【感想・ネタバレ】書記バートルビー/漂流船のレビュー

あらすじ

ウォール街の法律事務所で雇った寡黙な男は、決まった仕事以外の用を言いつけると「そうしない方がいいと思います」と言って一切を拒絶するのだった。男の不可解な振る舞いを通して社会の闇を抉る「書記バートルビー」。アメリカのアザラシ猟船の船長デラーノは、遭難同然のスペインの奴隷運搬船を発見する。嫌な予感を抱きつつ支援を申し出るが……劇的な展開が待ち受ける傑作「漂流船」。アメリカ最大の文豪の代表的中篇2篇。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

著者のメルヴィルさんは、1819年、NYで生まれ、ここに収められた2つの作品は、代表作『白鯨』(1851)のあと、「書記バートルビー」(1853)、漂流船(1955)ー30代前半に、書かれたそうです。

時代設定が気になるので、解説を少し見てから読む。

1953年とは、ペリー来航の年だ。アメリカは、建国からどれぐらい発展してたのだろう。

トクヴィルの本は、出版は1935年だ。リンカーン大統領の奴隷解放宣言は1863年。

_かくして「漂流船」という作品は、南北戦争直前の時期に出版されていながら、奴隷制の本質をすこしの弛緩もなく描いているだけでなく、一般の白人層には直接的に反発させないだけの仮装劇として提示されているのである。「書記バートルビー」と「漂流船」。メルヴィルは、すでに十九世紀中葉の段階で、不条理演劇や内的独白、そして通時的時間の破綻の手法などを駆使して、同時代の白人社会の現実や、複雑怪奇な人間の心理を妥協なく描き出そうとしている。ー「解説」(牧野有通)より

1891年に亡くなられた際はほとんど無名だったメルヴィル。再評価され始めたのは1920年代らしい。

たしかに内容は、怪奇というかなんというか、娯楽として単純に楽しめるものではない。『白鯨』を読んでいないけれど、小説に出てくる象徴的なキャラクターや設定を通して、社会を皮肉にも映し出す、ブラックユーモア的なもの。

時代も国も違う分、細かい比喩が出てきたときは、え、何のこと?全然分からん!というのもあるけれど、それもまあ、雰囲気を味わうことに。

「書記バートルビー」

バートルビーの対処に迫られつつも、なかなか切り離せない状況に陥る、ウォール街でうまくやっている弁護士。たしかにどんどんゾンビ的になっていくバートルビーの存在は、彼の幻覚的にも感じてくる。当たり前、を、ぶち壊してくる声。150年以上たった私たちの社会でも、まだバートルビーの幻影に付きまとわれている人はいなくないんじゃないかと。資本主義はさらに加速して広がっているのかもしれない。でも隙間も探せば色々と出てきているに違いない。それに絡み取られて、うまく生きれたり、厄介なバートルビーに悩まされたり。隙間を見つけて生きていたり、隙間でなかなか大変な思いをしていたり。なんだか脱線してきたけれども、「~しない方がいいと思います」の不穏な響きはいったん読んだら消えないですね。

ある種、機械的に発せられるような、すでに答えが分かり切ってる感と、そんなはっきりとした答えへの期待感は、今の時代の相談系のYouTuberの高需要な今の風潮と重なる…

「あなたはその理由をご自分でおわかりにならないのですか」

自分で考えるより、出してもらった答えに従うほうが楽だしすっきりするし、

でもこの弁護士は、自分ではたと思いついたみたいですね、その理由を。自身の常識内で考え付いたことを。

「漂流船」

もともとこちらは全く知らずに読むことにしたのですが、

わりと強烈でした。ミステリー、わたし的には。

こちらも、大部分が、語りのデラーノ船長の視野で、思考解釈内で、話が描かれていって、

最後に謎が明かされる、証言抄本(供述書)がある。この設定、「ザリガニの鳴くところ」でもあったのを思い出す。アメリカ…昔からなんだね。

西アフリカから、南米、北米… 具体的に、セネガルやアシャンティ王国、チリなど、出てくる。本当にあった奴隷船での反乱の記録が、実在のアメイサ・デラーノ船長によって出版された『公開及び旅行記実録』(1817)に掲載されているらしく、それをもとにさらに小説として構想を深めて作品にされたらしい。

カナダの歴史を学んだ時の黒人奴隷の話とか、難しかったなーと思い出し、

まさに、講義の課題教材になりうる内容では、と思いながら読んだ。

ぜんぜん想像を絶する状況があったんだろうなー。普通なら知らないままだな。

小説すごいね。

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2025年05月31日

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