あらすじ
志乃子は一個の鼠志野の茶碗をきっかけに、骨董の世界へ足を踏み出していく。茶碗と同時に貰い受けた手文庫には、小さな手縫いのリュックサックと、敗戦後に命懸けで、北朝鮮から三十八度線を越え帰国した、ある家族の手記が入っていた。残りの人生で何が出来るかを考えた彼女は、その持ち主を探し始める――。ひたむきに生きる人々の、幸福と幸運の連鎖から生まれた、喜びと希望の物語。
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Posted by ブクログ
主人公と同じ年代というのもあり、久々にのめり込んで読んでしまった。人にはそれぞれ考えや歴史があり、それを纏って生きている。それを誰にいうでもなく自慢するでもなく嘆くのでもなく。
なのに見た目や振る舞いだけで人を判断していた主人公はそれを後悔をしていた。それは自分にもある性質なので主人公とともに反省をした。
後半の、終戦後の北朝鮮からの脱出劇は、実際に経験された方から伺った内容をもとにしているとのこと。なので読むのがとても辛かったし、とても恐ろしかった。
この「水のかたち」は宮本輝氏の作品の中でも私にとって感銘を受けた作品の上位になった。
(おこがましくてすみません)
Posted by ブクログ
宮本輝は書きたいものをたくさん心に持っていると以前読んだことがあるが 彼は後半の想像を絶する過酷な引揚げの話を後世に伝えたくて この本を企画したのではないか?
だから あえていつも口元が笑っているように見える 春のような雰囲気のおばさんを主人公に持ってきて 恵まれすぎる暖かいお話で舞台の準備をしたのじゃないか
始まりはなんともおだやかな 人をなごませる主婦が主人公 家族も次々登場する人物も いい人ばかり
近所の古い喫茶店の2階に亡きマスターが集めた骨董品(がらくた?)があり 見亡人にすすめられその中から 気軽に2~3 もらうけることになるが これらが後に大変価値のあるものと分かり 骨董の世界入り込んでいく 彼女にはどうやら骨董品を見極める才能があるらしい また次々と出会う人たちも温かみにおある人ばかりで この人たちに助けられながら最後はビル群の中の 趣味の良い喫茶店に骨董品をならべる経営者になってしまう なんとも調子が良すぎてはがゆい
彼女が貰い受けた骨董品は文机や茶碗のほかに手の込んだ細工物の手文庫であったが この箱の中に手縫いの小さな汚いリュックサックがあり ビッシリと書き込まれたメモの束が入っていた
これの内容は「ほのぼの」から一転して非常に厳しいもので敗戦後北朝鮮に取り残された人たちの記録であった 軍人は先に逃げてしまい 一般人は朝鮮人や突然南下してきたロシアの兵隊にひどい目に会う 大勢が犯され衣類を剥がれ野ざらしの死体になったなかで 一人の男性の知恵と強い意志によって1年後の良い季節を選んで 150人もの日本人を海路によって38度線を突破 引揚後も才覚によって 戦後の厳しい時代を乗り越えた記録であった たくさんの偶然に助けられ奇跡的に一緒に引き上げることが出来た幼子に伝えたくて書き残したようだが 戦後の生活苦の中 途中で途切れた状態になっている 苦労の末書き残した人の家族がまだ生きておられることがわかり続きを聞く旅に出る
敗戦後大陸や南方から奇跡的に 命からがら引き上げてきたという話は聞いたことがあるが ここまで悲惨で生々しいものははじめて
Posted by ブクログ
自分を自分以上のものに見せようとはせず、自分以下のものに見せようともしないシノコが主人公。水のように、素直に正直に周りに馴染み、溶け込み、自然に自分の思い描く通りに周りがなっていく。こころが穏やかになる一冊。
Posted by ブクログ
初の宮本輝
ゆったり、まったり時が流れていく感じ。
最初はこんなテンションで上下巻なんて最後まで読めるかなぁと思っていた。
ハラハラドキドキというのがほとんどなく、よくある日常というのでもなく、かと言って奇抜でもない。
それでいて、最後まで読ませてしまうのがすごい。
主人公は確かに運が良くて羨ましい。
そうそうガラクタのようなものの中から一攫千金の品に巡り合えるかな。
しまいにはハイセンスな喫茶店まで破格の賃料で貸してもらえて羨ましいけど、自分がその立場になっても、手に余すぎる。
その度量があるからこそ、それだけの幸運が舞い込むのかも。
主人公が人生を達観していく様を見ているようだった。
題名がぴったりおさまって、人生ってそういうことかもと考えさせられた。
きゅうりのサンドイッチがなんとも美味しそうだった。