【感想・ネタバレ】ヴェネツィアに死すのレビュー

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ネタバレ

新訳シリーズということで読みやすさを期待して開いたが、翻訳文学を読み慣れた人でないと疲れるかも。映画を知っていれば楽しめると思う。映画の描写のように、何か常に劇的なことが起こる物語ではないので、夜、眠りにつく前に読むと、心地よい。
クリエイターや表現者、美を好む人の心に響く作品。美しい死にざまの一つだと思う。

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2023年12月05日

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ネタバレ

「ベニスに死す」というタイトルの映画としても知られている作品。(原作)

初老の主人公・アッシェンバッハは、若いうちから才能を発揮した威厳ある作家であり、長年仕事一筋だった。
そんな彼は、旅先のヴェネツィアで美しい少年・タッジオに出会い、少しずつ変わっていく。

アッシェンバッハはタッジオを宿泊先のホテルで見かけるたびに、その美しさを褒めたたえていた。
それはだんだんエスカレートし、神を想うような言葉でタッジオを礼讃していく。

ただ目が合うだけの存在。
互いのことは知っているのに、わざとそうしているかのようにそっけなくし、言葉を交わさない。
そんな微妙な関係が続く中で、タッジオはアッシェンバッハに微笑んだ。
タッジオと話がしてみたい、でもできない、とヤキモキしていた中で放たれた微笑み。
それは、アッシェンバッハの心を焼くには充分すぎるほどの衝撃だった。

「タッジオを愛している」と自覚したアッシェンバッハは、立ち止まることができなかった。

常に自制を保ってきたアッシェンバッハにとって、少年に惹かれることは後ろめたいことであり、罪悪感のようなものを感じているようだった。
しかし抵抗してみても、彼はタッジオを愛することを止められず、しまいには後をつけ回すようになってしまう。

自分を見つめ、後を追ってくるアッシェンバッハに対して、タッジオは嫌がるそぶりを見せず、たまに思わせぶりに振り返ったり、視線を寄越したりする。
そんなタッジオの態度は、どのような意味を持っていたのだろうか。

世間から「正しい人間」だと思われているアッシェンバッハの内面が、荒れ狂い、酔いしれ溺れていく様は、とても苦しく切なかった。
自身の老いを悔やみ、肉体を若返らせたいとすら思い、着飾り化粧をするアッシェンバッハ。
そんな彼を、私は笑うことができない。

街に病気が蔓延し、命の危険すらある中で、アッシェンバッハはヴェネツィアを去ることができなかった。
タッジオのそばにいることを選び、彼を必死に追いかけ、それがきっかけでラストの場面に繋がっていくのは、あまりにも報われないと思った。

今思えば、彼らは言葉を交わしてすらいなかった。
たったの、ひと言も。
始めから最後まで、二人の距離は変わらなかった。
それがまた良いと思った。
膨らんでいく気持ちに体が追いつかず、想い人の前では臆病になってしまう。
そんなアッシェンバッハを表しているようだと思った。

アッシェンバッハの気持ちは、最初は花を綺麗だと愛でるような気持ちに似ていたように思う。
美しい花を、ずっと眺めていたいと思うような。
しかし「花」は「神」になり、美しく尊いものを崇めたてるような気持ちが生まれ、終いには「欲」が生まれたのだ。

たった一人の少年の美が、老いた作家の人生を変えてしまった。
これまで感じたことのないような興奮、ときめき、戸惑い、切なさが混ざり合っていたアッシェンバッハの心。
その心の動きを追っていくのは興味深く、とても好きな作品だった。

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2022年04月21日

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ネタバレ

同性愛の要素はあるけれども、
決して露骨なものではなく、
美の象徴、といった感じのもの。

その時代ではピークを過ぎた作家が
出会うことになった輝ける存在。
その魔力ゆえに、彼は彼が感じえていた
動物的勘を鈍らせて、結局は最悪の
事態を招いてしまいます。

人は誰しもがこういった危険をはらむもの。
こういった例ではないにしろ、
いつ、どういったことで、「どうしてこうなった」
になることか。

だけれども、最悪の事態と引き換えに、
堪能できた一時の夢は、美しいものでした。

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2014年07月12日

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懸命な仕事ぶりで多大な業績をあげた初老の芸術家が、保養先で美少年に出会い、恋に落ちていく様子を描く。それまでの人生からすればまるで逆の生き方、すなわち欲望のままに生き、堕落して行くさまはデカダンスと言えるが、一方で人間らしくまっすぐな生き方であるとも言える。一貫してゆったりとした調子で物語は進んでいくが、その結末はあまりにも甘く、悲しい。

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2013年10月30日

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ネタバレ

映画のイメージがどうしても先に立ってしまうけれど、非常に面白かった。アッシェンバッハは幸せに死んでいったのだなと思う

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2013年02月23日

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ネタバレ

ヴェニスではなくてヴェネツィアに死す。そんなところまで現代的な訳なのがちょっとだけおかしい。
話の中身は単純というか、タイトルで語り尽くされている。アッシェンバッハ老がヴェネツィアにやってくること、老いらくの恋のためにその地を去ることができずに死を迎えること。そんなに単純なのに人を惹きつけてやまないのは、そんな話の古典であるからこそ。
中編ということもあって、岩波でもそんなに読みにくいわけではなかったが、現代語訳をウリにしているだけあって、読みやすさはひとしお。そんなこともあって星は文句なしの5つ。

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2012年07月21日

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だいぶ前に読んだので,詳しくは覚えていません。
もう一度読み直したら、書き直します。

トーマスマンで読んだ記憶があるのはこの本だけかも。

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2011年12月20日

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情景描写がとにかく綺麗。目に浮かぶ景色だけで癒される。好き。心情描写も綺麗で癒される。とにかく作品全体が癒し。

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2022年06月22日

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トーマス・マンの傑作。
20代の頃は、若者に恋する年寄りって、身の程知らずだし醜いよなぁと思っていたけど、30代になって、少し気持ちがわかる。
若い身体、美しさってそれだけですごく輝いていて(まじで光輝いてる)、眩しくて、憧れてしまうし、自分の若い時代を振り返り、みすみす無駄にしたと悔やんでしまうものだ。

きっともっとしわくちゃになれば、更に思うのだろう。

最近、老いを受け入れる等の考えが急に増えているし、30代でも若いと言われ、公共交通機関を見渡すと、確かに40代以上ばかりで、さすが高齢化社会だと思うことも多いが、反面トルコに行って、若い人の多さに驚いた。
若い、というだけでエネルギーが溢れ出し、醜いものはそれなりに、それなりなものは美しく、美しいものはカリスマのように輝いてみえる。

何が言いたいか分からなくなってきたけど、恋焦がれて、最後にスペイン風邪かなんかで死んでしまう小説家は、幸せだったのかだけを判断したい。
最後に強烈な生を愛することができ、幸せだったと思いたい。

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2021年12月12日

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人生で一番難しい本な気がする……
正直途中わけわからんくなりながら、ページ進めてた(´・ω・`)
しかし、トーマス・マン研究の方の授業で『魔の山』のレポートを一ページも読まずに書いて提出した自分を思い出してしまい、若いとは何と恥知らずで痛々しいことか……(人生で一番反省してます)

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2020年07月01日

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ネタバレ

主人公が予想の100倍ぐらいキモくて最高!勝手に「ロリータ」のような雰囲気の作品だと思い込んでいたがそんなことはなかった。主人公は完璧なる美の体現者たる異国の少年への一方的な愛に身を焦がし、会話さえすることなく街をさ迷って死んでいく。そこにギリシア神話、歪な登場人物、病んだヴェネツィアの空気といった様々なモチーフが混じりあって迷宮的な読み心地を演出している。予想を裏切る面白さでした。

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2020年01月23日

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ネタバレ

【本の内容】
高名な老作家グスタフ・アッシェンバッハは、ミュンヘンからヴェネツィアへと旅立つ。

美しくも豪壮なリド島のホテルに滞在するうち、ポーランド人の家族に出会ったアッシェンバッハは、一家の美しい少年タッジオにつよく惹かれていく。

おりしも当地にはコレラの嵐が吹き荒れて…。

[ 目次 ]


[ POP ]


[ おすすめ度 ]

☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)

[ 関連図書 ]


[ 参考となる書評 ]

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2015年01月18日

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面白みのある作品ではないが、魅力的である。美少年に対する想いが延々と綴られるので、若干人を選ぶ本ではある。映画のほうが良いかもしれない。訳者別に読み比べる価値はある。

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2013年05月21日

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濃厚な死の気配。
老作家、アッシェンバッハを魅了して止まなかった青白い顔をした美少年タッジオ。彼は、性別や生死をも超越したような存在に思えた。

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2011年11月23日

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これは…なんというか…おお…(せんりつ)。
圧倒的な耽美と官能と退廃に酔います。
指先ひとつ触れないのに、瞳しか見てないのに、しっかりうしろぐらいエロスが存在するんだもの。
古びるなんてとんでもない、これぞ古典と言うべきなのでは。
ずっと読みたい読みたいとは思ってたんだけど、読んでよかった!

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2009年10月07日

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劇的で美しくて破滅的で準古典ならではの明快さ。題材には時代を感じるけどこの美しさは普遍だと思う。ってか個人的にこういうお話は大好き。
新訳読みやすかった!でもなんとなく味がなくてさっぱりした感じ。話はよく分かったから重厚な古い翻訳で読んでみたい。

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2012年04月13日

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平野啓一郎の「マチネの終わりに」に「≪ヴェニスに死す≫症候群」という言葉があり、それに触発されて(たぶん)再読。原文がドイツ語だからかもしれないが、観念的な耽美を湛えた表現の中であっけなく破滅(死)を迎えるような印象。現実の破滅の方がはるかに恐ろしいぞ。一番驚いたのは、主人公が50歳にして晩年の老小説家と呼ばれていることかな。

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2023年07月25日

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マチネの終わりに出てきた、小説が気になって読んだ。

ポーランドの作家が一定に疲れ、癒しを求めてイタリアのヴェネツィアへやってきた。そこで出会った美少年に恋をする、実らぬ恋もの、ショタ・ゲイもの。

ストーリーに共感できるところが少なかったが、伝染病(コレラ)が蔓延しロックダウン直前の社会不安が描かれており、今のコロナ禍を彷彿とさせる。



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2021年03月03日

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高名な小説家が運命に引き寄せられて旅した先のヴェネツィアでの滞在で出会う美少年への恋と破滅。
主人公が織りなす内なる感情は持てる知識を以て飛躍し、混乱の域に達するが如し。同性への愛情がこの時代にあって相当にインパクトがあったと思われるが現代のマイノリティを肯定する風潮ではその驚きは失いつつも、あまりに美しい少年への思いを共感できるか否かで評価は変わるような気もする。
幾重にも重ねられた言葉で綴る文体はセンスを感じるが矢張り読みにくい。けれど何か惹かれるものがあるのも確かです。
途中までは旅の紀行と出会いが描かれタイトルの予感を全く感じないが、伝染病の噂からまさかこれで?と思わせつつ、最後のページで潔く完結するところがなんとも印象的。いちごにあたったのかな?

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2020年01月05日

Posted by ブクログ

アッシェンバッハは、才能があり決して怠惰を覚えなかった作家です。

そんなアッシェンバッハは、散歩中に異様な風采の男を見たことで、新奇な異郷への憧れ、解放と負担の軽減と忘却への欲望を感じ、“そうだ、旅に出よう(p16)”と考えます。

そして、ヴェネツィアに訪れます。そこで、ポーランド人の、高貴な時代のギリシア彫刻を思わせる十四歳くらいの少年タッジオを見て、この少年が完璧に美しいことに気づいて愕然とします。

アッシェンバッハは、タッジオを目で追い、後を追いかけることもします。タッジオを愛していたのです。

しかしヴェネツィアの町の中では、不潔な出来事(コレラ)が進行していました。アッシェンバッハは、イギリス人から事実を教えてもらい、ヴェネツィアから出発した方がいいと忠告されますが、この状況から逃げ出す気などさらさらありませんでした。“いったん自分から外れてしまった者は、再び自分に戻ることを何よりも嫌う(p131)”のでした。

そうして、破滅へと至ります。

最初に現れた異様な男から始まり、幻想的でふわふわとするような雰囲気もある物語でした。

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2019年07月25日

Posted by ブクログ

トーマス・マンの代表的中編のひとつ。
ヴィスコンティの映画でも有名。映画はテレビでちらっと見たことがある。

内容は、よく知られているとおり、確固とした名声を築いた初老の小説家が、避暑地のヴェニスで美少年に魅せられるというもの。
20世紀を代表する大小説家であるトーマス・マンが、堅実で緻密な描写で、一人の芸術家の破滅を描いた作品。

おそらく傑作なのだろうが、個人的にはあまり面白くなかった。読んでも読まなくてもどうでもいいと思った本。
ドイツのくたびれたインテリおやじが恋する相手が美少年ではなくて美少女だったら、もう少し関心がわいたかもしれないが。

それに翻訳がどうも、イマイチなような気がする。

この光文社古典新訳文庫は、世界の名作といわれている作品を、新しい飜訳で紹介しようという画期的な企画で(いま、息をしている言葉で、もういちど古典を!)、ラインナップも飜訳の出来映えも素晴らしいの一言。
できればこの文庫で出る本は全部読んでみたいと思っているのだが、飜訳にはじめて不満を感じた。どこが、とははっきりいえないのだが。

そういえば、昔この作品は読んだはずなのだが、内容はすっかり忘れていた。昔もやっぱり退屈だなあと思いなが読んだんだろうか。それなら2度ムダな時間を使ったことになるなと思いながら持っている岩波文庫を見てみたら、20年以上前に一度読んでいることが判明。
しかも、アンダーラインなんか引いていて、けっこう感動した気配がある。

そうだったのか。
しかし、いったい何に感動したんだろう。
むかしは美少年方面に関心があったんだろうか。

チェックしている部分を読んでみると、どうやらその方面ではなくて、主人公のストイックな姿勢に関心を持ったようだ。その部分を読んでみると、なぜ新しい飜訳に不満を持ったのかわかった。

昔読んだ岩波文庫版。訳者は実吉捷郎。
この部分は、トーマス・マンの作品中でも有名な部分。

アッシェンバッハは一度、あまりめだたぬ個所で、現存するほとんどすべての偉大なものは、一つの「にもかかわらず」として現存し、憂患と苦悩、貧困、孤独、肉体の弱味、悪徳、情熱、そのほか無数の障害にもかかわらず成就したものだ、と端的に言明したことがある。(p18)

新しい飜訳では、

アッシェンバッハはかつておよそ目立たない箇所で、現存するほとんど全ての偉大なものは「にもかかわらず」として存在する、悩みや苦痛、貧困、孤独、病弱、悪徳、情熱、そして何千もの障害にもかかわらず成立したのだと、ダイレクトに語ったことがあった。(p21)

ほとんど同じような文章。
ただ、新訳版は、最後に「ダイレクト」なんてカタカナを使ったせいで、文章の格調が台無しになっている。まるで博多の森を「レベスタ」といってしまったときのようなガックリ感が漂う。
どうやらそういうセンスのなさと、この作品全体を流れる高い格調と美的な緊迫感があっていないようだ。

あるいは、

岩波文庫版

一体世の中に、弱さのもつ壮烈以外に、壮烈というものがあるだろうか
(p19-20)

新訳版

そもそも弱さのヒロイズムの他にどんなヒロイズムがあるのか
(p23)

「弱さのもつ壮烈」というとなんとなく伝わってくるものがあるが、「弱さのヒロイズム」となると、なんのことやらさっぱり。
違いはカタカナ使用の有無だけではないようで、たとえば、

岩波文庫版

孤独でだまりがちな者のする観察や、出会う事件は、社交的な者のそれらよりも、もうろうとしていると同時に痛切であり、かれの思想はいっそうおもくるしく、いっそう奇妙で、その上かならず一抹の哀愁を帯びているものだ
(p39)

新訳版

孤独と沈黙の人が行う観察や、その人が出会う出来事は、仲間の多い人の観察や出来事よりも曖昧であり、同日に切実でもある。そういう人の考えはより深刻で、変わっていて、どこかに悲哀の影がさしている
(p48)

前者は、おおそうなのかと思わず頷いてしまいそうな名文句、後者はたんなる叙述にすぎない。
どこでそういう違いが出てくるのか、その秘密はよくわからないが、岩波文庫版では、漢字とかなの選択に一語一語こだわっていることはうかがえる。
こう書いていて、実吉訳ならばもう一度読んでみようという気にはなってくるな。

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2018年09月19日

Posted by ブクログ

一度以前の訳のものを読みかけたのですが、訳が古いこともあり挫折してしまったことがありました。原本自体が古いというのもあってやはり少し古さを感じる文章ではありましたが、この新訳は非常に読みやすかったです。タッジオの美しさの描写が尋常じゃなく美しかったです。色々な詩歌からの引用が散りばめられた散文ですね。あと、視線に関する描写が印象強く(タッジオが最初は視線を慎ましく伏せ、それから見上げる…など)残り、視覚的なものが強い作品だと思いました。映画を見たことはありませんが、あちこちで見た写真のビョルン・アンデルセンの人間離れした美少年振りと言ったら!

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2009年10月04日

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