あらすじ
北には山脈が横たわり、海ほどもある湖をぐるりと囲んでいる森。そのまん中に穴がひとつ、口をあけている。ある日、大きな兄と小さな弟がその穴に落ちてしまった。深さおよそ7メートルの穴からどうしても出られず、何か月も木の根や虫を食べて極限状況を生きのびようとする。外界から遮断された世界で、弟は現実と怪奇と幻想が渾然一体となっためくるめく映像を見はじめる……。どうして兄弟の名前と年齢が明かされないのか。なぜ章番号が素数のみなのか。文章に織り交ぜられた不思議な暗号が示すものとは。著者によって綿密に構成され、さまざまな寓意に彩られた物語は、読後、驚愕とともに力強い感動をもたらす。暗黒時代を生きる大人のための寓話。
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Posted by ブクログ
サッチャーとブレヒトの言葉で幕をあけカミュの言葉で閉じるこの物語は、暗黒時代に生きる人たちのための寓話、ということなんですが、2013年に書かれたものなんですよね。もう明るい時代なんてくるんですかね?
とにかく真っ暗いお話です。兄弟ふたりが深い穴の中に落ちちゃって、そこで這いあがれずに木くずやイモ虫なんかを食べて過ごすんです。章立ては素数。散りばめられた暗号たち。そしてまさかの結末。す、救いがない……。
ネタバレしちゃいますが、これは革命のお話ですね。深い穴ぼこをクルッとひっくり返さない限り俺たちに明日はない。しかし問題はこの「明日」ってなに? ってところ。なまじ明るい電気のもとで暮らしちゃってるから……。
Posted by ブクログ
とても、怖い。怖い、怖いと呟きながらぐいぐい読まされてしまう。そして時々、抉られるようなフレーズに声も出せずに泣く。これだけ限定的な設定で極限の状態だけを丹念に描写していくのが凄いと思った。叩きのめされたけど、読んで良かった。多分時々思い出してしまう作品になると思う。
Posted by ブクログ
久しぶりにすごい本にあたった感じ。
深い穴に落ちてしまった2人の兄弟が
力を合わせて地上に出るおとぎ話的な
イメージで読み進めると、とんでもない。
非常に生々しい描写で、ある意味
非現実的な物語だった。
文中には謎めいた部分や意味不明な表現が
出てきて、なんなんだろう?と思っていたら
あとがきで訳者が見解やヒントを載せていた。
それを読んでもわからなかった部分は
グーグル先生に聞いて答えを知ったりした。
オチとしてはありがちな感じであったが、
大人の寓話と謳われるだけあって、
作品が描かれた時代背景に重ねると
見えてくる裏のメッセージがあったりして
凝った作品なのだな、と感じた。
Posted by ブクログ
映像でみるのは憚られそうな過酷な話だった。
これが権力者とそれに屈せざるを得ない弱者のいる現実世界を反映していると思うと、やるせない気持ちになる。
筋トレを続けたり、食糧分配比を決めた兄を思うと、当初から弟を助けるつもりだったんだなと思う。
負の感情をぶつけ合いながらも、お互いを想い合う姿に温かいものを感じたりもした。
Posted by ブクログ
題名のとおり、深い穴の中に落ちてしまった兄弟のサバイバルな物語。
内容は暗く、緊迫していて、とにかく恐ろしいが、文体にはおとぎ話のような雰囲気があり二人の対照的なキャラクターも相まってどこか安心して読める余地もある。さまざまな寓意が巧みに組み合わされ、1回目ではよくわからなかったことが2回、3回と読むにつれわかるようになるのが面白い。
母親を権力者、兄弟を底辺にいる人を暗に示しているようで、暗号を解読してみるとどうやら政治的なメッセージが込められた作品のようだととれるが、それだけではない重厚さを感じられた。
良質な考察系インディゲームを楽しんだ後のような満足感。