい。
シリーズを続けて読みたい…なんとかしたい…と思っています。
原題はOdjuret 怪物、野獣という意味だそう。
スカンジナビア語ですよね。
だれが怪物なのか。
2017年に購入。
最初からキツい書き出しに、購入当時は読みにくいなあ、と思っていました。
最近脳みそが読書になじんできたので、今回はさらさらと読めました。
内容が内容だけに、おもしろかったという感想にはならない。本当に痛ましい描写の連続でした。
Posted by ブクログ
女児暴行・殺害の罪で服役中の囚人が護送中に逃走
事件はそこから始まる
自己満足のために卑劣きわまりない犯行をおこす性犯罪者の視点
子どもの頃に性的虐待を受け、その記憶を呼び覚ますあらゆるものを氷釘で刺そうとする囚人の視点
最愛の娘を殺され、それでもなんとかして生きていかなければならない親の視点
犯人を捕まえるために総力を挙げて行方を追う警察の視点
物語は大きくこの4つの視点で進んでいく
そして、それぞれが駆り立てられるようにして起こした行動が思わぬ結果を招き、悪夢のような憎しみの連鎖が展開されていく
もちろん本作はフィクションだが、フィクションでも現実社会でも幼い子どもの死は本当に心が苦しくなる…
もちろんこんなことは考えたくないが、もし実際、幼い子どもをもつあなたが本作の様な事件に巻き込まれたらどうする…?
犯人に対して行った行動が理解できるか?できないか?
それは、この物語を読んだひとりひとりが自分なりの答えを出すのではないだろうか
Posted by ブクログ
怪物をめぐる人間の話、そして怪物となった人間と社会をめぐる話、とこの本は評せるかもしれません。
冒頭の描写からどきつい……。女児に性的暴行を加え殺害し捕まった男。その怪物の思考と、犯行の描写の残虐さに、自分はいきなり物語にぐいとつかまれました。
その怪物が移送中に逃亡。物語は様々な人物の視点を通し、重層的に描かれます。
途中まで読んだ段階では、逃亡犯を追いかけるサスペンスなんだな、と自分は思っていました。しかしこの小説は、徐々に社会派小説の様相を呈してきます。
事件が起こした波紋は、当事者たちの思惑や真意を超え、正義心となり、怒りや憎悪へ変化し、司法関係者や普通に暮らす前科犯にも及びます。
こうした描写はSNSによる炎上が身近になった最近の方が、より身近に感じるかもしれません。作中の市民たちの感情は理解できるものの、それに対しての安易な同調は、自分の中の怪物に餌を与えるようなものだとも思います。
それぞれの正義と秩序で揺れる人々と社会。そして悲劇に対しての悲しみの描写。いずれの描写力も確かです。そして、そこから問いかけられるのは、自分の中の正義と罰や倫理感。そして犯罪者の処遇と、社会の在り方についてだと思います。
単なるサスペンスの枠を超え、怪物の存在を、正義と罰を、その暴走を描き、読者である自分にも問いかけてくる、力ある小説でした。
Posted by ブクログ
原書のタイトルは獣(ODJURET)。
日本語のタイトルは「制裁」
犯人、刑務所の人々を「獣」として捉え、普通の人間社会でその「獣」たちが荒れ狂う姿を著者はタイトルに込めたのかもしれない。
しかし、日本語のタイトルの方がより明確なメッセージとして本書のテーマを表している。「制裁」の前に無力となった「法」に、人の中に巣食う暴力と差別意識が暴れ出す。
何が正義で、正しい制裁はあるのか?を考えさせられる良質の警察小説。
Posted by ブクログ
北欧の新進作家として高い評価を得ているルースルンドとヘルストレム合作による2004年発表のクライムノベル。暴走する群衆心理の怖さを主題とし、息苦しく虚無的な展開で読後感は重い。
4年前に二人の少女を強姦/惨殺した凶悪犯が護送中に脱走、その足で幼児を拉致して殺す。子どもの父親は憤怒の念に駆られて復讐を決意。遂には殺人者を追いつめて、娘の仇を討つ。報復行為はマスコミによって大々的に喧伝される。刺激を受けた大衆は、画一的且つ曖昧な「正義」への使命感に昂揚/熱狂する。そこには、犯罪者の人権を優先し、新たな犠牲者を出す危険性を考慮しない国家体制/機能への不信と憤りがあった。警察を無視した性犯罪者狩りが始まり、私刑はエスカレート、制御不能となる。
或る瞬間を堺に、異常へと変わる日常。
無常にも愛する者を殺された時、法の裁きに委ねるよりも、己自身の手で罰を与え、復讐を成し遂げたい。例え当事者でなくても思うことだ。さらに、異常者による無差別殺人、それが誰の身にも起こり得た情況であり、殺害方法が冷酷/残酷であればあるほど、憎悪は増し、犯罪予備軍の脅威が高まる。
遺恨を持つ者による断罪をマスメディアが正義の行為として黙認し、「悲劇のヒーロー」として持ち上げ、より一層大衆を煽った場合、極めて粗暴な「制裁」が下層社会でまかり通る。たかが外れ倫理観を失い、怪しい奴は排除せよという暴力の標榜へと向かう。殺人者との〝狂気の差〟は、当然のこと縮まり、同化していく。無法化は、享受する者が無価値と判断した時点で起こるのである。
罪と罰の命題は、ミステリ小説の根源的テーマでもあり、殺人者を「どう裁くか」に焦点を当てた作品も増えている。娯楽性重視の〝本格推理もの〟であれば、メインの謎解きと解決で幕を閉じれば終わりだが、犯罪の〝質〟の異常性がより深刻化している現代に於いては、犯人逮捕で一件落着ではなく、社会的な影響も含めて、罪に値する罰に何が相応しいかという提議も、重要な意味を持つ。本作は復讐譚の「その後」を重点的に描くことで、極めてアクチュアルな問題提起をしていると感じた。
決着を明確に提示しやすい〝法廷もの〟は別として、物語の大きな山場ともなる罰のあり方、つまりは結末の付け方は作家の腕の見せ所でもある。クライムノベルやハードボイルドでは、大抵は暴力的な結末へと至り、善悪関わらず殺人者の死を持って終結することが多い。本作は突き詰めれば、その因果応報に沿うものだが、最後に待ち受ける復讐者の運命はあまりにも哀しい。揺るぎないはずの「正義」を容易に打ち砕く不条理こそ、この物語の終幕に相応しいとは、何たるペシズムか。
Posted by ブクログ
北欧の警察小説って、やっぱり、どこか独特。って言うか、ハッピーエンディングじゃないよね?
そもそも、この作品の事件自体が陰惨な訳だけど、実はそれは想像上の産物と言う訳では無く、実際に起きた出来事と言うのも衝撃的。
それとこの作品で興味深かったのが、スウェーデンの刑務所事情。服役した経験のある人物が、作者の一人なので、詳しいのは当たり前なのだろうけど、ものすごく開放的。刑罰と言うより、教育と言う感じの刑務所。そう言う日本とは異なる制度の描写も、見どころかも。
Posted by ブクログ
さらわれた娘救出劇なのかと思って読み始めたら、なるほどそうきたか。
さすが北欧ミステリー、容赦ない。
答えの出ない重いテーマにこれでもかってぐらいダークな展開で読み応えあり。
小細工なしでここまで衝撃のラストにできるのはすごい。
視点がころころ変わるしスウェーデンの人名地名が聞きなれない響きで難しいから丁寧に読まないと置いてかれそう。
Posted by ブクログ
作中何度か突きつけられるような
テーマと描写があり
そしてラスト
さらにはあとがきすら
問題を突きつけてくる。
この本を読んでから、子供を連れて
女の子用のおもちゃの人形コーナーに行く都度
置いてあるバラバラに荒らされた
おもちゃの家と女の子の人形を見て
この本のことを思い出してしまう。
Posted by ブクログ
鬱度がハンパない北欧ミステリ小説。
登場人物が多くて名前も覚えにくいのが難だが、バラバラに進んでいたお話が終盤どんどんつながり収束していく。これぞ小説の醍醐味。
タイトルの「制裁」には何重もの意味がある。
グロいだけでなく、いろいろ考えさせられる話だった。
Posted by ブクログ
ガラスの鍵賞受賞とのことだったので、本格推理ものかと思い読み始めたが、想定外のストーリーだった。
日本は世界でも数少ない死刑制度存置国なので、フレドリックへの反応はスウェーデン以上になるのかなと思った。
それにしてもスウェーデンの刑務所の自由さ、驚かされる。
Posted by ブクログ
「悪童」の解説でみかけて。
ミステリーとは謎とその解だ。
謎は殺人だったり、盗みだったり、客の不審な態度だったり、
解は犯人だったり、動機だったり、過去だったりする。
主人公の恋愛に夢中になったり、
美味しそうな食事に心を奪われたりすることもあるが、
それだけではミステリーではない。
謎解きの過程を楽しみたいという希望はあるが、
残念ながらすっとばされることもある。
全ての謎に解が与えられる訳でもない。
しかし、謎と解がなければミステリーではない。
それゆえ、この作品はミステリーではない。
少女が残虐な殺され方をしていても、
被害者の家族が悲しんでいても、
刑事や検察官が犯人に同情しようがしまいが、
ミステリーではない。
どこにも謎がない。
謎がなければ解はない。
犯人は最初からわかっているし、
復讐も予想通りだし、
警察は何もしていない。
ああ、もしかしたら謎がなくても「どんでん返し」、
意外な展開、結末があれば良いのかも。
もちろん、それもない。
残虐な事件や登場人物の悲惨な過去を読まされただけ、
ミステリーではなく、
現代社会の矛盾を描く社会派小説といえば良いのか。
それともこれが北欧ミステリーなのか。
Posted by ブクログ
5月-13。3.0点。
幼女殺人犯が、護送中に逃亡。また5歳の少女を陵辱し殺人。
被害者の父親が警察より先回りし、犯人を狙う。
ラストはそれなりに衝撃。まあまあ。
Posted by ブクログ
タイトルが全てを語っているのだが、最初はサイコスリラーっぽい話かと思ったが、どんどん、ストーリーは拡がって、最終的に、解答は出なかったのでは。