【感想・ネタバレ】謎解き妖怪学 角川選書ビギナーズのレビュー

あらすじ

マンガやアニメ、ゲームの影響で、海外からも注目される日本の妖怪。これほど多種多様な妖怪文化が花開いた国は他にない。アニミズムと、仏画・絵巻で教えを説く絵解きの結びつきがその背景にはある。式神、つくも神、百鬼夜行をはじめ、目に見えない異界のものたちは、どのように絵画に描かれてきたのか。50年にわたり妖怪を研究してきた第一人者が、研究史を振り返りつつ、自らが挑んできた妖怪にまつわる5つの謎を解き明かす。

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Posted by ブクログ

「妖怪学」の創始者である小松先生による、妖怪学の入門書。恥ずかしながら著者のことはこの本に出会うまで知らなかった。可愛らしい表紙につられて何の気無しに購入した本だったが、非常に面白く、著者の別の本も読んでみたくなった。

何を隠そう、小学生の頃の夢は民俗学者だった。妖怪が大好きで、自由研究では河童について何冊も本を読んで調べて発表した。あの夢を追わなくなったのはどうしてだったっけ…

さて、今でこそ妖怪人気は不動のもので、研究分野としても確立されつつあるが、小松先生が研究を始めた頃はそうではなかったらしい。妖怪について研究してる人なんていなかったとか。民俗学の大家である柳田国男はいたけれど、その後が育っていない感じだったんだろうか。

今みたいに歴史資料がデータ化されてたいなかった当時、資料の必要な箇所を見せてもらうのも一苦労だったようで、膨大な資料の中からめあての図像を探していく作業はとてつもなく大変そうだ。空飛ぶ鉢の物語で、鉢と終盤に出てくる剣が対になってるんじゃないか?とか、思いついた仮説を検証しようにも、そもそも答えになるような資料が残ってるとも限らないわけで、だからこそ見つけたときの感動はひとしおなんだろうなと。何年もかけて調べてたら、実は先行研究ありました!とか無念すぎる… 今はそういうことも減ってるんだろうけど。

「妖怪たちの前史」の項もすごく興味深かった。小学生のときに河童について調べた記憶では、柳田国男が妖怪は「神が零落したもの」と書いていた気がするけど、ここで紹介されているのは、その土地に元々住んでいた滅ぼされてしまった人々が土蜘蛛だったり酒呑童子の元になっているという説。当代の為政者を大っぴらに批判はできないから、「我が大君の土地なれば、いづくか鬼の宿るらむ」と書いて、勝者の正当性をアピールするんだけど、書いている人の敗者の悲しみや恨みに寄り添う気持ちも見え隠れしていて切なくなる。

古事記とかもそうだよね、スサノオ系統の神々はどんどん周縁に追いやられていって、刃向かった神々は倒されて、最後には妖怪扱いされたりする。神話や怪異譚って完全に作り話ってわけでもなくて、実際にあったことの比喩や象徴として描かれてるので、何があったのか類推するのも面白い。

めちゃくちゃ大変そうなので、今さら民俗学者になりたいとは思わないけど、子どもの頃のワクワクが甦ってくるような楽しい読書体験だった。この先生の他の本も読んでみたい。

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2025年05月30日

Posted by ブクログ

人類学者民俗学者妖怪学者小松和彦先生による「妖怪学」入門書(思えば小松先生の著作は1980年代から読んでいるな)。「妖怪」そのものではなく「妖怪学」がどんなものかを教えてくれている。日本の妖怪の多彩さ、先生の学問遍歴が語られ、妖怪学の方法を、妖怪関連絵巻物の謎解き、絵巻物の謎を解くところから見えてくる日本の歴史、妖怪としての狐と狸の分析を通して具体的に示してくれる。講演を元(そういえば一度先生の講演にも行ったな)にしているのでとても分かりやすく、すらすら読める。読めば「妖怪学」が好きになるぞ。

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2025年04月28日

Posted by ブクログ

とにかく読みやすい。
角川選書ビギナーズということで、初心者向けであるのはたしかだけれど、『初心忘れるべからず』の気持ちで読むのに最適でもあると思った。また発行が令和6年12月ということもあり、紙媒体としては最新の情報が組み込まれているのも魅力。
そして、著者がどういう立ち位置で『妖怪』というものにアプローチしているのかが明確なのも良い。それが曖昧だと、どこか据わりが悪く、また書かれている文章にも懐疑的にならざるを得ない。そういう意味でも素晴らしく誠実な本だと思う反面、文章が上手いので丸め込まれている感覚もしていたりする。一読者が丸め込まれたとて、たいしたことはないのだが、化かされている気持ちにもなってしまうのが、いささか口惜しい。

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2025年03月01日

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