あらすじ
圧倒的「数覚」に恵まれた瞭司の死後、熊沢はその遺書といえる研究ノートを入手するが――冲方丁、辻村深月、森見登美彦絶賛!選考委員の圧倒的評価を勝ち取った、第9回野性時代フロンティア文学賞受賞作!
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Posted by ブクログ
数覚に恵まれ、数の世界に生きた三ツ矢。
数との関係が深くなにつれ、周囲の人と合わなくなり、孤独になっていく。アルコールで孤独を紛らわそうとアルコール依存に陥り最期を迎える。
彼は数を足がかりに人と繋がり生きた。だが、ライフステージを重ねるにつれ、彼の理解者がひとり、またひとりと、それぞれの道を歩んだ時、彼のそばには誰もいなくなった。
そんな中でも、数は最期まで彼を魅了し続け、のちにクマによって生きた証となった。
穴があれば、それは論文ではなくアイデアだと切り捨てられた三ツ矢。アカデミアの過酷さが垣間見える。趣味を仕事にすることのリスクがある。興味関心があるものを生涯の友とし、純粋に愉しめることは幸せなのかもしれない。
才能や特性は活かすことができる。それは、周囲の理解とサポートがあってこそだ。才ある人は孤高かもしれないが、孤独にしてはならない。
Posted by ブクログ
瞭司の結末がわかっているので、過去のパートは読んでいて苦しくなっていく。
けれど、最後の章ではなぜか涙が出てくる。
多分瞭司のことを完璧に理解できている人は、登場人物の中にいないのだろうけれど、理解しよう、近くにいたいと思ってくれる人がいることに感極まったのかもしれない。
最後の現在のパートで、学校や身近に話の合う人はいないけれど、SNSで仲間を見つけられていることに救われた。
Posted by ブクログ
天才的な数覚を持つ瞭司が同じ数学的な才能を持つ研究者や学生との出会いを通して自分の居場所を見つけるが、やがて方向性の違いから再び孤独に苛まれるという読んでいるのが辛いお話
特にアルコールに依存していくという流れがあると彼の立てている理論が本当に優れたものなのかただの妄想なのかわからないまま読み進めていくことになり、最後までハラハラした
Posted by ブクログ
天才的な数学的才能を持つ暸司は、その才能で有名な大学の数学科へと進み飛び級卒業も認められ、助教につく。周りが彼に影響を受け、それぞれの人生を歩むため彼の目の前から去っていく中、逆に彼は孤独になり身動きが取れずアルコールにすがる生活に落ちていく。うまく生きることができない。正しさを重んじる教授と反りが合わず、精神を蝕まれていく。
クライマックスは涙が止まらない。どうして彼はこんなに不器用なんだろうかとか、みな悪意があるわけではないがすれ違い理解し合えず、生きるのが下手な彼は取り残されていく。
読むのがつらい。
熊沢が『ミツヤノート』の部分的解読の講演中、彼の精神と再会を果たす。目前に閃光が弾ける。
最後は新しい希望と始まりを感じさせる、いい終わり方でした。
Posted by ブクログ
岩井先生のデビュー作であることで興味を持って読んでみた作品です!
私自身、数学はどちらかといえば得意ではなく、「数覚」とは無縁です。
それでもどのように、問題を証明するのかが気になり、最後まで問題なく読めました♪
※数式を使わずに、数学の物語を作れるのがすごい!
あの時、別の選択をしていたら、何かが変わったのだろうか…。
天才が故の三ツ谷の孤独は、計り知れない。後半は、見ているのも辛い部分も多かった。
この話から、答えの決まっている数学も美しい。
しかし、何よりも、答えのない問題に対して、仲間と共に互いに意見を出し合い、協力し、証明をしていた大学時代に3人で共同研究していた時代が1番輝いてたなぁと思う印象でした。
本作を読んで、私は、三ツ谷のように、数学しか道がないと思うよりは、佐那のように、数学は好きなものの他に道を見つけるという柔軟な考えができたら、三ツ谷も何か変わったのかなと思う。
私も、1つのことに囚われすぎず、柔軟な考えを持ちつつ、やりたいことを見つけていきたいなという考えを抱きました!
スペシャルドラマも楽しみです!
Posted by ブクログ
作品としては,色々考えさせられる良い作品ではあったかもしれないけど、私は読後感が良いとは言えず…暸司を取り巻く人物に対して,嫌悪感が強く残って終わった。
数学の世界の厳しさは自分にはわからないし、嫉妬や羨望の思いがあるのもわかるけど、暸司がこの後,死んでしまう事がわかって読んでいるだけに、特に熊沢が、暸司にとっていた態度が、私の中では許せなすぎた。
あなたを数学の世界に再び戻してくれたのは、暸司だったんじゃないの?今あるのは暸司のお陰じゃないの?そんな思いのままのクライマックスだったので、熊沢が最後に暸司と繋がったかに思えた描写も、いやいや、自分は理解できたと思ってるかもしれないけど、暸司は死んじゃってるし、勝手に盛り上がっちゃって…奥さんまであなたと結婚してよかったって…
ちょっと退いてしまった。
もちろん暸司の死後に抱えた熊沢の苦悩もわかるが。
だから暸司みたいな子が大学に入学してきて、それに佐那が関わってて、熊沢が彼と関わっていく春が始まる…と清々しい描写で描かれていたが、それがまた私は熊沢に対しての不信感が残ったまま終わりました。
学会で、暸司と重なった経験が、熊沢が暸司をしっかり理解したと信じたい。
その時に決意した気持ちを、何があっても忘れずに、揺るがないでいてほしい。
Posted by ブクログ
数覚を持つ暸司は、新しい証明を発見するが、論文にする前になくなってしまう。大学の友人である熊沢は、圧倒的才能を見せつけられ、新しいアイディアを話そうとする暸司を冷たくあしらうようになり、留学してしまう。留学中に暸司の死の連絡を受けるが、研究が立て込んでいたこともあり、後に暸司の実家を訪れる。その際に、遺品であるアイディアを書きつけたノートを譲り受け、そこに書かれていた証明を完成させようとする。
もう一人の同級生であり、熊沢の元彼女であった佐那は、博士課程で工学部に進んだこともあり、二人と離れていっていたが、熊沢よりも暸司に何もできなかったことに心を痛めており、最後に証明のきっかけともなる人間関係をつなぐ。
話としては面白かった。暸司が落ちていく中で、熊沢が距離をとるようになるが、人間関係が不器用な二人の間に佐那がいたことで、関係が維持されており、佐那が離れていくと関係は崩壊していくのだと感じた。最後の佐那の置き土産が、彼女はずっと数学も二人のことも気にかけていたのだと感じられ、救いとだと思った。
読み応えあります
む〜ん 後半の暗さである瞭司の苦悩が、私には辛かった。その上で、熊沢の苦悩も辛い。一方で、平賀先生の対応が今の世界の普通の対応でないかとの思いが捨てきれず、現在の生き難さを示していると思う。その上、平賀先生本人は苦悩が無いのであろう。これも真実。
瞭司の凄さを理解すると共に瞭司二世が出てきたという、このような終わり方で良いのだろうかという、不満が心の底にある。
Posted by ブクログ
学者として真理を追究するための才覚と集中力を持ち合わせながら、社会性が少し足りなかったがために、身を滅ぼす結末を迎えてしまう切ないストーリーであった。瞭司に容赦なく厳しい指導をする新教授や、自身の生活を優先せざるを得ず、旧友との距離が深まっていく熊沢の描写を見て、残酷だけれども次の展開が気になってしまい、ページをめくる手が止まらない。
結局、サラリーマンのように、才能ではなく世の中の立ち振る舞いが「生活者」としての基礎であるため、瞭司1人だけでは、社会的な成功はおろか、生きていくこともままならない現実を突きつけられた。
もし、瞭司と熊沢と佐那の3人が、共にビジネスパートナーとして新規に民間で起業するような環境であったら、全く異なる将来になったのだろうが、学問の世界で「証明し認められる」道を選んでいるので、結末に向かうにつれて辛い展開となっていく。3人の共同研究とはいえ、リーダーだけが評価される文化なので、3人とも違う人生を選ぶしかなかったのだろう。