あらすじ
ユダヤ人大量殺害という任務を与えられ、北の大地で生涯消せぬ汚名を背負ったアルベルト。救済を求めながら死にゆく兵の前で、ただ立ち尽くしていた、マティアス。激戦が続くイタリアで、彼らは道行きを共にすることに。聖都ヴァチカンにて二人を待ち受ける“奇跡”とは。廃墟と化した祖国に響きわたるのは、死者たちの昏(くら)き詠唱か、明日への希望を込めた聖歌か――。慟哭の完結編。
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Posted by ブクログ
直前にトルストイの『光あるうち光の中を歩め』を読んでいたので、キリスト教の教えとは、信仰するとは、赦しとは、正しさとは… キリスト教について学びながらも疑いながら触れる時間が続いた。
なによりまず、須賀しのぶさん、ほんとにすごい。
物語の組み立てにしても、知識量にしても。なのに読みやすい。
この本を読んだおかげで、わたしはナチス、キリスト教、ユダヤ、第二次世界大戦について何も知らなかったんだなと気づけたことは大きい。もっと知りたい、知っておかなければと思った。
でももう残り150ページを切ったあたりからそれどころでもなくて……なにをどう言えばいいのか分からない。
せめて最後にアルベルトとイルゼが会えたら良かったのになとか思うけど、それはわたしのエゴでしかないしアルベルトは望んでいないこと。
マティアスとひとときを過ごせただけでも良かったのだろうなあ。
あまりに強くて美しく、冷静で隙のない、器用だけど一周まわって不器用にも思えるアルベルト。
許されない罪は罪としてのしかかり、本人も理解している。自分を救うのは自分というアルベルトの言葉にも納得できる。
でもやっぱり、世間一般のいう幸せをもっと味わってほしかった。罪を重ねる必要のない生活を送ってほしかった。外野からそんな風に思われることは望んでないだろうけど。
マティアスになりたかった、の言葉についてもアルベルトからもっと聞いてみたかった。
マティアスのどんなところに憧れて、羨んで、嫌だったのか。アルベルトの言葉で聞きたかった。
マティアスはこの後どのように生きていくのだろう。
きっと、変わらず信仰と疑心の間で揺れながら、でもその視点があるからこそ立派な司祭でいられるのだろう。マティアスが生きている間はまだ、そうできるのではないだろうか。
時代が過ぎるごとにアルベルトのように自分の責任は自分に還るというような考え方をする人も増え、キリスト教との関わり方も変わっていく人も増えるのだろう。今はイベントのときにだけ教会に行くという人も多いと聞くし……
まだまだキリスト教については理解が及ばない部分が多いなあ。
きっとまた読み返すことになる本。
次読むときにはどう思うのだろう。
Posted by ブクログ
出会えてよかったと思えた本。「革命前夜」の方だと思い手に取ったところ、一気に1、2巻と読み終えてしまいました。多くの人を殺したことは、時勢という状況を差し引いても許されないことなのに、それでも彼に救われて欲しいと願いました。けれどそれこそ読者である自分のエゴだとも感じます。
彼がとても人間らしくて、本心が別のところにあったのだと知れたからこそだと思います。
もう一度気持ちが落ち着いたら読み直したい本です。
Posted by ブクログ
マティアスとアルベルト、かつての親友だった2人の歩んだ道は、分たれたと思えばある一点で繋がり、決して完全に分たれることのない絆がそこにはあったのだと思います。
アルベルトの最後の言葉…確かに彼にとって神は信仰の対象ではなかったかもしれませんが、その分自分信じ、そしてマティアスに心からの信頼を寄せていたのではと思いました。
自分の罪は他でもない自分がすべて背負うものだと、1人で刑に赴くアルベルトの姿。
最初から、こうなることを予期していたかのようで…それも受け入れた上で護りたいものを護ろうとしたかなと思うと、胸の震えが止まりませんでした。
最後はまた繋がった2人の道。
きっとマティアスはアルベルトの想いも背負って、彼は彼の使命を果たすために生きて行くのだと思います。
Posted by ブクログ
読書備忘録589号(上下巻なので)。
★★★★★。
文句なし。
そして戦争が始まる・・・。
アルベルトはSSの保安部隊アインザッツグルッペンとして、戦時下の反ドイツ分子を処理する。障害者を絶滅させる安楽死作戦、独ソ戦におけるパルチザン狩り。共産主義者、ユダヤ狩り。
一方のマティアスは修道士と、反ナチ組織のレギメントの連絡員として活動する。
舞台は東部戦線からイタリア戦線へ。保安部隊から武装SSに配置転換されたアルベルトは連合軍のイタリア反攻に対応していた。マティアスも徴兵され国防軍の衛生兵としてイタリアモンテ・カッシーノの激戦区に身を投じていた。そして再会・・・。
度重なる絶体絶命の危機をなぜか生き永らえるマティアス。その陰にはアルベルト。アルベルトの謎の行動。
そして戦後。
捕虜収容所の地獄から生還したマティアスは、アルベルトの行動の意味を知ることになる。
そこには、揺るがない信念があった・・・。
そして、部隊が壊滅するなか、こちらも生き延びたアルベルトに対する審判、所謂アインザッツグルッペン裁判が行われる。アルベルトの判決は!
熱い熱すぎるよ!須賀さん。
日本人が戦時ヨーロッパの、しかも宗教的な内容が濃い凄い物語を書けるとは!
ただモノではない。笑
上巻ではまだまだでしたが、下巻で一気に★5つ。
ただ、最後50pくらいですべての種明かしをするのであれば、もっともっと伏線をきっちり張っておいて欲しかった。実はこうだったんですよ、ああだったんですよ感が半端なかったことも確か。別に良いけどね。笑
Posted by ブクログ
不意に出会ってしまった名作。
本当に本当に良かった。
マティアスとアルベルトの決して交わらない正義が、その中で交わる出会いと運命が、抗えない時代の流れと力が。
どんどん作品の中に引き込まれていきます。
上下巻で1,200ページを超える大作ですが、絶対に後悔しません。
アルベルトの最期に想いを馳せて、本を閉じてから、ふと、マティアスはまた失ったのかと気が付く。
神は何度も、何度でもマティアスに試練を与え、マティアスもまた何度も、何度でも向き合い越えていくのだろう。
アルベルトの最期が穏やかでありますように。
マティアスの祈りが届きますように、と思わずにはいられない。
Posted by ブクログ
第二次世界大戦下のドイツ。かつて親友だった二人が、SS将校と修道士として対峙する。あまりにも重い時代。とてつもなく重いものを背負った二人。戦争の行く末を知っているだけに読み進むのがつらくて、それでも二人の生き様をなめるようにじっくり読んでしまった。後半の『神の棘Ⅱ』は戦闘の描写が多くて本当につらかった…。
ドイツの暗い歴史とドイツ軍に興味のある人はぜったい楽しめるからぜひに!
SS将校アルベルト・ラーセンの生き様がとにかくかっこいい!精鋭と名高い部隊を指揮し、終戦を迎えても抵抗し続け、鬼のようだったラーセンが後年部下に慕われる姿に、新撰組の土方歳三をかさねてしまった~~。かっこいい!
Posted by ブクログ
上下巻一気に読み終わってしまった。須賀しのぶらしい、骨太な作品で、読み終わったあとの充足感はひとしお。第二次大戦前から戦後にかけてのドイツの、社会や人々の生活がリアルで、映画を見ているような気分にもなった。
修道士・マティアスと、軍人・アルベルトの軌跡をたどっていると、作者はドイツを舞台にしたかったのではなくて、『神』とはなにか、『赦し』とはなにかというテーマを描くために、この時代のドイツを選んだのではないかと思えてくる。その問いかけがはっきりと示されるのはマティアス視点の話のときだけだし、カトリックの神に問いかけを続けるマティアスとは違って、アルベルトは棄教しているし、自分の行動の結果とそのための救済を自分自身に負わせる。でもアルベルトのこの考え方も、○○教の神と名はついていなくても、1つの信仰の形のように見えた。『神の前に何も持たずに立つことと、実はとてもよく似ている』とあるし。
タイトルの『神の棘』とはなんなのか、その発言をするヨアヒム・ フェルシャーの告解に鳥肌が立った。棘は神の愛情の証だと彼は捉えていたけれど、その棘は果たして神から与えられるものなのか、それとも罪悪感をきれいな言葉に言い換えただけなのか、なんだかすっきりしない気持ちが残る。それも踏まえて、何度も読みたい小説。電子書籍ではなく、紙の本でおいておきたい。
Posted by ブクログ
信条を突き通すために我を変えないのか、信条を突き通すために我を様々に変えていくのか。
勝者が正しいとされた戦後の残酷さをまざまざと感じさせられました。
Posted by ブクログ
須賀しのぶ先生の本を手にするのは流血女神伝以来。
読み応えのあるものを書く作家だったと記憶していたが、
期待通りで大変満足でした。
解説によれば、2010年に刊行されたものに大幅な改定を加えたのがこの文庫版であるとのこと。
文庫版はマティアスの視点で書かれていますが、
2010年版の方はアルベルト視点だというので、次はそちらを読みます。
というのも、
アルベルトの行動原理がいまだに理解できず……
マティアスへの憧れがあったのだとはなんとなくわかりますが、
それがどうしてああいった生き方になるのか。
2010年版で答えが見つかることを願って