あらすじ
現代社会崩壊後、陸地の大半が水没した未来世界。そこに存在する魚舟、獣舟と呼ばれる異形の生物と人類との関わりを衝撃的に描き、各界で絶賛を浴びた表題作。寄生茸に体を食い尽くされる奇病が、日本全土を覆おうとしていた。しかも寄生された生物は、ただ死ぬだけではないのだ。戦慄の展開に息を呑む「くさびらの道」。書下ろし中編を含む全6編を収録する。
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Posted by ブクログ
表題作は最初の33ページ。この作品だけでも良いと思い買った。
華竜の宮を読んでいるので世界観や背景は分かっている。火薬で魚舟を傷つけるところは「ああ・・」となった。獣舟が進化する描写も良く、買った甲斐があったと思った。
華竜の宮では見られなかった魚舟に対するドライな感情を持った人物が主人公であったので、共感する部分があった。遺伝的にイジられているとはいえ「皆が皆魚舟に執着するわけでは無いだろう」と思っていた違和感が払拭された。
他の作品を読んでからでないと分からないが、この作者の作品はいつも悲しい。物語の背景に悲しさや寂しさが濃淡を変えながら漂っている様に感じる。
解説には「傑作(短編)選」や「その年の最高の短編」の文字があるが、これが誇張ではないと感じる。
どの作品もバイオサイエンスを強固な基盤としているのだが、第二軸として人間の心理やファンタジーを絡めることで驚くような広がり、多様さを感じる。
それでも読んで感じる雰囲気は一貫しており、(作品の幅を持たせるために)無理に要素を追加している感じはせず、作者の度量、手腕に感嘆する。
最後の書き下ろし中編では心理描写の巧みさに舌を巻いた。異常心理でありながら共感してしまうような描写に、思春期のエネルギーや心の揺らぎ、賢い主人公を完全に包括する社会実験の枠組み。SF作品であるが、そう分類したくないほどに強烈な人間の描写がある。この作品はSFを描画不足の隠れ蓑にしていない秀作であると感じた。
Posted by ブクログ
30歳を過ぎてからSFを読み始めた。
コアなSFファンの方は10代にドハマりする方が多いので、かなり遅咲きなほうではある。
さらには読み進めていくうちに気付いたことがある。
基本、女流作家しか受け付けない。
なぜかはよくわからないのだが、女流SF作家の本がいちばん読みやすい。男性作家でも好きな作家さんもいるんだけど、読むとよきにつけ悪しきにつけものすごく消耗が激しい。
もちろん、「女流」といったところで、さまざまなスタイルの人がいるわけで、一概にそれでくくるのは無理があるとしても、である。
そんななかで、上田 早夕里氏は気にはなっていたがなかなか手が出なかった作家さんであった。
しかし、先日読んだ火星ダーク・バラードが面白かったので、そのスピンオフ的な作品が載っている「魚舟・獣舟」を読むことにした。
上田氏の著作は、設定の「ハード」な部分とキャラクターたちの情緒的な「ソフト」な部分が、いい塩梅なんだと思う。
たぶん、男性作家の場合は前者にやや偏りがちに感じるんだと思う。
表題作の「魚舟・獣舟」も面白かったけど、いちばんキたのは「くさびらの道」。
これは、久々に読んでよかったと感じるより、ヤバかった。
なんでしょうね。
短編ながらもかなりパンチが効いていて、菌とホラーとSFの相性をまざまざと見せつけられた、っていうか、、、
ヤバい。これはヤバい。
映画秘宝が青春の友だったB級映画大好きな元ダンナにいわせると、「つまり、マタンゴやね」ということらしい。
でかい捕食動物に食べられるのももちろんいやだけど、内側から食い荒らされていくのももちろん、コワい。
でも、キノコが菌糸を伸ばして繁殖していくさまが、浸食を思わせるのか、菌に食われゆく人体というイメージは「ざらっ」とした手触りが残る。
ちょっと異色なホラーが読みたい、という人にはおススメです。
Posted by ブクログ
著者初読。パイセン本。
上田早夕里『魚舟・獣舟』は、ページをめくるたびに“生き物としての人間”が静かに姿を現してくる、深い余韻を残す短編集だった。どの物語も独立した世界を持ちながら、共通して流れているのは、変わりゆく環境とそこに必死に生を繋ごうとする人々の確かな息づかいだ。
表題作「魚舟・獣舟」では、異形の存在と共に生きる海上民の姿が印象的で、未知の生命に抱く畏れと敬意が見事に交錯する。変容していく世界へ向き合う彼らの姿に、読者は“適応して生きる”という言葉の重さを思い知らされる。一方でそこには、厳しい現実を越えてなお、未来を切り拓こうとするしなやかな希望が宿っている。
「くさびらの道」や「小鳥の墓」といった作品では、人の心の脆さと強さが同時に描かれ、読後に深い静けさが残った。上田早夕里の筆は、苦しみや孤独すらもどこか透明な光の中に置き直し、人間の内側にある微細な感情を、丁寧にすくい上げていく。
全体を通して感じるのは、厳しい世界を描きながらも、人と世界が持つ“可能性”を信じる視線だ。それは強烈な設定や残酷さを中和するものではなく、むしろその奥底に沈む確かな人間性を、よりくっきりと浮かび上がらせる力となっている。
重厚な物語群でありながら、不思議な温度をもって心に染み渡る短編集。読後には、はるかな海の音が胸の奥で静かに響き続けるような、そんな深い読書体験が待っている一冊だった。
Posted by ブクログ
近未来的な世界を舞台とした短編5編と中編1編の構成。短編ごとに「妖怪と共存する世界」「人間でありながら異なる生物へと進化する人種が存在する世界」など、SFという共通ジャンルの中でも、ホラー寄りのものや切ない恋物語など、まったく異なる趣の物語が揃っている。
いちいち個別に感想を書くのも面倒なので、「どれもそれなりに面白かった」ということでまとめておく。
Posted by ブクログ
魚舟
ウォーターワールドみたいな世界。プラス、人が魚に進化?する。海と陸で生きるものの葛藤みたいな。。
壮大だけど、初期設定が広大過ぎてまとまりがない気がする。
くさびらの道
九州に真菌感染症が発生。キノコが生えて死者多数。
近い人を見せる菌の成分で被害拡大。
饗応
AI ロボットの束の間の休暇。
真朱の街
子どもが妖怪に拐われて百目鬼と探索。
ブルーグラス
海に沈めたドームグラスを探しに行く。
小鳥の墓
未来。教育特区に馴染めず外の世界に染まる少年。最後は殺人を繰り返す。
総じて初期設定は面白い。ただ、人間の残念な所は変わらない、、なんか後味が悪い。
読んじゃったけど。
Posted by ブクログ
六編で構成される短編集。
どれもが終わりや喪失といったテーマに含んでいる。そのテーマゆえに、作品全体に幻想的な雰囲気がある。
後ろ髪を引かれるような独特の悲哀は、読んでいて「悲しい」というより「淡く儚い」という印象を受けた。
SF的なギミックは随所に見られますが、それらはあくまでもアクセント。ストーリーが主軸にあってそれらを彩るためにSFが存在している的な。
説教臭くもなく、SF初心者でも気兼ねなく読めそう。どの話も収束に向けた流れが綺麗でストレスなく読める。
個人的に一番面白いと思ったのは「真朱の街」。
妖怪が人類に関わるようになったくだりの設定を読むとクラーク三法則の第三法則を思いだす。