あらすじ
国境を挟み、宋遼二国は一触即発の状態に。宋の北辺を守る楊業と息子たちの前に、遼の名将・耶律休哥が立ちはだかる。神出鬼没、白い毛をたなびかせて北の土漠を疾駆するこの男は、「白き狼」と恐れられていた。意のままに動く赤騎兵を従えた「白き狼」の出現に、さすがの楊家軍も、思うように動けない。楊一族を苦しめたのは、敵将ばかりではない。力はあっても新参者の楊業に対し、宋軍生え抜きの将軍、文官たちが、次々と難問を突きつける。建国の苦悩のなかで、内なる戦いも始まっていたのだ。運命に導かれるように戦場に向かう男たち。天はいずれに味方するのか。滅びゆく者たちの叫びが切々と胸に迫る。最後の場面のためにそれまでの850枚があったかと思わせる感動のクライマックス。この先を読みたい、との読者の熱い要望に応え、著者は現在、続編「血涙」を執筆中だ。「水滸伝」に勝るとも劣らない英傑たちが活躍する北方『楊家将』、怒涛の後編。
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Posted by ブクログ
圧巻だった。上巻でほとんど感想を言ったかもしれない。
後編も素晴らしかった。最後の楊家軍としての動きがあまりにも淀みなく死を受け入れていて、漢としての生き様をまざまざと見せつけられた。あっぱれ。
最後に七郎が帰還して激高している場面は泣いた。死というものを受け入れている人間だからこそ、その漢の死に様というものに対して並々ならぬ感情をぶつけていてこれには涙した。このときの情動がすべて後編の原動力となって物語を動かしている。最高でした。
Posted by ブクログ
楊家将の下巻。
もう傑作だと言わざるを得ない。すばらしい!
もう最後泣きそうになりました。
楊の兄弟たちが次々に死んでいってしまう・・・・・・
もちろん主人公たる楊業も死んでしまう。
最後、谷に追い込んであともう一息というところで潘仁美がいない時にはもう読みながら怒りで身が震えました。
なんでいてへんねん、この馬鹿野郎!お前それでも男か!足ばっかり引っ張りやがって、最後の最後もそんな臆病なことしやがって!と叫びたくなりました。
四朗が遼に捕まるのはなんとなく予測できましたが、さすがに長男の延平まで死んでしまうとは思わなかったです。
一番好きな六朗と七郎が生きていてくれたことが、唯一の救いです。
続編の血涙がはやく読みたくなりました。
Posted by ブクログ
この物語。 一言で言ってしまえば「滅びの美学」の物語です。 「滅びの美学の物語」が好きなのは日本人だけかと思いきや、中国人にもその傾向があるのかしら?? それともこれは「北方版 楊家将縁起」だからこういう物語になったのかしら?? 残念ながらこの本を読むまで本家本元の「楊家将縁起」についてまったく知らなかった KiKi には判断のつかないところです。
上巻の Review で KiKi は楊業さんの息子たちの書き分けがちょっと粗いと書いたんだけど、コレ、実は全部が全部じゃなくて7人のうち4人に関してはそこそこ書かれていたんですよね。 かなりあっさりとまとめられちゃっていたのは次男、三男、五男の3人で、結果この3人はこの下巻でもキャラが立たないうちにお亡くなりになってしまいました。 お亡くなりになっても印象が薄いのはやっぱり描き込みが少なかったから・・・・・と言わざるをえません。
一家の柱である楊業さんと長男も非業の死を遂げることになるわけだけど、彼らはさすがに頭領とその後継ぎということで、上巻でもかなりの頁を割いて描かれていただけに、最期の時の描写には胸がジ~ンとしてきます。 「生粋の武官の生き様というのはこういうものか!」と思わずにはいられません。
それにしてもこの楊家の悲劇は宋の国でもっとも精強な兵を抱えた軍閥でありながらも、所詮、外様であったこと。 そして宋国恩顧の武家たちにロクなのがいなかった(少なくともこの物語のうえでは・・・・ですけど)ことに尽きるような気がします。 そして宋国の帝も国のトップである以上 Vision は必要だけど、「先代から受け継いだ悲願(≒ 燕雲十六州の奪還)」という得体の知れない魔物に憑りつかれちゃったのが残念でなりません。 もっともこの「燕雲十六州の奪還」というヤツは「北方水滸」でも「楊令伝」でもその背景に根強く残っているわけで、そうであればこその悲願ということで帝がダメということでもないんですけどね。 少なくとも「北方水滸」の帝よりは遥かにマシですから(苦笑)。
さて、上巻からもそこそこ描きこまれていた楊業さんの四男、六男、七男は宋遼戦を生き延び(もっとも四男は虜囚となったきり行方不明だけど)、そのまま次の作品「血涙」に突入するようです。 こういう作りの物語だとやっぱり続編は素通りできないと読者に思わせるあたり、北方謙三さん、実に商売上手です(笑)
さて、この物語を読んでみて KiKi が一番感じたこと。 それはこういう混沌の時代であればあるほど「男という生き物は『意味ある死』を目指すものなのか?!」ということでした。
戦後の平和教育にどっぷりつかって育った、まして♀である KiKi にしてみると「生きているだけでも崇高」、「生き続けることこそ大切」、「命あっての物種」みたいな考え方が基軸にあるんだけど、やっぱり武家に生きる男となるとそんな平和ボケみたいな考え方はその思想の根底にはなさそうな雰囲気です。
もちろん現代社会みたいに医学が発達しているわけでもない(それでも宋代は医学の進歩があったらしいけど)、戦も多く死が身近ということもその背景にはあるんだろうけれど、どこかに「良く生きること、即ち意味ある死を迎えること」というような哲学を KiKi が想像する以上に強く、堅く持っているように感じられました。
「どちらか死んでくれ」 「はい」
「延平、お前には死んでもらうことになる」 「光栄です」
そんなセリフで戦場に散っていく男たちの姿は、物語として読めば美しさのようなものも感じないわけではないけれど、やはり哀しい・・・・・・・。
武門というのはそういうものだと言ってしまえばそれまでだけど、「死を美化する」ことにはどこか抵抗を感じる KiKi には
本当にいいのか? それで??
という想いが付き纏います。 そんな KiKi の甘っちょろい感覚を見事に吹き飛ばしてくれたのは、楊家軍の好敵手・遼国の名将・耶律休哥の以下の独白でした。
殺したくなかった。 あの場で、なぜかそう思った。 戦は、殺し合いだけではない。 勝負がついたら、闘った者同士で酒を酌み交わすことはできないのか。 (中略) 北平寨の将(楊業の四男)は、まさに酒を酌み交わしてみたい男だった。 楊業とも、その息子たちとも、力の限り闘ったあと、酒を酌み交わしたい。 男は、それでいいではないか。
なるほど、♂というのはそういうモンですか?? だからそれでいいんですか??
こういう時代に生まれたわけではなく、まして部門の誉れの高い家に育ったわけでもなく、さらに言えば♀である KiKi にはよくわからない感性ではあるけれど、何となくこの一文のおかげでこの物語を「単なる滅びの美学の物語」とはちょっと別次元のオハナシに誘ってもらった・・・・そんな不思議な読後感になっているような気がします。
Posted by ブクログ
楊家の武人たちが、政局の思惑が入り乱れる中にあっても、武人としての誇りを最後の最後まで貫き通す。物語にはつきものであろう「愚将」との対比効果もあるんだろうけど、その凛とした生き様がとにかく格好良い。読み終えた後には、なんとなく背筋がシャンと伸びるような一冊。爽やかな読後感が欲しい人にお勧め。続編も読んでみたいな。
Posted by ブクログ
やっと読破。楊家の男達はみんな熱かった。男の死に様はやっぱあんな風にあるべきやよな。
それに比べて潘仁美のクソっぷりはないな。ああはなりたくはない。
男は黙って前進あるのみ!
Posted by ブクログ
同じ著者の「三国志」全13巻、「水滸伝」全19巻、「楊令伝」全15巻を読んだ後だったので、あっという間に読み終えた。著者にとっては、水滸伝を書くためのウォーミングアップに当たる作品だったようだ。
それだけに、水滸伝に通じるおもしろさがすでにここにあるように思った。
楊業という人物は実際に強い武将で、遼との戦いにおいて息子たちとともに奮戦した。しかし戦場で讒言にあい、圧倒的な不利な状況にも関わらず出撃し、大敗して敵に捕縛され、最後は食を断って死んだという。
作品の結末は史実とは若干違うが、実在の人物に関する史実を下敷きに、武人の戦いとその生き様を描いた作品として、北方謙三のこの著書も読み応えがあった。