【感想・ネタバレ】老神介護のレビュー

あらすじ

●突如現れた宇宙船から、次々地球に降り立った神は、みすぼらしい姿でこう言った。「わしらは神じゃ。この世界を創造した労に報いると思って、食べものを少し分けてくれんかの」。神文明は老年期に入り、宇宙船の生態環境は著しく悪化。神は地球で暮らすことを望んでいた。国連事務総長はこの老神たちを扶養するのは人類の責任だと認め、二十億柱の神は、十五億の家庭に受け入れられることに。しかし、ほどなく両者の蜜月は終わりを告げた――。「老神介護」
●神文明が去って3年。地球で、もっとも裕福な13人がプロの殺し屋を雇ってまで殺したいのは、もっとも貧しい3人だった。社会的資産液化委員会から人類文明救済を依頼された殺し屋は、兄文明からやってきた男から、別の地球で起こった驚愕の事態を訊かされる。「扶養人類」
●蟻と恐竜、二つの世界の共存関係は2000年以上続いてきた。恐竜世界の複雑なシステムは、蟻連邦によって支えられていたが、蟻世界は恐竜世界に核兵器廃棄を要求、拒絶されるとすべての蟻はストライキに突入した。「白亜紀往事」
●僕が休暇を取る条件は、眼を連れていくことだと主任は言った。デイスプレイに映る眼の主は、若い女の子。ステーションにいる彼女の眼を連れて、僕は草原に旅行に出かけた。宇宙で働く人は、もうひと組の眼を地球に残し、地球で本物の休暇を過ごす人を通して仮想体験ができるのだ。「彼女の眼を連れて」
●74年の人工冬眠から目覚めた時、地球環境は一変していた。資源の枯渇がもたらす経済的衰退を逃れようと、「南極裏庭化構想」が立案され実行された結果、深刻な事態が起こっていたのだ。「地球大砲」

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Posted by ブクログ

我らが大劉、再びのバカSF炸裂。(←褒め言葉)
「流浪地球」と同時刊行された、劉慈欣のバカSF短編集です。(←褒め言葉)

劉慈欣のSFの特徴は、長編でも短編でも、笑える話でもしんみりする話でも、どこかに必ず「バカ」の要素が潜んでいることだと、鴨は思います。
この場合の「バカ」とは、頭が悪いという意味ではなくて、えっ、そんな発想、常人にはとても出せないけど!?という畏敬の念を込めた「バカ」です。代表作「三体」なんて、これ以上なくスケールの大きなバカSFだし。
本作「老神介護」も、人類を作った神様が宇宙船に乗って介護を要求しにきたり、中国から南極まで通じる巨大な穴をマントルもコアもぶち抜いて作ったり、その中を人間が行ったり来たりとか、もぅその発想だけ見たらバカそのものなんですけど、バカをキープしつつ見事なハードSFを成立させ、ついでに普遍的な詩情さえ感じさせてしまうという、とんでもない力技を披露しています。ちなみに、「流浪地球」に収録されている「呪い5.0」みたいな、本当の意味でバカなSFは本作にはありません(笑)

スケールの大きなバカSFを堪能するには最適の短編集です。が、鴨が一番感動したのは、巻末に収められているエッセイ「我々はSFファンである」。中国SFの現在位置と、それに関わる劉慈欣の覚悟がビシバシと伝わってくる名文です。SF者たるもの、すべからく読むべし。

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2025年07月02日

Posted by ブクログ

ネタバレ

おじいちゃんかわいそ…って読んでたら大変なことになってた話

資本主義のやりすぎて富が1人に集中して破滅、人類の生活基準の最低限を上げるために金を配る、というストーリーは社会主義の中国で生きてる人からじゃないと出ない発想な気がする

親の死体から抽出した有機物で生き伸びるシーンがエグすぎて好き

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2025年03月03日

Posted by ブクログ

「流浪地球」と1セットの劉慈欣の短編集。「三体」以前の作品だが、そこここに「三体」の芽が見受けられる。

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2024年10月28日

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目次
・老神介護
・扶養人類
・白亜紀往事
・彼女の眼を連れて
・地球大砲

劉慈欣の書くSFのテーマって、どことなく懐かしさを感じるのはなぜだろう。

『老神介護』は、最初こそ神様のみすぼらしさと情けなさに、にやにやしながら読んでいたのだけど、最後まで読むと『三体』と地続きのテーマであることが分かった。
続編と言える『扶養人類』に至っては、まんま『黒暗森林』なのである。

ところで、以前から私は、中国における神様の存在について知りたいと思っていた。
日本だと、日本古来の神様のほかに外国からやってきた神様も、えらい人間または恐ろしいことをしそうな人間も亡くなると神様になる。
たまには生き神様までいる。
悟りを開いて生き仏になる人もいるが、仏様も神様に内包されることがあるので、たいていのすごい存在は神様足りうると考えられる。

しかし中国の神様って、よくわからない。
神仙と言って、神様と仙人がいて、厳密には違う存在らしいのだけど、文献によって神様だったり仙人だったりするから混乱する。
西王母ですら、女神・女仙って書かれてるんだもの、

で、『老神介護』を読んで、やっぱり中国の神様って、万物を創設したとて、たいして尊敬されてないんだなあと思った、という話。

好きなのは『彼女の眼を連れて』。
読みながら、高校生の時に好きだった森下一仁のSFを思い出して、ジーンと胸が熱くなったのに、本人は書きたくて描いた作品ではないと後日語ったそうで、ちょっとがっかり。

『地球大砲』もまた、『彼女の眼を連れて』の続編。
劉慈欣は、エピソードを、硬軟硬軟と続けていく傾向があるのだなあ。
どちらも好きだが、やわらかいエピソードにSF味を感じると、なんか嬉しい。

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2024年07月30日

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やはり、劉慈欣の本は面白い。白亜紀往事が、とても面白かった。蟻と恐竜の共存世界。想像だけでもわくわくする。

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2024年05月25日

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ネタバレ

・あらすじ
三体作者による短編SF集。
5つの短編が入っていたけどどれも面白かったし、要素要素に三体と通ずるものがあった。
特に好きだったのが扶養人類と彼女の眼を連れて、の二篇。

老神介護→地球文明を作った20億柱の神が宇宙船に乗って地球にやってきた。目的は地球人とともに地球で老後を過ごすこと。全世界で神を扶養するための法律が制定され各家庭で1柱の神と同居することになるが、両者の関係は徐々に悪化していく。

扶養人類→老神介護の続編。神がいなくなって三年。神が作った地球型文明の兄、第一地球の人類が地球へ移住にやってきた。
そんな中滑空という殺し屋は社会的資産液化委員会という世界の大富豪で構成された委員会の人間に3人の人間の暗殺を依頼される。

白亜紀往事→6500万年前の白亜紀には高度な文明を持った恐竜文明と蟻文明があり、双方は相互補完関係にあった。だが恐竜同士の対立から恐竜文明vs蟻文明に発展。そして白亜紀が終わるまで。

彼女の眼を連れて→宇宙空間での生活が当たり前になった時代。休暇を地球で過ごす為にとある女性の目(センサーグラス)をつけてタクラマカン砂漠へいく主人公。

地球大砲→人工冬眠から目覚めた沈は、地球環境を破壊した「南極裏庭化計画」の責任をとれと理由もわからないまま奈落の底へ落とされる。
彼女の眼を連れて、とクロスオーバーしている?作品。

・感想
老神介護→ひとだけでなく文明、恒星、宇宙ですらいずれ滅び(死)へと向かっていく。それは神ですら逃れられない真実。
創造主という意味での神ではあるけど、よくある万能の存在ではなくSF的捉え方での「神」の存在が面白かった。
あと兄文明である第一〜第三人類文明の辿った経緯は完全に黒暗森林理論で三体の要素を感じた。

扶養人類→神が警告した第一地球文明の宇宙船に乗っていた人類は第一地球から逃げてきた人々だったという真相が面白かった。たった一人の富裕層、世界が一人の人間のものになってしまったディストピアもの。
その理由も技術の発展に伴う富の集中、加速する格差という「なんだかあり得そう」なところが怖く感じたり。
滑空という暗殺者のキャラクターも良かった。

白亜紀往事→抑止力の必要性は理解してるけどエスカレートしていくのではないかという恐怖はある。
文明が発展していくためには「好奇心」や「欲」が必要ではあるけど、欲がエスカレートし暴走、制御できなくなってしまうことの危険性などを描いた作品なのかな。

彼女の眼を連れて→読後感が切なくてすごく良かったー。この話が1番好きだった。宇宙の果てではなく地球の中心に取り残された一人の女性の物語。
もし自分がこんな環境に置かれたら当然発狂してしまうわ…

地球大砲→まさかこの話で落日6号(彼女の〜の女性が乗っている地層探査船)が出てくるとは…!そこに繋がるとは!!
ただ一人地球の中心に残された女性の孤独も少しは慰められてたのかな。

人工冬眠から目覚めた主人公の沈が、中国から南極を貫くトンネルに落とされながら真実を語られるっていう設定が面白い。
でもどの被害者も逆恨みなんじゃないか?って感じがした。
確かに最初の事故の被害者が沈淵を恨むのは理解できるけど…。
沈淵が晩年トンネルを行き来しながら娘に語りかけてたっていうのがまた切なかったな。

どの話も面白かったし、作者の他の短編集も読んでみよう。

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2024年04月23日

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劉慈欣が紡ぐ物語には、想像を超えるスケールと、壮大な設定を物語の終わりまで力強く貫き通す筆力があり、その圧倒的な構想力にはただ驚嘆するばかりだ。

中国SFがこれほどまでにスケールの大きな作品を生み出す背景については、単に中国人が壮大な妄想を好むからという説明だけでは不十分だという興味深い指摘がある。政府や国家体制への直接的な批判が許されにくい中国の環境下では、現実世界の崩壊やそれに対応できない政治の姿をリアルに描くことは難しい。結果として、作家たちは現実から一歩引いた視点を取り、自然と物語の舞台を地球規模、さらには宇宙規模へと広げるようになるという。この見方には深く頷かされるものがあった。

なかでも劉慈欣のスケール感は、代表作『三体』で顕著に示されている。今回読んだ短編集『老神介護』も、2つの連作と1つの独立短編から成り、いずれも圧倒的なスケールと独創的な視点で読者を魅了する。とりわけ、人間が一切登場せず、恐竜と蟻だけで構成された物語『白亜紀往時』は、まさに劉慈欣ならではの発想と構成力が光る作品だった。

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2025年05月27日

Posted by ブクログ

流浪地球と同時発売だった短編集
流浪地球より気が重くなる話が多め
私の好みは流浪地球の方かな
地球大砲のエピローグは良かった

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2025年01月15日

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『流浪地球』に続けて読んだ劉慈欣の短編集。
『流浪地球』も面白かったが、個人的にはこちらの『老神介護』の短編集のほうが好みだった。
表題作の『老神介護』、その続編とも言える『扶養人類』は全然違った作風で後者はノワール風な雰囲気なのも良かった。
そして白亜紀の蟻と恐竜の共存と争いを描いた『白亜紀往時』も面白い。劉慈欣は恐竜や蟻を描いた作品がいくつかあるのだが、突飛さも含めて面白い。
蟻に知能があるというと『フェイズⅣ 戦慄昆虫パニック』なんかを思い出す。ある事件から突然変異した蟻たちに知能があることがわかるが、なすすべもなく次第に侵略されていくというパニックホラー映画だ。バカバカしさもあるが、何を考えているかわからない蟻たちが怖い映画だった。
『白亜紀往時』の蟻たちはもっと社会性がある蟻で、その小ささや数を活かしたテクノロジーを使っているのが面白かった。
短編の『彼女の眼を連れて』とそれに連なる中編『地球大砲』も面白い。
『彼女の眼を連れて』は切なさもある短編だったが、『地球大砲』のほうはどんどんスケールがデカくなる様に笑ってしまう中編だった。

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2024年09月23日

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『流浪地球』の姉妹短編集。いわゆるバカバカしいSFは同じでも、こちらの方が人間味がある作品。読み応えがあって、シーン一つひとつを見逃さないように、読み終えるのに時間がかかった。

この作者の文章は、ほんとに映画を観てるような気にさせられる。訳がよいのもあるのだろうし、この『老神介護』なんかはまさにそうなのだけど、儒教の影響を受け、ある意味窮屈な社会に生きる東アジア文化圏の人間として、キャラクターの行動原理や感情が抵抗なく入ってくるのも大きい気がする。

気に入ったのは『彼女の眼を連れて』 感傷的な話ってやっぱり好きだな。

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2024年05月18日

Posted by ブクログ

ネタバレ

⚫︎感想
「三体」の著者によるSF短編集。
二十億もの老神が地球に降りたって、人間の世話になるという話から始まり、全体を通していろんな視点を持たせてくれ、最後までたのしませてくれた。



⚫︎あらすじ(本概要より転載)

●突如現れた宇宙船から、次々地球に降り立った神は、みすぼらしい姿でこう言った。「わしらは神じゃ。この世界を創造した労に報いると思って、食べものを少し分けてくれんかの」。神文明は老年期に入り、宇宙船の生態環境は著しく悪化。神は地球で暮らすことを望んでいた。国連事務総長はこの老神たちを扶養するのは人類の責任だと認め、二十億柱の神は、十五億の家庭に受け入れられることに。しかし、ほどなく両者の蜜月は終わりを告げた――。「老神介護」
●神文明が去って3年。地球で、もっとも裕福な13人がプロの殺し屋を雇ってまで殺したいのは、もっとも貧しい3人だった。社会的資産液化委員会から人類文明救済を依頼された殺し屋は、兄文明からやってきた男から、別の地球で起こった驚愕の事態を訊かされる。「扶養人類」
●蟻と恐竜、二つの世界の共存関係は2000年以上続いてきた。恐竜世界の複雑なシステムは、蟻連邦によって支えられていたが、蟻世界は恐竜世界に核兵器廃棄を要求、拒絶されるとすべての蟻はストライキに突入した。「白亜紀往事」
●僕が休暇を取る条件は、眼を連れていくことだと主任は言った。デイスプレイに映る眼の主は、若い女の子。ステーションにいる彼女の眼を連れて、僕は草原に旅行に出かけた。宇宙で働く人は、もうひと組の眼を地球に残し、地球で本物の休暇を過ごす人を通し、仮想体験ができるのだ。「彼女の眼を連れて」
●74年の人工冬眠から目覚めた時、地球環境は一変していた。資源の枯渇がもたらす経済的衰退を逃れようと、「南極裏庭化構想」が立案され実行された結果、深刻な事態が起こっていたのだ。「地球大砲」

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2024年03月06日

Posted by ブクログ

本としては対となる「流浪地球」より、「老神介護」の方が各話のまとまりが良くて読んでいてわくわくした。
話としては「扶養人類」がいい。シリアス・プロフェッショナル・ダークなSF要素の詰め合わせで100点、更に思いもよらぬ展開が加わわり、もう点数なんか関係ないくらい好きになってしまった。

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2024年02月18日

Posted by ブクログ

先に読んだ「流浪地球」に負けず劣らず、と言うか上下巻のようなものなので当然ながら、こちらもブッ飛んだ発想のSF短編集。タイトルそのままの表題作とハードボイルド風の後日譚「扶養人類」、恐竜と蟻の共存文化があった別の過去を描く「白亜紀往事」、無重力空間での仮想体験の真相が衝撃的な「彼女の眼を連れて」と姉妹編「地球大砲」。壮大でシュールかつシニカル。言ってみれば小松左京×筒井康隆的世界観で、奔放な想像力に圧倒された。「流浪地球」とあわせて読むべき、「三体」以前の著者の魅力に触れられる一冊。

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2024年01月31日

Posted by ブクログ

長い話かと思ってたら短編集。
SFを基本読まないので新鮮に感じて面白かった!
何話がつながりがあったりしておお…となりつつ悲しいような何とも言えない気持ちになった。
個人的には扶養人類が好き。けど1人の人間の残酷さにびっくりする。
白亜紀故事も面白かった!
壮大な童話のような感じがして正直一番読みやすかったかも。
彼女の眼を連れて、はめちゃくちゃ地中の息苦しさを感じて、前らへんの広々とした美しい風景の対比で読んでるだけで苦しかった。
最後の地球大砲もうわ…となったけど沈淵はそんなに悪いことしてるのかわかんなかった。投資した方が普通に悪いのでは…としか思えなかったな。
最初お父さん可哀想だと思ったけど意外と猟奇的な部分があって悲しい…

難しい話なのに結構スルスル読めてびっくり。
科学わからんすぎてさっくり読み流してるだけかも…
他の短編集も気になるな〜
三体いつか観たい

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2025年11月01日

Posted by ブクログ

・劉慈欣「老神介護」(角川文庫)は「流浪地球」と同時に刊行された短編集である。5編を収め、「老神介護」と「扶養人類」、「彼女の眼を連れて」と「地球大砲」が関係あるらしき物語である。3編目の「白亜紀往時」だけは別の物語である。「彼女の眼」が1999年、他は2000年代の作である。習某下ではないからか、政治的な問題はなささうに見える。といふより、さういふことは気にせずに書いたのか もしれない。
・「白亜紀往時」は白亜紀の昔のこととでもいふ意味であらうか。竜蟻戦争の物語である。白亜紀はパンゲア大陸の分裂が進み、恐竜の闊歩した時代である。その代表がティラノザウル スであつた。ここで竜とは恐竜のティラノザウルスを指す。蟻はもちろんアリである。かくも大きさの違ふ生き物が戦ふのである。これほどの差で戦へるのかといふと、これがきちんと戦へるのである。物語はいかなる時代であるのか。もちろん白亜紀であるが、竜蟻は大量絶滅時代を生き延びたのであらうか。竜蟻が協力して文明を作り上げたのである。時は竜蟻情報化時代であつた。「恐竜は各大陸に巨大都市を建設した。」 (128頁)高層ビルは一万 メートルの高さである。「車はわたしたちの一軒家くらいのサ イズで」(同前)あり、PCの 「キーボードはひとつのキーがわたしたちのコンピュータ・ ディスプレイくらい大き」(同 前)いのだから、ディスプレイの大きさは推して知るべしであ つた。これに対してアリのコン ピュータは「米粒サイズの丸い粒で(中略)すべての計算は複雑な有機化学反応によって行われる。」(129頁)しかも 「蟻のコンピュータにディスプレイはなく、計算結果をにおい物質で化学的に出力する。非常に複雑で繊細なそのにおいを識別できるのは蟻だけ」(同前)だといふから、恐竜とは大違ひであつた。それでも竜蟻は「相互依存関係」(同前)を保つてゐた。ところが竜蟻戦争である。「恐竜の大工業が生んだ環境汚染の毒がまわって死ぬか、 ゴンドワナとローラシア、二つの恐竜大国間の核戦争で完全に滅亡するか!」(136頁)それを蟻が阻止するための戦争である。だからやるかやられるかであつた。結局、いろいろあつたが、最後は、「いつか世界がまたあたたかくなったら、ほかの動物がまた驚異の時代を築く だろうか?」(182頁)となる。「環境汚染の毒」とか「大 国間の核戦争」などどいふのは、特に環境汚染などは中国の 現状にリンクしさうだが、まだそこまではいつてゐなかつたのであらうか。あるいは「ああ。 しかし、そんな驚くべき動物が現れるだろうか?」「現れるさ。時間はかぎりないんだ。どんなことでも起こる可能性がある。」(同前)といふあたりに救ひがあるのであらうか。こんなことがクレバーな配慮になるとも思へないのだが、そのあたりは私には分からない。無事に日本語に訳されて私達が読むことができてゐる。これは僥倖といふべきであらう。古市雅子「訳者あとがき」には、(大衆文化の反対の)「『小衆文化』 らしいストーリー。こんな設定を書ききる作家のパワーは驚嘆に値する。」(273〜274 頁)とある。もしかしたら劉慈欣の想像力が当局の監視を上回つたのであらうか、などと考へてみるのだが、これはまちがつ てもありさうにない。やはりこれは安全圏の物語なのであらう。劉慈欣といふ作家、「三体」の冒頭が問題になりさうなのに、それもくぐり抜けてきた。 映画化で問題になつたのは監督のせゐであらう。やはり中国でこれだけ売れて、世界でもこれだけ有名になれるというのは並み大抵ではない。これも作家の才能である。想像力だけが才能ではないのだと、勝手に、思ふ。

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2025年06月28日

Posted by ブクログ

こちらも『流浪地球』と似た味わい。

地球人類を創生したらしい「神様」が現れ
侵略じゃなくて扶養を要求してくるのが
なんだかユニーク。
しかも人類の普通の家庭で普通に生活。
ただ飯喰いとまで言われる始末だけど
さて、どうなるか?

『彼女の眼を連れて』が好き。
じんわり胸にせまる。
バリバリ王道っぽいSFから
こういうタイプの物語まで楽しめるのが
短編集のいいところ。

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2024年05月17日

Posted by ブクログ

初めて中国人作家が手掛ける作品を読んだが、普段映画や漫画などでもSFは全く観ないため想像することが難しかった。
だがSFだけでなく、中国の内情についても交えて描かれているためか、興味が薄れることはなく読み終えることができた。

今生きているこの時代のことを考えるだけでも頭を抱えてしまうのに、近未来の可能性を想像して作品を作れるのは見事だと思えた。

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2024年03月12日

Posted by ブクログ

〝扶養人類〟のハードボイルド感がたまらず、ブレードランナーみたいな世界を妄想してしまった。

宇宙度は「流浪地球」の短編集のが濃いめ。
著者はこういうコミカル?シュール?なのも書けるのがニヤリとしてしまう。

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2024年02月06日

Posted by ブクログ

期待を裏切らず、劉さん独特の発想と設定で面白く読めた。話はSFでも、なぜか読みながら現実世界に起きていることになぞらえてしまう。
同じ短編集でも「円」を読んだ時の衝撃に比べると、少し物足りないかもしれない。「円」は北欧ミステリーに出会った時のような、ダークさがあった。今回はよりSFらしい?タッチに感じた。

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2024年01月28日

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