【感想・ネタバレ】文庫版 書楼弔堂 炎昼のレビュー

あらすじ

語は呪文。文は呪符。書物は呪具。足りぬ部分を埋めるのは、貴方様でございます――。時は明治三十年代初頭。気鬱を晴らそうと人気のない道を歩きながら考えを巡らせていた塔子は、道中、松岡と田山と名乗る二人の男と出会う。彼らは、ある幻の書店を探していた――。迷える人々を導く書舗、書楼弔堂(しょろうとむらいどう)。田山花袋、平塚らいてう、乃木希典……。彼らは手に取った本の中に何を見出すのか? 移ろいゆく時代を生きる人々の姿、文化模様を浮かび上がらせる、シリーズ待望の第二弾!

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Posted by ブクログ

ネタバレ

目次
・事件(田山花袋)
・普遍(添田啞蝉坊)
・隠秘(福來友吉)
・変節(平塚らいてう)
・無常(乃木希典)
・常世(柳田國男)

目次の後の括弧書きは、弔堂が本を売った相手。
ただし、柳田國男は全ての作品で本を購入しているが、彼のための一冊とは自分自身で後に著す物のことだろうとの店主の言葉。
の本の語り手である天馬塔子も何冊か本を買っているが、彼女はフィクションの人物と思われる。
後々の自分のために記しておく。

多分作者が描きたかったのは、柳田國男が民俗学の入り口に立つまでの、煩悶する姿だったのではないかと思う。
一冊を通して、抒情派詩人として人気を博しておきながら詩と決別し、中央官吏を目指しながら、共通語では語ることのできぬ地方の人々の暮らしと文化に思いをはせる生真面目な学生としての柳田國男の姿が語られる。

が、白眉は乃木希典を描いた『無常』だろう。
ここでは、客である乃木希典は多くを語らず、店主の方が強く厳しく客を諫める。
戦争は国益のためにするもので、徳のない蛮行、そこに義などないと断ずる。
侵略であれ国防であれ、殺し合うなら同じこと。
陛下のために死ね、義を通すために死ねと謂われて、兵隊が皆死んでしまったとして、それで敵国が降伏したとしても、それは勝ちなのですかと畳みかける。
何よりも賢く勝とうとするならば、戦をしないことですよ。戦わずして勝たぬ限り、真の勝ちはない。

これほど強く、店主が客にものを言ったことがあっただろうか。
旧知の仲とはいえ、あまりにも厳しい物言いに、読んでいるこちらの方が怯みそうになるが、この店主の言に対して乃木希典が行ったことは歴史の知る通り。

女学生の平塚らいてうが出てくる『変節』もまた、面白かった。
男尊女卑、家長制度は、日本古来の伝統であり文化であるというのは間違いで、これは単なる武家の伝統である、と。
「女は家を守らなければならない」のは、男は外で戦う(死ぬかもしれない)から。
そして同じ頃、商家には商家の、農村には農村の伝統があり文化があった。
特に農家では女性は重要な働き手なので、年配の女性を刀自(戸主の意)と呼んで敬っていたところもある。
家長を拡大していくと、国にとっての家長である天皇崇拝に繋がり、天皇家のもとをただすと天照大神(太陽の女神)に繋がっていく。

よく考えると明治維新というのは武士だけが起こしたクーデターなんだよね。
だからいろんなことがひっくり返ったのに、武家の伝統だけが残された。
武士が起こしたクーデターということは軍事クーデターであり、だから明治政府は素早く陸海軍と警察を薩長で固めたんだな、とか、いろいろ思うところあり。

いつもより体温高めの京極夏彦でした。

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2025年07月08日

Posted by ブクログ

ネタバレ

めっちゃよかったです!
松岡さんの正体は早い段階でわかりましたが若い時期に自ら進む道を懊悩している様子が描かれており、勿論それは京極夏彦の世界の話であることは承知ですが、かの偉人がとても近くに在るような気持ちになりました。
たまたま福崎町へ旅行した直後に読んだせいもあるかな。
そして今回神保町への旅行の共に読んでいたので、本屋さんへの興味もひとしお。

0
2024年04月23日

Posted by ブクログ

ネタバレ

歴史上の人物が、本当にこんな人間だったのではないか、と思ってしまうくらいのキャラクターへの丁寧な肉付け。
読後に歴史を洗っていると、私が作中で出会った人間たちが歴史の中にいて、今の日本を作ってきたのだと、不思議な感覚に陥る。
登場人物への理解と人間描写の巧さ、圧倒的知識をもつ京極夏彦の素晴らしさ。

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2021年02月25日

Posted by ブクログ

ネタバレ

濃い。

今回もとびきり洗練された言葉の渦に
呑み込まれてしまいそうだった。

ほぼ全編でオマージュされた柳田國男の
頭の中まで覗き込んだような感覚に
思わず眩暈すら覚えた。

今作の狂言回し 塔子の存在も大きい。
実在の偉人たちとのやりとりは格別。

早くも三作目が待ち遠しい。

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2020年09月30日

Posted by ブクログ

ネタバレ

シリーズ2冊目と言うことで、今回もその人に必要な一冊を提供する不思議な本屋の話。
明治時代の文豪、文化人が登場し、ほぼ最後に正体を説明してくれるので誰であったのかワクワクしながら読めたのだが、勉強不足により半分はわからなかった。
後でネットで検索。知らなかった人を調べるのも楽しい。

「事件」では田山花袋がメイン。自分は殆ど古典などは読んでないのだけど、「蒲団」は既読であり、田山花袋の顔も知っていたので紹介されているシーンから興味深く読めた。
「無常」で登場した、乃木希典将軍。
中将になっても決断を間違え、卑怯者であると自分を卑下する。泣き虫で迷ってばかりの人物像に弱さを感じるが当時五十歳近くと自分と同年代であったので立場は違い過ぎるが迷いながら生きているところには共感できた。
最後は自決という道を選んでしまったが、店主の言葉や気持ちが届かなかったのか、何か強い思いがあったのかわからないが、やりきれない気持ちに。
しかしこの方自身にも更に興味が湧き、もっと知りたくなった。

四部作らしいので、次巻にはどんな偉人が登場するのか楽しみ。



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2023年07月19日

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