あらすじ
太刀川要が深夜に遭遇した異様な大きさの黒犬は、半死半生の状態だった。動物病院へ駆け込むと、不可解なことに判別不能の犬種で獣医も戸惑うばかり。やがて始まった共同生活は、かたくなに孤独を貫く男の見慣れた風景を変えていく。そして湧き起こる、ある疑惑の真相とは――。ジョンの眼差しを通じて見つめる人の営み、滑稽さ、哀しみ。淡く胸に迫る大人のファンタジー。
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Posted by ブクログ
狛犬の化身・黒犬のジョンと、建築家・太刀川要の衝撃的な出会いと、同居生活と、事件と、別れのお話。
とにかく描写が丁寧。ちょっとくどいくらい。でも、そこがまた良かったりもする。
ジョン(というか黒犬と呼んだ方がしっくりくるのだけど)が神社を抜け出した切っ掛けが切なくてプロローグを何度も読み返してしまった。相方の宮獅子をなくした「激しい喪失の悲しみと、気も狂うような怒りが、ある晩に爆発した。」という一文が、最後まで読んで、またプロローグを読み返して、胸にくるものがある。
エピローグも良い。私とは何だろう?という疑問を持って神社を逃げ出したジョンの答えのようなものがまとめられていて面白かった。
要くんもいい奴だ。麻子さんと幸せになってほしい。閉鎖的な田舎の環境は、年代的に自分でもよくわかるし、そこから飛び出した気持ちも共感する。現在ではそんなに地域差はないかもしてないけど、ちょっと前までは地方と首都圏の差は大きかったなぁ。そういう過去への鬱屈を抱えつつも、基本的には善の人間である要くんは格好いい。
ジョンと要くんの、言葉は交わしてないものの、相棒のような対等の関係が好きだった。
なかなか難しいかもしてないが、ジョンのその後が読んでみたいな、と思った。
Posted by ブクログ
2016/3/4
始まりのワクワク感がすごい。
でも最後はちょっと物足りない。
もっと仲良くなったらよかったのに。
元の神社に連れて行ったときおびえてたのはなぜなんだろう。
なんか説明あったのかな。
当たり前に分かるの?私分からなかったんだけど。
使えてた神様に怒られると思ったのかな?
でも怒られてどうされるのが怖かったんだろう。
それもわからない。
それにしても狛犬が実体化したら洋犬になるのね。
Posted by ブクログ
単行本発売が2012年の割には、どうも初期の垣根涼介氏っぽい文章だな…、と思っていたら、実は「ワイルド・ソウル」よりも以前に原型が書かれた作品だった、と著者あとがきで明かされており、合点がいった。
神社の狛犬が何かの拍子で生身の体を得、生命体として動き回る、という設定がまず面白い。
その狛犬と濃厚に絡む2人の登場人物も、いかにも垣根氏らしい書き込みで、充分に魅力的に造形されている。
狛犬を含む各キャラクターたちの行動原理については、ちょっと首を捻ってしまうくだりもあるが、作者の膂力でねじ伏せ、"読ませる"物語に仕上げている。
狛犬を、"帰る場所を持たない何者か"の象徴として締めているラストも、やや強引ではあるがそこまでの作中に読者が感情移入できていれば、違和感なく読み終えられるだろう。