【感想・ネタバレ】にんじんのレビュー

あらすじ

にんじん――。髪の毛が赤くてそばかすだらけのルピック家の三番目の男の子はみんなからそう呼ばれている。あだなをつけたのはお母さんだ。お母さんは、にんじんに夜の暗闇のなかをにわとり小屋の扉を閉めに行かせたり、おもらししたおしっこを朝食のスープに混ぜて飲ませたりする……。だが、にんじんは母親のいじわるにも負けずに成長してゆく。生命力あふれる自伝的小説の傑作。

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Posted by ブクログ

以下、中学2年生の時に書いた読書感想文をそのまま掲載:
「あなたの分のメロンはないわ。だって、あなたは私と同じでメロンが嫌いだから…ええ、まちがいないわ」
「そうか、ぼくはメロンが嫌いだったんだ。ママが間違いないと言うなら、間違いない。」
ジュール・ルナール作の「にんじん」。この本は、あらゆる面で私に大きな衝撃を与えたし、私なりの大きな褒め言葉としてあえてこう言いたい。「出来ることならもう二度と読みたくない」。それほどに悲しくて、痛い。
まず、この話の主人公の本当の名前は最後まで分からない。なぜかといえば、この主人公は終始周りから「にんじん」と呼ばれ続けるからである。にんじんは髪色が由来のあだ名だが、友達はもちろん家族からも文中で1度も名前で呼ばれない。そんなにんじんは、なんとも不器用な子供で、優秀な兄や姉と比べられながら精神的ないじめを母親から受け続ける。そんな母の酷い仕打ちや、にんじんの愛に飢える様子などが連作短編のかたちで描かれている。
にんじんの受けた仕打ちの中で、特に私の心を強く揺さぶったものをいくつか紹介しよう。
にんじんは大きくなってもおもらしが治らなかった。だから、ベッドの下にはいつもいわゆるおまるが置いてあったのだが、ある日の夜、母はわざとおまるを隠した。母の思惑通りににんじんがおもらしをすると「なんて臭いなの」「この年になって」「動物以下よ」と騒ぎ立てて兄と姉の前で中傷をくり返した。そして、にんじんのシーツに溜まっていたおしっこをとっておいて、スープに入れてにんじんに食べさせたあと、「自分のしたものをあなたは口に入れたのよ」と罵倒するのだ。それに対する「うん、たぶん、そうじゃないかなって思ったよ」という、とてもおもらしをする年の子供とは思えない大人びたにんじんの返事がすべてを物語っているように思えた。
こんなシーンもある。にんじんは兄と姉と一緒に寮に住んでいて、たまの休暇に帰省することになっていた。久々の両親との再会に心踊らせていたが、母と父どちらに先にキスをしたらいいだろうかと考えているうちに兄と姉はキスをもらい、その時にはにんじん分のキスは残っていなかった。にんじんは泣きたい気分になりながらこう言った。「きっと嬉しくて泣けちゃうんだ。だって、ぼくは思っていることが反対の形で表れてしまうことがよくあるから…」
さて、ここまで話して、にんじんが置かれた環境がどれほど不遇だったかはある程度わかってもらえたと思う。愛を十分に注がれないまま育ったにんじんは、さらに不器用で目立ちたがり屋になっていく。ある先生に特段気に入られている生徒に嫉妬をし、2人が特別な関係にあると校長先生に言いつけ、その先生を辞めさせたり、友達に「甘えるってどういうこと?」と尋ねて、もし甘えられるなら…と想像したりした。愛に飢え空回りしているにんじんの不器用さが、物語の節々から現れている。
そんな中、にんじんが初めて母に反抗した場面がある。理由もなく、バターを買ってきて欲しいという母のお願いを断ったのだ。にんじんは、パパのお願いというなら買ってきてもいいが、ママのお願いは聞かないと言った。そして父とふたりきりで今まで母に受けた仕打ちを余すことなく話し、自分が母親を嫌っていること、母と離れて暮らしたいことを初めて打ち明けた。母への嫌悪を認めることを長い間ためらっていたにんじんは、必死に母の機嫌をとって自分は母に愛されていると言い聞かせてきた。しかし、父との会話の中でいままでママだった人が母親になり、あの女になった。母のネグレクトを受け入れ、淡々と生活をしてきたにんじんが、嫌だという感情を表に出せるようになったのは大きな違いだと思う。しかし勇気を出したにんじんを最後まで肯定しなかった父は、あれでもお前の母さんなのだからとなだめる。
それに対してのにんじんの「別にママのことを言ったんじゃないよ」の一言から、「あの女」が急に「ママ」という建前の存在に戻り、にんじんの心の叫びはここで閉ざされたように思えた。この話に「最後の言葉」というタイトルが付けられていることからも、これが父への最後のSOSだったのではないかと思わせる。
この物語は、姉の結婚が決まった時に、「もう誰も僕を愛してくれない」と嘆いたにんじんの前に母親が現れて、慌てて「…ママ以外からはね!」と付け加えて幕を閉じる。変わりかけたにんじんは、また母親の影に怯えつづけるのだろうか、とすっきりしないままだ。
正直言って、この話は私の置かれている環境とはあまりに違いすぎて、感情移入はもってのほか、「かわいそう」と思うことしか出来ない。ただ、この本が「理解できない」こと、それがこんなにも幸せに感じるのである。


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2024年12月21日

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激甘の父親の本を読んだ後は、激辛の母親…
読むの辛かった…けど、にんじんが本当に健気で冷静で思慮深くて。今すぐ助け出しに行きたくなるけど、ちょくちょくと入る隠喩やにんじん自体の考え方が素敵すぎて。
そして一編あたりが短いのも助かる…見てられないよ。
じわじわと自立、成長する人参のほんの一部分を垣間見れました

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2023年05月21日

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ネタバレ

痛い。痛過ぎる。表紙イラストのかわいさ故、ディズニー的ハッピーエンドを期待して購入したが、初っ端から虐待の嵐。顔が引き攣るシーンが度々出てくる。毒親の発言が自分の思考と化していた(刷り込み、思い込み?)が、大人になるにつれ、自分の意見をちゃんと言語化できていく。最後の、「ああ、誰も僕を愛してくれないんだ」のセリフが出た時は、苦しいながらも、ちゃんと自覚して言葉にできて良かった、とにんじんの成長を感じた。

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2022年05月12日

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すばらしかった。名作と評判だったので読んでみました。
最初あまりに主人公が家族にいじめられるので、
知的障害があるのかとか、ものすごい人格に問題があるとか理由があるのかとおもったら、何もない。
兄や姉、たまに父親とは一対一だと普通に接しているし、愛情を感じる。
主人公に悲しさを感じた時、時々現れる残忍性に裏切られたような気持ちにもなる。
そして、最後の反抗、そして父の告白。
少年の葛藤と自立がそこにあって、頭を殴られたような衝撃を受ける。

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2015年01月29日

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ネタバレ

『にんじん』なんて可愛らしいタイトルの意味が切なくなってしまった
最後まで主人公のにんじんは誰にも名前を誰も呼ばれなかったのだ

お母さんのにんじんへの仕打ち、価値を見いだした途端気にかけ始めるお父さん、兄、姉もにんじんのこと下に見てるのがよくわかる

そりゃ、にんじん、歪むよね
途中途中に入る動物へのにんじんの仕打ちがにんじんの歪みをあらわしていたように感じた

なんかどのエピソードもパンチすごくて、それでも誰かに愛されたいと願い叶わず、から回るにんじんの姿が上手く表現されている
全て話、母親から離れたいと願ったのに父親になだめられるようなこと言われたにんじんの気持ちを思うとあまりにも痛いですね…
世界に絶望して、それでも愛を求めるにんじんの姿に誰か抱きしめてあげてって思いが募りました

名前は世界で産まれて初めて貰う愛情だと思っている
この本を読んでもっと人の名前を大切にしようと思った

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2025年10月31日

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1894年の作品。自伝小説。母親によるDVからサヴァイヴしていく話‥‥想像していたより切なくて深かった。

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2023年10月12日

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にんじんって大人が考えてることがわかってしまう非常に切れ者な少年であると思う。先回りして色々なことをするから。でも、そんな風に行動するのも家での扱いのせいで自然と身についた自分を防御する方法なのかなって思うとすごく胸が痛い。ひねくれ者の少年だけど、誰よりも愛に飢えている感じがあってそこがまたいじらしくて…。でも淡々と進んでいくストーリーを読んでいても彼決して家族(特にお母さん)に負けていないと思う。

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2023年01月30日

Posted by ブクログ

ネタバレ

訳者による解説が秀逸である。今から読むならこの高野優さん訳の新潮文庫版をおすすめしたい。
にんじんはかわいそうだけど、にんじんも小憎たらしいところがあるからそこまで感情移入できないというような書評や感想を目にしたことがあるが、なぜにんじんはそういう言動に及んでいるのかということだ(訳者の違いによって、よりどっちもどっちと受け取れるような訳になっているものもあるのかもしれない)。
誰がなんと言おうが、このにんじんという作品は母親に苦しめられている少年が母親を拒否するまでの成長を描いた物語である。
なんとなく児童文学ぽく扱われている気がするけど、大人こそ読むべき本ではないかと思う。

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2021年03月06日

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にんじんへの、母親からの精神的虐待はすごい。
ときどき優しさをみせる辺りがいやらしい。
にんじんは、といえば子供らしくズルをしたり、嘘をついたりしながらも、強く逞しく日々を過ごしている。
その成長する姿に痛ましさと、愛おしさを同時に感じる。短編集のようでありながら、巧みな構成に沿って描かれているところも面白い。

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2021年02月25日

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レジリエンス。

母親から精神的虐待を受けている少年(にんじん)の話。反旗を翻す後半の内容は読み応えがある。終始可愛そうだなぁ…としか思えなかったが、ちょっとだけ希望を感じた。

本の表紙とは裏腹に胸糞作品。

訳者のあとがきで頭が整理できた。

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2020年06月27日

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ジュール・ルナール『にんじん』新潮文庫

はじめの方は、読み進めれば進めるほどに憤りや嫌悪感、不快感が募るばかりだった。

一言で片付けるなら、かわいそうなにんじん。

しかし、話が進むにつれて、段々とお母さんの方がかわいそうに思えてくる。

なぜなら、お母さんは誰にも好かれていないからだ。

一方のにんじんは、母親からの精神的虐待はあるものの、彼を想う人は周りにいく人もいる様子だ。

特に、名付け親のおじさんは、この話のなかで唯一と言っていいほどにまともで暖かい人物である。

ルナールの自伝的小説である本書の大きなメッセージの一つであり、ルナール自身が最も求めた言葉が、次に述べる名付け親のおじさんのセリフのように感じる。

「わしには子供がおらんが、自分の子供が猿だとしたら、猿のケツでも舐めるがね。」

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2015年07月18日

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初めてのフランス文学。
原宿ブックカフェで紹介されて気になってた。内容がまあ凄まじい。そして本の中にも挿絵があって可愛い!

赤毛のにんじんが母親に虐待されるんだけど、重苦しくなくユーモラスな話。可哀想って思うけど笑える変な感じ。

文化の違いで理解し難いとこもあるけど、テンポ良くて読みやすかったです。

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2015年03月27日

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「人には言えないこと」の話。

一度、慣れてしまったら、世の中にはひどいと感じなければいけないことなんか、ひとつもないのだ。


慣れって怖ろしい。


今度は原文で読みたい。

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2014年11月20日

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著者本人の育ってきた世界がそのまま小説として表されているらしく、これが実体験なら辛いなぁと思ってしまった。

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2025年08月13日

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にんじん―。髪の毛が赤くてそばかすだけらけのルピック家の三番目の男の子はみんなからそう呼ばれている。あだなをつけたのはお母さんだ―。

原作は1894年の出版。村田沙耶香sanが小学生の時に読んで、「最後まで絶望的であることにすごく救われた」と紹介されていることを知り、手に取りました。

冒頭から母親による精神的な虐待につぐ虐待の連続。「にわとり小屋」から始まり、「うさぎ小屋」辺りでは、読むのがツラ過ぎて断念しそうでした。ただ、「ウマゴヤシ」で兄のフェリックスと野原で無邪気に遊んでいるシーンは、少し救われました。

訳者の高野優sanのあとがきにもありましたが、本作は、この辛い状況でもにんじんが生き抜く力(レジリエンス)を示したり、悲しみや苦しみのなかにある小さな喜びや楽しみ等が描かれている文学作品だと思います。

最後の姉エルネスティーヌの結婚式直前のエピソードで、塀の影から出てきた母親に対し、恐ろしい笑みに負けずに、返した言葉が良かったです。にんじん、負けないで!

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2023年03月19日

Posted by ブクログ

ネタバレ

おいルナール!!!博物誌から来たからこんなにつらいはなしと思わなかったよお~~~しんどかった…

ちょうど博物誌をよんでるときにヴァロットン展に行って、にんじんの挿絵書いてると聞いたので購入した本来

160ページくらいずっと淡々といじめられてて、つらすぎながらヴァロットンの挿絵いいなーとおもいつつ、がんばって読み、耐えた先に最後はちょっとレジスタンスと希望があって最悪なんだけど読後はわりとよかったのでルナールの力を感じました…

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2023年02月06日

Posted by ブクログ

私も家族でありながら、その家族が私を家族嫌いにするっていう話。

母親の酷い仕打ちや家族の冷たさを感傷的ではない淡々とした文章で綴られている不思議な作品。

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2022年11月12日

Posted by ブクログ

読んでいて辛くなってきたけど、ニンジンがメンタル強すぎて救われた!最後の人参の反逆は気持ちが良い!!

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2022年09月01日

Posted by ブクログ

母親からの虐待に我慢し耐え、乗り越えていく過程の話。にんじんの母親を酷いと思う反面、こういう人は結構いるのだろうとも思う。にんじんのように乗り越えられなかった子どもたちは不幸である。本人たちの責任ではない。2018.9.8

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2018年09月08日

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