【感想・ネタバレ】存在の耐えられない軽さのレビュー

あらすじ

舞台は東西冷戦下のチェコスロバキア。「プラハの春」と呼ばれる1968年に実現した束の間自由主義体制とその後のソビエト連邦の侵攻、「正常化」という名の大弾圧という歴史的な政治状況下で、苦悩する恋人たち。不思議な三角関係など、四人の男女のかぎりない愛と転落を、美しく描きだす哲学的恋愛小説。チェコ出身の作家ミラン・クンデラの代表作にして世界的ベストセラー。原著は1985年に刊行され、1988年にフィリップ・カウフマン監督、主人公トマシュにダニエル・デイ=ルイス、テレーザにジュリエット・ビノシュを起用して映画化されたことでも広く知られている。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

プラハの春とは、1968年のチェコにおける民主化・自由化運動である。作者のクンデラはこれを文化面で支えた作家だった。だが、この運動はソ連の介入によって鎮圧され、その後「正常化」の時代が始まる。この時代にクンデラは数々の弾圧を受け、1975年フランスに亡命した。これが本作の背景として描かれる。
この作品は風変わりな小説である。小説家はふつう、登場人物の行動をあれこれ解説したがらない。むしろ、解説のいらない文章を書くのが小説である。ところが本書では、作者であるクンデラ自身がたびたび表に顔を出す。これは恋愛小説に仕立てたクンデラの思想であり、あるいは思想について書かれた恋愛小説である。

外科医のトマーシュはいわゆるドンファンで、女とすぐに寝てしまうプレイボーイだ。ただし、どんな女とも一定の距離を置いた。妻とも別れた。軽さこそ彼が人生に求めるものである。だが、テレザは例外だった。彼女と恋に落ちてしまい、部屋に泊めるどころか結婚までしてしまう。トマーシュの人生にテレザが重くのしかかる。
ロシア軍が彼の国を占領したとき、二人はチューリヒに亡命した。だが、スイスにはサビナがいる。サビナはトマーシュが言うところの「性愛的友情」で結ばれた関係だ。テレザは彼女に嫉妬する。それで一人でプラハに戻ってしまう。トマーシュは重荷から解き放たれ、束の間の開放感を味わうが、長くは続かなかった。テレザには自分しかいない。これは自分にしかできないことだ。悩んだ末トマーシュは、テレザを追って占領下のプラハへ帰る。

この小説は、トマーシュ、テレザ、サビナ、フランツの可笑しくも悲しい恋愛模様を描いているが、トマーシュの物語について言えば、軽さと重さの間で引き裂かれた人生と言えよう。あるとき、トマーシュが新聞に投稿した批判文が当局の目に止まり、撤回するか職を追われるかの選択を迫られる。外科医は彼の天職であり、自分に課された使命だった。だが、彼は撤回を拒否して、みずから窓洗いという最下層に落ちる。彼にとっては、それが重荷を下ろすことなのである。

限りない軽さを追い求めるトマーシュに、運命が皮肉な決断を迫る。ある日、自分からはもう会わないと決めていた息子が接触してきて、恩赦を要求する嘆願書にサインしてくれと頼んできた。サインをすれば息子との関係が再び始まってしまう。サインしなければ彼は臆病者の烙印を押される。しかし、「サインすることはお父さんの義務ですよ!」という一言で、サインをきっぱり断る。ここでも彼は〝Es muss sein!〟(そうでなければならない)の重さから逃れようとする。

このように、トマーシュは絶えず軽さを求めるにもかかわらず、その先でまた彼を重たい決断が待っている。窓洗いとしての休息も、二年しか彼に安らぎを与えてくれなかった。追いかけてくる〝Es muss sein!〟。あらゆる重さから逃れたいトマーシュ。二人はプラハを出て田舎に引っ越す。その村には二人を知る者もいない。トマーシュはそこでトラックの運転手になる。
テレザは、トマーシュがこのようになってしまったのは自分のせいだと悔やむ。すべては彼が自分を追ってチューリヒを出たときから始まっていたと。そして、ここから先はもうどこへも行くことができない。それなのにトマーシュは、自分はここにいて幸せだという。自分も彼女も、何の使命も背負っていなくて幸せだと。だが、読者は雄弁な語り手から聞かされているのである。このあと二人を乗せたトラックが崖から転落することを。

トマーシュは本当に幸せだったのか。彼の決断は正しかったのか。作者は言う。一度限りの人生では、正しい決断というものは存在しない。いろいろな決断を比較するための、第二、第三の人生はないからである。
永劫回帰の世界では、一挙手一投足に耐えがたく重い責任が課せられる。しかし、そうではないわれわれの世界では、すべてが重さを失って空気のように軽くなり、無意味で現実感を欠いたものとなる。まさに、Einmal ist keinmal. (一回なんて、なかったのと同じ)なのである。

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2024年05月04日

Posted by ブクログ

ネタバレ

メタファーが出てくるとすぐに解説してくれて読みやすかった。
VI章前後で話の雰囲気がガラリと変わった感じがした

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2022年11月12日

Posted by ブクログ

ネタバレ

「思想の氾濫」
面白い。難しい点もあった。ただ、この本に書かれている人物の人生を構築する価値観は、詳細的すぎてここに、まとめることはかなり難しい。
ただ、多角的に真実を突いている名著であることは間違いない。

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2023年12月22日

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