あらすじ
地球を訪れたエイリアンとのコンタクトを担当した言語学者ルイーズは、まったく異なる言語を理解するにつれ、驚くべき運命にまきこまれていく……ネビュラ賞を受賞した感動の表題作をはじめ、天使の降臨とともにもたらされる災厄と奇跡を描くヒューゴー賞受賞作「地獄とは神の不在なり」、天まで届く塔を建設する驚天動地の物語--ネビュラ賞を受賞したデビュー作「バビロンの塔」ほか、本邦初訳を含む八篇を収録する傑作集。
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Posted by ブクログ
初テッドチャン。ごりごりのSF作家だと思い込んでいたのですが、結構神話の世界を物理で語りきる作品もあって、なんだかちょっとファンタジーな雰囲気もあり新鮮な感じ。スターウォーズのように、観たり読んだりしている最中よりも、考察を余儀なくされる感想文を書くこの時間が一番楽しくなる作品。
考察すればするほど、そもそも欧米と日本の価値観の違いが浮き彫りになる。
日本語に ままならない という言葉があるように、人間や人生というものはどうしようもない側面があるものだという前提を含んでいるのに対し、
欧米は 人間=この世の支配者 説明がつけばコントロールできるものである というスタンスがあるように思う。
この欧米の前提を、テッドチャンは 本当にそうだろうか? という考えを、科学ネタを織りまぜながら読者に問いていると思った。
なので、読む際は是非、自分は欧米人である!!(なったことないけど!!)と思いこんで読んでほしい。
そうすると、人間に対する愛しさと嫌悪感が同時に湧いてくる奇妙な作品となるし、実際、自分の価値観が欧米化されてる部分があるという発見もできます。
純ジャパメンタルで読むと、こいつらごちゃごちゃ小難しいことして意味不明って思って終わる笑
<バビロンの塔>=努力は必ず報われる→報われることも無いが、罰もない。(信仰を手放す幸せ)
バビロンの塔という神話と聖書の宇宙観を元ネタにしながら、あえて拍子抜けなオチにもっていく。
キリスト教に親しみのある人たちと日本人とで、この物語の感じ方は違うのかな?
さとりは「ひらくもの」っていう文化圏で生きてると、偉業を成し遂げることで超越的存在からの啓示に期待する行動ってあんまりピンと来ないんだよな。神頼みに似てるけど、バビロンの塔のような物質的な成果や偉業を成し遂げるというより、現状の苦しみについて受身的に解釈を深める感じだし。
<理解>理論の完璧さは幸福をもたらす→必ずしももたらさない(理解を手放す幸せ)
コンピューターのような演算マシーンが搭載された、まさに脳にインテル入ちゃった人の話。とっつきにくさをだいぶ感じた。
天才科学者の生きてる世界ってこういう体感することあるのかな?理論では見えるのに、現実世界は追いついてない感じ。
最初の方は新しい言語形態構造の取得し、それが(理屈は分らんが)宇宙の理解に結び付く。それを楽しむ主人公。
後半は、同じような身体機能をもつ他人と対峙することで、武器を使わずに死に至らしめる理論を考え付く。
相手の毛細血管をコントロールして死に至らしめるって、なんじゃそりゃって思った笑
「理解」が進んだ人間の早すぎる処理能力を逆手にとって、相手のストレスを最大出力できるような何かを行使するとか?
それに似たことは、現実の世界でも派閥・権力争いという形式でやってるような気がする。
演算に拘りすぎた結果が短絡思考って皮肉だな。
<ゼロで割る>=数学は神のように完璧である→完璧ではない(信仰を手放す幸せ)
「理解」に似ている感じの作品。数学という宗教に捕らわれた人間の物語。こういう人を極端なプラトニストって言うらしい。
多分、「理解」もこのプラトニストに捕らわれた人間のシミュレーションなんだと思った。
ゼロで割ると無限大っていう話題、初めて知りました。私、理系なのにそんなこと考えたことなかった・・・。
アインシュタイン、いいですね。最近映画オッペンハイマーでも彼を見たんだけど、彼の科学に対する眼差しや姿勢が自然で親しみが沸く。
<あなたの人生の物語>=人生は自由だ→自由意志は存在しない(理解を手放す幸せ)
やっと本命にたどり着いた。読む前に映画で見たけど、内容割とそのままだったかも。
元々youtubeの積読チャンネルで知って気になってた作品。
未来は同時に存在する、人間に自由意志は存在しないという残酷な事実の中で生きる人の作品。
積読チャンネルの紹介によると、この作品は読む時期によって感じ方がだいぶ違うとのこと。
私は元ネタの相対性理論が何なのかっていう考え方の構造の方が気になったけど、人生そのものが無性に愛おしくなる感覚になったりするらしい。
昔、東大生だった知人が「いつか、人が何年も時間をかけて感じることを、一瞬で感じられるような方法を考えたい」って言ってたのを思い出した。
<七十二文字>=繁殖は愛情深い営みである→生存戦略として最適解の中に愛情行動自体がプログラムされている(理解を手放す幸せ)
ファンタジー。錬金術っぽくもある。
人の人工的繁殖について、人工的な発明でありながら、最後は意外なとある方法にたどり着く。
作中様々な繁殖方法が検討されますが、例えば女性だけで出産可能とする仕組みは今の常識で考えれば驚き且つ混乱を覚える機能だけど、ミジンコとかシュモクザメなど、単独で子孫を残す生物が既に存在しているんですよね。
なぜそういった進化に至ったのか考察にとどまるところだけど、前述のように、結果的にそうなる可能性は十分考えられるし、それに慣れ切った世界はとても合理的に運用されている気もする。(実際、既に行為そのものは娯楽という文化に変化しているように)
ゴーレムが元ネタと考えると、なんとなく、
人工繁殖=元々が無生物→これは人間なのか?ロボット?繁殖し続ける意味ある?
という妙な疑問を持つ。繁殖したい欲望って、人間誰しもが持ってるわけじゃない。
でも、もし、この繁殖に対する知的好奇心や義務感の強い人間のDNAを持った個体や教育環境が拡大していけば、世の中の倫理観も変化して、そのうちその方法が実行されることが普通になり、結果的に人間が生き延び続ける唯一の方法だった、となることも考えられる。
(物語ではこそこそ研究してますが)
<人類科学の進化>=科学は神の領域に至りつつある→後から解明しているに過ぎない文化的行動にすぎない(信仰を手放す幸せ)
最初読んだとき、最近流行ってる「量子力学を理解したら引き寄せの法則で人生思い通りになります!」!みたいスピが流行る現象を揶揄してるのかな?笑
と思ったけど、そんな低レベルな風刺をテッドチャンがするだろうか?と思い直し、超人類=自然とか宇宙とか現象そのもの、人類=地球上の人類すべて(科学者含む)と考えることにした。
ちょっとインターステラーっぽい。
科学は文化だ(神ではない)と言い切ってますね。
<地獄とは神の不在なり>神は救ってくれる→救わない(信仰を手放す幸せ)
神の降臨=自然災害&啓示&祝福の機会っていう、不平等・不条理に振り回されてる人々の世界。
死者が天国もしくは地獄へ落されることまで観測可能な世界で、主人公が神を愛するに至った経緯を描いている。
主人公の知能で解釈(意味づけ)が可能な出来事を苦悩しながら経験していったにもかかわらず、最後は人知を超えた(=神の意図を放棄せざるを得ない経験)イベントによって、その後の人生で主人公は神を愛するに至った。
チ。~地球の運動について~に出てきた、過酷な状況に置かれた科学者達が、それでもこの世界を愛している、と言っているあれに似ていると思った。
ここまでの作品の流れで、この世の真理の理解を突き詰めた人類が、理解手放した結果、真理に行き着くという逆説が発生している。
<顔の美醜について>人間は頭が良く理性的な生き物だ→容姿に過剰反応する動物だ(理解や信仰みたいな考えはもともと持ってない)
やっと最後の作品!真理みたいな壮大なテーマから、急に俗っぽい題材になってびっくりした。でも意味ある設定なんでしょうね。
カリーという処置を施すことで、ルッキズム社会を緩和しようとする社会の話。
カリー自体の適用・解除は気軽にできるという設定だが、その処置に対する議論やプロパガンダの様子を発言集のような形式で構成されている。
人は容姿に思考が左右されてしまうほど弱い生き物だと認めるコミュニティと逆張りコミュニティと、そもそも業界として生存危機に立たされる化粧品業界の争い。
皆、自分を「自分は理性的な生き物」だと信じて行動しているけど、これは完全に逆説で、登場人物全員、美醜・容姿に対する過剰反応をしている。
高尚っぽい内容から俗っぽくなったのも、この人間のままならなさ、どうしようも無さが強く感じられて、良い舞台設定だと思う。
Posted by ブクログ
とても面白かった。
一つ一つの短編が骨太であり、読むのに時間がかかってしまったが、楽しい読書体験だった。
一つづつ振り返っていこうと思う。
「バビロンの塔」
この短編集の中で一番読みやすかった。
情景描写が見事だった。
「理解」
詳細な描写に思わず読み込んでしまった。
「ゼロで割る」
一回読んだだけでは意味があまりわからなかったが、何回か読み直したり、考察サイトを見ることでやっと理解できた。
レネーは自身が発見した形式的発見によって自分の中の既存の世界が崩れてしまい、自殺未遂をしてしまうほど追い込まれる。恋人であるカールは、自身がかつて自殺未遂をした際、その時の恋人に傷を癒してもらった経験から、「相手の立場に立ち、相手の立場を演じることに正しさを感じていた」(p.167)ので感情移入しようととするが、数学は専門外なため、彼女の中の既存の世界が崩れてしまうという経験に、うまく感情移入できない。
この時、カールは彼女の中の既存の世界が崩れてしまう経験に感情移入できないという経験を持って初めて、自分の中の既存の世界が崩れることを経験する。
彼らは、同じ苦しみを経験しているのに、矛盾した者である。それが9a=9bという小タイトルに表されている。
この綺麗な結末には思わず、惚れ惚れする。
また、◯a、◯bのように、同じ数字がつく場合は、内容が対応しており、読み返すたびに味わいのある短編だと感じた。
「あなたの人生の物語」
表題作。
鮮烈な読書体験だった。うまく言語化できないが、思わず感動した。
「へえ、お話がどう進むかとうにわかってるんだったら、なぜ私が読んであげなきゃいけないのかしら?」
「だって聞きたいんだもん!」
再読した時にまた、細かい感想を書きたい。
「七十二文字」
難解な内容だったが、ファンタジー的な世界観でおもしろかった。
「人類科学の進化」
「地獄とは神の不在なり」
おもしろかった。
こういうある種の理不尽さが日常として受け入れられている物語はとても好きだ。
ニールが地獄に落ちて神を愛するようになったのがとても面白い。
「顔の美醜について」
自分の関心のあるテーマでおもしろかった。
あまり大きな声では言えないが、それぞれが多少の偏見や好みを持ってしまうことは、ある種の人間らしさと言えるのではないかと思ってしまった。
Posted by ブクログ
短編集。「あなたの人生の物語」、「地獄とは神の不在なり」、「顔の美醜について」の3つが好き。
「あなたの人生の物語」について
突然現われたエイリアンとコミュニケーションをとろうとする言語学者の話だった。
このエイリアンはヘプタポッドと呼ばれることになるのだけど、そのヘプタポッドがとにかく変。頭の下に足みたいな手が生えているので、僕の頭のなかではずっとタコさんウインナーがヘプタポッドだった。歩きかたも変わっている。目が頭の周りについているので前に進むときも後ろへ戻るときも方針転換する必要がないのだ。なので後ろに下るときは、こちらへ来たときの逆再生のように見えてちょっと気持ちわるい。
時間の捉え方も奇妙でヘプタポッドには過去と未来の区別がない。これから起こる出来事を知った上で、まるで劇をするかのようにその通りに生きている。未来を知っているのに自分の都合のいいように利用しないようだ。過去にもどってやり直す物語がたくさんある人間の考えかたはきっとヘプタポッドには理解してもらえないだろうな。
これから悪いことが起こるとき、ヘプタポッドは何も感じないのだろうか。たとえば事故でもうすぐ家族が死ぬとわかっているときにヘプタポッドはどんな気持ちになるのだろう?そんなことを読みおわってから考えた。
Posted by ブクログ
『ゼロで割る』
本質的な理解などできない、意味がないということを、魂と同じように信じていたものから突きつけられてしまった孤独と、それが理解できず苦しむ孤独、分かり合えないものを数学的な視点と重ね合わせて描かれている。絶望と、伸ばした手の行き場がない苦しみがこの数学的問題に直面した数学者たちの痛みをわずかでも伝えてくれるような錯覚をいだいた。
『あなたの人生の物語』
どうやったらこんなお話が生まれるんだろう。ヘプタポッドたちの文字に関する化学的な部分の理解は私には難しくて理解しきれなかったけれど、結果としてそこにありながら過去、未来、現在が同時に同じように存在し、その全てを同じように知覚することができるというのはすごく面白いと思う。全ては初めからつながり合い、決まっていて、自由意志による選択は存在しないという状況って運命論みたいなもののように感じるんだけど、この物語はそうではないことをヘプタポッドたちの理論を通して実証している。そこには悲しみを遥かに超える幸福と実感がある。それはすごく、うらやましいと思う。
『地獄とは神の不在なり』
神も天使もこうでなきゃ!を形にしたようなお話だった。人間ごときを神は意に介さないが、その祝福は人を変え、神を愛さずにはいられない。人からすればそれは自然現象や関与不可能な機構と変わりない。ニールは神の絶対性を詳らかにし、かたやイーサンはその自由意志をもって神を愛するべきだと信じるに至った。それがいいか悪いかはともかく、絶対的な存在の肌触りの心地よさとおそろしさに浸ることができる素晴らしい物語だった。
Posted by ブクログ
映画「メッセージ」の原作が短編だったという理由と、映画で描かれたことを小説ではどのように表現されているのか、という好奇心で読み始めた次第だ。
この作品は短編集で、8篇の物語で構成されている。当然ながら映画原作でもある表題作から読んでみたが、映画のような緊迫した争いごとは特に描かれていない。それよりも言語のデザインを逐次的から同時的に変えることで時間を超越するという発想にこそ重きを置いて、主人公のプライベートなエピソードはその補完として扱われているのだろうと初見では読み取ったのだが、いまひとつ自信のないまま最初の1ページ(「バビロンの塔」)から本作を改めて読み始める。
「バビロンの塔」は円筒印章をモチーフとして世界の成り立ちを説明し、
「理解」では超能力者同士の戦いから神の誕生を語り、
「ゼロで割る」では数学のこれまでの概念を否定する公式を発見してしまい精神を崩壊する女性を描き(かたや感情移入でその女性を救おうとする物理学者の夫の矛盾が対になっているのだが・・・)つまりは自己矛盾、
「七十二文字」はAIのメタファーかフランケンシュタインのスチームパンク版か(それはそれで伊藤計劃と円城塔の「屍者の帝国」を想起する)。ところが実のところ人間の創造こそがテーマで、河合隼雄先生よろしく「宗教と科学の接点」的なテーマが内包されていたとは・・・。
「人類科学の進化」はまあいいとして(初出の科学誌「Nature」を皮肉ったアイロニカルなコラムって感じ)、
「地獄は神の不在なり」は天使降臨によって妻を殺された男が神への信仰心を問い続け戦いに挑む冒険活劇、もしくは神に翻弄される三人の群像劇の形を成した壮大なアイロニー。
「顔の美醜について」の感想。美醜失認装置カリーは聖書なのか、つまりは隣人を愛せよということか。
そうして、改めて表題作の「あなたの人生の物語」を読み直してみた。この作品は他の作品に比べ宗教的なテーマがほとんど出てきていない気がした。しかしながらそんなはずはないと思い、考えをめぐらして気づいたのだが、ヘプタポッドにおいては自分の一生はすでに認識されており、その人生を従順に全うすることこそが目的となっている気がする。その過程で「if」(=自由意志)を挟み込む余地はまったくない。つまり、ヘプタポッドの生は神のみぞ知る目的のために死に向かっているのだろう。それはまさに、神に従順な、信仰心豊かで敬虔なクリスチャンを想起しないだろうか。そう考えれば、この作品もまた宗教的な一面を持っていることになるのだろう。
Posted by ブクログ
表題作
映画メッセージは、随分前に観て、感動して泣いた。
原作はそれから何年も経って読んだ。
積読チャンネルの飯田さんが、最も美しい物語と言っていたので。
正直、言語学とかよく分からない用語など次々出てきて、いつも寝落ち。
何日もかかって、ついにカフェで読み終えた。
後半、どんどん主人公の思考と現在の描写が近づき、混ざっていく。
私はラストを知っていたけれど、それでもゾクゾクして、最後は心がギュッとなった。
妻として、親として、どんな人生か分かっていても、きっと私も同じことをする。
大切な人を大切にしたい。
ちゃんと言葉や行動で伝えて。
○バビロンの塔
書かれていることの意味が分からず、どういう状態なのか想像するのが難しいところもあったが、最後の展開には思わず前のめりになった。
円筒印章、なるほど!
両端にあると思っていた天と地は、隣り合っていたのか!
面白い!
Posted by ブクログ
SFを読むのが得意でないので、想像より読むのに時間がかかった。表題作の「あなたの人生の物語」が気になって読み始めたが、1番面白かったのは「顔の美醜について : ドキュメンタリー」だった。自分ならどうするか、どうなった世界を目指すべきなのかを考えながら読むのが楽しかった。
Posted by ブクログ
テッド・チャンほど感想を書くのが難しい作家はいないと思う。
個人的にやっぱり1番好きなのは元言語学徒なのもあるけれど、「あなたの人生の物語」。
異星人とのファースコンタクトという舞台設定で言語によるやり取りを細やかに描いて、最終的な物語の核を「異星人との言語を習得することによって認識に影響を及ぼす」というのところにもってくる発想は驚きしかない。
そんな奇想天外な設定で、家族の愛を切実に感じられる作品であり、読後の衝撃、感動は他の作品とは一線を画していて、まさにテッド・チャンという感想しか出てこない。
最近宗教について勉強している自分にとって「地獄とは神の不在なり」もかなり興味深かった。
天災は神の仕業であるというどこの国にもうっすらある感覚を物語に落とし込んでいて面白かった。
Posted by ブクログ
『あなたの人生の物語』についての感想
難しかった。自分の読む能力や経験値が、物語を純粋に楽しんだり感動できたりするほど成熟してないのがわかった。自分はまだ結婚してないし子供もいないから、主人公への感情移入が難しい境遇というのはある。
しかし、主人公がヘプタポッドの文字を最終的には習得して未来予知ができるようになった後、自分の子供が25歳で死別して夫とも離婚するという結末がわかっていても、その未来を選択するのは純粋に美しいと思った。きっと子供が亡くなるまでの日常はかけがえのない最高のものだったのだろう。悲しい結末が待っていても、それまでに最高の瞬間がいくつもあったからその未来を選んだ。ヘプタポッドは目的地までを最小か最大にする道を選択すると書かれていたが、主人公は喜びと悲しみが両方とも最大の人生を選ぶことにしたともいえる。
そして、終わりがあるから今この一瞬を詳細に心に留めようと全力で生きようとする。こういう人生観は哲学的で難解な部分もあるのだけど、自分もいつかは必ず死ぬのが絶対にわかっているし、有限な人生ならもう少し今を楽しんで生きたいと思った。そして後で振り返ったときに同じ人生を生きたいと思えるようになりたい。短編小説なのにここまで考えてしまうのは名作ということなのかな。