あらすじ
都に出て本物の絵師になる――武家から養家に出された能登の
絵仏師・長谷川信春の強い想いが、戦国の世にあって次々と悲劇を呼ぶ。
身近な者の死、戦乱の殺戮……それでも真実を見るのが絵師。
その焦熱の道はどこへ。
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Posted by ブクログ
日経新聞に連載された歴史小説をもう一度読んでみた。信長が活躍する激動の時代の中で、政治に翻弄されながらも長谷川「等伯」が画家の高みを目指す姿が描かれている。主人公を支える家族や法華の教えにも心を動かされる部分が多い。反信長サイドから見た世情や信長の野望に触れるところも面白い。
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長谷川等伯がずっと好きだった。
「好き」という表現は少々軽いかもしれない。
狩野派全盛の織豊政権下、
「時代の寵児」だった狩野永徳や、
時の最高権力者である関白秀吉らに対し、敢然と戦いを挑み
己の地位と長谷川派を画流を確立した等伯。
そんな「時代の反逆児」等伯に対する思いは
「好き」というより、「畏怖」「畏敬」の念に近い。
最近になり、安倍龍太郎の直木賞受賞作「等伯」を読み、
絵仏師、画家としての等伯を、
法華経の信奉者として
戦国の安土桃山時代を駆け抜けた人間として
そして何より芸術を探求する表現者として
深く理解することができた。
印象的な台詞や注目すべき箇所には
思わず鉛筆でラインを引いてしまった。
受験の現代文読解のように(笑)
読後の感動が冷めやらぬうちに、感想を書きたいと思う。
人間は誰しも困難や挫折、悲劇と直面し、
哀しみを味わい、葛藤し、悩みを抱えながら生きていく。
武家社会の計略、因縁に巻き込まれ、
「焦熱の道」を歩んだ等伯にも様々な悲劇が降りかかる。
養父母の自決から、故郷の七尾を追われた等伯。
京の都に妻と幼子を連れて旅立つ途中で
信長の比叡山焼き討ちに独り巻き込まれ、
追われる身となった苦しい時代。
愛妻の死、
狩野派との暗闘、
師と仰いでいた千利休の自刃、
そして愛息・久蔵の死。
戦国時代の荒波に飲ま混まれれるような悲劇と困難の数々。
窮地に陥った等伯も嘆き苦しむのだが、
彼を救ったのは法華経の教えと
「とこしえの真善美」を探求する芸術家としての信念だった。
この本を読んでいて
東日本大震災に伴う津波や原発事故で
故郷や大切な人を失った人たちの姿が重なった。
自分も被災地を訪れ、大切な家族を失った人達を取材した人間の一人である。
ジャーナリストは、芸術家とは違うが
世の中に真実を伝える「表現者」である点は共通すると思う。
そういう意味では、大変おこがましいが、
等伯の反骨心、権力や理不尽なものに敢然と立ち向かう姿を読むにつけ
自分の弱い生き方を恥じるとともに
「かく在りたいな」という畏敬の念を抱かざるを得なかった。
自分も迷える人間だが、
等伯のように悲しみも喜びもすべて背負いながら
己の人生を強く生きていこうと思う。
そして、等伯の絵を訪ね、京都や七尾、敦賀を旅したいと思った。
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1章ごとの話が濃くて読み応えがある。登場人物の性格も個性的で、覚えやすかった。
画家「長谷川等伯」の視点から大きな歴史の流れが描かれており、歴史物としても、伝記としても興味深く読める。独特の醍醐味を味わいたくて、二度、三度と読みたくなる本。
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直木賞受賞作であり、その主人公も戦国時代から江戸時代までを生き抜いた絵師ということで興味もわいてきたので、読んでみました。主人公長谷川信春(等伯)は、生れながらにして絵を描くことが好きな絵仏師です。狩野永徳の存在に焦燥感を感じ、出身地能登から都に出て絵師として大成したいという願いを持っていました。義父母の非業の死により故郷を離れざるを得なくなり、途中、織田信長の比叡山襲撃焼き討ちに遭遇し、比叡山側についたため信長側から追われる身となります。そんな逆境の中でも絵を描くことだけは忘れず、それで名をあげていきます。やがて本能寺の変がおこり、信長側の追跡がなくなったことで、やっと落ち着いて絵師としての仕事に専念できるようになりました。上巻はこのあたりでおしまい。病死する最愛の妻静子の存在が信春を支えていたことはまちがいなく、の存在は大きいです。信春の絵の才能を静子は見抜いていたから、苦労続きでもついていったのだと思います。なんとけなげな良妻でしょう。主人公ではないけれど、主人公なみの印象がありました。本能寺の変前後の時代、一人の絵師の運命がこんなにもめまぐるしく変わっていくことに、驚きました。信春の絵を私は、恥ずかしながら見た記憶がないのですが、彼が書く仏の描写など、作品中にでてくる絵は、人の心に感動を呼ぶものでした。信春が生きた時代が動乱の時代だったからよけいに、彼の絵が喜ばれたのかもしれません。下巻は信春がどう活躍するのか、楽しみです。
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長谷川等伯という安土桃山時代から江戸初期に活躍した画家の伝記小説。上下2冊の長編小説ですが、一気に読み進むことが出来ました。
恥ずかしながら私は、この本を読むまで長谷川等伯を知りませんでした。同時代活躍した狩野永徳は知っていましたが。こういう本を読んで、今まで自分の知らなかった有名人を知るのは楽しいですね。
さて、この本の終盤の山場に出てくる「松林図屏風」ですが、東京国立博物館の新春特別公開で、実物を見ることが出来ました。感激です!!
椅子に座って暫く「松林図屏風」を観てみました。しかし、その屏風から光と陰は感じることは出来ましたが、残念ながら私には、風までは感じることが出来ませんでした。残念です!
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いい本を読んだ。
読後、何かに打ちのめされたかのようにしばらく放心状態になった。こんなにも迫力を感じることは久しい。
著者の安部龍太郎はこの本で第147回直木賞を受賞。
筆力が凄いと思う。
長谷川等伯、安土桃山時代から江戸時代にかけて活躍した絵師。
33歳で絵師を目指し能登から上洛し、苦難の道を経て、狩野派と肩を並べるほどの絵師になる。
小説のクライマックス、日本水墨画の最高傑作「松林図」を身命を賭して描く場面が圧巻。
この時代、歴史は激動の時。絵師も多かれ少なかれときの人により歴史の影響を受ける。
故郷、七尾の家が七人衆の手のものに襲われ、養父母が自決に追い込まれる。上洛する途上、比叡山の焼き討ちに巻き込まれる。信場が上京を焼き討ちした際、妻子を連れて炎の中を逃げ惑う。病気の妻静子を七尾に連れて帰る途中、死なせる。利休事件に連座してどん底に突き落とされる。など数々の悲劇が等伯を襲う。
が、そんなことにめげずに苦難の道を歩み続ける。その精神が凄い。
その根底にあるのは、絵師として大成するという高い志しだ。
絵師になるという激しい情熱を秘めつつ、「ゆがみのない鏡が物事を正しく写すように、真に見たままを写しとるには心が空でなければならない。描きたいという欲を捨てて描く。目指したのはその境地だ」という悟りが印象的。
あとがきに「打ちのめされそうになった時は等伯の画集を開き、しばらく茫然とながめることが多かった。すると不思議な生命力が伝わって、もう一度立ち上がる気力を取り戻すことができた」とある。
パワースポットならぬパワーピクチャー。
素晴らしい絵とは、画家の精神的気迫が伝わってくる絵なんだろうな。
そうだ、等伯の絵を見に行こう。本物を見れば、等伯の気迫に迫ることができるかもしれない。
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こんな分厚い上下本、読めるかなと心配だったが、なんのことはない一気に読み通した。とても面白い。当時の歴史と美術を少し知っておくとより楽しめる。
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上下一括感想。激動の戦国末期で、時代に飜弄されながら絵師の道を進む等伯の激しい生き様が、生み出された作品と一体となって、読み応え充分。友達にはしたくないタイプだが、読後に彼の絵が見たくなる。
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安土桃山時代の名絵師・等伯の若き日から、織田信長の権力側から追われる身となった苦難の日々を経て、関白・近衛前久、狩野派の3代目直信(松栄)や京都奉行・前田玄以たちとの関係を経て、有名絵師として地歩を確立していくまで。妻・静子の献身的な支えが感動的だった。日蓮宗の僧侶・日堯上人の尊像を描くに当たり悟りがどこまで進んでいるかを絵が余すところなく表現している!そして若い僧侶・日槇の肖像画を描くに際しては一途さ、将来の大輪の花を予感させる作品へ向けた努力を惜しまない。等伯の絵のその凄みは実際にあった話だと納得できた。等伯という人の求道者ぶりがよく分かった。下巻へ向け、狩野派4代目州信(永徳)が敵役として登場する予感が期待を膨らませてくれる。
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常に己の信念に忠実に生きてきた長谷川信春(後の等伯)。
十一歳で武家から染物屋に養子に出されて以降、戦国の激流に翻弄され続けて不遇な時を過ごすも、その都度自身の絵に境地を救われる。
このままでは終わりたくない。
いつかあの狩野永徳を越える絵師になる!と常に永徳を意識しながら。
山本兼一氏の『花鳥の夢』を読んでから俄然興味が湧いた今作品。
等伯がこんなにも追い詰められながら絵を描き続けてきたことに驚いた。
次々に不遇に見舞われても切り抜ける根性。
故に気迫と気高さが込められた等伯の絵。
特に長年等伯を支えてきた妻のために描いた故郷の山水図はどんなにか素晴らしいことだろう。
そしていよいよライバル永徳との対決が楽しみな下巻へ!
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詳しくはないけど、等伯の画、好み。
華々しい狩野派と同時代のお話。
義父母の死、能登七尾から京の都へと。
「あなたは信長に勝ちたいとは思いませんか」
〜人は理不尽な暴挙に屈することのない気高さを持っていると、自分の生きざまによって知らしめたいのです。〜[日堯の肖像画]
近衛前久との出会い
〜死と向き合う不安と恐怖、それに打ち克とうとする信念と覚悟。〜[教如の肖像画]
『心に分別して思い言い顕す言語なれば、心の外には分別も無分別もなし』
〜言葉というは心の思いを響かして声を顕すという。〜神通というものは、魂の一切の法に通じてさわりのないものじゃ。〜すべての心の動きは悟りに通じておる。〜
〜「力をも入れずし天地を動かす力が、和歌に、いえ、言葉にあるのでしょうか」「ある。心と天地はもともとひとつのものじゃ。心が正しく動けば天地も動く」[日禛の肖像画]
妻、静子の死。本能寺の変。
いよいよ絵師へ。
〜俺ら政にたずさわる者は、信念のために嘘をつく。〜絵師は求道者や。〜
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やはりこの人の文章読みやすい。会話が多くてスラスラ進むが、会話がうまく書ける人ってなかなかいないような。程よくエンタメ性もあり、通勤時の電車の中だけで4日で読めてしまった。下巻も楽しみ。
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自分には厳しい割に、例えば、縁が切れた兄、武之丞や宿敵狩野永徳など他の人との関係には甘いところが多々ある人だと思うが、自分に厳しいからこそ、33歳から絵師を目指して狩野永徳と並び桃山時代を代表する絵師になれたんだろうと思う。
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松林屏風図を見て感銘を受けたので
とりあず 直木賞受賞の本作を読んでみた。
戦国時代の不安定な世の中に振り回させれ
命を危険にさらされながら筆一本で生計を立て
地位を気づいていった等伯。
前半は 七尾を追われ、 大坂にでるあたり
絵書きとしての 修練の日々。
よく見る事 人柄に迫るということなど
等伯が一人の人間としてどのように画業にうちこんだかがよくわかる良書。
戦国時代の だれが勝ち組になるかわからない日々の
不安の様子もよくわった。
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ボストン美術館展 観て、等伯の作品に感動した。彼の生い立ちを知って想像とかなり違ったが、別の意味で興味が増した。2015年1月の国立博物館の展覧会には、是非行こうと思う。
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時代背景をまったくしらなかったけど、等伯は過酷な時代に命がけで絵を描いていたのだな、と思った。松林図屏風をみると、すごく静かな印象を受けるが、かなり向う見ずな性格だったとのことで、びっくりした。
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絵師にとって悟りを開く境地。表面上をみたまま描くのではなく本質を見つめて心を描く。成る程ね~。前半は家族との触れ合いが多かったが後半いよいよ時の権力者との触れ合いが描写されているようだ。楽しみだぁ
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戦国時代の絵師の話。最近読んだ『黒牢城』『塞王の楯』と時代、舞台が重なるところが多く、また絵師ということで『星落ちて、なお』とも通じるところがあり興味深かった。
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長谷川等伯。能登の大名畠山氏に仕える奥村氏の末っ子として生まれ、11歳の時に染物屋の長谷川家に養子として出される。養家が熱心な日蓮宗信者のため、法華関係の仏画や肖像画などを描き始める。
上洛した等伯は、信長による日蓮宗弾圧下、近衛前久や前田玄以との交流を重ね、激動する時代に翻弄されながらも、絵画の技法を学び、道を極めていく。
上巻では、信長亡き後、新しい時代へと動いていく。
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重々しい話かとおもったら、意外とライトで読みやすい。人が何人も死んだり辛いことが色々とあるのだけど、信春(等伯)の性格のせいかな?絵の才能はすごいけど、見たい知りたい欲が強くて、悩んだり恨んだり、調子に乗っては痛い思いをして反省したり、柔軟で人間らしくてとても魅力的。妻や子を思う優しい気持ちも。登場する絵を実際に見てみたいなあ。下巻へ続く。
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長谷川等伯の松林図屏風は何度見ても吸い込まれるように見入ってしまう。描かずに霧靄、水蒸気、空気を表現し、それ以上に寂寥感、無常観まで感じ取らせる墨の世界。どのような境地で描いたのか、歴史的背景を含めて知りたくなり読んでみようと思った。
Posted by ブクログ
長谷川等伯を主人公に描いた物語。等伯(信春)がとても人間味溢れてていて、一緒に苦しくなったり嬉しくなったりする。等伯の絵を見たくなる。
2014/9/12
Posted by ブクログ
水墨画の最高峰と言われる松林図屏風を書いた長谷川等伯の話。文章は読みやすいし心理描写が上手だなと感じた。願望と罪悪感と悲しみに取り囲まれて、そこからどうなっていくのだろうという歴史小説的な構成。
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長谷川等伯は好きな作家でその生涯も大まかに知っていた。直木賞受賞作とも言うことで期待したのだが、うーむ、肩透かし。まだ下巻を読んでないので評価は下せまいが。
題材としては稀少性はあるが、表現がイマイチ。この作家さんは絵をあまり見ずに、剣客もののほうが好きな気がする。美術家の伝記ものではなく、奥さんを不幸にして夢を追いかけた男の一代記ぐらいのつもりで読むといい。