あらすじ
「使の者」、いまで言う“便利屋”を生業にしている猪三郎、「団扇売り」の鹿之丞、そして、楊枝屋「姿屋」の看板娘のお蝶。そんな三人を、親代わりで面倒を見てきたのが湯屋「萩の湯」の主人夫婦だが、実は、それは全て南町与力の村雨卯之助の命を受けてのこと。村雨は三人を「いざという時に使える」よう、幼い頃から武術を習わせていたのだ。そんな折、萩の湯の女湯で同心が殺される事件が起こった。
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事件に係わる異色の仕事人
長崎奉行だった筒井和泉守が江戸、南町奉行に着任する際、混血の3人若者を連れてきた。名前は猪三郎と鹿之丞で深川一色町で湯屋の裏長屋に住んでいる。そして同じ深川黒江町楊枝屋の看板娘として働くお蝶。この3人組が外国渡りの武器を使い、地元の悪者を退治するという痛快な物語だ。南町奉行内与力の村雨卯之介は和泉守の配下にいて、これら3人を家来にして町の治安と安全を守る物語だ。
第一話は、美人の深川一番の売れっ子芸者、大吉姐さんを追いかける二人の男。大店の息子の福助と旗本侍の平川市之進が起こした事件だ。
とにかく、女を巡っての争い事は執念深いものである。慕いが深くなればなるほど危険を孕む。福助が殺されたが、向島の岡っ引き、米六が嘘の証拠をでっち上げ、猪三郎を福助殺しの罪で捕まえる。南町同心の守本が彼を救い出す。村雨も推理を働かせて探索すると、米六を裏で操る男の存在が…それが旗本の平川市之進だった。平川は、自らがばれないようにと手口が込んだ犯行を企てるが、目当ての大吉までも殺してしまう。
第二話では、前述の守本が萩の湯で殺される事件が発生する。米六の弟、岡っ引き沢七が兄が殺されたのを恨んでの犯行だった。そしてこの事件にも裏があった。
北町奉行所の本所方町回り同心、前田数馬が沢七の守本殺しにかこつけて、町廻りで自ら犯した数々の不正、汚職を守本に被せるのである。
面白い物語が第三話、第四話と次々と続いていく。
とかくこの世にあって美しい女性に無我夢中になったり、また湯屋で男女を仕切る壁板に覗き穴を見つければ、好奇心からついつい覗きたくなるのが当たり前かもしれない。酒や金に溺れる奴もいる。この世は誘惑と好奇心を煽るものにあふれている。危なっかしい浮世で、人は右左とやじろべえのように揺れながらも、転けることなく何とかバランスを取って生きている存在だと…
もう一つ別の主題が浮かぶ。それは、犯罪は当然法によって罰せられるべきだが、この物語では犯人をその場で斬り捨てている。この時代では、重い犯罪は打首獄門、又武士においては切腹の沙汰やお家取り潰しの処分が出る。村雨がそうした罪人をその場で始末して事件を葬るやり方は、多分、重罪人が法に従って裁けば、その本人だけを処分することに留まらず家や家族、あるいはその親類まで累が及ぶからだ。罪の範囲を極力小さくしようと配慮したのだろう。
とにかく面白い物語だ。