【感想・ネタバレ】ヴェネツィアに死すのレビュー

あらすじ

高名な老作家グスタフ・アッシェンバッハは、ミュンヘンからヴェネツィアへと旅立つ。美しくも豪壮なリド島のホテルに滞在するうち、ポーランド人の家族に出会ったアッシェンバッハは、一家の美しい少年タッジオにつよく惹かれていく。おりしも当地にはコレラの嵐が吹き荒れて……。『魔の山』で著名なトーマス・マンの思索と物語性が生きた、衝撃の新訳。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

新訳シリーズということで読みやすさを期待して開いたが、翻訳文学を読み慣れた人でないと疲れるかも。映画を知っていれば楽しめると思う。映画の描写のように、何か常に劇的なことが起こる物語ではないので、夜、眠りにつく前に読むと、心地よい。
クリエイターや表現者、美を好む人の心に響く作品。美しい死にざまの一つだと思う。

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2023年12月05日

Posted by ブクログ

ネタバレ

「ベニスに死す」というタイトルの映画としても知られている作品。(原作)

初老の主人公・アッシェンバッハは、若いうちから才能を発揮した威厳ある作家であり、長年仕事一筋だった。
そんな彼は、旅先のヴェネツィアで美しい少年・タッジオに出会い、少しずつ変わっていく。

アッシェンバッハはタッジオを宿泊先のホテルで見かけるたびに、その美しさを褒めたたえていた。
それはだんだんエスカレートし、神を想うような言葉でタッジオを礼讃していく。

ただ目が合うだけの存在。
互いのことは知っているのに、わざとそうしているかのようにそっけなくし、言葉を交わさない。
そんな微妙な関係が続く中で、タッジオはアッシェンバッハに微笑んだ。
タッジオと話がしてみたい、でもできない、とヤキモキしていた中で放たれた微笑み。
それは、アッシェンバッハの心を焼くには充分すぎるほどの衝撃だった。

「タッジオを愛している」と自覚したアッシェンバッハは、立ち止まることができなかった。

常に自制を保ってきたアッシェンバッハにとって、少年に惹かれることは後ろめたいことであり、罪悪感のようなものを感じているようだった。
しかし抵抗してみても、彼はタッジオを愛することを止められず、しまいには後をつけ回すようになってしまう。

自分を見つめ、後を追ってくるアッシェンバッハに対して、タッジオは嫌がるそぶりを見せず、たまに思わせぶりに振り返ったり、視線を寄越したりする。
そんなタッジオの態度は、どのような意味を持っていたのだろうか。

世間から「正しい人間」だと思われているアッシェンバッハの内面が、荒れ狂い、酔いしれ溺れていく様は、とても苦しく切なかった。
自身の老いを悔やみ、肉体を若返らせたいとすら思い、着飾り化粧をするアッシェンバッハ。
そんな彼を、私は笑うことができない。

街に病気が蔓延し、命の危険すらある中で、アッシェンバッハはヴェネツィアを去ることができなかった。
タッジオのそばにいることを選び、彼を必死に追いかけ、それがきっかけでラストの場面に繋がっていくのは、あまりにも報われないと思った。

今思えば、彼らは言葉を交わしてすらいなかった。
たったの、ひと言も。
始めから最後まで、二人の距離は変わらなかった。
それがまた良いと思った。
膨らんでいく気持ちに体が追いつかず、想い人の前では臆病になってしまう。
そんなアッシェンバッハを表しているようだと思った。

アッシェンバッハの気持ちは、最初は花を綺麗だと愛でるような気持ちに似ていたように思う。
美しい花を、ずっと眺めていたいと思うような。
しかし「花」は「神」になり、美しく尊いものを崇めたてるような気持ちが生まれ、終いには「欲」が生まれたのだ。

たった一人の少年の美が、老いた作家の人生を変えてしまった。
これまで感じたことのないような興奮、ときめき、戸惑い、切なさが混ざり合っていたアッシェンバッハの心。
その心の動きを追っていくのは興味深く、とても好きな作品だった。

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2022年04月21日

Posted by ブクログ

ネタバレ

同性愛の要素はあるけれども、
決して露骨なものではなく、
美の象徴、といった感じのもの。

その時代ではピークを過ぎた作家が
出会うことになった輝ける存在。
その魔力ゆえに、彼は彼が感じえていた
動物的勘を鈍らせて、結局は最悪の
事態を招いてしまいます。

人は誰しもがこういった危険をはらむもの。
こういった例ではないにしろ、
いつ、どういったことで、「どうしてこうなった」
になることか。

だけれども、最悪の事態と引き換えに、
堪能できた一時の夢は、美しいものでした。

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2014年07月12日

Posted by ブクログ

ネタバレ

映画のイメージがどうしても先に立ってしまうけれど、非常に面白かった。アッシェンバッハは幸せに死んでいったのだなと思う

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2013年02月23日

Posted by ブクログ

ネタバレ

ヴェニスではなくてヴェネツィアに死す。そんなところまで現代的な訳なのがちょっとだけおかしい。
話の中身は単純というか、タイトルで語り尽くされている。アッシェンバッハ老がヴェネツィアにやってくること、老いらくの恋のためにその地を去ることができずに死を迎えること。そんなに単純なのに人を惹きつけてやまないのは、そんな話の古典であるからこそ。
中編ということもあって、岩波でもそんなに読みにくいわけではなかったが、現代語訳をウリにしているだけあって、読みやすさはひとしお。そんなこともあって星は文句なしの5つ。

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2012年07月21日

Posted by ブクログ

ネタバレ

理性の象徴のように尊敬されてきた人物が、実は俗物としての本性を抱えていたことが見える。彼は少年に対する自分の感情を一般的な好意と思い込み、老いらくの恋であることを自覚していない。このような孤独な人間ほど現実逃避に走りやすく、進展しない関係性に勝手に舞い上がってしまうものだ。コレラにかかり死ぬ間際でさえ、美しい少年に思いを馳せていた。最後に情熱を注げる相手に出会えたことは本人にとっては幸運だったのかもしれない。交流を避けたことで幻滅することなく、理想像にしたてあげ、勝手に死んだので、結末としては十分だ。恋は叶わないからこそ永遠であり、少年と関わらないことで美しく終える。

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2025年09月30日

Posted by ブクログ

ネタバレ

主人公が予想の100倍ぐらいキモくて最高!勝手に「ロリータ」のような雰囲気の作品だと思い込んでいたがそんなことはなかった。主人公は完璧なる美の体現者たる異国の少年への一方的な愛に身を焦がし、会話さえすることなく街をさ迷って死んでいく。そこにギリシア神話、歪な登場人物、病んだヴェネツィアの空気といった様々なモチーフが混じりあって迷宮的な読み心地を演出している。予想を裏切る面白さでした。

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2020年01月23日

Posted by ブクログ

ネタバレ

【本の内容】
高名な老作家グスタフ・アッシェンバッハは、ミュンヘンからヴェネツィアへと旅立つ。

美しくも豪壮なリド島のホテルに滞在するうち、ポーランド人の家族に出会ったアッシェンバッハは、一家の美しい少年タッジオにつよく惹かれていく。

おりしも当地にはコレラの嵐が吹き荒れて…。

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2015年01月18日

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