あらすじ
ドストエフスキー作品の謎に最も迫った翻訳者・江川卓による魂の訳業、初文庫化。
各巻に、訳者自身による詳細な注解を付す。〈巻末資料〉訳者解説
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Posted by ブクログ
15年ぶりの再会。あの過剰な語りをまた経験したくなり、本を開いた。過剰な語りは過剰な感情と行動を伴い、有無を言わさぬ力で、読者を物語の世界へと深く引きずり込む。
色々と過剰で、化け物のような人々。このような人間がいるのかと思えるほど、感情と行動の起伏が激しい。今巻は特に、カラマーゾフ3兄弟の父親フォードルと長兄ドミートリィが目立つ。序盤の山場は、ゾシマ長老との会食での大立ち回り。強欲で好色なフョードルは、自ら道化のような役回りを演じる。自分でこしらえた感情を自分で真に受けて感動するもんだから、どこまで本気で、どこからが演技か境目が無くなってしまう。その結果、彼の人物像は、凡庸な理解が及ばない、恐るべき化け物感を増大させる。
化け物具合は長兄ドミートリィも引きをとらない。上官の令嬢カチェリーナを、親の借金のために自分に身売りさせようと仕向け、いざ彼女が自分のものとにやってくると急に話を冗談にしようとしたくなったが、それを我慢し、金を渡した。直後、歓喜のために自殺しようとするが思いとどまる。令嬢に身売りさせても、彼女と結婚することはなく、娼婦の女と結婚しようとし、同じくその娼婦に目を付けた父親と争い、父を床にたたきつけ、顔を何度も蹴飛ばした。もはや理性的な理解は及ばない。
しかし、この常軌を逸した過剰さが、私を強く惹きつける。過剰への憧れが、自分の中にある。