あらすじ
警視庁捜査二課・島崎洋平は震えていた。自分と長男を脅していた銀行員の富岡を殺したのは、次男の英次ではないか、という疑惑を抱いたからだ。ダンスに熱中し、家族と折り合いの悪い息子ではあったが、富岡と接触していたのは事実だ。捜査本部で共にこの事件を追っていた樋口顕は、やがて島崎の覗く深淵に気付く。捜査官と家庭人の狭間で苦悩する男たちを描いた、本格警察小説。
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Posted by ブクログ
シリーズ第三弾。前作では妻を探し求める樋口の心情、葛藤、焦燥感といったものに焦点をあてていましたが、本作では警視庁捜査二課の島崎のまるでジェットコースターであるかのような心の浮き沈みや心の闇、家族、とりわけ子供に向けるまなざしが軸になっています。
特に前半は捜査情報の漏洩に関わってしまった島崎の目線で物語が進むことから、読み手としても島崎自身に感情移入してしまい、悪事に手を染めてしまった後悔や背徳感、刑事という自らの立場を失うことになるかもしれない恐怖といったものをひしひしと感じてしまいました。あのときどうして富岡の誘いを断らなかったのだ、とか、まさに自分自身が島崎になったかのような没入感を味わいました。
樋口シリーズでは登場人物のこういった心情あぶり出すあたりが読みどころなのですね。事件そのものは難しいトリックがあるわけでもなく、複雑な人間関係が影響しているわけでもないので、登場人物の心理を追いかけるほうに集中できるというもの。しかも総じてマイナスな感情であるだけによけいに感情移入してしまいがちで、自分にとっては樋口シリーズがもっとも心に響く作品となるかもしれません。STシリーズや安積班シリーズとはまた違った魅力があると思います。
物語終盤、富岡の自宅で繰り広げられたシーンは本作の一番のハイライトではないかと思います。そして島崎の行為に見て見ぬふりをし、自らの心にしまっておこうと決意する樋口たちの”気概”はちょっと感動してしまいました。ここでも島崎の感じた安堵やすべての重荷から解放された心持ちを思わずにはいられませんでした。
前作朱夏につづきタイトルの”妙”も見逃せませんね。青春より朱夏(そして白秋~玄冬)という概念も自分にとっては新鮮でしたが、今回の”ビート”も島崎の英次に対するまなざしを思うと納得です。
それにしても樋口の娘である照美の年齢が前作より逆戻りしているのではないかと気になっています。朱夏では物語の時期は年末、そして照美自身は受験生という設定でしたので、梅雨の時期が描かれている本作であれば、すでに大学生になっているはずですが、相変わらず高校生のままとなっています。刊行順に読んでいるはずなのですが、あるいは初出の順番が逆なのでしょうか?
Posted by ブクログ
さすが今野さんの作品だけあって、安定感のある警察ものだった。皮肉にも、息子が容疑者ではないかと疑いだして、初めて息子とキチンと向き合う事になった刑事。エンディングは呆気なかったが、いい話だった。
Posted by ブクログ
・面白かった。エチュードより全然よかった
・操作情報をもらした刑事、息子2人
・心は普通の人なのに、周りからは鉄面皮みたいに
思われている樋口刑事
・事件自体よりは、心理描写が面白かった
・グレてた息子は応援したくなり、おやじ刑事は
不器用で頭悪いけど憎めない
登場人物がよかった
Posted by ブクログ
警視庁強行犯係・樋口顕シリーズの第三作。
主人公の性格は違うが、隠蔽捜査シリーズと少し似て感じるのは、
警察小説であると同時に、家族関係をうまく描いている部分だろう。
樋口、タエ、他、登場人物の言葉に説得力があって、とても良かった。
Posted by ブクログ
今野敏の警察小説シリーズはやはり面白い。
主要登場人物の心の葛藤を丁寧に描いており
共感できる部分が多々ある為か、グイグイ話に引き込まれる。
特に島崎刑事と息子の英次の心の動きや葛藤描写が秀逸。
物事を見かけで判断せず本質を見極める重要性を訴えている。
が、しかし外見で判断される事が多い事も表現されており、
内容が説教臭くならずにすんでいる。
世代間の価値観のギャップはなくならない。
自分の子供が自分と違う価値観を表現したとき、
その本質を見極めて息子と向き合えるか考えさせられた。
しかし、価値観は変われど、原理原則は変わらず
真剣に向き合えば世代間格差など関係ないとも教えられる。