あらすじ
大切な『誰か』の名前を取り戻すため、心葉は“最も模範とすべき”学園――カウス・インスティトゥートへ留学することに。 新たな『斬撃』を獲得した心葉は、レアやカウスの精鋭とともに、ある巨人を封じている異界「焚火の国」へ向かう。そこは万物が意志を持つ、混沌まみれのファンタジー世界!
その裏で、蒼の学園を憎み、世界の破滅を招く仮面の男――別次元の言万心葉が暗躍し始める。彼の目的は、災厄の巨人を現世に解き放ち、宇宙を滅ぼしてしまう事で……。
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Posted by ブクログ
前巻にて史上空前規模の大決戦をやってこちらのメンタルをこれでもかと揺さぶってきたのだから、それを上回るのはそう易々とは出来ないだろうと思っていたのだけど、成し遂げてきたよこの作品…。本当に恐ろしい作品だよ……
能力を失い、それでも大切な人の名前を思い出す為に行動を始めた心葉が訪れたのはカウス・インスティトゥートへの短期留学ですか
臓物マンション事件の際に連携したシーンが有ったとは言え、全く別の学園へ移っての行動というのは世界観が広がるようで良いね。また、その流れで新たな土地やそこに住まう人々の特性まで描かれているとワクワク感も増してくる
…まあ、その初っ端に登場したダナエが濃いし印象も悪いという凄まじいキャラだったんだけども。勝手に暴走してドM妄想繰り広げる強者とか厄介すぎるわ
ダナエはさておき、カウスと言えば再登場が待たれていたのがレアだろうね。心葉と異様なまでに気が合って、近似次元では心葉の妻となった人物
ただし、現状では心葉とは親友ポジみたいな感じだから、何も起こらないかと思いきや、この巻を通して心葉を意識する描写がああまで増えていくとはね
きっかけが心葉を好きになるような何かが明確に生じたという類ではなく、近似次元の自分達を見て婚姻する可能性を知り、心葉に向けていた感情の見方が変わったというのが何か良いなと思ってしまったよ
この二人が結婚する未来が有ったとしてもそれは劇的な何かによって決意するものではなく、少しずつを積み重ねてのものであって欲しいと願ってしまうから
その意味では描き下ろしショートストーリーにて描かれた近似次元の心葉とレアの結婚描写はかなり納得できるものだったのだけど、彼らが辿り着く未来を想って少し悲しくもなってしまったのが辛かった……
てか、この巻で明かされた仮面・心葉が辿った運命が悲惨すぎて何も言えなくなってしまったよ…
前巻時点では桜次元の心葉とは違って絶望に染まってしまった存在と受け止めていたのだけど、むしろ絶望の中で希望を忘れず足掻き続ける超人、本質的には心葉のままだと感じられる人物だと理解できたね…
彼が話した事情は絶句せざるを得ないもの。もし世界を滅ぼす資格なんてものが有るのだとしたら、彼がそれを持ち得る点は疑いようがないと思わされる
自分の世界を助ける為によく似た世界を滅ぼす、大切な人達を取り戻す為に見知った人達を滅亡に追い遣る。仮面・心葉に突き付けられた絶望を理解できるなんて言える人間は居ないだろうね。だからこそ、彼の絶望と希望を邪魔できるのは並大抵の覚悟では不可能で
だから、桜次元の心葉だけが仮面・心葉を責める言葉を持ち合わせていて
心葉にとって仮面・心葉は有り得るかもしれない未来の姿。精一杯生きると決めて、夢を叶える覚悟を固めて、関わる人達を助け続けて
そうして辿り着く先が世界を滅ぼす人間だなんてあまりに救われない。心葉は未来に希望を抱き続ける為に絶望に身を浸す心葉許せない
けれど、仮面・心葉が桜次元の心葉の未来の姿で有り得るなら、今の心葉よりも絶望的な戦いを潜り抜けて来た歴戦の勇士とも言える
心葉は己の安全を蔑ろにして誰かを助けられるタイプだけれど、仮面・心葉は更にその傾向が強まっているね。無理が極まる身体を更に追い詰めて己を怪物化させるだなんて
彼を超える為には通常のレベルアップを行っても届かない。彼を超えるには彼が選ばなかった道を選ぶしかない
こういうロジックは理解できるけれど、心葉が手にした新たな力はとんでもないものだね!『noapusa』と根源にある願いは似たものながら、おぞましさと孤独に満ちていたあちらと違って『a Session』は尊い願いと温かみに満ちている。この能力ならば独りで戦うしか無い仮面・心葉を上回れると確信できる
ただ、こちらも別の意味で色々と不味い気はするよ!?
白の聖堂や衣装はどう考えても結婚モチーフだし、発動対象が心を通わせた相手というのもアレだし、融合人格も見方によっては娘が生まれたようなものだし
そりゃ、レアだって「誰にでもしていい事ではないのよ」なんて注意するよ!まあ、でもそんなハチャメチャな新能力を受け容れられるからレアは心葉と融合できたとも解釈できるのだろうけども
前巻で暴れた『星のくじら』はヤバすぎると迷いなく断言できる存在だったけど、『線の人』も負けず劣らずといった印象
あまりに強すぎるから敗北を渇望する彼はあらゆる勝負を真剣に受け取らない。まるで遊んでいるかのように己に立ち向かう人間達を甚振るし、彼らの尽力を味わう為にわざと不利な状況に陥ったりする
何よりも彼が常識から乖離した存在だと理解させられたのはとある人物の名が明かされた瞬間か…。あれ、読んでいるこちらも一瞬「?」が浮かんで、暫くして『線の人』が何をしたかが理解させられる流れは恐怖そのもの。『星のくじら』が一瞬にして全てを滅ぼしてしまう存在なら、『線の人』は過去を操って一瞬すら磨り潰してしまう存在か
それだけに『灰色の少女』や巨匠が抱いた渇望が『線の人』を凌駕するシーンには心の底から震えてしまったよ!おまけに仮面・心葉の目的が明かされて尚の事震えてしまったよね…!
改めて仮面・心葉はあらゆる意味で未来の心葉なのだと感じられたよ……
失ってしまったものも有るけど、守れたものもある。特に今の心葉にとって自分の進む先を明示してくれたかのような仮面・心葉との対決は彼に大きな成長の余地を遺してくれたんじゃなかろうか
また、恋愛面で見るとこの4巻だけでレアが将来を約束されたメインヒロイン級の活躍を見せたのは驚きだったし、そんな二人を見て恋兎に鯉の予兆が訪れるのは注目したくなる
ただし、エピローグ部分で最も注視してしまったのは彼女の再登場と知らないあの子の出現だろうね
か弱い存在に成ってしまった筈のエリフが新たな能力やその頭脳に拠ってマフィアや魔術集団を支配するという展開は納得感が有るから受け容れ易かったものの、知らないあの子の出現は本当に驚かされたよ
『線の人』に手落ちが有ったのかそれとも奇跡が起きたのか?奈々の身に起きた異変共々今後のキーと成っていきそうだ
そういや、本作は容赦のない設定によって作り込まれた世界観が面白い作品なのだけど、今回訪れた『焚火の国』もナカナカのものだったね。物質の最小単位が素粒子ではなく焚火だなんてファンタジックで面白い
それは世界が意思を持っているようなものだから、その世界に受け容れられているかどうかが『焚火の国』でにおける生存確率が左右される
そう考えると、魔女が驚く程に心葉が焚火に好かれたのはどう解釈すればよいのだろうね?
どれだけ焚火の修行をしてもそれが通じるのは『焚火の国』内部だけなのだから、その才能が外の世界で活きるとは思えない。けれど、焚火に好かれる素質はもっと深い何かと繋がっていきそうな…
また、もう一つ気になるのはメフの回想に登場した髑髏仮面についてか
使用する能力や発言からあれは言万心葉で間違いないと思うのだけど、今回活躍した仮面・心葉とは結びつかないような…
もしかして今後も近似次元の心葉が様々に登場する可能性があるのだろうか?近似次元なのだから似た存在が居るというのは判るのだけど、様々な次元の心葉が幾度も物語に絡んでくるならば、『言万心葉』という存在そのものに只ならぬ何かを感じてしまうんだけどな……
何度も意味不明に感じそうになるけど、ギリギリ着いていけるのは文章構成力の力なのか?
その上で、疾走感も桁違いだけど、続刊があるとして果して付いていけるのか…